主人公ガチ恋勢、悪役転生する〜TSしてでも勇者と結婚したいからバグを悪用しよう。メインヒロインなんかに渡すもんか! 作:丸尾裕作
アリシアが右手を空にかかげた。
「得意なだけなもの頼っちゃだめですよ?」
アリシアがにっこりと笑う。
ミラ姫は右手を口元に当てている。
「殴るだけじゃあだめなの?」
「それを体験させてあげましょう」
俺はアリシアがやり過ぎないかを心配になってきた。
「アリシアやめた方がいいんじゃ?」
「大丈夫ですよ」
アリシアが引き続き手を掲げ、目を瞑った。
どうやら準備が整ったようだ。
「魔覚醒 スライムフェスティバル」
空が水色に代わる。
青空ではなく、水色空だった。
海が天井にあるといっていいだろうか。
もちろん雨が降ってくるわけではなかった。
水滴状のスライムが降ってきた。
「スライムレインです!」
「そんなことまできるのかよ、アリシア」
アッシュの服にスライムがべちゃりとつく。
しゅわーっという音ともにアッシュの服の下の肌が見えてきた。
「いやあああああああああああああ! 服が溶ける!」
アッシュのちょっとしたサービスシーンが起こっているが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
というか、アッシュならなんとかなるだろう。
スライムの雨が起こるということはミラ姫の覚醒イベントだ。
でも、起点がアリシアだ。
本来は、赤いスライムの雨を降らせるローズグランが巻き込まれるはずなんだが、なぜずれているんだ?
でもそんな事をじっくり暇はなかった。
「殴るものがいっぱいです!」
ミラ姫は楽しそうにしている。
「こんなにたくさん殴れる機会は特にないです! よーし!」
連続パンチをし始めて、スライムが次々と空にへ空へと飛んでいく。
ミラ姫の原作における魔覚醒のイベントがある。
ただし、殴るだけじゃ覚醒しない。
「ミラに任せれば大丈夫そうね」
エリーナが呑気にそう言っていた
「殴ればなんとかなるからね、小さいころから」
魔法に自信がないということはまだ根っこに思っている。
すぐに殴ればいいと自分の長所に依存してしまうのだ。
「ミラ自身は魔覚醒は興味あるんですけど、殴れば早いって感じちゃうみたいで」
「きゃあああ! 服が」
アッシュの服が一部溶けてもっと大変なことになっている。
「エリーナは俺たちは何で平気なんだよ?」
「風よけ」
おかげで俺もスライムの雨を浴びていない。
「ありがとう」
「これは相合傘みたいなもんよ、気にしないで」
エリーナは相合傘と語気を強めて、顔を赤くしている。
なぜ恥ずかしがるんだろう?
「俺はどうなんだよ!」
アッシュの悲鳴が聞こえた。
すると、エリーナがアッシュに笑顔を見せる。
「セクシーブロマイド売れてそうね、もっと写真撮っていい?」
いつの間にかエリーナがカメラを持っていた。
目をきらきらとさせている。
ちなみにカメラは一眼レフカメラだったりする。
この世界にそんなものあるのねと言っても、まぁ現代向けのゲームだから。
「鬼か!」
アッシュの顔が真っ赤に染まった。
怒りつつ、はずかしがっているからだろう。
「いいねぇ! ローズグランをおびき寄せるのにちょうどいい顔の赤さだよぉ、とっちゃうね!」
「エリーナが俺の敵にしか見えない!」
「何言ってんの? 私は闇エルフよ?」
「そういうことじゃない!」
アッシュは涙目だった。
その瞬間、ぱしゃっとフラッシュが湧いた。
写真がカメラから現像された。
エリーナが写真をひらひらとさせ、俺に見せつけた。
「この写真ファンクラブに1枚8000ギルで売れるわよね、ボロボドス?」
「10000円で買っていい?」
俺が写真に手を伸ばすと、エリーナがひっこめた。
「ぼったくりすぎんだろ! やめろ、売れねぇって、え? 今ボロボドスなんて?」
アッシュが不思議そうな声をあげた。
「だめよ、これはローズグランをおびよせる餌よ、敵を忘れないで!」
「俺にとっては、お前が紛れもない敵で外道だよ、エリーナ」
「ん? 安くね? 少なくとも20000ギルの価値があるから安いぞ」
「え、俺の方がおかしいの?」
アッシュは服の溶けた部分を隠しながら、俺を見ている。
もじもじして可愛い。
「そうだぞ、アッシュ。お前が思っている以上にお前はすごくかわいいんだ」
「やだ、褒めないで! 嬉しくなっちゃう!」
やだ、照れてるアッシュかわいい!
「こらこら、そこ、いちゃいちゃしないの」
「私はかわいいのよね? ボロボドス?」
エリーナが詰め寄ってきた。
アッシュに嫉妬したのか?
「え? かわいいんじゃね?」
原作キャラが可愛くないわけがない。
「わかってるならいいのよ、わかってんなら」
エリーナは引き下がった。
やっぱり可愛い子は可愛いって言わなきゃ失礼だな。
「というか、俺の写真撮ってる場合じゃねぇよ!」
「アッシュ、私って言いなさい」
「今は女の子らしさを追求するところじゃねぇだろ!」
アッシュが顔をさらに真っ赤にして怒る。
それにしてもずいぶんエリーナもアッシュも呑気である。
「スライムの雨をなんとかしないとじゃね」
「ミラがいるから大丈夫よ」
エリーナがちらりとミラ姫を見る。
「それにしてもミラ姫すごく楽しそうだな」
ミラ姫はとんでもない笑顔だった。
「殴るものがいっぱいですううううううう!」
スライムの雨が次々と空に跳ね返っていた。
雨の降っているスピードと同じぐらいのスライムが吹っ飛んで行っている。
「アリシア、スライムをかわいそうって感じたことないのか?」
「何を言ってるんですか?」
アリシアが不思議そうに首をかしげる。
すると、奇妙なことが起こった。
スライムが増えていく。
一匹、二匹、どんどん分裂していく。
「これスライムが指数関数式に増えていくと大変だなぁってまさか!」
「ふふっ」
アリシアは不敵な笑みを浮かべる。
殴れば殴るほど、スライムが分裂していく。
「国民の命が危ないですよ、お姫様」
アリシアが「ふっふっふ」と笑っている。
聖女じゃなくて、完璧魔女だよね!
「どうしましょどうしましょ!」
ミラ姫が殴りつつ、あたふたとしていた。
アッシュが引き続きスライムに打たれながら、目を瞑っている。
「目に見えてるものが世界の全てじゃないぜ。
見えないものをどう扱うか、本質ってそこにあると俺は思ってる」
「いや、さすがにまずいだろ、止めなきゃ!」
「ボロボドス!」
アッシュに止められた。
俺が驚いて、アリシアを見ると、俺を見てにこにこしていた。
「ミラ、猫になれ」
「え? え? どういうことですか?」
アッシュが俺を見る否や、手に力を込めた。
バグ技を使って、アイテム作成を行った。
ぱしっ!
「猫になりきればいいんですね」
ミラ姫がパッと笑顔を見せた。
まるで猫のように自由に躍動し始めた。
「猫パンチです!」
ミラ姫が猫の手でパンチを始めた。
なんとなく自由にふるまう感触がわかったのだろうか。
「尻尾も欲しいです」
俺はバグ技で猫の尻尾も作り、すぐに渡した。
「ミラだにゃあー」
ミラ姫が猫のように縦横無尽に駆け巡る。
あと、すごくかわいい。
お姫様が猫耳と猫のしっぽをつけるってすごくいいものだなぁとアッシュ好きの俺でも思った。
「分かりました!」
猫のコスプレをしたミラ姫がそこにいた。
「隕石を殴るとしたら、こう殴ります!」
ミラ姫が四色の魔粒子を出現させた。
「魔覚醒 四魔連殴打」
青色、緑色、黄色、赤色の魔粒子を殴り飛ばして、的確にスライムを打ちぬいた。
「パンチで魔粒子をぶっ飛ばせばいいってことですね!」
アッシュのアドバイスのおかげで感覚だけでミラ姫は魔覚醒を成功させた。
感覚派に対してはイメージで教えればいいと気づくなんてアッシュはさすがだなぁと言われた。
俺もアッシュの合図によく気づいたなぁとミラ姫、エリーナ、アリシアから褒められたけどね。
※
「アリシア、なんでそんなことするの?」
「殴ってどうにもならないならミラならどうするか見たくなって」
「追い詰めるなんて、もうひどーい」
「私の恋のライバルですよ? これぐらいできなきゃ!」
アリシアがにこにことミラ姫の肩を叩く。
「負けるわけないじゃないですか? ミラはすごく強い女の子ですよ、誰よりも」
なんでアリシアがミラ姫の覚醒を手伝ったんだ?
「ボロボドス、あんたは人の気持ちにはうといわね」
「何のことだ?」
エリーナは片目をつむって、こちらを見ていた。
「あんたがいるからアリシアだってあんなことをしたのよ」
ミラ姫が俺に近づいてきた。
「ボロボドス様、助けてくれたってよかったじゃないですかぁ」
「え? まぁ、余計なお世話とは思ったからな」
「でも、やっぱり助けられたいじゃないですか?」
「なんでだよ?」
ミラ姫は首をかしげながら、胸を俺に当ててきた
「私ってお姫様ですよ?」
ミラ姫はこの日、一番の笑顔を俺に向けてきた。