戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
——S.O.N.G.大型輸送機・医務室。
ヨーロッパの空を飛ぶ輸送機の中。
救護ベッドの上に座らされた海斗の周囲を、未来を筆頭に響、奏、翼、クリス、マリア、切歌、調の少女全員がぐるりと取り囲んでいた。
「……ねぇ、海斗くん。言い残すことはある……?」
未来の目は完全に光を失っており、声のトーンは絶対零度。
海斗は汗をダラダラと流しながら、必死に手を振って弁明を始めた。
「待ってくれみんな! 誤解だ! 首筋のこれは、キャロルの隠れ家でガリィやミカたちに『記憶とアロンダイトの解析実験』とか言われて、無理やり吸われたんだッ! 俺の意思じゃない!!」
「無理やり……? でも、そんなにたくさん跡が残るまで大人しくされてたんだ……ふーん……」
未来の背後に、ぬらりと巨大な漆黒のオーラが立ち昇る。
そこへ、空気の読めない聖遺物——アロンダイトが、無機質な音声で誇らしげに補足を入れた。
『主の言は87%真実である。彼女らは実験と称し、強制的に皮膚接触および体液吸引を行っていた』
「ほら見ろ! アロンダイトもそう言ってるだろ!?」
『主は我が白銀のテープにより、最後の砦である唇は防御した。……いや、テープを貼られる前にすでに何度か奪われていたが』
「余計なこと言わなくていいんだよアロンダイトォォォォォッ!!?」
余計すぎる真実の暴露に、海斗は絶望の叫びをあげた。
案の定、少女たちの目が一斉に血走り、部屋の空気が爆発寸前の膨張を見せる!
「な、何度も……っ!? 海斗のバカーッ!」
「貴様という男は……っ!」
「この浮気男ぉぉぉっ!!」
「……決めた」
スッ……と前に歩み出たのは小日向未来だった。
「他の子たちにそんなにされたなら……私も、今ここで海斗くんの『口』にキスして上書きするから……!」
「「「ええええぇぇぇっ!?」」」
「み、未来!? 落ち着いてっ! それは流石に早まりすぎ——きゃああっ!?」
乱入した未来を慌てて止めようとした響だったが、機体が突如乱気流に巻き込まれて大きく横揺れを起こした!
足を滑らせた響は、そのまま前傾姿勢で海斗の上へとダイブ!
——チュッ♡
「「「………………っ!?!?!?」」」
重力に従い、海斗の唇の上に、響の柔らかい唇が重なった。
静寂。
完全なる静寂が室内に満ちる。
「〜〜〜〜〜〜っっっ///!?!?」
数秒後、ハッと我に返った響は顔面を沸騰させ、煙を噴き出しそうなほど真っ赤になって飛び退いた!
「あ、あ、あ、あたし……海斗と……っ!? ハッ!?違うの未来! 今のは不可抗力で、事故で、倒れちゃって——ッ!」
「響?」
「どさくさに紛れて何ちゃっかりファーストキスの枠を奪ってんだよッ!!」
「お前というやつはぁぁぁっ!!」
奏とクリスが怒号をあげ、室内が完全な修羅場へと崩壊しかけた——その時!
ピコン、ピコンッ!
海斗のポケットに入れていた通信端末から、聞き覚えのある野性的なボイスメッセージが大音量で再生された。
『おい海斗ォ! アタシとの『ハンバーグの約束』忘れたら、またキスして命ごと吸い尽くすゾッ!! 覚悟しとくんだゾッ!!』
ビキ……ッ。
ミカの無邪気で最悪なメッセージが室内に響き渡り、未来、奏、クリスたちの目の光が、今度こそ完全に消え去った。
「「「「……海斗(くん)……?」」」」
「……俺は……もうダメかもしれない……」
海斗は遠い目で天を仰ぎ、静かに悟りを開くのだった。
◇
――
——数時間後、S.O.N.G.本部・ブリーフィング室。
部屋の隅には、頭からつま先までロープで厳重に【簀巻き】にされ、おでこに大きく『罪状:タラシ罪』と書かれた紙を貼られた海斗が転がされていた。
「うぅ……縛りがキツい……」
「自業自得だ、大人しくしてろ」
奏に冷たくあしらわれつつ、弦十郎はそんな海斗の惨状を綺麗にスルーし、彼の傍らに浮遊するアロンダイトへと向き直った。
「さて、私情の制裁はこれくらいにして本題に入ろう。……アロンダイト、お前に質問がある」
弦十郎の鋭い眼光。
「アルカ・ノイズの干渉破砕によって、塵となって全壊した翼やクリスたちの『シンフォギア』……お前の力で、治す(再生させる)ことは可能なのか?」
その問いに、ブリーフィング室にいた全員の緊張が走る。
アロンダイトは機械的な光を明滅させ、即答した。
『肯定。我が『聖域治癒』の権能を行使すれば、構造データの復元およびギアの再構成は容易である。……ただし、それには【エネルギー】が必要不可欠となる』
「エネルギー、か……」
「待てッ!」
真っ先に声をあげたのは天羽奏だった。
奏は簀巻きの海斗をかばうように前に立ち、アロンダイトを指さして叫んだ。
「海斗の『寿命』をエネルギーにするのは絶対にダメだ! それだけはあたしが許さないぞッ!」
『了解した。マスター海斗の生命力をエネルギーに変換する手段は除外する』
アロンダイトの言葉に、弦十郎も頷いた。
「当然だ。海斗の命を削ってギアを直すなど、本末転倒だからな。だが……となれば、代替となるエネルギー源を確保しなければならん」
「代替エネルギー……ですか」
翼が顎に手を当てて思案する。
「本部の大型パワープラントからの直接電力供給では足らぬか?」
『否定。シンフォギアの再構成には、単なる電気エネルギーではなく、聖遺物と波長を同調させられる高次フォニックゲイン、あるいはそれに準ずる生命力が必要。』
「高次のフォニックゲイン……」
エルフナインが自身の端末を叩きながら目を輝かせた。
「それなら、無傷である奏さんと響さんの歌声……つまり『二人の全力のフォニックゲイン』をアロンダイトに集束・変換させるのはどうでしょうか!?」
「あたしたちの歌で、みんなのギアを直せるのか!?」
「それだけじゃ足りないなら、直ったギアから順に私たちも歌を重ねていけば、どんどんエネルギーが増幅するはずデス!」
「いいねぇ! 歌の錬金術ってわけだ!」
仲間たちの前向きなアイデアに、アロンダイトのセンサーが静かに点灯した。
『理論上、有効。奏者全員のフォニックゲインを我が内部回路で『聖域再生波動』へと変換・照射すれば、全シンフォギアの完全復活、ならびに強度の底上げが可能と試算。』
「よし……! 筋道は見えたな!」
弦十郎が力強く拳を握りしめた。
「キャロルたちとの決戦に向け、全ギアの奪還・復活作戦を開始する! ……おい、誰か海斗の縄をほどいてやれ!」
「はーい……反省したなら、解いてあげる」
未来が少しだけ毒の抜けた笑顔で海斗の縄を解き、おでこの紙を剥がしてくれた。
「ふはっ……助かった……生き返ったよ……」
「でも海斗くん、次に浮気したら……分かってるよね?」
「え、だから俺、浮気なんて…」
「返事」
「ハイ、絶対にしません!!」
修羅場を乗り越え、ついに反撃の鍵を手に入れたS.O.N.G.。
壊されたギアの復活と、キャロルとの最終決戦へ向けて、物語は大きく動き出す——!