戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「少し話をしよう。」
病室に入ってきた風鳴弦十郎は、いつもの豪快な雰囲気とは違っていた。
真剣な眼差し。
それだけで、これから話される内容が軽いものではないと分かる。
「まずは……。」
弦十郎は椅子へ腰を下ろす。
「今回のノイズ襲撃について、現在分かっている範囲を説明する。」
海斗は静かに頷いた。
「被害者数は―」
弦十郎が資料を開く。
「多数の負傷者が出た。」
海斗の目が少しだけ開く。
(……原作と違う気がする。)
前世の記憶では。
あの日は、響以外の人間が亡くなったはずだ。
そして、天羽奏は帰ってこなかった。
「それは……。」
海斗は小さく息を吐く。
「よかったです。」
弦十郎は頷く。
「君のおかげだ。」
「……え?」
「君がいなければ、避難は間に合わなかった。」
「君がノイズを食い止め、観客を守ったことで、多くの命が救われた。」
海斗は視線を落とす。
「俺は……。」
「守り切れませんでした。」
弦十郎は静かに海斗を見る。
「そう思うのか。」
海斗は答えなかった。
奏を救えた。
響も生きている。
それでも。
もっと早ければ。もっと考えていれば。
—もっと上手く動けていれば。
そんな考えは消えない。
しかし。
弦十郎は優しく言った。
「君は、自分ができなかったことばかり見ている。」
「だがな。」
「できたことも、確かに存在する。」
その言葉に、海斗は黙って耳を傾けた。
◇
「そこで。」
弦十郎は話題を変える。
「一つ提案がある。」
「佐々木海斗君。」
「今後、特異災害対策機動二課の隊員として活動してくれないか。」
海斗は目を見開く。
「……俺が?」
「ああ。」
「君の力は、我々にとって非常に大きい。」
「アロンダイト。」
その名前が出た瞬間。
海斗の表情が少し変わる。
弦十郎は続ける。
「全く研究が進んでいない聖遺物。」
「他の聖遺物とはアロンダイトは少し違うようだ。」
「正直に言えば、我々としても調査したい。」
「そして……。」
「君自身の力を、必要としている。」
海斗はしばらく黙った。
ありがたい申し出だと思う。
必要とされることも嬉しい。
しかし。
「……すみません。」
海斗は首を横に振った。
「隊員になることはできません。」
弦十郎は驚いた様子を見せなかった。
「理由を聞いてもいいか?」
「俺には……守りたいものがあります。」
海斗は答える。
「特異災害対策機動二課の目的は理解しています。」
「でも、俺は組織のために戦う覚悟ではなく。」
「立花響を守るために、この力を使いたいんです。」
弦十郎はしばらく海斗を見つめる。
そして。
「……なるほど。」
静かに笑った。
「君らしい答えだ。」
◇
「ならば。」
弦十郎は続ける。
「正式な隊員ではなく。」
「民間協力者という形ではどうだ?」
「必要な時に協力してもらう。」
「こちらからも情報提供や支援を行う。」
海斗は考える。
完全に特異災害対策機動二課へ所属する。
それは響を守る上では最も効率的かもしれない。
だが。
自分はまだ学生だ。
そして何より。
自分が守りたいのは、組織ではなく。
響の日常だ。
「……分かりました。」
海斗は頷く。
「協力者という形なら。」
弦十郎は満足そうに頷いた。
「ありがとう。」
「それだけでも十分だ。」
◇
「それと。」
弦十郎は海斗の胸元を見る。
「そのペンダント。」
海斗は反射的に手で触れる。
アロンダイトの欠片。
「一度、研究所へ来てほしい。」
「アロンダイトについて調べたい。」
「危険性を確認する必要もある。」
海斗は黙る。
アロンダイト。
自分と共に戦ってきた相棒。
その正体を知ることも必要だった。
『契約者。』
頭の中にアロンダイトの声が響く。
『避ける理由はない。』
『未知を知ることも、守護への道となる。』
海斗は小さく頷いた。
そして。
もう一つの理由。
(響。)
胸に刺さったガングニールの欠片。
まだ誰も知らない。
でも。
原作通りなら。
これから響の人生は大きく変わる。
その時。
特異災害対策機動二課と敵対する理由なんてない。
むしろ。
近くにいた方が守れる。
「分かりました。」
「研究所へ行きます。」
弦十郎は頷いた。
「助かる。」
◇
病室を出た後。
海斗は窓の外を見る。
平和な街。
昨日までと何も変わらない景色。
しかし。
世界の裏側では、もう歯車が動き始めている。
「……響。」
小さく呟く。
「今度こそ守るからな。」
胸元のアロンダイトが淡く光る。
『その覚悟を忘れるな。』
海斗は頷いた。
翌日。
海斗は特異災害対策機動二課の研究施設へ向かうことになる。
守護の剣の正体を知るために。
そして。
新たな戦いへ踏み込むために。