アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
章頭・成長報告
第十四章「エピタフの遺跡」の獲得経験点は、最大の障害であるレイス(7レベル)を基準として、各自3500点。ルクスンにも経験点の倍化はありません。
名前 繰越経験点 獲得 成長・消費 残り
ルクスン 0 3500 レンジャー4→5/3000点 500
ノクティア 1500 3500 シーフ5→6/5000点 0
ゼフィーリア 500 3500 今回は保留 4000
オトフリート 500 3500 今回は保留 4000
ベラトリクス 500 3500 今回は保留 4000
成長後の技能
名前 技能
ルクスン ファイター5、シーフ4、レンジャー5、プリースト〈創造神〉3、ルーンマスター〈ラーニング〉2
ノクティア シーフ6、シャーマン5、レンジャー4
ゼフィーリア ダークプリースト〈ファラリス〉7、シャーマン4、レンジャー2、シーフ1
オトフリート ソーサラー4、セージ5、ファイター2、レンジャー1
ベラトリクス ソーディアン6
ルクスンの完全版知識と全言語理解は特殊能力であり、セージ技能として加算しません。ベラトリクスは魔法の武器+2、必要筋力7・打撃力16の状態を継続します。
オランへ行こう。
そう言うだけなら簡単だった。
問題は、その間に国があることだ。
「ここを通れば、早いんだけどね」
宿の卓に広げた地図へ、僕は指を置いた。
エア湖。
水路を使って旅を進め、ザインを抜け、その先のオランを目指す。地図の上で道筋を辿る限り、ひどく素直な旅程に見えた。
街道もある。人も住んでいる。食料を抱えて荒野を何日も歩くより、ずっと楽そうだ。
だが、その国には魔術師を捕まえるという、こちらにとって実に困った事情があった。
僕は指を動かすのをやめ、向かいのオトフリートを見た。
「ここで、あなたが捕まる」
「……地図を指してから、私を指さないでいただけますか」
「旅程上の障害が、わかりやすいかなと思って」
「私も好きで障害になっているわけではありません」
もっともである。
オトフリートは眼鏡を直し、地図へ身を寄せた。袖口から伸びた指が、僕の示した道筋をなぞる。
「ザインの方針は承知しています。ですから、魔術師を含む一行は遠回りをするのですが」
「遠回りでも、捕まるより早い」
ノクティアが短く言った。
その通りだった。
僕の知識には、その実例まである。
ラヴェルナ。
あれほどの魔術師でさえ、ザインで二年も足止めを食う。記述として読んだ時には旅の逸話だったが、自分たちの行く先となれば、笑い話では済まなかった。
二年。
宿代だけで頭が痛くなる。
いや、宿へ泊めてもらえるという保証すらない。
「魔術師じゃないって言い張るのは?」
僕が口にすると、全員の目がオトフリートへ向いた。
彼はしばらく黙った後、自分の杖を見た。
「……これを隠せば、よいのでしょうか」
「荷物を開けられたら?」
ノクティアが尋ねる。
「研究書もありますね」
ゼフィーリアが続けた。
「道中で魔法を使わねばならなくなったら、どうするのじゃ」
腰のベラまで加わった。
オトフリートは杖を元の位置へ戻した。
「私一人の服装で解決する問題ではなさそうです」
僕は頷いた。
卓で相談しているなら、誰かが変装を提案し、誰かが判定の難しさを尋ねるところだ。だが、変装がうまくいっても、荷物の検査や不意の戦闘まで消えてくれるわけではない。
嘘を一つ通せば終わる旅ではなかった。
*
オトフリートが、別の道筋を示した。
最果ての国ムディールから、プリシス、ロドーリルを巡り、アノスを経て向かう。
指が動くにつれて、僕の眉間へ皺が寄った。
「……大きく回るね」
「ええ。ただ、途中で何年も拘束される心配を考えれば、こちらが堅実です」
長い道には、長い道なりの出費がある。
食費。宿代。船賃。装備の修繕。
それでも、予定を立てられる旅には価値があった。
僕は地図を眺め、最後にアノスの名へ目を止めた。
そのまま、ゼフィーリアを見る。
「今度は私ですか」
「ごめん」
「謝られても、信仰を取り替えるわけにはまいりませんよ」
彼女は涼しい顔で、卓の杯を持ち上げた。
アノスの国教はファリス。
こちらの一行にいるのは、ファラリスの神官だ。
国境を越えた瞬間に正体が知れるわけではない。彼女も、わざわざ往来で信仰を説いて回るつもりはないだろう。
しかし、祈りが必要になることはある。
怪我をするかもしれない。誰かを助けなければならないかもしれない。
その時になって、神官に祈るなと言うのか。
「治療が必要なら、私は祈ります」
ゼフィーリアが、僕の考えを見透かしたように言った。
「もちろん、人目を避ける工夫はします。ですが、あなたが血を流している横で、土地の評判を気にして黙っている気はありません」
「流さないように頑張ります」
「それは、どこの国でもお願いします」
ノクティアが静かに頷いた。
そこまで賛同しなくてもいいと思う。
「主よ」
ベラが呼んだ。
「片方では魔術師が捕まり、もう片方では神官が肩身の狭い思いをする。人間の国とは、随分と旅人に厳しいものじゃな」
「剣には関係ないと思ってる?」
「妾は美しいからの」
「持ち主ごと没収されたら、どうするの」
「その国を嫌いになる」
「僕もそうすると思う」
嫌いになっただけで、牢屋の扉が開くなら苦労はない。
*
卓の脇には、エピタフから持ち帰った箱が置かれていた。
魔力の塔の建造書。
命を懸けて手に入れたものなのに、町へ戻ってからは、何度も包みを確かめるばかりだった。
もちろん、中身は読んだ。
文字はわかる。
書かれていることの意味も追える。
だからといって、塔が建つわけではなかった。
「導管を敷くだけでも、材料の選定と加工が必要です」
僕の視線に気づいたオトフリートが言った。
「動力部と防壁をつなぐなら、互いの負荷も考えねばなりません。資料を読み解く作業と、実際に組み上げる仕事には、別々の知識が要ります」
「読めるのに作れないって、悔しいな」
「私には、作れる可能性が生まれたことの方が嬉しいですよ」
彼は箱を見て、小さく笑った。
「オランで相談したい相手も、調べたいことも増えました」
その顔を見ていると、早く連れていきたくなる。
僕自身も、先を知りたかった。
空を飛ぶ塔。
今のところ、途方もない願望でしかない。しかし、エピタフへ行く前には、その土台になる本さえ持っていなかったのだ。
箱一つ分だけ、夢が重くなった。
それを抱えて牢屋に入るのは、どう考えても間違っている。
僕は、もう一度地図へ目を戻した。
エア湖からザインへ。
街道を指で辿り、その途中で止める。
「……街道を通らなければ、どうだろう」
ノクティアが顔を上げた。
「どこを?」
「関所を避ける道があるはずなんだ。この辺りに」
「はず?」
問われて、僕は記憶を探った。
関所。
森を抜ける脇道。
暴走したアイアンゴーレム。
断片は浮かぶ。しかし、分かれ道の形や、入口の目印までは出てこない。
知っている話を、知っている地形と取り違えてはいけなかった。
「道の中身までは覚えてない。ただ、関所を迂回する話と、そこに鉄のゴーレムがいたことは覚えてる」
「鉄のゴーレム?」
オトフリートの声が変わった。
僕は頷く。
「アイアンゴーレム」
「主よ。そちらを先に申せ」
「今、思い出しながら話してるんだって」
ベラの声が、少し低くなった。
「こっそり通る相談をしておったはずじゃが」
「ゴーレムに挨拶しに行くって決めたわけじゃないよ」
「向こうから挨拶してきたら?」
ノクティアが言った。
嫌な挨拶だ。
握手だけで腕がなくなりそうである。
*
僕は街道から指を離し、近くの山地へ目を移した。
もう一つ、引っ掛かっている記憶があった。
「古いドワーフの坑道がある」
今度は、順序を考えてから話した。
昔、その坑道を使っていたドワーフたちがいること。
後にオーファンへ移った者たちがいること。
邪竜クリシュの存在も、土地を離れる事情に関わっていたこと。
そして、採れた鉱石がエレミアへ運ばれていたこと。
「鉱石というか、選り分けた原石だったかもしれない。宝石なら、遠くへ運ぶ意味もあるし」
「坑道がエレミアまで続いているのですか?」
オトフリートの問いに、首を振った。
「そこまでは知らない。荷物を運んでいたってことしか。地上の道とつながっていたんだと思う」
ここは曖昧にしてはいけなかった。
鉱石の行き先と、地下道の出口は別の話だ。
ノクティアは地図を引き寄せた。
「関所の向こうへ出られるなら、その先は地上でいい」
「うん。ザインを全部、地下から潜り抜ける必要はない」
「入口だけわかっても駄目。出口と、その間を使えた時期」
「地図が欲しいね」
「使った人の話も」
彼女は地図の余白へ指を置いた。
そこには、何も描かれていない。
何もないのではなく、今の僕らが知らない場所だった。
「昔の荷を扱っていた商人や、ドワーフに尋ねる手はありますね」
オトフリートが言った。
「輸送路なら、鉱山で働いていた者以外にも、知っている人はいるでしょう」
「坑道の入口までなら、木こりや猟師も」
ノクティアが続ける。
話が、ようやく足の届くところへ下りてきた気がした。
記憶にあるから使える。
そんな保証はない。
けれど、記憶を手掛かりに、確かめることはできる。
「まず、ライナスで聞こう。船の行き先も、途中で下りられる場所も確かめる。エア湖を下ってから、関所の手前で街道を外れるなら、上陸する場所が大事になる」
「船に乗ってから相談するつもりでなくて、安心しました」
ゼフィーリアが微笑んだ。
「僕だって、そこまではしないよ」
「主よ。船上で『思い出した』と言う姿は、容易に想像できるぞ」
反論しようとして、やめた。
記憶は、必要な時に都合よく出てくるとは限らない。
だからこそ、思い出した今、口にしたのだ。
*
窓の外から、荷車の軋む音が聞こえてきた。
通りでは誰かが値段を交渉し、その向こうでは、焼いた魚を売る声がしている。
エピタフの地下では、もう戻らない兵士たちが持ち場を守っていた。
ここでは、生きている人間が、今日の仕事をしている。
僕らも、明日の旅を考えている。
それだけのことが、少し嬉しかった。
「では、決まりですね」
オトフリートが地図を押さえた。
「抜け道を調べる。見込みが立てば、エア湖を経てザインへ。通れそうにないなら、遠回りを選び直す」
「うん。捕まりに行くつもりはないし、ゴーレムを倒すことが目的でもない」
「目的はオラン」
ノクティアが念を押した。
「わかってる」
「途中で宝箱を見つけても?」
僕は一瞬、考えた。
その一瞬で、全員の表情が変わった。
「……道を塞いでいたら、どける必要はあると思う」
「箱を開ける必要まではありませんね」
ゼフィーリアが即答する。
ベラが鞘の中で笑った。
「主よ。こっそり抜けるには、まず欲を小さくせねばならぬらしいぞ」
それが一番難しいかもしれない。
僕は建造書の箱を見て、それから地図を畳んだ。
欲がなければ、こんな旅は始めていない。
ただし、欲張るためにも、生きてオランへ着かなければ。
「じゃあ、道を知っている人を探そう」
椅子を引くと、ノクティアが先に扉へ向かった。
その後ろを追いながら、僕は腰の剣へ小声で頼んだ。
「聞き込みの間は、静かにしててね」
「妾は、こっそりした剣になればよいのじゃな」
「喋らない剣でお願いします」
ザインへ入る前から、課題は山積みだった。