戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
——ヨーロッパ・キャロルの隠れ家(工房)。
「……ちょっと、研究って言いながら、ただ美少女たちに代わる代わるキスされまくってるだけじゃねえかッ!?」
錬金術の強力な拘束陣に全身を縛り付けられた海斗が、情けない悲鳴を上げていた。
海斗を囲むのは、キャロルに創られた4人の自動人形(オートスコアラー)——ガリィ、ミカ、ファラ、レイア。
「静かにしてください。これはマスターの命による『アロンダイトおよび記憶復元の絶対解明実験』なのよ」
ガリィは冷酷な眼差しで海斗を見下ろすと、再び顔を寄せて強引に海斗の唇を塞いだ。
——んむちゅ……ッ!
「んんんっ!?」
「……ふぅ。やっぱりダメ。どれだけ吸い上げても一瞬で記憶が復元されるわ……。次はミカ、行きなさい」
「おうッ!アタシに任せるんだゾッ!」
続いてミカがニシシと野性的な笑みを浮かべ、海斗の首筋を引っ掴んで強烈に唇を奪う。
——んちゅっ……!!
「……ハァッ! ダメだ、アタシのストレージにも溢れるほどの高密度エネルギーが送られてくるだけだぜ……っ!」
「くそっ……! 頼むからやめてくれ! 俺はもっと女の子たちとロマンチックなシチュエーションで甘いキスを楽しみたいんだよ! こんな実験材料みたいに無理やり奪われ続けるのは御免だッ!!」
必死に抵抗しつつも本音を叫ぶ海斗に対し、胸元に下げられた盾の形をしたペンダント『アロンダイト』が、白銀の光芒を脈動させて海斗の精神と記憶を寸分の狂いもなく保護し続けていた。
部屋の奥でハープシコードを弾いていたキャロルが、静かに歩み寄ってくる。
「ほう……ガリィとミカの抽出術式を連続で受けても、記憶の不変性は保たれたままか」
キャロルは黒い帽子のつばを指で押し上げ、海斗の胸元で輝く盾型ペンダントへ冷ややかな視線を注いだ。
「マスター……あの男のペンダント、一体どうなっているのでしょうか?」
ファラの問いに、キャロルは冷ややかな声で答える。
「あの男の記憶とアロンダイトは『不変の概念』そのものと結びついている。どれだけ奪おうと、無から即座に復元される完全なる循環……。——よし、次は俺が直接『研究』してやろう」
「え……マ、マスター自ら……!?」
キャロルが静かに顔を近づけてくると、海斗は顔を真っ青にして暴れた。
「待て! キャロル! お前まで何しようとしてるんだぁぁぁぁッ!?」
海斗の叫び虚しく、重々しい工房の扉が閉じられるのだった。
◇
---
——夜の街中。
「……海斗くんと、連絡が取れないなんて……」
リディアン音楽院からの帰り道。
小日向未来はスマホの画面を見つめたまま、不安そうにポツリと呟いた。
隣を歩く立花響も、どこか落ち着かない様子で周囲を見回している。
「海斗くん、急に連絡が途絶えちゃったんだよね……。二課の本部にも戻ってないみたいだし……」
ギアを破壊され、生身の体である二人を護衛するように、少し前を歩いていた天羽奏が足を止めた。
赤髪を夜風になびかせ、ガングニールの装甲を片腕だけに展開して周囲を警戒する。
「……二人とも、私の後ろに下がってて……。」
「奏さん……?」
「湿気が急に上がってきやがった。……敵だッ!」
——ぬるりッ!
路地裏の影から、無数の水の束が蛇のように跳ね上がり、路面を濡らした。
現れたのは、薄青い髪を揺らすガリィ・トゥーマ、そして背後に引き連れた大量のアルカ・ノイズ!
「ふふ、見つけたわ。無力なシンフォギア奏者たち」
「海斗をどこへやったッ!?」
奏が鋭い一閃とともにガングニールの槍を構える。
ガリィはクスリと嘲笑った。
「あのお兄さんなら、今頃マスターのもとでたっぷり『愛の解剖実験』を受けているわ。……さあ、あなたたちの思い出もいただこうかしら!」
「ふざけた真似を……ッ!!」
奏は踏み込み、アルカ・ノイズの群れへ突撃した。
——ガキィィィンッ! ズババババッ!!
しかし、相手は専用の干渉破砕効果を持つアルカ・ノイズ。
接触すればギアが『赤い塵』と化す死の敵だ。
さらに、後ろにはギアを失った響と未来がいる。
(くそっ……! 響たちを巻き込むわけにはいかねえ……! 防御に回るしかないのかッ!?)
響と未来を庇いながらの戦いはあまりにも過酷だった。
奏の激しい槍撃も、無数に群がるアルカ・ノイズとガリィの自由自在な水流攻撃の前にジリジリと防戦一方へと追い詰められていく。
「ハハハッ! 守るものがある戦奏者ほど、脆いものはないわね!」
ガリィの水の刃が奏の肩を切り裂き、鮮血が舞った。
「ぐっ……おおぉぉぉぉッ!!」
「奏さんッ!!」
絶体絶命の危機——その時!
——シュバァァァァンッ!!
上空から眩い白銀の閃光が舞い降り、ガリィの水の刃を強烈に弾き飛ばした!
「そこまでよ……ッ!!」
「マリア……ッ!?」
現れたのは、聖遺物『アガートラーム』のギアを身に纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴだった!
「奏! 響と未来を連れて下がって! ここは私とアガートラームが食い止める!」
「マリア……! お前、まだ傷が……!」
「言っている場合じゃないわ! 行きなさいッ!」
マリアはアガートラームを構え、果敢にガリィへと肉薄する。
白銀の刃が夜空を切り裂き、ガリィの水流と激しい火花を散らした!
「ハッ! 元・ガングニールの奏者が、今度はアガートラームですか!ですが……甘いですわッ!」
——バシィィィィンッ!!
ガリィの手から放たれた超高圧の水流が、マリアのアガートラームの剣を完璧に捉えた。
同時に、影から躍り出たアルカ・ノイズの干渉破砕波がアガートラームの装甲へと襲いかかる!
——パリィィィィィンッ……!!
「きゃああぁぁぁぁぁッ!?」
減衰機能を強制突破されたアガートラームの装甲が、接触面から瞬く間に『赤い塵』となって粉々に砕け散った!
マリアは凄まじい衝撃とともに吹き飛ばされ、アスファルトの上に崩れ落ちる。
「マリアッ!!」
胸のギアを破砕され、荒い息を吐くマリア。
ガリィはつまらなさそうに髪を払い、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ふふ……これでアガートラームも終わりね。……今日はこのくらいにしてあげようかしら。マスターのもとへ帰らなきゃいけないからね」
ガリィは水流の渦とともに、嘲笑を残して夜の闇へと消え去った。
---
静まり返った路地裏。
破壊されたアガートラームの破片(赤い塵)が、虚しく夜風に舞っていく。
響は膝をつき、未来は涙を浮かべて立ち尽くしていた。
マリアは傷ついた体を起こせず、悔しさに拳を地面に打ち付ける。
「くそっ……アガートラームまで……壊されるなんて……ッ!」
響のガングニール、翼の天羽々斬、クリスのイチイバル、切歌のイガリマ、調のシュルシャガナ、そしてマリアのアガートラーム。
すべての奏者のギアが破壊され、倒れていった。
海斗は敵の渦中に連れ去られ、消息不明。
今、この絶望の夜の中で……まともに戦えるシンフォギア奏者は、負傷し、一人ガングニールの槍を握りしめる天羽奏ただ一人となっていた。
重く、暗い暗雲が、特務二課の頭上に覆いかぶさるのだった——。