戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
ロンドン、そして日本の二箇所で同時に起きた突発戦闘は、S.O.N.G.にとって結成以来最大の悲劇となった。
ファラの『ソードブレイカー』により天羽々斬の刀身を木っ端微塵に砕かれた翼。
アルカ・ノイズの絶対的な干渉破砕効果によってギアを『赤い塵』へ変えられ、身も心も打ち砕かれた響、クリス、切歌、調。
本部へ帰還した少女たちは、痛々しい医療機器に繋がれ、医務室のベッドで静かに横たわっていた。
「……司令っ! 俺の『聖域治癒』を使わせてください!」
S.O.N.G.の指令室。海斗は拳を固く握りしめ、弦十郎に詰め寄っていた。
「アロンダイトの力を解放すれば、みんなの怪我も、破壊されたギアの波長だって復元できるかもしれない! 10年でも20年でも俺の寿命を削ってください! こんなところでみんなが傷ついたままなんて……俺は耐えられません!」
「——バカ野郎ッ!!」
——ドガァァァンッ!!
弦十郎の怒号が響き渡り、指令室の金属デスクが拳で叩き割られた。
弦十郎は海斗の胸ぐらを鷲掴みにし、その顔を至近距離でにらみつけた。
その鋭い瞳には、怒りと、それ以上に深い悲しみが宿っていた。
「お前の命を削って得る一時しのぎなど、S.O.N.G.のどこに必要なんだッ! 仲間を救うために命を粗末にするような真似を、横で寝ている翼たちが喜ぶと本気で思っているのかッ!?」
「ですが……っ!」
「繰り返すな! お前の『聖域治癒』は許可なく使用厳禁だ! ……いいか海斗、自分を犠牲にして掴む勝利など、なんの価値もないんだぞ!」
弦十郎に強く突き放され、海斗は壁に背中を打ち付けた。
悔しさに歯を喰いしばるが、反論の言葉は出なかった。
部屋の隅に追いやられた海斗は、やるせなさから右腕の装甲を強く見つめる。
その時——脳裏に直接、重厚で静謐な「声」が響いた。
『——主よ。あの男の言う通りだ。』
(……アロンダイト……?)
右腕の結晶体が白銀の光をかすかに明滅させ、直接意識へ語りかけてくる。
『汝の焦燥は理解する。だが、無為に命を削れば、守るべき者たちの心まで削ることになる。……我は、汝の命を安売りするためにあるのではない』
(分かってる……分かってるさ。けど、俺だけが無傷で、みんながボロボロなのが耐えられないんだ……。……それになんでだ? なんでお前だけが、あのアルカ・ノイズの分解を受けなかった?)
『奴らの術は、既存の聖遺物の概念を解析・解体する術理。……だが我は、汝の生命波長と聖なる奇跡が織り成した唯一無二の存在。理を書き換える不純な術など、我の前に届くはずもない』
(頼もしいな、お前は)
アロンダイトからの意志を感じ取り、海斗は少しだけ心を落ち着かせた。
その時、モニターを見つめていた緒川が分析データを呼び出した。
「立花君たちのギアはアルカ・ノイズに触れた瞬間、減衰機能を無効化されて赤い塵へと分解された。……しかし、海斗君のアロンダイトだけは、その干渉破砕効果を完全に弾き返して無効化している」
「アロンダイトが分解されない理由……それが反撃の糸口になるかもしれん。……だが海斗、今は無茶な出撃は控えて休め」
「……了解です」
弦十郎の言葉に頷き、海斗は頭を冷やすため指令室をあとにした。
——その頃、夜の市街地。
激しい雨が打ち付ける路地裏を、小さな影が必死に駆け抜けていた。
ボロボロのフード付きポンチョを纏い、胸に大切な『何か』を抱え込んだ少女。
キャロル・マルス・ディーンハイムの手によって創られたホムンクルス——『エルフナイン』であった。
「ハァ……ハァ……っ! 追いつかれてしまう……僕では……勝てない……!」
彼女の背後から、影を裂いて迫り来るのは数体のアルカ・ノイズ。
キャロルたちの計画に恐れをなし、『魔剣ダインスレイフ』の欠片を持ち出して逃亡した彼女を、残虐な自動人形たちが始末しようと追い詰めていたのだ。
行き止まりの壁に追い詰められ、膝をつくエルフナイン。
「ここまで……か……。キャロル……僕は……っ!」
アルカ・ノイズが鉤爪を振り上げ、エルフナインへ飛びかかったその瞬間——!
——ズバババババッ!!
白銀の力が夜の闇を切り裂き、跳びかかったアルカ・ノイズを強烈に弾き飛ばした!
「なっ……!?」
目を見開くエルフナインの視線の先に、立ちふさがる一人の青年の背中があった。
燦然と輝く白銀の装甲——アロンダイトを構えた海斗だった。
「大丈夫か!? 怪我はないか!」
「あ……あなたは……シンフォギア奏者……? なぜ……なぜアルカ・ノイズの攻撃が効かないのですか……!?」
エルフナインは驚愕に声を震わせた。
世界中のあらゆる兵器や聖遺物を分解するはずのアルカ・ノイズの爪が、海斗のアロンダイトに触れた瞬間、バチバチと火花を散らして弾き返されているのだから。
『——主よ。雑音の群れが来る。我の力を解き放て』
右腕のアロンダイトが凛とした意志を海斗に伝える。
「ああ……いくぞ、アロンダイトッ! 女の子一人、絶対に傷つけさせない!」
海斗はアロンダイトの推進力を爆発させ、一瞬でアルカ・ノイズの懐へ踏み込んだ。
「『打ち砕け!』」
アロンダイトと海斗の声が重なり合い、白銀の衝撃波が一閃!
干渉破砕の波長すら強烈に押し潰し、アルカ・ノイズの群れを一網打尽に打ち砕いた。
崩れ去るノイズの塵の中、海斗は息を整えながら、震えるエルフナインの前でしゃがみ込み、優しく手を差し伸べた。
「もう大丈夫だ。俺はS.O.N.G.の海斗。君は……?」
「僕……僕は、エルフナイン……」
エルフナインは泣きそうな目で海斗の手を握り返し、抱え込んでいた小さな箱をぎゅっと胸に抱きしめた。
そして、海斗の右腕に目を向け、ぽつりと呟く。
「……すごい……ギアの中に、『心』と『意思』が生きている……。だからアルカ・ノイズの干渉を受け付けなかったんですね……。」
「えっ……アロンダイトの事が分かるのか!?」
「はい……。頼みます……僕をS.O.N.G.へ連れて行ってください! 僕には……傷ついたみなさんのギアを修復し、アルカ・ノイズに対抗するための……『聖遺物』を再起動させる方法が解るんですッ!」
「ギアの修復……!? アルカ・ノイズに対抗する力……!?」
海斗の目が丸くなる。
アロンダイトが右腕で誇らしげにかすかに光を明滅させた。
絶望の底に叩きつけられたS.O.N.G.に、今、一筋の巨大な希望の光が舞い降りた瞬間だった。