週休七日、実現するまであと何歩? 作:週休七日なのだわ!
好きな子を混ぜたら完成しました。デーさん(?)とアリスちゃん主体のSSもっと増えてね⋯!
「ん⋯ぅ⋯?もう、朝かしら⋯?」
─────言わずもがな、アリス・タイムフィールドの朝は早い。
令嬢として育てられてきた彼女にとって、早朝のルーティンは長年送ってきた慣れに等しいものがあった。
ベッドから身体を起こし、カーテンを開いては陽の光を浴びる。兎のシリオンとしてしっかりと身嗜みを整えながら、稽古として執事たるアーノルドとの手合わせを済ませていく。
「お嬢様、まだ腕を上げましたかな?一段と動きが良くなっておりますよ」
「そうかしら?あまり自覚はないけれど⋯」
「私めが嘘をつくことはありませんとも。以前には迷いが生じていた鋒が安定し、より洗練されております」
普段と変わらずな稽古の中、ふと執事たるアーノルドの言葉にアリスは思い耽った。
確かに稽古は怠っていないし、剣の扱いも身について来たことは何より自分が一番分かっていて。勿論上達している実感もあれば、一撃を振るう間にも迷いが生まれていないのも薄らと自覚している。
「とても良い眼ですな、お嬢様。これも⋯彼のお陰ですかな?」
互いに剣を交えて数十分。自己分析の最中で突然に降ってきた執事の発言は、集中していたアリスの剣戟を乱すには充分すぎる役割を担っていたらしい。
「んな⋯か、彼⋯ではなく!先生のことは関係ない、のだわ!」
「ほっほっほ。そう否定されては説得力がありませんな」
途端にアリスは頬を紅潮させて慌てながら否定する。しかし、それが単なる照れだというのは長年付き添ってきたアーノルドにとってお見通し。いや、誰しもがあの分かりやすい表情で察することだろう。
剣先は横に逸れているし、先程の言葉に反論する言葉を探して慌てているし。ともあれ、先の一言はアリスの心を乱して仕方がないものだった。
彼、または先生。令嬢たる少女であれば専属の家庭教師くらいは抱えているのが普通。であれば、此処まで動揺することもない─────というのは、あくまで常識の範疇に当てはめた結論。
「ご安心ください。お嬢様の大切な方は私たちにとっても変わらず、決して笑ったりは致しませんとも」
「⋯アーノルド。今日は一段と意地悪ではなくって?」
「いやはや、このような歳になりますと⋯若者の色恋が刺激的でしてな。心はすっかり若者に舞い戻った気分なもので」
「もーっ!そういう話はいいから稽古を付けてもらえるかしらっ!」
ぷんすか、と擬音も聞こえてきそうな中で行われる稽古ですら、普段と同じ。今や当主代行としての立場に置かれた少女からすると、それは何ら変わりのない日常の一コマ。
今日は休日ともあって怪啖屋の仲間たちと食事を共にする約束もあるし、プロキシの二人も合流するとあってさぞ賑やかな場になることは容易に想像できること。
であれば、一日を充実させる準備には余念が無い。起床から数時間が立ち、シャワーにて汗を流し終えたところで──────
「今日もお願いするのだわ、先生!」
「ええ、こちらこそ。宜しくお願いします、アリスさん」
ヘイローを頭上に浮かべる専属教師、
─────────
いつからこの世界に居たのか、という疑問には生まれた瞬間からとしか応えられなかった。
齢二十五を迎える直前、それも四月という始まりの季節。私が極東の島国、日本という場所に存在していた最後の時期である。今では朧気になりつつ記憶ではあるが、確か────それなりの企業に務め、大学卒という称号で楽ができないことを改めて自覚した頃であっただろう。
普通の社会人として働き、金を得て、人生を送る。なんら変わりない毎日を過ごす中、その日は珍しく友人からの飲みに誘われていたのは記憶にあった。
『 ⋯スターレイル? 』
私と同じ大学出身の友人。今では残念ながら顔や名前も思い出せない彼は生粋のゲーマーで、特にある一つの作品にのめり込んでいたらしい。
崩壊:スターレイル。略してスタレと呼ばれるゲームを熱弁する彼の雰囲気は、如何にも本気の度合いが見て取れる熱心具合だった。
就職してから仕事一筋だった私からすると、そのようなゲームに触れた経験はなく。強いて言えば手軽に遊べるものだったりが多いため、そちらの分野は未知数だったと言えよう。
ともかくとして、私は友人の熱弁を受けて酔いに身を任せながら帰宅した。そうして、動画配信サイトで軽くストーリーを流し見していたが──────
『 週休七日か。良いじゃないか 』
そこで、私は一人のキャラクターを見つけた。確かゲーマーの中でも話題になっていた言葉を放つ張本人、物語上で重要な役割を担うサンデーという男性。
彼は理想を掲げ、心の底から楽園を築かんとしていた。だが、最後には主人公である開拓者たちに敗北して⋯という、大まかなストーリーラインがあるらしい。
他の人間がどのような評価を下すかは分からないが、少なくとも私にとって彼ほど好きなキャラクターも居なかった。というか、作品自体がミリしらな私に一番刺さったのがサンデーだとも言えよう。
そこから私は酔いの回った頭で色々と調べてみたりした。スターレイルの世界観から彼の性格、扱う力について────そうして情報を取り入れていくうちに、多少は彼とその世界について詳しくなっただろう。
『 明日、ダウンロードしてみようか 』
一人暮らしの寝室で眠りに負けそうになる目蓋を何とか持ち上げ、私は友人に勧められたスターレイルをプレイすることを誓う。が、そんな日が巡ってくることは決してなく──────
『⋯この子の名前はサンデーにしましょう』
と、目覚めた瞬間には全く別の世界にいた。それも、私の知っているゲームとは違う場所に。
いや、なんというか。このような設定に明るくない私がとやかく言うのも気は引けるが、大体こんな感じのシチュエーションなら己のよくプレイする世界に生まれ落ちるのが相場ではなかろうか?
転生だとか憑依だとか、ネット上の小説ではそんな前提が置かれていることが多い(友人談)らしいし、僅かながらにでも知っている場所であれば胸も踊ったことだろう。
だがしかし、現実はかくも悲惨である。平和だった日本と比べてこの世界────エーテリアスという怪物が蔓延り、ホロウ災害の起こるリアルに直面して平和だとは微塵も思うまい。
『 終末世界 』
人々がそう呟くのは尤もだと思った。エーテルという物質に侵食されエーテリアスという怪物に変化したり、ホロウ災害に巻き込まれて大切な人々を亡くしたり。そんな悲劇がこの世界に溢れている。
私の両親は齢四歳の時にエーテリアスの襲撃で亡くなった。それからは孤児として過ごし、紆余曲折を経て二十歳を過ぎた現状が今だ。
何の因果か、今の私はサンデーの容姿を以て存在している。これを自覚したのは十代前半のことだが、確信を持ったのは漸くと二十歳を迎えたタイミングであった。
見た目が似ていようとも中身は違う。しかし、私の中には確かにサンデーの能力が備わっている。
思考回路はともかく、特筆して挙げられるのは調和の一端だ。以前試しにと他者に使ってみたところ、なんと身体能力の底上げが認められた。何より自分自身にもそれは適応できるようで、今では重宝する能力であるのは間違いない。
「⋯先生、何か考え事かしら?」
姿勢良く着席したままの少女が身を乗り出し、私の顔色を伺う。特徴的な兎耳にオッドアイ、容姿端麗な令嬢たるアリスの一声によって私の意識は一気に現実へと引き戻された。
「申し訳ありません、アリスさん。少し⋯考え事を」
「珍しいこともあるのだわ。先生が長時間も悩むなんて」
「⋯そうでしょうか」
「ええ。なんというか⋯先生は、その。キッパリと物事を判断する殿方だから」
現状、私の雇い主たるタイムフィールド家─────その当主代行を務める少女の言葉に、私はどのような反応を返そうかと思案する。
世間では家庭教師、言葉を改めるとすれば令嬢専属の教師か。孤児となって以降、ある程度の学を付けて各地を放浪していた私に渡り船だった『 専属教師の募集 』を目にし、こうして勤めて半年ほど。今では住居もこの大きな屋敷の一角を用意してもらい、衣食住は勿論のこと給与も目が眩むほど頂いている身分だ。
特にアリスと出会ってからの日常は、言葉通り目まぐるしく変化している。
勤務して二ヶ月の間は屋敷に住まう誘いを頑なに躱していたものの、気が付けば上手く言いくるめられて同意し。
彼女の通う学院にアーノルドさんと共に赴いた際は、そのまま学園内を案内してもらったり。
またある時はショッピングに連れられ、何故か私の衣服を見繕っては満足そうに購入(到底一般人では支払えない額)を敢行。
もはや、私の仕事に見合うもの以上に受けている恩が大きすぎる。そんな自覚を半年を経て持っているところだ。
「⋯授業に戻りましょう。ご心配をお掛けしましたね、アリスさん」
思考に耽るのは私の悪い癖。すぐさま心配を振り払うようにアリスへ言葉を返すと、何故か当の本人は頬を薄らと紅潮させて上目に見つめる仕草を取っていた。
それは年相応の少女が窺わせる愛らしい雰囲気であって、微笑ましい。如何様な理由で上目になっているかは分からないが、可愛いことに変わりはない。
「⋯⋯先生、何かあれば
席から立ち上がり、私の眼前で立ち止まる少女。背丈からも上目は変わらずに、アリスは不用心にも男の手を掴んで決意を口にする。
果たして何の決意を固めたかに理解は及んでいない。ただ、聞き返すことは野暮だろう。
「勿論。アリスさんは⋯ワタシの大切な生徒、ですから。隠し事を通すつもりはありません」
完璧な回答だと我ながら感心した。しかし、どうやらノブレス・オブリージュを体現する令嬢の期待通りではなかったらしい。
何だか両手を強く握られていて、頬はフグが如く膨らみを見せているし。気の所為か身体的間隔も狭まっている気がする。これでも私は一般的な感性を持ち合わせた男性、これほど美しく可憐な少女と密接な距離感にあることに多少の緊張もあるのだが──────
「⋯どうして先生は自分の事に鈍いのかしら。こんなにも⋯⋯しているのに」
不満ありありな口調で小さく呟くアリスを見つめながら、今日も『 私 』は『 ワタシ 』として日々を謳歌する。
そう、これは私がアリス・タイムフィールドという少女と過ごす日常の一端。云わば、始まりの一節に過ぎない物語。
そして──────鈍感を装っていた男が囲い込まれる、その序章である。
サンデー(一般人):本来の思考回路と一般人の思考回路が合わさって色々マイルドになっているデーさん。アリスに対しては可愛い生徒と思っている。なお、そう遠くない未来でアリスに堕とされる。
アリス(デレ過多):露骨にサンデーの話題になると顔を真っ赤にしちゃう乙女。さり気なく自分の尻尾を触らせたこともあるし、それとなく好意を伝えてみたりはしているものの不発。なお、近いうちに追い込み漁でサンデーを堕としにかかる。