アインズがニニャを前にして回想するシーンを通して彼の気持ちを書いてみました
▼一部訂正しました
ニニャを前にしてアインズが鈴木悟であった時の思いを書いてみました
あくまで 私がノベルやアニメから受けた印象からです
ニニャの亡骸を前に。
アインズ・ウール・ゴウンは動かなかった。
怒り。
悲しみ。
そして、忘れていたはずの記憶が蘇る。
まだ彼が「アインズ」ではなく。
鈴木悟だった頃。
灰色の空。
巨大企業の無機質なオフィス。
「鈴木!」
怒鳴り声が響く。
鈴木は黙って振り返る。
上司が書類を机に叩きつけた。
「おまえ、この前の報告書!」
「誤字だらけだったぞ!」
「もう一度提出し直せ!」
「それと評価ポイント、マイナス一だ!」
周囲から失笑が漏れる。
鈴木は無言で書類を受け取る。
反論はしない。
しても意味がないと知っているからだ。
上司は胸を張る。
「まったく」
「だから学がない奴は困る」
中学卒業で現場を叩き上げたことを誇りにする男だった。
鈴木は静かに席へ戻る。
その背中に。
同僚たちの囁き。
「また鈴木だよ」
「評価また下がったんじゃない?」
「まあ、あいつ小学卒だから」
「ほんと、この会社に入れたのが不思議よね」
笑い声。
陰口。
だが。
鈴木は振り返らない。
もう慣れていた。
傷つくことすら、とうの昔にやめていた。
彼が見ていたのは。
仕事でも。
評価でもない。
デスクの隅に表示された広告だった。
『YGGDRASIL 本日大型アップデート』
『新ペットNPC追加』
『人気アイテム50%OFFセール開催』
鈴木の口元が、ほんの少しだけ緩む。
(今日は早く帰ろう)
(ギルドのみんなも来るかな)
現実では。
誰にも期待されない。
誰にも必要とされない。
だが。
ゲームの世界には居場所があった。
仲間がいた。
笑い合える時間があった。
それだけが。
鈴木悟にとって、生きる理由だった。
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夜。
「ただいま」
返事はない。
もともと、返ってくる相手などいなかった。
鈴木悟は部屋の照明をつける。
続いて壁の排気装置を作動させた。
機械音が響く。
数十秒後。
室内モニターが表示する。
『有害物質濃度・安全域』
そこでようやくガスマスクを外した。
「……ふう」
肺いっぱいに空気を吸う。
それでも、決しておいしい空気ではない。
この世界では、それが普通だった。
大気汚染は限界まで進み。
人類は巨大な居住コロニーで細々と生き延びていた。
政府は名ばかり。
実際に世界を支配しているのは巨大企業群。
教育。
医療。
食糧。
生命。
そのすべてが企業の商品だった。
豊かな生活を送れるのは一握り。
結婚する権利。
子どもを持つ権利。
それすら上流階級だけが享受できる特権となっていた。
環境は年々悪化し。
世界はゆっくりと死につつあった。
鈴木は洗面台へ向かう。
蛇口をひねる。
流れ出た水は薄茶色だった。
「……今日はましか」
普段ならもっと黒ずんでいる。
浄水フィルターの調子が、今日は珍しく良かったのだろう。
壁の古いモニターでは広告映像が流れていた。
青い海。
澄み切った川。
子どもたちが笑いながら泳いでいる。
「かつての地球を体験!」
そんな宣伝文句が踊る。
鈴木は一瞥しただけで視線を逸らした。
それは現実ではない。
歴史資料を加工した映像にすぎない。
彼は冷蔵庫から会社支給の完全栄養食バーを取り出す。
包装には大きく印字されている。
『これ一本で一日に必要な栄養を完全補給!』
味は。
段ボールを噛んでいるようだった。
無言で食べ終える。
それからベッドへ腰掛け。
VRダイブ装置を頭に装着する。
スイッチを押す。
意識がネットワークへ沈んでいく。
いつものように。
ユグドラシルのログイン画面が現れる――
はずだった。
「?」
鈴木は首をかしげる。
大型アップデートは、もう終わっている時間だ。
しかし画面には、メンテナンス終了ではなく、小さなマスコットキャラクターが頭を下げていた。
『申し訳ありません。現在アップデート処理が予定より遅延しております。』
『ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。』
「……珍しいな」
ユグドラシル運営が予定を守れないことはほとんどなかった。
鈴木は待機画面を眺めながら呟く。
「何かあったのか……?」
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鈴木悟はため息をついた。
「……仕方ない」
アップデートが終わるまで待つしかない。
寝てしまえば、せっかくの大型アップデートを見逃してしまう。
それだけは避けたかった。
通知機能をオンにする。
『アップデート完了時に通知します』
「よし」
悟は動画配信サービスを開く。
いつものように、おすすめ一覧が流れていく。
彼がよく見るのは決まっていた。
ペット動画。
料理動画。
ペット自慢。
老犬や老猫を看取る記録。
飼い主が涙ながらに別れを告げる動画まで見ていた。
「……いいな」
思わず漏れる。
動物。
それは、この時代では贅沢品だった。
ペットを飼う資格そのものが上流階級だけに許された特権。
餌代だけでも。
鈴木悟の年収を軽く超える。
医療。
登録費。
維持費。
生涯にかかる費用など想像もできない。
だから彼は。
画面越しに眺めるだけだった。
さらに動画を送る。
新しい飲食店の紹介。
人気配信者が笑顔でラーメンをすする。
「今日はこちら!」
「超人気店です!」
黄金色のスープ。
湯気。
分厚いチャーシュー。
「……」
鈴木は栄養バーを見た。
その一杯は。
自分の一か月分の給料に相当する。
食べられるはずもない。
だから。
見るだけ。
それだけだった。
おすすめ欄には。
豪華な旅行。
自然公園。
青空。
動物園。
家族旅行。
すべて。
彼には縁のない世界。
ふいに。
画面が切り替わる。
「……またか」
悟は小さく舌打ちした。
政府広報だった。
『皆様の協力で環境改善は着実に進んでいます。』
『未来の子どもたちへ、美しい地球を。』
画面には青空。
緑の森。
笑顔の家族。
だが。
鈴木は窓の外を見る。
灰色の空。
煙突。
有害ガス。
広告の世界とは、あまりにも違った。
それでも広告を飛ばすことはできない。
無料プランだからだ。
もちろん。
広告なしプランも存在する。
だが。
年間契約料は。
鈴木悟の年収を超えていた。
苦笑するしかない。
「……ゲームだけだな」
「俺にも居場所があるのは」
ユグドラシル。
そこだけは違った。
現実では学歴も地位も財産もない鈴木悟が。
仲間と笑い。
冒険し。
努力が報われる世界だった。
彼は通知が鳴るのを待ちながら。
静かに動画を流し続けた。
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動画が流れていた、その時だった。
ザザッ――。
画面が乱れる。
ノイズ。
音声が途切れる。
次の瞬間。
画面いっぱいに、一人の人物が映し出された。
黒い法衣。
そして、山羊を思わせる仮面。
低く響く声が部屋に流れる。
「我々は――ウルベルト。」
「この世界の欺瞞を正す者。」
「巨大企業は人々から未来を奪った。」
「自由を奪い。」
「家族を奪い。」
「希望を奪った。」
「立ち上がれ。」
「未来は与えられるものではない。」
「取り戻すものだ。」
映像が激しく乱れる。
ザザザッ――。
ブラックアウト。
数秒後。
穏やかな女性アナウンサーの声が流れた。
『大変申し訳ございません。』
『現在、配信機器の不具合により映像が乱れております。』
『復旧までしばらくお待ちください。』
画面には企業ロゴ。
謝罪テロップ。
何事もなかったかのように通常配信へ戻る。
鈴木悟は苦笑した。
「……ウルベルトさん」
「頑張ってるなあ」
彼はその名を知っていた。
ウルベルト・アレイン・オードル。
ユグドラシルで共に戦った、ギルド初期メンバー。
正義感が強く。
現実世界の理不尽を誰よりも憎んでいた男。
「ゲームの中だけ幸せでも意味がない。」
そう言って。
ある日からログインしなくなった。
その後。
反政府活動への関与が疑われ。
企業警察による大規模な捜査が始まった。
鈴木も事情聴取を受けた。
白い部屋。
無機質な机。
尋問官。
「ウルベルトという人物を知っているな。」
「どこへ潜伏している。」
「活動資金は誰が出している。」
何時間も質問された。
だが。
鈴木は本当に知らなかった。
ゲームの仲間。
それ以上のことは。
結局、証拠は何も出ず。
彼は解放された。
それ以来。
ウルベルトは二度とログインしていない。
鈴木は静かに呟く。
「いつか……」
「戻ってきてくれるかな。」
ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」が最も賑やかだった頃。
皆で攻略を語り。
失敗して笑い。
レアアイテムを自慢し合った日々。
もう戻らないかもしれない。
それでも。
鈴木は待っていた。
ゲームの中だけでも。
もう一度、仲間たちと会える日を。
通知ランプは、まだ沈黙したままだった
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ポーン。
澄んだ通知音が部屋に響く。
鈴木悟は、はっと目を開けた。
「いけね……」
「寝落ちするとこだった」
慌てて身体を起こす。
すぐにVRヘッドセットを装着。
ログインを開始する。
暗転。
そして。
見慣れたタイトル画面。
《YGGDRASIL》
その下には、金色の文字が踊っていた。
『大型アップデート実施!』
『記念セール開催中!』
『CGペット・各種アイテム 50%OFF!』
「来た!」
鈴木は思わず笑みを浮かべる。
すぐにセールページを開く。
画面いっぱいに並ぶCGペット。
小さなドラゴン。
フェンリルの子ども。
白狐。
妖精。
スライム。
肩に乗る小鳥。
寝転がる猫。
どれも精巧に作られていた。
ゲーム内で特別な能力を持つわけではない。
戦闘にも役立たない。
完全な観賞用。
それでも。
鈴木は一つひとつ眺めてしまう。
現実では飼えない。
だからこそ。
ゲームの中だけでも。
そんな思いがあった。
やがて。
価格表示を見る。
笑顔が止まる。
「……え?」
もう一度見る。
間違いではない。
価格:悟の月給二か月分(セール価格)
鈴木は目を丸くした。
「これで半額?」
定価を確認する。
通常価格:悟の月給四か月分
「……本当は四か月分かよ」
思わず苦笑が漏れる。
「近頃の運営……」
「がめつくなったなぁ」
昔は違った。
少し課金すれば。
十分楽しめた。
だが運営会社が変わってから。
限定品。
ガチャ。
プレミアム会員。
有料イベント。
あらゆるものが課金対象になっていた。
「さすがに無理だな」
鈴木はページを閉じようとする。
代わりに新アイテム一覧を開く。
武器。
装備。
装飾品。
消耗品。
「……あれ?」
思わず首をかしげる。
「新アイテムの方が安いじゃないか」
高性能装備より。
ただのCGペットの方が高い。
なんとも奇妙な価格設定だった。
鈴木は肩をすくめる。
「まあ……」
「ペットは人気なんだろうな」
少しだけ残念そうに画面を閉じる。
それでも後悔はしない。
今の彼には。
限られた生活費しかない。
無理をして買えば。
現実の食費がなくなる。
「また今度だ」
そう呟いて。
鈴木はゲーム本編へログインする。
そこには。
仲間たちとの思い出が詰まった世界が待っていた
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バレアレ薬品店。
店内には血の臭いが充満していた。
床には倒れた冒険者たち。
ゾンビと化した漆黒の剣。
そして――。
無残な姿で横たわるニニャ。
アインズ・ウール・ゴウンは、その亡骸を静かに見つめた。
胸の奥から怒りが込み上げる。
(……許せない)
しかし、その瞬間。
身体を淡い光が包む。
アンデッドの感情抑制。
激しく燃え上がった怒りが、冷たい理性へと押し戻される
「……」
「今ほど、この身が恨めしいと思ったことはない」
静かな声だった。
だが、その言葉には確かな重みがあった。
カルネ村への旅。
薬草採取。
森の賢王との出会い。
決して長い付き合いではなかった。
それでも、ニニャや漆黒の剣と過ごした時間は、鈴木悟にとって久しく忘れていた「仲間との時間」だった。
ふと、ニニャが楽しそうに質問を重ねてきた姿を思い出す。
「モモンさんは、どうしてそんなに強いんですか?」
「その剣術は誰に教わったんですか?」
目を輝かせながら話しかけてくる彼女。
その姿は、純粋に憧れを抱く後輩そのものだった。
鈴木悟は、現実世界で見た動画を思い返す。
上流階級の人々が家族のように動物を慈しみ、成長を喜び、別れを惜しむ姿。
以前は理解できなかった。
なぜそこまで心を寄せられるのか、と。
だが今は少しだけ分かる。
大切だと思える存在を失うこと。
その喪失感が、人の心をどれほど深く傷つけるのか。
アンデッドとなった今でも、その意味だけは理解できた。
アインズは静かに拳を握る。
「……だから許さん。」
「私の大事なものを、このような形で弄び、殺した者は。」
その声音に感情の起伏はない。
だが、その静けさこそが恐ろしかった。
「必ず見つけ出す。」
「そして、その報いを受けさせる。」
死の王の瞳に宿るのは、冷徹な復讐の決意だった。
店内の空気が、さらに冷え込んだように感じられた。