戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
——ヨーロッパ・キャロルの隠れ家。
「ほら、海斗。飯だゾ」
重々しい鉄扉が開き、現れたのは黄色い瞳を輝かせたオートスコアラー——ミカ・ジャヴカンだった。
器用に木製のトレイを片手で持ち、海斗の前にドンと置く。
「サンキュ、ミカ。……って、俺の手の拘束、解いてくれないと食べられないんだが?」
錬金術の鎖で椅子に縛り付けられた海斗が苦笑いすると、ミカは爪でパチンと鎖の結び目を緩めてやった。
「逃げようとしたって無駄だゾ! アタシがガッチリ見張ってるからな」
海斗は自由になった手でスプーンを取り、出された食事——パンと温かいスープ——を口に運んだ。
モグモグと満足そうに食べる海斗の姿を、ミカは退屈そうに頬杖をつきながらじーっと見つめている。
「……美味いのか?」
「ああ、スープの塩加減が良い感じだな。ミカが作ったのか?」
「まさか。マスターの錬金術で作った自動調理だゾ。……ふぁーあ、なんかお腹減ってきたゾ」
ミカはペロリと舌を出し、椅子に座る海斗へ急接近した。顔が触れ合いそうな至近距離で、野性的な黄色い瞳が怪しく光る。
「なあ……お前のその無限に湧き出る美味ぇ『思い出』、また吸わせてくれよ。お前が美味そうに飯食ってると、アタシまでお腹が空いてくるんだゾ」
「待て待て待てッ! タイム! 忍び寄るなッ!」
海斗は慌ててミカの額を押し返した。
「飯ならそこにあるだろ!ていうか、思い出を吸う吸わない以前に……お前ら、街に出ればもっと安くて本物のアツアツで美味いもんがたくさんあるんだぞ!?」
「街の……美味いもの……?」
ミカがぴくりと耳を澄ませるように目を丸くした。
「そうだぞ。表面はサクサクで中から肉汁が溢れ出すハンバーグとか、コクのあるスープと熱々の麺が絡むラーメンとか、甘くてとろけるパフェやケーキ……世界中にはスープとパンどころじゃないご馳走が溢れてるんだ」
「肉汁……? とろけるケーキ……? な、なんだよそれ……めちゃくちゃ美味そうだゾ……ッ!」
ミカはゴクリと唾を飲み込み、目を輝かせた。
だが、すぐにフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「……でもダメだゾ。アタシたち自動人形(オートスコアラー)はマスターの命に従う存在だゾ。マスターの許可なく勝手に街へ行って遊ぶなんて許されないんだゾ」
「ミカ……」
「……ちッ、悔しいけどマスターの命令は絶対なんだゾ。……けどよ! 話くらいは教えてくれよ! そのハンバーグってのはどんな味がするんだ!?」
悔しそうに歯を食いしばりつつも、子供のように身を乗り出してくるミカ。
その素直な姿に、海斗はふっと表情を緩めた。
「よし、分かった。じゃあさ……キャロルとの戦いが終わって平和になったら、いつか一緒に街へ美味いもんを食べに行こう。俺が奢ってやるよ」
「はぁ!? お前、敵のアタシと約束すんのか……!?変だゾ!」
ミカは一瞬呆気にとられたが、すぐにニシシと野性的な笑みを浮かべ、拳を海斗の胸にポンと当てた。
「へっ……でも面白そうだゾ!約束破ったら、その時は思い出どころか命ごと吸い尽くしてやるからなッ!」
「あはは、厳重なペナルティだなあ」
「あら、ずいぶんと楽しそうな約束を交わしているのね?」
「……ッ!?」
不意に部屋の隅の影から、ガリィがスッと姿を現した。
さらに扉の脇からはファラとレイアまで顔を出している。
「ガ、ガリィ!? お前ら、いつからそこにいたんだゾ……ッ!?」
ミカが顔を赤くして跳ね起きると、ガリィは口元を袖で隠してクスクスと笑った。
「最初からよ。『ミカがおとなしく見張りをしているか』見に来たら、すっかり敵の男と打ち解けちゃって」
「なっ……打ち解けてなんかねぇゾッ! アタシはただハンバーグってやつの情報を引き出そうとしてただけだゾ——!」
「では、私たちもその約束に加えていただきましょうかしら?」
ファラが優雅にお辞儀をし、レイアも無表情ながらコクリと頷く。
「私は香りと味わい深い紅茶、そして焼きたてのタルトを希望します」
「おいおい……! お前ら全員で来る気かよ!? 俺のお財布が持たないって!」
海斗が頭を抱えると、胸元のペンダントから機械的で無機質な声が響いた。
『——マスターの経済的破綻リスクを検出。該当4名の想定消費カロリーおよび外食費用を概算中……。解:マスターのアルバイト給与3ヶ月分が蒸発します。無理です』
「お前は余計な計算すんなッ!!」
「ふふ……賑やかで楽しいんだゾ!!!」
殺伐とした隠れ家の一室で、束の間の奇妙で和やかな笑い声が響いていた。
◇
---
**——日本のS.O.N.G.指令室。**
一方、日本の特務二課司令室には、痛々しい重苦しい空気が漂っていた。
「……ダメです。修復のベースとなる聖遺物の欠片すら残っていません……」
エルフナインが作業台の前でガックリと肩を落としていた。
響のガングニール以外のギア——翼の天羽々斬、クリスのイチイバル、切歌のイガリマ、調のシュルシャガナ、マリアのアガートラーム。
そのすべてが、原作より強化されていたアルカ・ノイズの干渉破砕によって跡形もなく『赤い塵』へと分解・消滅してしまっていたのだ。
「イグナイトモジュールを組み込もうにも、肝心のギアそのものが消滅していては、改修のしようがありません……」
「くそっ……!ギアを直す方法はないのか……!?」
風鳴弦十郎が拳を強く握りしめる。
希望が絶たれたかのように思えたその時——立花響が何かを思い出したように顔を上げた。
「……ねえ、みんな。前に……未来が『神獣鏡(シェンショウジン)』のギアに囚われちゃった時のこと、覚えてる……?」
「……! あの時のことか?」
天羽奏が鋭い眼光を響に向ける。
「うん! あの時、みんなのギアは完全に一度破壊されたのに……海斗くんが『聖域治癒(アロンダイトの力)』を使った瞬間、ギアの傷が一瞬で綺麗に治って、元通りになったよね!」
響の言葉に、エルフナインの瞳がハッと見開かれた。
「……そうです! 海斗さんの持つアロンダイトの力は、単なる回復術式ではありません……! 物質や精神の情報を過去の完全な状態へと即座に再構成する『絶対的再生・不変』の概念……ッ!」
エルフナインは勢いよく立ち上がった。
「海斗さんのあの力さえあれば、一度消滅した聖遺物の結晶すらも、無から完全に元通りへ復活させることができます! つまり……ッ!」
「海斗を……敵の隠れ家から連れ戻すしかねえってことだな!」
奏が力強く言い放った。
「海斗くんは今、一人で戦ってる……! 今度は私たちが、海斗を助け出す番だよッ!」
響の叫びに、翼、クリス、切歌、調、マリア、そして未来も力強く頷いた。
全員の心が、海斗への強い想いと奪還への決意で一つになる。
「だが……問題はキャロルの隠れ家の場所だ」
弦十郎が眉をひそめる。
「ヨーロッパのどこかであることは確かだが、情報が完全に遮断されている。現在も国連のエージェントが探しているが…。」
キャロルの居場所を割り出す術がなく、一同が再び思案に暮れたその時——響が不思議そうに首をかしげた。
「あの……ずっと気になってたんだけど」
「どうした、響?」
「なんで……奏さんのシンフォギア(ガングニール)だけ、毎回何故か破壊を免れているんだろう……?」
「……え?」
響の言葉に、指令室全体が息をのんだ。
ガリィたちの強烈な攻撃を受け、マリアのアガートラームすら一瞬で塵と化したあの激戦。
にもかかわらず、天羽奏のガングニールだけは……一度も壊されることなく、完全にその原形を保ち続けていたのだ。
「奏のギアだけが……無傷……?」
翼が奏の身に纏う黒きガングニールを注視する。
そこには、キャロルの居場所を突き止め、海斗を奪還するための「秘められた真実」が隠されていた——。