超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~ 作:そうすけVR
17才の彩葉の提案を元に、改修メモをすらすらと書き上げた。
設計書を読んだヤチヨは、
『彩葉は一生、ヤッチョと離れられなくなったねぇ~』
と、嬉しそうに言った。
コード
システム名は、
――
これは後に、私の二つ名となる。
数ある異名の中でも、一番有名なやつだ。
◇ ◇ ◇
【改修設計書】
外部認知補助プロトタイプ
開発期間:3日
開発者:酒寄彩葉
1. 目的
酒寄彩葉の生体脳に集中している認知処理の一部をツクヨミサーバーへオフロードし、ピーク負荷を平準化する。
本改修は処理能力拡張を第一目的とせず、生体脳保護および二人格の安定共存を第一目的とする。
2. 基本構成
人格、長期記憶、感情、身体感覚、生命維持、最終意思決定は生体脳側に保持する。
ツクヨミサーバー側では、以下の認知処理の一部のみを補助する。
・記憶検索
・情報整理、分類
・周辺情報監視
・一時作業領域
・検索、比較、計算等の限定処理
・指定タスクの非同期実行
3. 外部処理比率
生体脳単独の認知処理能力を1.0とした場合、外部処理は最大0.3相当までとする。
実際の処理比率は0〜0.3の範囲で動的に変化させる。
4. 接続・制御
ツクヨミサーバー内に彩葉専用の隔離演算領域を確保する。
生体脳と外部演算領域を接続する認知系インターフェースには、ヤチヨまたはFUSHIによる認証を必須とする。
FUSHI型外部端末内のヤチヨを中継・制御オペレーターとし、
・生体脳負荷監視
・処理振り分け
・同期管理
・異常検知
・緊急切断
を担当させる。
通信断または認証喪失時は外部処理を停止し、生体脳単独運用へ復帰する。
5. 運用範囲
本プロトタイプは、ツクヨミへのログイン中のみ使用可能とする。
スマコンを介した現実世界からの認知系接続は技術的拡張対象とするが、本版では実装しない。
ツクヨミからログオフした時点で、生体脳とのリアルタイム接続を解除し、通常の生体脳単独状態へ復帰する。
6.
本系統は
通常時の認知補助とKASSEN時の
両系統の同時使用を可能とする。
7. フェイルセーフ
異常時は、
外部処理量低減
→ 新規オフロード停止
→ 外部処理全面停止
→ 生体脳単独運用
の順に縮退する。
外部処理は可逆であることを必須条件とし、停止後も生体脳単独状態へ復帰可能とする。
8. 開発計画
Day 1:既存
Day 2:短時間接続、負荷試験、切断・再接続試験
Day 3:連続運転、動的負荷配分調整、ログオフ・再ログイン時の動作確認、実運用開始
本版は恒久運用版ではなく、二人格共存および生体脳負荷低減を目的とした初期プロトタイプとする。
◇ ◇ ◇
翌日、夏期講習終わりに、芦花と真実にツクヨミに呼び出された。
「昨日のライブ良かった~」
「良すぎちゃってた!」
京都・貴船をイメージしたエリア『川床-kawadoko-』。
到着した私は、二人から賞賛を貰っていた。
「「彩葉の演奏、感動して泣いた~~」」
二人、息ぴったりだな。
芦花なんて、目じりに本当に涙を浮かべている。
「花丸つけたげる~~」
「……あ、ありがとう」
返事が上の空になってしまってたみたいだ。
今も、コラボライブ後の展開に、どこかふわふわしたまま、現実感がない。
芦花と真実が目くばせする。
私の目の前に電子チラシが表示された。
『9月1日(日)花火大会』と書かれてある。
「夏の終わりに、花火なんていかがかな」
「電車で一時間くらいか。みんなで行くよね?」
あれ? 記憶だとかぐやと二人で行ったな。なんでだろ?
「ノンノン、我らには大事な使命があるのです」
「夏休みの宿題を完全に放置していたのです」
思い出した。あの時は、彼女たちの言葉をそのまま信じてたけど、私に気を使ってくれてたんだな。
「というわけで」
「あとはよしなに~」
おっと。ログアウトしようとする二人に向けて、
「ちょっと待って!」
丁度いい。今、渡しておこう。
「ちょっとコード送付するね」
操作パネルから、二人を選択して添付ファイルを送信、っと。
「なんか来た」
「なにこれ――
あー、なんて説明しようかな。
「取説のファイルも付属してるから、詳しくはそれを読んで。KASSEN用のアプリなんだけどさ、いくつか注意点があって――」
「……あやしい」
「……これ、違反じゃなくて?」
「アヤシクナイヨ、イハンジャナイヨ」
芦花が、ずい、と私に詰め寄る。
「注意点、って何?」
「ええと、KASSEN専用アプリで、でも今は私がDM送るタイミングじゃないと使えない。それと他のユーザーには存在を秘密にしておいて欲しいナー」
真実も、目を細めて私をみやる。
「あやしさしかない」
そうだよなー。あやしいよなー。
「実はさ、ツクヨミでさ、大規模なイベントを用意しててさ。ほら、9月12日の」
あらかじめ用意していた説得用の話を始める。
日付で、彼女たちも気づいたようだ。
「ああ、あのコラボライブの最後の方でやってた……」
「やっぱり、あれってイベント予告だったんだ」
あの時は、ヤチヨが咄嗟にその場を収める為に適当なこと言ってたんだけど、利用させてもらおう。
「私も、ヤチヨに頼まれてイベント運営を手伝うことになってさ、二人にも協力して欲しいんだ」
「あー、そういうこと」
「いいなー、ツクヨミ運営の手伝いってことー? 私もお近づきになりたいー」
真実が羨ましそうに言う。
「イベント内容は、KASSENのレイドバトル。こちらからは7人参戦。メンバーは、私とかぐや、芦花と真実――」
そして、Black onyX。
そう告げた時の二人の反応は劇的だった。
「み、帝さまと~~??」
「無理無理無理無理。全然実力が足りてないよ!」
まあ気持ちは分かる。
「さっき渡したのは、イベント用の能力向上アプリ。使いこなせれば、そこそこ動けるようになるよ」
お兄ちゃんたちみたいなプロゲーマー向けのオリジナルだと、ピーキーすぎて使えないと思う。なので、能力をマイルドにしたデチューン版を用意したんだよね。
「彩葉が急に強くなったのは、これのお陰?」
「公式の対戦では使ってないよ。実は、お兄ちゃんに特訓してもらってたんだ。だから、ヤチヨカップは、下剋上だったって訳」
そんなことがあったんだ、と真実が目を丸くする。
「イベント当日までに、一度、実際に使い方の説明をするね」
飛び回る彼女たちの頭上を、光るリングが追随する。その姿は、きっと本物の天使のように映るだろう。
その光景を思い浮かべると、口元が緩んだ。
Black onyXで試した時には、そんな感想、欠片も浮かばなかったな。
……乃依くんは、まあ、聞き訳はいいけど、やんちゃだし。
「彩葉、なんかいやらしい顔してる」
芦花に指摘されてしまった。
◇ ◇ ◇
「ねえ、かぐや」
タワーマンションの、リビング。2人きりの夜。
一周目だと、あと何回、かぐやと一緒に過ごせるのか、もう数えるほどしかない、夜。
かぐやは、あれから考え込むことが多くなった。私といる時は、はしゃいでみせるんだけど、ふと、ぼんやりと視線を空中に漂わせていたりする。
「明日、花火大会、行こ?」
スマホに、花火大会のチラシを表示して、見せる。
あの時は、かぐやを誘うだけでも一大決心だったんだよなー。自分から誰かに「遊びに行こう」なんて言うの、今までほとんどなかった。芦花や真実とだって、いつも向こうから誘ってくれることの方が多かったから。
「へ?」
かぐやは、数秒固まって、
「やったー! やったやった!」
大喜びだ。
かぐや、やりたいことがいっぱいある、って言ってたよね。
でも、この時、きっとかぐやは、帰る決心をしていたんだろうね。
大丈夫。これからも、ずっと一緒だよ。
二人で、白甘鯛を炭で焼いたり、麺からラーメン作ったりしよう。
◇ ◇ ◇
翌日、午前10時。
午後からは、かぐやと花火に行く準備がある。浴衣を選んで、着付けして、髪もセットする。だから、空いているのは今しかない。
かぐやには、午前中、お客さんが来る、とだけ伝えている。
時間丁度に、チャイムが鳴った。
カメラには、黒いスーツを着た細身の女性が映っていた。
遠隔で玄関のロックを解除する。
「えーっと、おじゃまします……?」
すらりと背が高く、姿勢のいい女性だった。明るい茶色の髪を後ろでまとめている。薄い色の瞳に、彫りの深い華やかな顔立ち。どこか中東あたりのルーツを思わせる、日本人離れした雰囲気がある。
ぱりっと着こなしたスーツも相まって、いかにも仕事が出来そうな人、というのが第一印象だった。
ただ、その女性は、どこかおそるおそるといった風情で、リビングに入ってきた。
目の縁が光っている。スマコンを起動しているのだ。
彼女は、キョロキョロと部屋を見回して、
「FUSHIさん。そろそろ事情を聞かせてもらえませんか? 事前説明無しでこんな高そうなマンションまで連れてこられたんですけど。重要な話って、なんなんです?」
そう言った。
「呼び出してしまってすみません。忠犬オタ公さん」
彼女は、窓に向かって立っていた。
キッチンカウンターにいた私には気づかなかったようだ。背中から声をかける形になってしまって、文字通り彼女は飛び上がった。
「ひいいいっ!」
私はスマコンを起動して、ARモードに移行する。
『約束どおり、連れて来たぞ。で、どうするんだ?』
オタ公さんの前に、FUSHIがいる。
「あ、驚かしちゃいました?」
オタ公さんは振り返り、私を視認する。女の子……? と、小声で呟く。
「
ぶはっ、と、脳内の彩葉が盛大にむせる。器用だな。
「えっ、現実でも可愛い、推せるっ」
オタ公さんはずずいっ、と距離を詰めて来た。
「えっ、マジでいろP? いや、アバターの面影がある。でも、この見た目で、作曲したりライブしたり、KASSENで帝様に圧勝したりのあの『いろP』? ギャップ萌え?」
すごい早口だ。
とりあえず、リビングのソファに案内する。
「いらっしゃいませ~。コーヒーどうぞ~」
トレイを手に、かぐやがコーヒーを二つ、テーブルに並べる。
豆の焙煎からかぐやが手掛けた、特製コーヒーだ。
彩葉は苦い、って好まないけど、私は大好きなやつ。
「えっ、かぐやちゃん? 確かにいろPはかぐやちゃんのプロデューサーだし、って、ええっ、同棲? この高級マンションに同棲してる? 一緒に住んでる? ああっ、確かに、配信でいろPの声だけ聞こえたりするけど、そういうこと? 寝室もお風呂も一緒? ギャ!ぁぁ!ぁ~~ッ!!!(汚い叫び声)」
早口だし、疑問形でしか言葉を発していない。
「あ~、二人で暮らしていますね。お風呂は別々に入りますよ」
寝室は分けてるけど、かぐや、私の部屋で寝るからなー。
『話が進まない。本題に入れ』
FUSHIが急かす。
私は、これから仕事の話をするからと、かぐやには自室に戻っているように伝えた。
かぐやがいなくなると、オタ公さんは、急にキリッ、とした顔に切り替わった。
「FUSHIに頼んで、オタ公さんを連れてきてもらったんです。是非一度、こちら側で、お話したかったので」
お願いしたいことがあるんです、と続ける。
オタ公さんは、私の様子を窺うように、
「ヤチヨが突然、これまで一度もやらなかったコラボライブを優勝賞品にした理由――以前、彩葉さんはそう仰った」
ちゃんと覚えていたんだ。まだかぐやがライバーなりたてで、路上ライブとか地道にやってた頃の話だ。
「言いましたね。確かに」
私は黙る。オタ公さんは、じっと私を見つめている。
かぐやコーヒーの香りを楽しみつつ、
「私も、オタ公さんと同じ、現実側のツクヨミの協力者になりました。今は見習いみたいなものなので、正式な通知はまだだと思うんですけどね」
質問には答えず、早速、嘘をついた。
そうだ、私、身バレしてる! と、オタ公さんは、両腕を自分の身体に回して、今更気が付いたように言った。
この人、見た目はバリキャリなのに、どこか抜けてるな。
「ヤチヨは、ツクヨミ史上最大のKASSENイベントを開催する、って言ってます。先日のコラボライブ終わり、予告みたいなのしましたよね?」
オタ公さんは、あれってそうだったんだ……と一人で納得している。
「で、折角だから――」
私は、笑う。
「ヤチヨに、ドッキリを仕掛けようと思って」
さあ、下準備の最終段階だ。
◇ ◇ ◇
忠犬オタ公さんには、ツクヨミサーバーに関して、ある準備をしてもらう。
9月12日まで、あと10日ほどしかない。
オタ公さんには、ギリギリまで動いて貰わないといけない。
もちろん、ドッキリ企画だから、ヤチヨには秘密だ。
「技術仕様は、FUSHIから共有してもらってください。接続要件、実装手順、負荷制御まで一式。FUSHI、いいよね?」
『任せろ』
「
『承知した』
「判断に迷うケースだけ、私に上げて」
『分かった』
ぽかーん、とした表情で、私とFUSHIのやり取りをオタ公さんは眺めていた。
「あの、彩葉さん、貴方はお幾つですか?」
どこかおずおずと、私に話しかけてきた。
「17才ですよ、オタ公さん。私は年下ですから、敬語じゃなくて良いですよ」
「いいえ……私には、一回り年上に映ります」
おお、するどい。
「いえいえ、世間知らずの小娘ですから」
脳内彩葉が、むずむずしてる。何か言いたそうだ。
「彩葉―、もうすぐ予約してた時間だよー」
二階の手すり越しに顔をのぞかせたかぐやが、焦れたように言った。こら! お客さんの前で!
「えっ、彩葉さん、この後、ご予定があったんですか。気が利かなくてすみません。もう話は全部聞きましたので、あとはFUSHIさんと調整して準備は進めさせていただきます」
オタ公さんの態度もなんだかなー。
「かぐやちゃん、この後、予定あったんだね。ごめんね」
とんとんとん、と軽快に階段を降りてきたかぐやに向かって、オタ公さんは言った。
「いいよー。このあと彩葉と和服レンタル屋さん行って、浴衣、選びあいっこするんだー。かぐやが彩葉のを選んで、彩葉がかぐやのを選ぶの。んでんで、そのまま花火大会! いいでしょー?」
満面の笑みで、かぐやはオタ公さんに自慢した。
「早く行こっ! 彩葉!」
かぐやが私の手を引っ張る。
「ちょっと待ってって。準備があるから」
「無理! 待てない! 一秒だって待てない!」
今のかぐやは、はしゃいでじゃれつくゴールデンレトリバーそのものだ。
「落ち着いてかぐや」
「彩葉が誘ってくれたの、初めてだもんッ!」
嬉しそうに、幸せそうに、かぐやは言った。
オタ公さんは、ぼそぼそと小声で、
(ツクヨミの推しカップルが現実でも可愛くて百合マンションで同棲していてリアルでもイチャイチャしてるなんて最高かよ)
なんて、口元を手で隠して呟いていた。