戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第八十一話 譲れないもの、その先に

 

 

 翠緑の刃が、海斗の頭上へ振り下ろされる。

 

「──ッ!!」

 

 避けるには遅い。

 

 盾を展開する時間もない。

 

 ほんの数秒とはいえ、意識を奪われた代償はあまりにも大きかった。

 

「海斗ォッ!!」

 

 響の叫びが聞こえる。

 

 それでも海斗の身体は、考えるより先に動いていた。

 

「アロンダイトッ!」

 

『応』

 

 白銀の剣を頭上へ掲げる。

 

 次の瞬間。

 

 ──ギィィィィィィンッ!!

 

「ぐぅぅぅッ!!」

 

 翠緑と白銀。

 

 二振りの剣が激突し、凄まじい衝撃が海斗の両腕を駆け抜ける。

 

 足元の床が砕け、膝が沈んだ。

 

 そして。

 

 ──ピシッ。

 

「……ッ!」

 

 嫌な音がした。

 

『損傷率十二%……十八%……』

 

「一気に……!?」

 

 アロンダイトの刀身に走った亀裂が、目に見える速度で広がっていく。

 

 先ほどまでとは違う。

 

 ファラも理解しているのだ。

 

 中途半端に傷付けるだけでは、アロンダイトは復元してしまう。

 

 ならば。

 

 一度に。

 

 復元が追いつかないほど。

 

 完全に破壊する。

 

「もう理解しましたわ!」

 

 ファラの顔から、いつもの優雅な笑みは消えていた。

 

「貴方の聖剣は確かに厄介! ですが、復元に必要な時間も力も無限ではありません!」

 

「くっ……!」

 

「ならば!」

 

 ファラがさらに剣へ力を込める。

 

「再生する暇など与えず──砕き尽くすまでですわッ!!」

 

『損傷率二十七%』

 

「アロンダイト!」

 

『構造維持を優先』

 

 白銀の光が亀裂を覆う。

 

 だが、修復したそばから新たな亀裂が走る。

 

 復元と破壊。

 

 二つの力が、海斗の目の前で文字通り食い合っていた。

 

(まずい……!)

 

 このまま受け続ければ押し切られる。

 

 かといって、今ここで剣を外せばファラの一撃をまともに受ける。

 

「海斗ッ!」

 

 響が助けに来ようとする。

 

「行かせないヨ!」

 

 その進路に、レイアが立ちはだかった。

 

「退いてぇぇぇッ!!」

 

「嫌だって言ってるだろッ!」

 

 響とレイアの拳が激突する。

 

 衝撃波が広間を駆け抜け、二人の足元が大きく陥没した。

 

 援護は期待できない。

 

 いや。

 

(最初から……期待するな)

 

 海斗は歯を食いしばる。

 

 響には響の戦いがある。

 

 奏たちには、キャロルを止めるという役目がある。

 

 なら。

 

 自分の相手くらい。

 

「自分で……なんとかするッ!」

 

「何を──」

 

 海斗は突然、力を抜いた。

 

「なっ!?」

 

 押し合っていた抵抗が消えたことで、ファラの身体が前へ傾く。

 

 当然。

 

 刃も。

 

 そのまま海斗へ向かう。

 

「海斗!?」

 

『主よ』

 

「信じろ!」

 

『──了解』

 

 アロンダイトを横へ流す。

 

 ファラの剣が海斗の肩口へ迫る。

 

 紙一重。

 

 白銀の装甲を掠め。

 

 鮮血が宙へ舞った。

 

「ぐッ……!」

 

「貴方……!」

 

 ファラが目を見開く。

 

 海斗は。

 

 あえて。

 

 受けることをやめた。

 

 完全に防ぐのではない。

 

 致命傷だけを避ける。

 

 その代わり。

 

「捕まえた」

 

「──ッ!?」

 

 海斗の左手が。

 

 ファラの剣を握る手首を掴んでいた。

 

「離しなさい!」

 

「嫌だね!」

 

 肩から血が流れる。

 

 だが、この距離なら。

 

 ファラの剣は振れない。

 

「アロンダイト!」

 

『復元開始』

 

 傷付いた刀身が白銀に輝く。

 

 ファラがそれを見て、初めて焦燥を露わにした。

 

「させませんわ!」

 

「もう遅い!」

 

 海斗はファラの手首を掴んだまま身体を捻る。

 

「おおおおおおッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 そのまま。

 

 投げた。

 

 ファラの身体が宙を舞い、石造りの床へ背中から叩きつけられる。

 

 ──ズガァァァンッ!!

 

「がっ……!」

 

「まだだ!」

 

 海斗は逃がさない。

 

 ファラが起き上がるより早く、その腕を踏みつけた。

 

 翠緑の剣が床へ転がる。

 

「あっ……!」

 

「ようやく剣を離したな」

 

「くっ……!」

 

 海斗はアロンダイトを振り上げる。

 

 だが。

 

 ファラの首へは振り下ろさない。

 

「聖域展開!」

 

 ──キィィィィンッ!!

 

 白銀の光がファラを包み込む。

 

 四方から障壁が展開され、今度こそ完全に逃げ道を塞いだ。

 

「また、この牢獄を……!」

 

「違う」

 

「何が違うというのです!」

 

「今度は」

 

 海斗が息を吐く。

 

「お前に壊させない」

 

「……!」

 

 ファラの視線が床へ向く。

 

 剣は。

 

 障壁の外。

 

 自らの手元にはない。

 

「剣を壊す能力がどれだけ強くても」

 

 海斗がアロンダイトを構えた。

 

「その剣がなきゃ使えないんだろ?」

 

「……卑怯ですわ」

 

「褒め言葉として受け取っとく」

 

「騎士の風上にも置けませんわね!」

 

「さっきも言っただろ!」

 

 海斗は笑う。

 

「俺は剣士として勝ちたいんじゃない」

 

 踏み込む。

 

「守りたい奴らのところへ──」

 

 白銀の光が刀身へ集中する。

 

「帰りたいんだよッ!!」

 

「──ッ!」

 

 海斗の剣が。

 

 障壁をすり抜け。

 

 ファラの胸へ突き刺さった。

 

 ◇

 

 ──キィィィィィィン……。

 

「……あ」

 

 ファラの身体から、力が抜ける。

 

 白銀の剣は彼女の身体を貫いている。

 

 だが。

 

 血は流れていなかった。

 

「……これは……?」

 

 ファラが呆然と胸元を見る。

 

 白銀の光。

 

 痛みは。

 

 ない。

 

『対象構造解析』

 

「何を……したのです……?」

 

「壊してない」

 

 海斗は静かに答えた。

 

「お前たちは自動人形なんだろ」

 

「……ええ」

 

「だったら、お前を動かしてる錬金術式だけ止められないかって思ってさ」

 

『解析完了』

 

 アロンダイトの声が響く。

 

『敵性戦闘機構を異常状態として認識』

 

「できるか?」

 

『可能』

 

「やれ」

 

『復元対象を戦闘開始以前の休眠状態へ設定』

 

「まさか……」

 

 ファラの目が見開かれる。

 

『──聖域復元』

 

 白銀の光が爆発した。

 

「くっ……あぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ファラの身体を走っていた錬金術式が、一つずつ消えていく。

 

 腕から。

 

 脚から。

 

 胸元から。

 

 戦うために組み込まれた機構が、まるで時間を巻き戻すように停止していった。

 

「そんな……私の……力が……」

 

 膝から崩れ落ちる。

 

 海斗は慌てて剣を抜き、その身体を受け止めた。

 

「っと!」

 

「……何故……」

 

「ん?」

 

 ファラは海斗の腕の中で、小さく問いかける。

 

「何故……破壊しなかったのです?」

 

「…………」

 

「私は……貴方を殺そうとしました」

 

「知ってる」

 

「貴方の剣を壊そうともしました」

 

「それも知ってる」

 

「なら……何故」

 

 海斗は少しだけ考えた。

 

 そして。

 

「別に殺す必要ないから」

 

「……は?」

 

「戦えなくすれば、それで俺の勝ちだろ?」

 

「…………」

 

「それに」

 

 海斗は苦笑する。

 

「女の子斬り殺して勝ちましたーって、後味悪すぎるし」

 

「……貴方は」

 

 ファラの表情が引きつった。

 

「……本当に……馬鹿ですわね」

 

「最近よく言われる」

 

『肯定』

 

「お前は肯定すんな」

 

 ファラの口元が。

 

 ほんの少しだけ。

 

 緩んだ。

 

「……マスターが……貴方を警戒する理由が……少し分かった気がしますわ」

 

「ん?」

 

 だが。

 

 それ以上。

 

 ファラが言葉を続けることはなかった。

 

 瞳から光が失われ。

 

 静かに目を閉じる。

 

『敵性反応消失』

 

「……死んでないよな?」

 

『生命機能に相当する疑似回路は正常。休眠状態へ移行』

 

「そっか」

 

 海斗は小さく安堵した。

 

「なら良かった」

 

 ファラを床へ静かに寝かせる。

 

 その瞬間。

 

 ──ドゴォォォォォンッ!!

 

「うわッ!?」

 

 少し離れた場所で、巨大な爆発が起きた。

 

 ◇

 

「だぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ぐぅぅぅぅッ!!」

 

 響とレイア。

 

 二人の拳が。

 

 再び正面から激突していた。

 

「まだまだぁッ!」

 

 響が一歩踏み込む。

 

「地味にしつこい!」

 

 レイアも退かない。

 

 拳。

 

 肘。

 

 蹴り。

 

 互いに一撃も譲らない。

 

 殴る。

 

 殴られる。

 

 それでも。

 

 響は。

 

 笑っていた。

 

「なんで……」

 

 レイアが息を切らしながら尋ねる。

 

「おかしなこと。なぜワタシの前で、そのような顔をするのですか」

 

「え?」

 

「殴られて」

 

 拳。

 

「ボロボロになって」

 

 蹴り。

 

「なぜ笑える」

 

 響はレイアの蹴りを腕で受け止める。

 

 そのまま。

 

 笑った。

 

「だって!」

 

 一歩。

 

「海斗がいる!」

 

 二歩。

 

「みんながいる!」

 

 三歩。

 

「絶対に負けたくない理由がある!」

 

「何だヨそれッ!」

 

「だから!」

 

 レイアの拳を。

 

 響が掴んだ。

 

「何度でも、何度でも立てるんですッ!!」

 

「──ッ!?」

 

 引く。

 

 レイアの体勢が崩れる。

 

 そして。

 

 響は大きく拳を引いた。

 

「ハァァァァァッ!!」

 

「立花ァァァァッ!!」

 

 二人が。

 

 同時に。

 

 拳を放つ。

 

 ──ドッッッゴォォォォォン!!

 

 衝撃で。

 

 広間全体が揺れた。

 

 煙が立ち込める。

 

「響!」

 

 海斗が目を凝らす。

 

 しばらくして。

 

 煙の中から。

 

 一人の人影が現れた。

 

「……ふぅ」

 

「響!」

 

 立っていたのは。

 

 響だった。

 

「勝った……」

 

 拳を突き出したまま。

 

 フラフラと。

 

「勝ったよ、海斗……」

 

 そして。

 

「って、うわっ!?」

 

 足元がふらつく。

 

 海斗が慌てて駆け寄った。

 

「響!」

 

「へぶっ」

 

「危ねぇ!」

 

 倒れかけた響を、海斗が抱き止める。

 

「大丈夫か!?」

 

「えへへ……」

 

「笑ってる場合じゃないだろ!」

 

「だって」

 

 響が。

 

 海斗の胸元へ身体を預けたまま。

 

 ニッと笑う。

 

「勝ったもん」

 

「……そうだな」

 

 海斗も。

 

 つられて笑った。

 

「よくやった」

 

「えへへ」

 

「……で?」

 

「ん?」

 

 海斗は響の背後を見る。

 

 少し離れた場所。

 

 レイアが大の字になって倒れていた。

 

「生きてる?」

 

「たぶん!」

 

「たぶんってお前!」

 

『敵性反応微弱。活動停止状態』

 

「アロンダイト、ありがとう!」

 

『礼には及ばない』

 

「ならいいか」

 

「いいのかなぁ?」

 

 二人が揃って首を傾げる。

 

「──海斗」

 

 その時。

 

 低い声が聞こえた。

 

「ん?」

 

 振り返る。

 

 そこには。

 

 ガングニールを肩に担いだ奏がいた。

 

 服のあちこちは破れ。

 

 頬にも傷がある。

 

 明らかにキャロルとの戦闘途中だ。

 

「奏さん!? なんでこっちに──」

 

「……随分と仲がいいじゃないか」

 

「え?」

 

 奏の視線が。

 

 海斗の腕へ向く。

 

 正確には。

 

 その腕の中。

 

 海斗へ身体を預けている響。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「いや待って奏さん」

 

「何も言ってないぞ?」

 

「顔が全部言ってるんですよ!」

 

 響もようやく状況を理解する。

 

「ち、違います奏さん! 私、戦った後で足が──」

 

「ああ、そうか」

 

 奏が笑う。

 

「なら仕方ないな」

 

「よかった……」

 

「帰ったら続きを話そうか」

 

「「ひえっ」」

 

 二人の声が重なった。

 

『主よ』

 

「なんだ」

 

『女性関係における生存率、再度低下』

 

「今それ言うな!」

 

「ったく……」

 

 奏が呆れたように息を吐く。

 

 しかし、その表情はすぐ真剣なものへ変わった。

 

「ふざけてる場合じゃない」

 

 背後。

 

 広間中央。

 

 そこでは。

 

 翼。

 

 クリス。

 

 マリア。

 

 切歌。

 

 調。

 

 そして奏。

 

 六人がかりでも。

 

 未だキャロルを倒せていなかった。

 

「アイツ……強すぎる」

 

 奏の声に。

 

 悔しさが滲む。

 

「イグナイトを使っても、まともに決定打が入らない」

 

「そんなに……」

 

「ああ」

 

 響が立ち上がる。

 

「だったら私も──」

 

「待て」

 

 海斗が響の肩を掴む。

 

「海斗?」

 

「俺たちが加われば、少しは変わるかもしれない」

 

 視線を。

 

 キャロルへ向ける。

 

「でも……」

 

 また。

 

 聞こえた。

 

 ──キィィィィン……。

 

 城の奥。

 

 先ほどよりも。

 

 明確に。

 

 自分を呼ぶ声。

 

『主よ』

 

「ああ」

 

『同系統反応増大』

 

「……最後の欠片」

 

「え?」

 

 響と奏が海斗を見る。

 

「たぶん」

 

 海斗は城の奥を指差す。

 

「アロンダイトの欠片が、この先にある」

 

「確かなのか?」

 

「確証はない。でも」

 

 海斗は胸元へ手を当てる。

 

「分かるんだ」

 

 アロンダイトが反応している。

 

 それだけではない。

 

 海斗自身も。

 

 何故か。

 

 感じている。

 

 そこへ行かなければならない。

 

「……行ってこい」

 

 奏が言った。

 

「奏さん?」

 

「キャロルはあたしたちが抑える」

 

「でも!」

 

「海斗」

 

 奏が。

 

 海斗の額を。

 

 軽く小突いた。

 

「一人で全部守ろうとするなって、何回言わせるんだ?」

 

「……」

 

「お前にはお前のやることがある」

 

 そして。

 

 響を見る。

 

「響」

 

「はい!」

 

「海斗と行け」

 

「え?」

 

「いいんですか!?」

 

「ああ」

 

 奏は槍を肩へ担ぐ。

 

「こいつを一人で行かせたら、また何するか分からないからな」

 

「それは確かに!」

 

「響!?」

 

「冗談だよ!」

 

『過去データ上、妥当な判断』

 

「アロンダイトまで!?」

 

 奏が笑った。

 

「行ってこい」

 

「……分かりました」

 

 海斗は一度だけ。

 

 キャロルと戦う仲間たちを見る。

 

 翼が斬り込む。

 

 クリスが砲撃する。

 

 マリアが援護し。

 

 切歌と調が両側から迫る。

 

 誰一人。

 

 諦めていない。

 

「絶対戻る」

 

「ああ」

 

「それまで──」

 

「任せろ」

 

 奏が笑う。

 

「あたしたちを誰だと思ってる?」

 

「……そうですね」

 

 海斗も笑った。

 

「行こう、響」

 

「うん!」

 

 二人は。

 

 城の奥へ向かって走り出した。

 

 ◇

 

「……行ったか」

 

 キャロルが。

 

 海斗たちの背中を見ながら呟く。

 

「余所見とは余裕だなッ!」

 

 翼が斬り込む。

 

 ──ギィィィンッ!!

 

 キャロルは片手で障壁を展開し、その一撃を受け止めた。

 

「余裕?」

 

 口元に。

 

 笑みが浮かぶ。

 

「違うな」

 

「何?」

 

「予定通りなのだよ」

 

「……ッ!?」

 

 キャロルの瞳が。

 

 怪しく光った。

 

「佐々木海斗には」

 

 遠ざかっていく背中を見る。

 

「そこへ行ってもらわねば困る」

 

 翼の背筋に。

 

 嫌な予感が走った。

 

「どういう意味だ!」

 

「さあな」

 

 キャロルが両腕を広げる。

 

「知りたければ──」

 

 巨大な錬金陣。

 

「オレを倒してみせろッ!!」

 

 ──ズガァァァァァァァンッ!!

 

 ◇

 

 チフォージュ・シャトー深部。

 

「こっち!」

 

「分かるの?」

 

「なんとなく!」

 

「俺より先に走るな!」

 

 海斗と響が、長い回廊を駆け抜けていく。

 

 周囲の壁には。

 

 いつの間にか。

 

 錬金術とは異なる紋様が現れ始めていた。

 

「これ……」

 

 響が壁を見る。

 

「アロンダイトと同じ?」

 

「ああ」

 

 剣の紋章。

 

 盾の紋章。

 

 そして。

 

 幾何学的な文字。

 

『先史文明記述形式と一致』

 

「やっぱり」

 

 海斗は足を速める。

 

 近い。

 

 何故か。

 

 分かる。

 

 やがて。

 

 二人の前に。

 

 巨大な扉が現れた。

 

「ここ……」

 

「みたいだな」

 

 扉の中央。

 

 刻まれているのは。

 

 一振りの白銀の剣。

 

 海斗が手を伸ばす。

 

「待って」

 

 響がその手を掴んだ。

 

「響?」

 

「……なんか」

 

 響の表情が。

 

 珍しく険しい。

 

「嫌な感じがする」

 

「…………」

 

「海斗」

 

「うん」

 

「一人で無茶しないでね」

 

「しないよ」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

「生命力使うのも?」

 

「しない」

 

「勝手に犠牲になるのも?」

 

「ならない」

 

「知らない女の子とキスするのも?」

 

「それ今関係ある!?」

 

「大事!」

 

「事故だっただろあれ!」

 

 響はしばらく海斗を睨む。

 

 そして。

 

「……よし」

 

「何がよしなんだよ」

 

「約束したから」

 

 響が笑った。

 

「絶対守ってよ?」

 

「……ああ」

 

 海斗も。

 

 笑う。

 

「約束する」

 

 二人で。

 

 扉へ手を触れる。

 

 ──キィィィィィン……。

 

 白銀の光が溢れた。

 

 重い扉が。

 

 ゆっくりと。

 

 開いていく。

 

 その先。

 

 暗い石室。

 

 中央の台座。

 

 そして。

 

「……あれが」

 

 響が息を呑む。

 

 小さな白銀の結晶。

 

 剣の欠片。

 

 海斗のアロンダイトが。

 

 これまでにないほど強く震え始めた。

 

『確認』

 

『我が欠損構造と完全一致』

 

「やっぱり……」

 

 海斗が。

 

 一歩。

 

 足を踏み入れる。

 

『主よ』

 

「なんだ?」

 

 アロンダイトの声に。

 

 僅かな迷いがあった。

 

『警告』

 

「……何?」

 

『この欠片を統合した場合』

 

 沈黙。

 

『我に何が起きるか』

 

『予測不能』

 

「…………」

 

『そして』

 

 さらに。

 

『主に何が起きるかも』

 

『予測不能』

 

 白銀の欠片が。

 

 呼応するように。

 

 強く。

 

 輝いた──。

 

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