戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第七話 守護の奇跡

 

 

奏の絶唱が、空を震わせた。

 

黄金の光が天を貫く。

 

歌声は悲しく、それでいて力強い。

 

「奏ッ!!」

 

翼の悲痛な叫びが響く。

 

会場を埋め尽くしていたノイズは黄金の光に呑み込まれ、一体、また一体と消滅していく。

 

轟音が街を揺らし、吹き荒れる衝撃波がライブ会場を包み込む。

 

やがて、静寂が訪れた。

 

「終わっ……た……。」

 

誰かが震える声で呟く。

 

だが、その代償はあまりにも大きかった。

 

黄金の装甲が音を立てて崩れ始める。

 

「……っ。」

 

奏の身体がゆっくりと宙から落ちていく。

 

「奏ェェェェェッ!!」

 

翼が駆け寄る。

 

海斗も全力で地面を蹴った。

 

 

地面へ横たわる奏。

 

全身は傷だらけ。

 

呼吸は弱々しく、今にも止まりそうだった。

 

「奏!」

 

翼が震える手で抱き起こす。

 

「しっかりしろ!」

 

奏はかすかに笑った。

 

「……ごめんね。」

 

「翼。」

 

「約束……守れそうに……ないや。」

 

「喋るな!」

 

翼の声は涙で震えていた。

 

「司令!」

 

「医療班を!」

 

弦十郎もすぐに駆け寄る。

 

しかし、その表情は厳しい。

 

誰もが理解していた。

 

絶唱の代償。

 

それは命。

 

現代医療では覆せない、奏者最大の禁忌だった。

 

その時。

 

海斗の胸元でアロンダイトが強く輝いた。

 

『契約者。』

 

「……!」

 

『まだ間に合う。』

 

海斗は目を見開く。

 

「助けられるのか?」

 

『一度だけだ。』

 

『守護の奇跡。』

 

『生命を守るためだけに許された秘奥。』

 

『汝の生命力を対価とし、対象へ分け与える。』

 

海斗は一切迷わなかった。

 

「やる。」

 

『覚悟はあるか。』

 

「ああ。」

 

『この力を使えば、汝も死に近づく。』

 

海斗は奏を真っ直ぐ見つめる。

 

「それでもいい。」

 

「この人は……ここで死んじゃいけない。」

 

「いや。」

 

「俺は、この人を死なせたくない!」

 

アロンダイトは静かに応えた。

 

『契約、受諾。』

 

『固有能力――《聖域治癒(サンクチュアリ・ヒール)》限定解放。』

 

海斗は奏の前へ膝をつく。

 

「海斗君!?」

 

弦十郎が驚愕する。

 

「何をする!」

 

「奏さんを助けます。」

 

「……何だと!?」

 

翼も息を呑んだ。

 

海斗は奏の胸へそっと手を重ねる。

 

「アロンダイト……!」

 

白銀の光が溢れ出した。

 

まるで月明かりのように優しく。

 

それでいて神々しい輝き。

 

光は奏の身体を包み込む。

 

裂けた皮膚。

 

砕けた骨。

 

傷付いた内臓。

 

失われようとしていた生命力。

 

すべてが少しずつ修復されていく。

 

「傷が……!」

 

翼が目を見開く。

 

「塞がっていく……!」

 

弦十郎も信じられないという表情でその光景を見つめていた。

 

「こんな能力が……。」

 

奏の呼吸が少しずつ安定していく。

 

止まりかけていた鼓動が、再び力強く脈打ち始めた。

 

「……う。」

 

奏が小さく息を漏らす。

 

生きている。

 

確かに、生きている。

 

その瞬間だった。

 

「がっ……!」

 

海斗の身体から一気に力が抜けた。

 

口から鮮血が溢れる。

 

視界が揺れ、アロンダイトの装甲が音を立てて崩壊していく。

 

「少年!」

 

翼が咄嗟に海斗を支えた。

 

海斗は苦しそうに笑う。

 

「……成功、したんだな。」

 

アロンダイトの声が静かに響く。

 

『生命力の七割を消費。』

 

『これ以上の能力行使は契約者の生命維持を保証できない。』

 

「十分だ。」

 

海斗はゆっくりと頷く。

 

「守れたなら……それでいい。」

 

『愚かな契約者よ。』

 

「そうかもな。」

 

「でも。」

 

「これが俺の選んだ道だ。」

 

その言葉に、アロンダイトは何も答えなかった。

 

だが、その白銀の光はどこか優しく揺らいでいるように見えた。

 

 

弦十郎がゆっくりと海斗へ歩み寄る。

 

「……何が起こったんだ。」

 

その声には驚きと困惑が入り混じっていた。

 

海斗は浅く息を吐く。

 

奏は、生きている。

 

原作では救えなかった命。

 

自分が初めて運命を書き換えた証だった。

 

しかし、その喜びに浸る暇はなかった。

 

「司令!」

 

会場の奥からS.O.N.G.隊員の声が響く。

 

「こちらに重傷者です!」

 

「少女が一人、意識不明!」

 

全員が振り向く。

 

隊員たちが駆け寄った先には、胸を赤く染め、倒れたまま動かない立花響の姿があった。

 

「この子は……!」

 

「胸部に金属片が刺さっています!」

 

「呼吸はあります!」

 

「急げ! 担架を!」

 

医療班がすぐに駆けつけ、応急処置を開始する。

 

弦十郎は一瞬だけ響を見つめると、すぐに指揮官の表情へ戻った。

 

「天羽奏を第二種医療施設へ搬送!」

 

「負傷した少女も同時に搬送しろ!」

 

「佐々木海斗君も限界だ!」

 

「三名とも最優先で医療班へ引き継げ!」

 

「了解!」

 

隊員たちが一斉に動き出す。

 

ストレッチャーへ運ばれる奏。

 

そして、静かに担架へ乗せられる響。

 

海斗も隊員に肩を貸されながら歩き始めた。

 

薄れゆく意識の中、海斗は響の寝顔を見つめる。

 

「……響。」

 

まだ目を覚まさない。

 

未来がどう変わるのかも分からない。

 

それでも。

 

今回は違う。

 

奏は生きている。

 

一つだけでも、運命は変えられた。

 

ならばきっと――。

 

「お前の未来も……守れる。」

 

その言葉を最後まで紡ぐことなく、海斗の意識は静かに闇へと沈んでいった。

 

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