超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~ 作:そうすけVR
引っ越しは手慣れたものだった。これも二回目だしね。
家賃35万円のデザイナーズマンションに、かぐやは大興奮。あちこちの部屋を走り回って、最後はバルコニーから風を浴びながら街を見下ろしてご満悦だった。
「最強になった気分する~~」
「ほら、早く荷ほどきして。かぐやの方が荷物多いでしょ」
開封順を想定して荷造りをしたので、私の方はもう終わりそう。
「彩葉、何歌ってるの?」
知らず口ずさんでいたメロディーに、かぐやは気が付いたようだ。
「新曲」
「えー、なにそれかぐやにも教えてよー!」
「かぐやの荷ほどきが終わったらね。買い物行ってくるね」
かぐやを残して、部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「彩葉がいないとつまんないよー」
分かってた。かぐやが一人でおとなしく留守番してる筈なんてないってこと。
っていうか、地元の激安スーパーに来たんだけどよくここが分かったな。
結局、二人で買い物して、部屋に戻った。
料理はかぐや担当。
私は、家事スキル不要のパスタマシンをぐるぐる回した。
なのに、かぐやは私にちょっかいを出してくる。
「ちょっとあぶな――」
「かぐやもそれやる~」
子どもかよ。
……一周目の時と同じように、パスタマシンは二人で回した。
あ、やばい泣きそう。というか少し泣いた。もう一度、この体験が出来るなんて。
十年後、二人で暮らした部屋で、ひとりぼっちで過ごした現実の日々とは、なんて違うのだろう。
ツクヨミにはヤチヨがいて、支えてくれた。でも、それでも、100の言葉を交わすのと、背中に感じているかぐやの体温とを、どうしても比べてしまう。
かぐや特製パスタを、またもや私は涙でグズグズになりながら食すのであった。
◇ ◇ ◇
今日は、約束のブラックオニキス特訓の日。
プライベートワールドで、私は1対3の変則KASSENをやっていた。
かぐやはコラボライブに向けて、ヤチヨから貰ったダンスの課題を、自宅でこちらも特訓中。
「ライブの曲、くそむじぃんだが。ヤチヨ、AIだからってー」
ってぼやいてた。
「今日は、私が講師だからタメ口ね! 彩葉先生と呼ぶように!」
私は両腕を組んで、三人に宣言する。
「……分かったよ」
「リーダーの指示に従おう」
「はーい! 彩葉センセー!!」
乃依くんは素直だね。聞き分けとノリが良い子、お姉さん好きよ。
実際、こうやって対峙していると、アバター越しではあっても、三人とも若すぎて可愛らしい、って印象が先に来る。
「じゃあ、軽く行ってみようか」
それぞれが、得意とする得物を構える。
お兄ちゃんは、金棒型。
雷さんは、芭蕉扇形。
乃依くんは、輪刀型(弓にも変形する)。
まずは一人ずつ、順番に、武器を打ち合わせる。
二合、三合、四合……
「まあ、みんなプロだし、筋は悪くないんだよねー」
乃依くんの武器を絡めとって、空中に放り投げる。
「彩葉センセーって、こんなだったの?」
乃依くんの顔色が変わる。
以前のKASSENの時は、実際に戦ったのはお兄ちゃんとだけだったしね。
「よし、三人一緒に来ようか」
背後からの雷さんの芭蕉扇をかわして、乃依くんの矢を叩き落として、お兄ちゃんの金棒を受け止める。
まだ、ブラックオニキスが束になっても、私一人に勝てない。
まあ、十年後の三人にはすごくお世話になったし、いろんなテクニックも教えて貰ったから、いわば私を介して、未来のブラックオニキスから今の彼らへ、技術を返しているようなものなんだけどね。
こうやって動きを見せているだけでも、彼らは勝手に強くなるだろう。
FUSHIから連絡が来たのだろう、
『ヤチヨ、寝たよ~。今から実装するって』
フッチョが耳元で言った。
「チャンスの時間!」
さあ、いよいよここからが本題だ。
「今から、とっておきを披露するよ。見てて」
いわゆる脱法チートコード、
ヴーン、と唸るような音と共に、性能向上の印――ツクヨミサーバーとのコンタクトを示すリングが、頭の上に出現する。
目の奥にバチバチと火花が散る。
「今から私の攻撃、10秒、行くよ!」
彩葉、ここからはあなたがやってみて。練習通りにやれば出来るから。
(はい!)
十年後のKASSENでも、使いこなせるのは一握りの上級者だけ。
手数が勝負の双剣使い向け、究極のハメ技コンボ。
5連撃を一組とする7パターンを、相手の状態に応じて途切れなく繋ぎ続ける。
とある漫画発祥の、その技の名は、
秘伝――煉獄!
地面を蹴る。時間を置き去りにして、音と光が引き延ばされる。
普通にやれば、30連撃で17秒。
それを
脇腹
側頭部
顔と金的
首
みぞおち
突き放すように膝関節を蹴って、
金的
下腹
鳩尾
顔面
お兄ちゃんは、4秒、耐えられた。
脇腹
側頭部
胸部
金的
顎
雷さんは、2.5秒。
顔面
鳩尾
顎
膝関節
脇腹
乃依くんは1.5秒。
20連撃目で、三人とも落ちた。
全員、残機を1減らした。
フォン、と音を立てて、私の頭の上のリングが消える。
彩葉、よくやった!
(でも、8秒もかかってしまいました)
うん。雑になるよりずっといいよ。丁寧に鍛錬しようね。
リスポーンしたお兄ちゃんに、
「おかえりー」
「――彩葉、なんだ今の?」
食い気味に私に問い詰めてくる。
「うーん、経験してもらう方が早いよ。今からコード送るから、パッチあてて。大丈夫。ツクヨミのアンチチートには引っ掛からない仕様だから」
そもそも発想のきっかけは、スポンサーのついたプロゲーマーであるお兄ちゃんたちが、かぐやのために、公式中継の最中にチートを使った――使わせてしまったことだった。
後々、問題になっただろう。覚悟の上の行動だったとしても、私の中には、ずっと負い目が残っていた。
だから私は、ギリギリ合法のチートを作った。
気が付いたことがある。
(過去から未来へ、未来から過去へ)
27才の彩葉から、17才の彩葉へ。
10年後のお兄ちゃんから、今のお兄ちゃんへ。
犬DOGEから、FUSHIへ。
かぐやから、ヤチヨへ。
バトンは、つながっていく。
だから、今の私は、やり直しではないのだ。
「コードネーム、
「分かった。
「……
「
私の時と同じ様に、ヴーン、という音と共に、ブラックオニキスの三人の頭に、天使のような輪が浮かぶ。
「最初は酔っちゃうかもだけど、慣れれば大丈夫。強化は5分くらい持つから」
「う、おおおお、お、おおお~~~」
ブラックオニキスの面々は、その場から吹っ飛んでいった。
「何これ面白い!」
しばらくは
弓のエイムが圧倒的だ。
訓練場をジグザグに走りながら無造作に放つ矢が、すべて的の中心に当たる。当人の感覚では、丁寧に狙って、落ち着いて放っている筈だ。
雷さんは、芭蕉扇を錫杖モードに切り替え、割れた鬼瓦を自在に操作している。
「彩葉、勝負!」
さすがお兄ちゃん。稲妻のような軌道で、私の背後に回り込む。
頭上のリングが、ブレながら光の尾を引いた。
彩葉、迎え撃って。30秒間、起動するよ!
修行中の彩葉と、お兄ちゃん。
ただこの様子だと、お兄ちゃんの方が先に強くなるな。悔しいけどセンスが違う。
フォン、と私のリングが消える。
「事情あってさ、私の方は、30秒までしか使えないんだ」
「そうか……」
お兄ちゃんが、ちょっと休憩するか、と金棒を降ろした。
乃依くんと雷さんも、天使の輪を消して戻ってきた。目は爛々と光って、鼻息が荒い。
「すごいねーこれ。でも、ヤチヨに見つかったら対策されるよね」
「それは大丈夫!」
私はどん、と胸を叩く。
「ヤチヨ、今スリープモードだから」
「え? そんなの分かるの?」
「分かっちゃうんだよねー。ヤチヨには秘密だよ?」
雷さんは、念じるだけで頭の上の輪を出したり消したりする練習をしている。
無言のまま
「じゃあ、練習再開しようか。みんな、自分の強みは分かってると思うから、ヤチヨが起きるまで自主練ね」
彩葉にも、煉獄のバリエーションを状況に応じて自由に入れ替える練習をさせておきたい。
「脱法チート、隠れてこそこそやるの、少し興奮する」
乃依くんがノリノリだ。
「ヤチヨを出し抜くなんてなー」
お兄ちゃんもノリノリである。
『ダヨネー』
フッチョが話を合わせている。
いい感じだ。
あとは、ブラックオニキスがこのまま地力をあげて……そして彩葉が、私がいなくなっても、一人で戦えるくらい強くなってくれれば、卒業ライブでの月人戦にも、きっと望みはある。
と、いきなり、
白いフラッシュが、視界を覆った。
――空を埋め尽くす、無数の月人たち。
幻覚だろうか。夢だろうか。見たことのない光景が脳裏に浮かんだ。
『……うん。次、行こ』
幻聴?
何が起こってる?
「どうした彩葉?」
お兄ちゃんが、動きの止まった私に声をかける。
心臓の音がうるさい。
喉の奥に、鉄の味が広がる。
あ、これヤバい。
「ちょっとタイム。すぐ戻る」
緊急ログアウトする。
床に、赤い点々。
これも、過負荷の影響だろうか。
私は、現実世界で、鼻から血を流していた。
第三章「改演編」完
第四章「月災編」に続く