超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~   作:そうすけVR

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5 煉獄

 

引っ越しは手慣れたものだった。これも二回目だしね。

家賃35万円のデザイナーズマンションに、かぐやは大興奮。あちこちの部屋を走り回って、最後はバルコニーから風を浴びながら街を見下ろしてご満悦だった。

「最強になった気分する~~」

「ほら、早く荷ほどきして。かぐやの方が荷物多いでしょ」

開封順を想定して荷造りをしたので、私の方はもう終わりそう。

 

「彩葉、何歌ってるの?」

知らず口ずさんでいたメロディーに、かぐやは気が付いたようだ。

「新曲」

「えー、なにそれかぐやにも教えてよー!」

「かぐやの荷ほどきが終わったらね。買い物行ってくるね」

 

かぐやを残して、部屋を出た。

 

◇ ◇ ◇

 

「彩葉がいないとつまんないよー」

分かってた。かぐやが一人でおとなしく留守番してる筈なんてないってこと。

っていうか、地元の激安スーパーに来たんだけどよくここが分かったな。

結局、二人で買い物して、部屋に戻った。

 

料理はかぐや担当。

私は、家事スキル不要のパスタマシンをぐるぐる回した。

なのに、かぐやは私にちょっかいを出してくる。

 

「ちょっとあぶな――」

「かぐやもそれやる~」

子どもかよ。

 

……一周目の時と同じように、パスタマシンは二人で回した。

 

あ、やばい泣きそう。というか少し泣いた。もう一度、この体験が出来るなんて。

十年後、二人で暮らした部屋で、ひとりぼっちで過ごした現実の日々とは、なんて違うのだろう。

ツクヨミにはヤチヨがいて、支えてくれた。でも、それでも、100の言葉を交わすのと、背中に感じているかぐやの体温とを、どうしても比べてしまう。

 

かぐや特製パスタを、またもや私は涙でグズグズになりながら食すのであった。

 

◇ ◇ ◇

 

今日は、約束のブラックオニキス特訓の日。

プライベートワールドで、私は1対3の変則KASSENをやっていた。

かぐやはコラボライブに向けて、ヤチヨから貰ったダンスの課題を、自宅でこちらも特訓中。

「ライブの曲、くそむじぃんだが。ヤチヨ、AIだからってー」

ってぼやいてた。

 

「今日は、私が講師だからタメ口ね! 彩葉先生と呼ぶように!」

私は両腕を組んで、三人に宣言する。

 

「……分かったよ」

「リーダーの指示に従おう」

「はーい! 彩葉センセー!!」

 

乃依くんは素直だね。聞き分けとノリが良い子、お姉さん好きよ。

実際、こうやって対峙していると、アバター越しではあっても、三人とも若すぎて可愛らしい、って印象が先に来る。

 

「じゃあ、軽く行ってみようか」

 

それぞれが、得意とする得物を構える。

お兄ちゃんは、金棒型。

雷さんは、芭蕉扇形。

乃依くんは、輪刀型(弓にも変形する)。

 

まずは一人ずつ、順番に、武器を打ち合わせる。

 

二合、三合、四合……

 

「まあ、みんなプロだし、筋は悪くないんだよねー」

 

乃依くんの武器を絡めとって、空中に放り投げる。

 

「彩葉センセーって、こんなだったの?」

 

乃依くんの顔色が変わる。

以前のKASSENの時は、実際に戦ったのはお兄ちゃんとだけだったしね。

 

「よし、三人一緒に来ようか」

 

背後からの雷さんの芭蕉扇をかわして、乃依くんの矢を叩き落として、お兄ちゃんの金棒を受け止める。

 

まだ、ブラックオニキスが束になっても、私一人に勝てない。

まあ、十年後の三人にはすごくお世話になったし、いろんなテクニックも教えて貰ったから、いわば私を介して、未来のブラックオニキスから今の彼らへ、技術を返しているようなものなんだけどね。

 

こうやって動きを見せているだけでも、彼らは勝手に強くなるだろう。

 

FUSHIから連絡が来たのだろう、

『ヤチヨ、寝たよ~。今から実装するって』

フッチョが耳元で言った。

「チャンスの時間!」

さあ、いよいよここからが本題だ。

 

「今から、とっておきを披露するよ。見てて」

いわゆる脱法チートコード、【自由】(フリーダム)を起動する。脳に負担をかけないよう、短時間での使用だ。

ヴーン、と唸るような音と共に、性能向上の印――ツクヨミサーバーとのコンタクトを示すリングが、頭の上に出現する。

目の奥にバチバチと火花が散る。

 

「今から私の攻撃、10秒、行くよ!」

 

彩葉、ここからはあなたがやってみて。練習通りにやれば出来るから。

(はい!)

 

十年後のKASSENでも、使いこなせるのは一握りの上級者だけ。

手数が勝負の双剣使い向け、究極のハメ技コンボ。

5連撃を一組とする7パターンを、相手の状態に応じて途切れなく繋ぎ続ける。

とある漫画発祥の、その技の名は、

 

秘伝――煉獄!

 

地面を蹴る。時間を置き去りにして、音と光が引き延ばされる。

普通にやれば、30連撃で17秒。

それを【自由】(フリーダム)で、10秒まで縮める。

 

脇腹

側頭部

顔と金的

みぞおち

 

突き放すように膝関節を蹴って、

 

金的

下腹

鳩尾

顔面

 

お兄ちゃんは、4秒、耐えられた。

 

脇腹

側頭部

胸部

金的

 

雷さんは、2.5秒。

 

顔面

鳩尾

膝関節

脇腹

 

乃依くんは1.5秒。

 

20連撃目で、三人とも落ちた。

全員、残機を1減らした。

フォン、と音を立てて、私の頭の上のリングが消える。

彩葉、よくやった!

(でも、8秒もかかってしまいました)

うん。雑になるよりずっといいよ。丁寧に鍛錬しようね。

 

リスポーンしたお兄ちゃんに、

「おかえりー」

「――彩葉、なんだ今の?」

食い気味に私に問い詰めてくる。

 

「うーん、経験してもらう方が早いよ。今からコード送るから、パッチあてて。大丈夫。ツクヨミのアンチチートには引っ掛からない仕様だから」

 

そもそも発想のきっかけは、スポンサーのついたプロゲーマーであるお兄ちゃんたちが、かぐやのために、公式中継の最中にチートを使った――使わせてしまったことだった。

後々、問題になっただろう。覚悟の上の行動だったとしても、私の中には、ずっと負い目が残っていた。

 

だから私は、ギリギリ合法のチートを作った。

 

気が付いたことがある。

(過去から未来へ、未来から過去へ)

 

27才の彩葉から、17才の彩葉へ。

10年後のお兄ちゃんから、今のお兄ちゃんへ。

 

犬DOGEから、FUSHIへ。

かぐやから、ヤチヨへ。

 

バトンは、つながっていく。

だから、今の私は、やり直しではないのだ。

一本の光の道(ray)、その『続き』なのだ。

 

「コードネーム、【自由】(フリーダム)。操作に慣れたら、意識だけで起動と停止はできるけど、今は声に出した方がいいね」

 

「分かった。【自由】(フリーダム)!」

「……【自由】(フリーダム)

【自由】(フリーダム)ッ!」

 

私の時と同じ様に、ヴーン、という音と共に、ブラックオニキスの三人の頭に、天使のような輪が浮かぶ。

「最初は酔っちゃうかもだけど、慣れれば大丈夫。強化は5分くらい持つから」

「う、おおおお、お、おおお~~~」

ブラックオニキスの面々は、その場から吹っ飛んでいった。

 

「何これ面白い!」

 

しばらくは【自由】(フリーダム)に振り回されているようだったけど、最初にアジャストしたのは乃依くんだった。

弓のエイムが圧倒的だ。

訓練場をジグザグに走りながら無造作に放つ矢が、すべて的の中心に当たる。当人の感覚では、丁寧に狙って、落ち着いて放っている筈だ。

雷さんは、芭蕉扇を錫杖モードに切り替え、割れた鬼瓦を自在に操作している。

 

「彩葉、勝負!」

 

さすがお兄ちゃん。稲妻のような軌道で、私の背後に回り込む。

頭上のリングが、ブレながら光の尾を引いた。

 

彩葉、迎え撃って。30秒間、起動するよ!

 

修行中の彩葉と、お兄ちゃん。【自由】(フリーダム)使用時は、何度か使っている分、彩葉がやや優勢、といったところだった。

ただこの様子だと、お兄ちゃんの方が先に強くなるな。悔しいけどセンスが違う。

 

フォン、と私のリングが消える。

 

「事情あってさ、私の方は、30秒までしか使えないんだ」

「そうか……」

 

お兄ちゃんが、ちょっと休憩するか、と金棒を降ろした。

乃依くんと雷さんも、天使の輪を消して戻ってきた。目は爛々と光って、鼻息が荒い。

 

「すごいねーこれ。でも、ヤチヨに見つかったら対策されるよね」

「それは大丈夫!」

私はどん、と胸を叩く。

「ヤチヨ、今スリープモードだから」

「え? そんなの分かるの?」

「分かっちゃうんだよねー。ヤチヨには秘密だよ?」

 

雷さんは、念じるだけで頭の上の輪を出したり消したりする練習をしている。

無言のまま【自由】(フリーダム)を起動させたいんだろう。

 

「じゃあ、練習再開しようか。みんな、自分の強みは分かってると思うから、ヤチヨが起きるまで自主練ね」

彩葉にも、煉獄のバリエーションを状況に応じて自由に入れ替える練習をさせておきたい。

 

「脱法チート、隠れてこそこそやるの、少し興奮する」

乃依くんがノリノリだ。

 

「ヤチヨを出し抜くなんてなー」

お兄ちゃんもノリノリである。

 

『ダヨネー』

フッチョが話を合わせている。

 

いい感じだ。【自由】(フリーダム)と、私が未来で身につけたKASSENの立ち回りが、うまくかみ合ってる。

あとは、ブラックオニキスがこのまま地力をあげて……そして彩葉が、私がいなくなっても、一人で戦えるくらい強くなってくれれば、卒業ライブでの月人戦にも、きっと望みはある。

 

と、いきなり、

白いフラッシュが、視界を覆った。

 

――空を埋め尽くす、無数の月人たち。

 

幻覚だろうか。夢だろうか。見たことのない光景が脳裏に浮かんだ。

『……うん。次、行こ』

幻聴?

何が起こってる?

 

「どうした彩葉?」

お兄ちゃんが、動きの止まった私に声をかける。

 

心臓の音がうるさい。

喉の奥に、鉄の味が広がる。

あ、これヤバい。

 

「ちょっとタイム。すぐ戻る」

 

緊急ログアウトする。

 

床に、赤い点々。

これも、過負荷の影響だろうか。

私は、現実世界で、鼻から血を流していた。

 

 

第三章「改演編」完

第四章「月災編」に続く

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