戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第七話 守護の奇跡

 

 

奏の絶唱が、空を震わせた。

 

黄金の光が天を貫く。

 

歌声は悲しく、それでいて力強い。

 

「奏ッ!!」

 

翼の悲痛な叫びが響く。

 

会場を埋め尽くしていたノイズは黄金の光に呑み込まれ、一体、また一体と消滅していく。

 

轟音が街を揺らし、吹き荒れる衝撃波がライブ会場を包み込む。

 

やがて、静寂が訪れた。

 

「終わっ……た……。」

 

誰かが震える声で呟く。

 

だが、その代償はあまりにも大きかった。

 

黄金の装甲が音を立てて崩れ始める。

 

「……っ。」

 

奏の身体がゆっくりと宙から落ちていく。

 

「奏ェェェェェッ!!」

 

翼が駆け寄る。

 

海斗も全力で地面を蹴った。

 

◇

 

地面へ横たわる奏。

 

全身は傷だらけ。

 

呼吸は弱々しく、今にも止まりそうだった。

 

「奏!」

 

翼が震える手で抱き起こす。

 

「しっかりしろ!」

 

奏はかすかに笑った。

 

「……ごめんね。」

 

「翼。」

 

「約束……守れそうに……ないや。」

 

「喋るな!」

 

翼の声は涙で震えていた。

 

「司令!」

 

「医療班を!」

 

弦十郎もすぐに駆け寄る。

 

しかし、その表情は厳しい。

 

誰もが理解していた。

 

絶唱の代償。

 

それは命。

 

現代医療では覆せない、奏者最大の禁忌だった。

 

その時。

 

海斗の胸元でアロンダイトが強く輝いた。

 

『契約者。』

 

「……!」

 

『まだ間に合う。』

 

海斗は目を見開く。

 

「助けられるのか?」

 

『一度だけだ。』

 

『守護の奇跡。』

 

『生命を守るためだけに許された秘奥。』

 

『汝の生命力を対価とし、対象へ分け与える。』

 

海斗は一切迷わなかった。

 

「やる。」

 

『覚悟はあるか。』

 

「ああ。」

 

『この力を使えば、汝も死に近づく。』

 

海斗は奏を真っ直ぐ見つめる。

 

「それでもいい。」

 

「この人は……ここで死んじゃいけない。」

 

「いや。」

 

「俺は、この人を死なせたくない!」

 

アロンダイトは静かに応えた。

 

『契約、受諾。』

 

『固有能力――《聖域治癒(サンクチュアリ・ヒール)》限定解放。』

 

海斗は奏の前へ膝をつく。

 

「海斗君!?」

 

弦十郎が驚愕する。

 

「何をする!」

 

「奏さんを助けます。」

 

「……何だと!?」

 

翼も息を呑んだ。

 

海斗は奏の胸へそっと手を重ねる。

 

「アロンダイト……!」

 

白銀の光が溢れ出した。

 

まるで月明かりのように優しく。

 

それでいて神々しい輝き。

 

光は奏の身体を包み込む。

 

裂けた皮膚。

 

砕けた骨。

 

傷付いた内臓。

 

失われようとしていた生命力。

 

すべてが少しずつ修復されていく。

 

「傷が……!」

 

翼が目を見開く。

 

「塞がっていく……!」

 

弦十郎も信じられないという表情でその光景を見つめていた。

 

「こんな能力が……。」

 

奏の呼吸が少しずつ安定していく。

 

止まりかけていた鼓動が、再び力強く脈打ち始めた。

 

「……う。」

 

奏が小さく息を漏らす。

 

生きている。

 

確かに、生きている。

 

その瞬間だった。

 

「がっ……!」

 

海斗の身体から一気に力が抜けた。

 

口から鮮血が溢れる。

 

視界が揺れ、アロンダイトの装甲が音を立てて崩壊していく。

 

「少年!」

 

翼が咄嗟に海斗を支えた。

 

海斗は苦しそうに笑う。

 

「……成功、したんだな。」

 

アロンダイトの声が静かに響く。

 

『生命力の七割を消費。』

 

『これ以上の能力行使は契約者の生命維持を保証できない。』

 

「十分だ。」

 

海斗はゆっくりと頷く。

 

「守れたなら……それでいい。」

 

『愚かな契約者よ。』

 

「そうかもな。」

 

「でも。」

 

「これが俺の選んだ道だ。」

 

その言葉に、アロンダイトは何も答えなかった。

 

だが、その白銀の光はどこか優しく揺らいでいるように見えた。

 

◇

 

弦十郎がゆっくりと海斗へ歩み寄る。

 

「……何が起こったんだ。」

 

その声には驚きと困惑が入り混じっていた。

 

海斗は浅く息を吐く。

 

奏は、生きている。

 

原作では救えなかった命。

 

自分が初めて運命を書き換えた証だった。

 

しかし、その喜びに浸る暇はなかった。

 

「司令!」

 

会場の奥から二課の隊員の声が響く。

 

「こちらに重傷者です!」

 

「少女が一人、意識不明!」

 

全員が振り向く。

 

隊員たちが駆け寄った先には、胸を赤く染め、倒れたまま動かない立花響の姿があった。

 

「この子は……!」

 

「胸部に金属片が刺さっています!」

 

「呼吸はあります!」

 

「急げ! 担架を!」

 

医療班がすぐに駆けつけ、応急処置を開始する。

 

弦十郎は一瞬だけ響を見つめると、すぐに指揮官の表情へ戻った。

 

「天羽奏を第二種医療施設へ搬送!」

 

「負傷した少女も同時に搬送しろ!」

 

「佐々木海斗君も限界だ!」

 

「三名とも最優先で医療班へ引き継げ!」

 

「了解!」

 

隊員たちが一斉に動き出す。

 

ストレッチャーへ運ばれる奏。

 

そして、静かに担架へ乗せられる響。

 

海斗も隊員に肩を貸されながら歩き始めた。

 

薄れゆく意識の中、海斗は響の寝顔を見つめる。

 

「……響。」

 

まだ目を覚まさない。

 

未来がどう変わるのかも分からない。

 

それでも。

 

今回は違う。

 

奏は生きている。

 

一つだけでも、運命は変えられた。

 

ならばきっと――。

 

「お前の未来も……守れる。」

 

その言葉を最後まで紡ぐことなく、海斗の意識は静かに闇へと沈んでいった。

 

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