戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
奏の絶唱が、空を震わせた。
黄金の光が天を貫く。
歌声は悲しく、それでいて力強い。
「奏ッ!!」
翼の悲痛な叫びが響く。
会場を埋め尽くしていたノイズは黄金の光に呑み込まれ、一体、また一体と消滅していく。
轟音が街を揺らし、吹き荒れる衝撃波がライブ会場を包み込む。
やがて、静寂が訪れた。
「終わっ……た……。」
誰かが震える声で呟く。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
黄金の装甲が音を立てて崩れ始める。
「……っ。」
奏の身体がゆっくりと宙から落ちていく。
「奏ェェェェェッ!!」
翼が駆け寄る。
海斗も全力で地面を蹴った。
◇
地面へ横たわる奏。
全身は傷だらけ。
呼吸は弱々しく、今にも止まりそうだった。
「奏!」
翼が震える手で抱き起こす。
「しっかりしろ!」
奏はかすかに笑った。
「……ごめんね。」
「翼。」
「約束……守れそうに……ないや。」
「喋るな!」
翼の声は涙で震えていた。
「司令!」
「医療班を!」
弦十郎もすぐに駆け寄る。
しかし、その表情は厳しい。
誰もが理解していた。
絶唱の代償。
それは命。
現代医療では覆せない、奏者最大の禁忌だった。
その時。
海斗の胸元でアロンダイトが強く輝いた。
『契約者。』
「……!」
『まだ間に合う。』
海斗は目を見開く。
「助けられるのか?」
『一度だけだ。』
『守護の奇跡。』
『生命を守るためだけに許された秘奥。』
『汝の生命力を対価とし、対象へ分け与える。』
海斗は一切迷わなかった。
「やる。」
『覚悟はあるか。』
「ああ。」
『この力を使えば、汝も死に近づく。』
海斗は奏を真っ直ぐ見つめる。
「それでもいい。」
「この人は……ここで死んじゃいけない。」
「いや。」
「俺は、この人を死なせたくない!」
アロンダイトは静かに応えた。
『契約、受諾。』
『固有能力――《聖域治癒(サンクチュアリ・ヒール)》限定解放。』
海斗は奏の前へ膝をつく。
「海斗君!?」
弦十郎が驚愕する。
「何をする!」
「奏さんを助けます。」
「……何だと!?」
翼も息を呑んだ。
海斗は奏の胸へそっと手を重ねる。
「アロンダイト……!」
白銀の光が溢れ出した。
まるで月明かりのように優しく。
それでいて神々しい輝き。
光は奏の身体を包み込む。
裂けた皮膚。
砕けた骨。
傷付いた内臓。
失われようとしていた生命力。
すべてが少しずつ修復されていく。
「傷が……!」
翼が目を見開く。
「塞がっていく……!」
弦十郎も信じられないという表情でその光景を見つめていた。
「こんな能力が……。」
奏の呼吸が少しずつ安定していく。
止まりかけていた鼓動が、再び力強く脈打ち始めた。
「……う。」
奏が小さく息を漏らす。
生きている。
確かに、生きている。
その瞬間だった。
「がっ……!」
海斗の身体から一気に力が抜けた。
口から鮮血が溢れる。
視界が揺れ、アロンダイトの装甲が音を立てて崩壊していく。
「少年!」
翼が咄嗟に海斗を支えた。
海斗は苦しそうに笑う。
「……成功、したんだな。」
アロンダイトの声が静かに響く。
『生命力の七割を消費。』
『これ以上の能力行使は契約者の生命維持を保証できない。』
「十分だ。」
海斗はゆっくりと頷く。
「守れたなら……それでいい。」
『愚かな契約者よ。』
「そうかもな。」
「でも。」
「これが俺の選んだ道だ。」
その言葉に、アロンダイトは何も答えなかった。
だが、その白銀の光はどこか優しく揺らいでいるように見えた。
◇
弦十郎がゆっくりと海斗へ歩み寄る。
「……何が起こったんだ。」
その声には驚きと困惑が入り混じっていた。
海斗は浅く息を吐く。
奏は、生きている。
原作では救えなかった命。
自分が初めて運命を書き換えた証だった。
しかし、その喜びに浸る暇はなかった。
「司令!」
会場の奥からS.O.N.G.隊員の声が響く。
「こちらに重傷者です!」
「少女が一人、意識不明!」
全員が振り向く。
隊員たちが駆け寄った先には、胸を赤く染め、倒れたまま動かない立花響の姿があった。
「この子は……!」
「胸部に金属片が刺さっています!」
「呼吸はあります!」
「急げ! 担架を!」
医療班がすぐに駆けつけ、応急処置を開始する。
弦十郎は一瞬だけ響を見つめると、すぐに指揮官の表情へ戻った。
「天羽奏を第二種医療施設へ搬送!」
「負傷した少女も同時に搬送しろ!」
「佐々木海斗君も限界だ!」
「三名とも最優先で医療班へ引き継げ!」
「了解!」
隊員たちが一斉に動き出す。
ストレッチャーへ運ばれる奏。
そして、静かに担架へ乗せられる響。
海斗も隊員に肩を貸されながら歩き始めた。
薄れゆく意識の中、海斗は響の寝顔を見つめる。
「……響。」
まだ目を覚まさない。
未来がどう変わるのかも分からない。
それでも。
今回は違う。
奏は生きている。
一つだけでも、運命は変えられた。
ならばきっと――。
「お前の未来も……守れる。」
その言葉を最後まで紡ぐことなく、海斗の意識は静かに闇へと沈んでいった。