戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第六十六話 希望を運ぶ逃走者

 

 

ロンドン、そして日本の二箇所で同時に起きた突発戦闘は、S.O.N.G.にとって結成以来最大の悲劇となった。

 

ファラの『ソードブレイカー』により天羽々斬の刀身を木っ端微塵に砕かれた翼。

 

アルカ・ノイズの絶対的な干渉破砕効果によってギアを『赤い塵』へ変えられ、身も心も打ち砕かれた響、クリス、切歌、調。

 

本部へ帰還した少女たちは、痛々しい医療機器に繋がれ、医務室のベッドで静かに横たわっていた。

 

「……司令っ! 俺の『聖域治癒』を使わせてください!」

 

S.O.N.G.の指令室。海斗は拳を固く握りしめ、弦十郎に詰め寄っていた。

 

「アロンダイトの力を解放すれば、みんなの怪我も、破壊されたギアの波長だって復元できるかもしれない! 10年でも20年でも俺の寿命を削ってください! こんなところでみんなが傷ついたままなんて……俺は耐えられません!」

 

「——バカ野郎ッ!!」

 

——ドガァァァンッ!!

 

弦十郎の怒号が響き渡り、指令室の金属デスクが拳で叩き割られた。

 

弦十郎は海斗の胸ぐらを鷲掴みにし、その顔を至近距離でにらみつけた。

 

その鋭い瞳には、怒りと、それ以上に深い悲しみが宿っていた。

 

「お前の命を削って得る一時しのぎなど、S.O.N.G.のどこに必要なんだッ! 仲間を救うために命を粗末にするような真似を、横で寝ている翼たちが喜ぶと本気で思っているのかッ!?」

 

「ですが……っ!」

 

「繰り返すな! お前の『聖域治癒』は許可なく使用厳禁だ! ……いいか海斗、自分を犠牲にして掴む勝利など、なんの価値もないんだぞ!」

 

弦十郎に強く突き放され、海斗は壁に背中を打ち付けた。

 

悔しさに歯を喰いしばるが、反論の言葉は出なかった。

 

部屋の隅に追いやられた海斗は、やるせなさから右腕の装甲を強く見つめる。

 

その時——脳裏に直接、重厚で静謐な「声」が響いた。

 

『——主よ。あの男の言う通りだ。』

 

(……アロンダイト……?)

 

右腕の結晶体が白銀の光をかすかに明滅させ、直接意識へ語りかけてくる。

 

『汝の焦燥は理解する。だが、無為に命を削れば、守るべき者たちの心まで削ることになる。……我は、汝の命を安売りするためにあるのではない』

 

(分かってる……分かってるさ。けど、俺だけが無傷で、みんながボロボロなのが耐えられないんだ……。……それになんでだ? なんでお前だけが、あのアルカ・ノイズの分解を受けなかった?)

 

『奴らの術は、既存の聖遺物の概念を解析・解体する術理。……だが我は、汝の生命波長と聖なる奇跡が織り成した唯一無二の存在。理を書き換える不純な術など、我の前に届くはずもない』

 

(頼もしいな、お前は)

 

アロンダイトからの意志を感じ取り、海斗は少しだけ心を落ち着かせた。

 

その時、モニターを見つめていた緒川が分析データを呼び出した。

 

「立花君たちのギアはアルカ・ノイズに触れた瞬間、減衰機能を無効化されて赤い塵へと分解された。……しかし、海斗君のアロンダイトだけは、その干渉破砕効果を完全に弾き返して無効化している」

 

「アロンダイトが分解されない理由……それが反撃の糸口になるかもしれん。……だが海斗、今は無茶な出撃は控えて休め」

 

「……了解です」

 

弦十郎の言葉に頷き、海斗は頭を冷やすため指令室をあとにした。

 

——その頃、夜の市街地。

 

激しい雨が打ち付ける路地裏を、小さな影が必死に駆け抜けていた。

 

ボロボロのフード付きポンチョを纏い、胸に大切な『何か』を抱え込んだ少女。

 

キャロル・マルス・ディーンハイムの手によって創られたホムンクルス——『エルフナイン』であった。

 

「ハァ……ハァ……っ! 追いつかれてしまう……僕では……勝てない……!」

 

彼女の背後から、影を裂いて迫り来るのは数体のアルカ・ノイズ。

 

キャロルたちの計画に恐れをなし、『魔剣ダインスレイフ』の欠片を持ち出して逃亡した彼女を、残虐な自動人形たちが始末しようと追い詰めていたのだ。

 

行き止まりの壁に追い詰められ、膝をつくエルフナイン。

 

「ここまで……か……。キャロル……僕は……っ!」

 

アルカ・ノイズが鉤爪を振り上げ、エルフナインへ飛びかかったその瞬間——!

 

——ズバババババッ!!

 

白銀の力が夜の闇を切り裂き、跳びかかったアルカ・ノイズを強烈に弾き飛ばした!

 

「なっ……!?」

 

目を見開くエルフナインの視線の先に、立ちふさがる一人の青年の背中があった。

 

燦然と輝く白銀の装甲——アロンダイトを構えた海斗だった。

 

「大丈夫か!? 怪我はないか!」

 

「あ……あなたは……シンフォギア奏者……? なぜ……なぜアルカ・ノイズの攻撃が効かないのですか……!?」

 

エルフナインは驚愕に声を震わせた。

 

世界中のあらゆる兵器や聖遺物を分解するはずのアルカ・ノイズの爪が、海斗のアロンダイトに触れた瞬間、バチバチと火花を散らして弾き返されているのだから。

 

『——主よ。雑音の群れが来る。我の力を解き放て』

 

右腕のアロンダイトが凛とした意志を海斗に伝える。

 

「ああ……いくぞ、アロンダイトッ! 女の子一人、絶対に傷つけさせない!」

 

海斗はアロンダイトの推進力を爆発させ、一瞬でアルカ・ノイズの懐へ踏み込んだ。

 

「『打ち砕け!』」

 

アロンダイトと海斗の声が重なり合い、白銀の衝撃波が一閃!

 

干渉破砕の波長すら強烈に押し潰し、アルカ・ノイズの群れを一網打尽に打ち砕いた。

 

崩れ去るノイズの塵の中、海斗は息を整えながら、震えるエルフナインの前でしゃがみ込み、優しく手を差し伸べた。

 

「もう大丈夫だ。俺はS.O.N.G.の海斗。君は……?」

 

「僕……僕は、エルフナイン……」

 

エルフナインは泣きそうな目で海斗の手を握り返し、抱え込んでいた小さな箱をぎゅっと胸に抱きしめた。

 

そして、海斗の右腕に目を向け、ぽつりと呟く。

 

「……すごい……ギアの中に、『心』と『意思』が生きている……。だからアルカ・ノイズの干渉を受け付けなかったんですね……。」

 

「えっ……アロンダイトの事が分かるのか!?」

 

「はい……。頼みます……僕をS.O.N.G.へ連れて行ってください! 僕には……傷ついたみなさんのギアを修復し、アルカ・ノイズに対抗するための……『聖遺物』を再起動させる方法が解るんですッ!」

 

「ギアの修復……!? アルカ・ノイズに対抗する力……!?」

 

海斗の目が丸くなる。

 

アロンダイトが右腕で誇らしげにかすかに光を明滅させた。

 

絶望の底に叩きつけられたS.O.N.G.に、今、一筋の巨大な希望の光が舞い降りた瞬間だった。

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