異世界でのΨ難   作:小魚猫

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第3話

やれやれ。空助のやつ、帰れたら絶対にただじゃおかない。 ……もっとも、その「帰れたら」という前提条件が今のところ一番の問題なのだが。というかそもそも、あいつはこれをどうやって帰る想定で作っていたんだ?

『楠雄って超能力が使えるし、多分どこへ行っても死なないでしょ?』

あいつのあの言葉を思い出す。……まさかとは思うが、帰りの手段を全く用意せず、ただ「僕の瞬間移動なら次元の壁くらい超えられるだろう」と、全てのリカバリーを僕の超能力に丸投げしたんじゃないだろうな。まったく、僕の超能力をなんだと思っているんだ。

 

…とにかくこの魔境で立ち尽くしていても状況は変わらない。テレパシーで人間の思考が拾えないなら、次は物理的に視野を広げるまでだ。僕はゆっくりと樹海の上空へと浮かび上がった。開けた視界に広がるのは、どこまでも続く深緑の海。 右を見ても、左を見ても、前を向いても森しかない。しかもそのあちこちで、旅客機サイズの怪鳥や山のような巨獣が蠢いている。まるで地獄絵図としか形容しようがない。

 

……とりあえず千里眼を使うか。

そう思って寄り目をしようとして、やめた。忘れていた。僕の千里眼は、一度でも肉眼で直接見たことがある場所にしかピントを合わせられない。こんな未知の異世界のど真ん中で寄り目をしても、見えるのはせいぜい「さっき見た不気味なトゲトゲ植物の裏側」くらいなものだ。本当に使えない。

仕方がないので、僕は物理的な高速移動を選択した。 しかし普通の速度だと全く進む気配が無い。仕方ないので音速を軽く超える速度で、ただひたすらに一方向へと飛び続ける。普通の人間なら衝撃波や空気抵抗でおそらく体は消し炭になるだろうが僕なら関係ない。飛んでも飛んでも景色が変わらず、地球のサイズそのものを疑い始めた数時間後──ようやく、水平線の彼方に何が見えてきた。

近付いた先にあるのはいくつもの大陸。更に近付いたそこにあったのは、整然と並ぶ建造物、立ち上る煙、港らしき影。人工物だ。どうやら人類は絶滅していなかったらしい。 目的地は決まった。僕は一気に加速し、その大陸へ向けて降下した。

近づくにつれて、脳内に懐かしいノイズ──無数の「人間の思考」が流れ込んでくる。 これだ。この俗世的なくだらない思考の濁流こそ、僕が求めていた日常の音だ。普段は本当に不快でしかないが。

 

だが、その安堵も束の間、僕のテレパシーに妙なノイズが混ざり始めた。

『──境界線の防衛レーダーに異常な反応!』 『質量測定不能……だが、信じられない速度で何かが外海から直進してくる!』 『馬鹿な、そんな生物が……まさか暗黒大陸からの新種か!?』 『間違いない。こんな速度で動くのは普通の生物には不可能……「暗黒大陸の厄災」だ。すでに本土の市街地へ侵入したぞ……!』

耳を澄まさずとも、沿岸部の極秘監視基地にいるプロハンターらしき男たちの、血の気が引いた絶望的な思考がダイレクトに脳内へ流れ込んでくる。 おい、誰が暗黒大陸の厄災だ。僕はただの無害な高校生だ。

 

……やれやれ。 どうやらこの世界の人類は、外側の魔境からやってくる生物を厳重に監視しているらしい。 面倒だからと透明化をせず飛んでいた弊害が出たな。だが僕はこんな厄介事に関わり合っている暇はない。僕は「透明化」を発動して姿と気配を完全に消し、音もなく港町の静かな路地裏へと着地した。 衣服の汚れを「復元」で消し、これでもう誰にも気づかれない。一件落着、と思ったのだが。

 

 

《消えた!?》

《レーダーからロスト!》

《いや、"円"にも反応がない!》

《探知不能だと……!?》

《すぐ本部へ連絡しろ!!》

《暗黒大陸由来と思われる未知の生命体が防衛線を突破した!!》

……しまった。

 

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