アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第十五章 ザインはこっそり抜けて

章頭・成長報告

第十四章「エピタフの遺跡」の獲得経験点は、最大の障害であるレイス(7レベル)を基準として、各自3500点。ルクスンにも経験点の倍化はありません。

名前 繰越経験点 獲得 成長・消費 残り
ルクスン 0 3500 レンジャー4→5/3000点 500
ノクティア 1500 3500 シーフ5→6/5000点 0
ゼフィーリア 500 3500 今回は保留 4000
オトフリート 500 3500 今回は保留 4000
ベラトリクス 500 3500 今回は保留 4000

成長後の技能

名前 技能
ルクスン ファイター5、シーフ4、レンジャー5、プリースト〈創造神〉3、ルーンマスター〈ラーニング〉2
ノクティア シーフ6、シャーマン5、レンジャー4
ゼフィーリア ダークプリースト〈ファラリス〉7、シャーマン4、レンジャー2、シーフ1
オトフリート ソーサラー4、セージ5、ファイター2、レンジャー1
ベラトリクス ソーディアン6

ルクスンの完全版知識と全言語理解は特殊能力であり、セージ技能として加算しません。ベラトリクスは魔法の武器+2、必要筋力7・打撃力16の状態を継続します。



第99話 三本目の道

 オランへ行こう。

 

 そう言うだけなら簡単だった。

 

 問題は、その間に国があることだ。

 

「ここを通れば、早いんだけどね」

 

 宿の卓に広げた地図へ、僕は指を置いた。

 

 エア湖。

 

 水路を使って旅を進め、ザインを抜け、その先のオランを目指す。地図の上で道筋を辿る限り、ひどく素直な旅程に見えた。

 

 街道もある。人も住んでいる。食料を抱えて荒野を何日も歩くより、ずっと楽そうだ。

 

 だが、その国には魔術師を捕まえるという、こちらにとって実に困った事情があった。

 

 僕は指を動かすのをやめ、向かいのオトフリートを見た。

 

「ここで、あなたが捕まる」

 

「……地図を指してから、私を指さないでいただけますか」

 

「旅程上の障害が、わかりやすいかなと思って」

 

「私も好きで障害になっているわけではありません」

 

 もっともである。

 

 オトフリートは眼鏡を直し、地図へ身を寄せた。袖口から伸びた指が、僕の示した道筋をなぞる。

 

「ザインの方針は承知しています。ですから、魔術師を含む一行は遠回りをするのですが」

 

「遠回りでも、捕まるより早い」

 

 ノクティアが短く言った。

 

 その通りだった。

 

 僕の知識には、その実例まである。

 

 ラヴェルナ。

 

 あれほどの魔術師でさえ、ザインで二年も足止めを食う。記述として読んだ時には旅の逸話だったが、自分たちの行く先となれば、笑い話では済まなかった。

 

 二年。

 

 宿代だけで頭が痛くなる。

 

 いや、宿へ泊めてもらえるという保証すらない。

 

「魔術師じゃないって言い張るのは?」

 

 僕が口にすると、全員の目がオトフリートへ向いた。

 

 彼はしばらく黙った後、自分の杖を見た。

 

「……これを隠せば、よいのでしょうか」

 

「荷物を開けられたら?」

 

 ノクティアが尋ねる。

 

「研究書もありますね」

 

 ゼフィーリアが続けた。

 

「道中で魔法を使わねばならなくなったら、どうするのじゃ」

 

 腰のベラまで加わった。

 

 オトフリートは杖を元の位置へ戻した。

 

「私一人の服装で解決する問題ではなさそうです」

 

 僕は頷いた。

 

 卓で相談しているなら、誰かが変装を提案し、誰かが判定の難しさを尋ねるところだ。だが、変装がうまくいっても、荷物の検査や不意の戦闘まで消えてくれるわけではない。

 

 嘘を一つ通せば終わる旅ではなかった。

 

     *

 

 オトフリートが、別の道筋を示した。

 

 最果ての国ムディールから、プリシス、ロドーリルを巡り、アノスを経て向かう。

 

 指が動くにつれて、僕の眉間へ皺が寄った。

 

「……大きく回るね」

 

「ええ。ただ、途中で何年も拘束される心配を考えれば、こちらが堅実です」

 

 長い道には、長い道なりの出費がある。

 

 食費。宿代。船賃。装備の修繕。

 

 それでも、予定を立てられる旅には価値があった。

 

 僕は地図を眺め、最後にアノスの名へ目を止めた。

 

 そのまま、ゼフィーリアを見る。

 

「今度は私ですか」

 

「ごめん」

 

「謝られても、信仰を取り替えるわけにはまいりませんよ」

 

 彼女は涼しい顔で、卓の杯を持ち上げた。

 

 アノスの国教はファリス。

 

 こちらの一行にいるのは、ファラリスの神官だ。

 

 国境を越えた瞬間に正体が知れるわけではない。彼女も、わざわざ往来で信仰を説いて回るつもりはないだろう。

 

 しかし、祈りが必要になることはある。

 

 怪我をするかもしれない。誰かを助けなければならないかもしれない。

 

 その時になって、神官に祈るなと言うのか。

 

「治療が必要なら、私は祈ります」

 

 ゼフィーリアが、僕の考えを見透かしたように言った。

 

「もちろん、人目を避ける工夫はします。ですが、あなたが血を流している横で、土地の評判を気にして黙っている気はありません」

 

「流さないように頑張ります」

 

「それは、どこの国でもお願いします」

 

 ノクティアが静かに頷いた。

 

 そこまで賛同しなくてもいいと思う。

 

「主よ」

 

 ベラが呼んだ。

 

「片方では魔術師が捕まり、もう片方では神官が肩身の狭い思いをする。人間の国とは、随分と旅人に厳しいものじゃな」

 

「剣には関係ないと思ってる?」

 

「妾は美しいからの」

 

「持ち主ごと没収されたら、どうするの」

 

「その国を嫌いになる」

 

「僕もそうすると思う」

 

 嫌いになっただけで、牢屋の扉が開くなら苦労はない。

 

     *

 

 卓の脇には、エピタフから持ち帰った箱が置かれていた。

 

 魔力の塔の建造書。

 

 命を懸けて手に入れたものなのに、町へ戻ってからは、何度も包みを確かめるばかりだった。

 

 もちろん、中身は読んだ。

 

 文字はわかる。

 

 書かれていることの意味も追える。

 

 だからといって、塔が建つわけではなかった。

 

「導管を敷くだけでも、材料の選定と加工が必要です」

 

 僕の視線に気づいたオトフリートが言った。

 

「動力部と防壁をつなぐなら、互いの負荷も考えねばなりません。資料を読み解く作業と、実際に組み上げる仕事には、別々の知識が要ります」

 

「読めるのに作れないって、悔しいな」

 

「私には、作れる可能性が生まれたことの方が嬉しいですよ」

 

 彼は箱を見て、小さく笑った。

 

「オランで相談したい相手も、調べたいことも増えました」

 

 その顔を見ていると、早く連れていきたくなる。

 

 僕自身も、先を知りたかった。

 

 空を飛ぶ塔。

 

 今のところ、途方もない願望でしかない。しかし、エピタフへ行く前には、その土台になる本さえ持っていなかったのだ。

 

 箱一つ分だけ、夢が重くなった。

 

 それを抱えて牢屋に入るのは、どう考えても間違っている。

 

 僕は、もう一度地図へ目を戻した。

 

 エア湖からザインへ。

 

 街道を指で辿り、その途中で止める。

 

「……街道を通らなければ、どうだろう」

 

 ノクティアが顔を上げた。

 

「どこを?」

 

「関所を避ける道があるはずなんだ。この辺りに」

 

「はず?」

 

 問われて、僕は記憶を探った。

 

 関所。

 

 森を抜ける脇道。

 

 暴走したアイアンゴーレム。

 

 断片は浮かぶ。しかし、分かれ道の形や、入口の目印までは出てこない。

 

 知っている話を、知っている地形と取り違えてはいけなかった。

 

「道の中身までは覚えてない。ただ、関所を迂回する話と、そこに鉄のゴーレムがいたことは覚えてる」

 

「鉄のゴーレム?」

 

 オトフリートの声が変わった。

 

 僕は頷く。

 

「アイアンゴーレム」

 

「主よ。そちらを先に申せ」

 

「今、思い出しながら話してるんだって」

 

 ベラの声が、少し低くなった。

 

「こっそり通る相談をしておったはずじゃが」

 

「ゴーレムに挨拶しに行くって決めたわけじゃないよ」

 

「向こうから挨拶してきたら?」

 

 ノクティアが言った。

 

 嫌な挨拶だ。

 

 握手だけで腕がなくなりそうである。

 

     *

 

 僕は街道から指を離し、近くの山地へ目を移した。

 

 もう一つ、引っ掛かっている記憶があった。

 

「古いドワーフの坑道がある」

 

 今度は、順序を考えてから話した。

 

 昔、その坑道を使っていたドワーフたちがいること。

 

 後にオーファンへ移った者たちがいること。

 

 邪竜クリシュの存在も、土地を離れる事情に関わっていたこと。

 

 そして、採れた鉱石がエレミアへ運ばれていたこと。

 

「鉱石というか、選り分けた原石だったかもしれない。宝石なら、遠くへ運ぶ意味もあるし」

 

「坑道がエレミアまで続いているのですか?」

 

 オトフリートの問いに、首を振った。

 

「そこまでは知らない。荷物を運んでいたってことしか。地上の道とつながっていたんだと思う」

 

 ここは曖昧にしてはいけなかった。

 

 鉱石の行き先と、地下道の出口は別の話だ。

 

 ノクティアは地図を引き寄せた。

 

「関所の向こうへ出られるなら、その先は地上でいい」

 

「うん。ザインを全部、地下から潜り抜ける必要はない」

 

「入口だけわかっても駄目。出口と、その間を使えた時期」

 

「地図が欲しいね」

 

「使った人の話も」

 

 彼女は地図の余白へ指を置いた。

 

 そこには、何も描かれていない。

 

 何もないのではなく、今の僕らが知らない場所だった。

 

「昔の荷を扱っていた商人や、ドワーフに尋ねる手はありますね」

 

 オトフリートが言った。

 

「輸送路なら、鉱山で働いていた者以外にも、知っている人はいるでしょう」

 

「坑道の入口までなら、木こりや猟師も」

 

 ノクティアが続ける。

 

 話が、ようやく足の届くところへ下りてきた気がした。

 

 記憶にあるから使える。

 

 そんな保証はない。

 

 けれど、記憶を手掛かりに、確かめることはできる。

 

「まず、ライナスで聞こう。船の行き先も、途中で下りられる場所も確かめる。エア湖を下ってから、関所の手前で街道を外れるなら、上陸する場所が大事になる」

 

「船に乗ってから相談するつもりでなくて、安心しました」

 

 ゼフィーリアが微笑んだ。

 

「僕だって、そこまではしないよ」

 

「主よ。船上で『思い出した』と言う姿は、容易に想像できるぞ」

 

 反論しようとして、やめた。

 

 記憶は、必要な時に都合よく出てくるとは限らない。

 

 だからこそ、思い出した今、口にしたのだ。

 

     *

 

 窓の外から、荷車の軋む音が聞こえてきた。

 

 通りでは誰かが値段を交渉し、その向こうでは、焼いた魚を売る声がしている。

 

 エピタフの地下では、もう戻らない兵士たちが持ち場を守っていた。

 

 ここでは、生きている人間が、今日の仕事をしている。

 

 僕らも、明日の旅を考えている。

 

 それだけのことが、少し嬉しかった。

 

「では、決まりですね」

 

 オトフリートが地図を押さえた。

 

「抜け道を調べる。見込みが立てば、エア湖を経てザインへ。通れそうにないなら、遠回りを選び直す」

 

「うん。捕まりに行くつもりはないし、ゴーレムを倒すことが目的でもない」

 

「目的はオラン」

 

 ノクティアが念を押した。

 

「わかってる」

 

「途中で宝箱を見つけても?」

 

 僕は一瞬、考えた。

 

 その一瞬で、全員の表情が変わった。

 

「……道を塞いでいたら、どける必要はあると思う」

 

「箱を開ける必要まではありませんね」

 

 ゼフィーリアが即答する。

 

 ベラが鞘の中で笑った。

 

「主よ。こっそり抜けるには、まず欲を小さくせねばならぬらしいぞ」

 

 それが一番難しいかもしれない。

 

 僕は建造書の箱を見て、それから地図を畳んだ。

 

 欲がなければ、こんな旅は始めていない。

 

 ただし、欲張るためにも、生きてオランへ着かなければ。

 

「じゃあ、道を知っている人を探そう」

 

 椅子を引くと、ノクティアが先に扉へ向かった。

 

 その後ろを追いながら、僕は腰の剣へ小声で頼んだ。

 

「聞き込みの間は、静かにしててね」

 

「妾は、こっそりした剣になればよいのじゃな」

 

「喋らない剣でお願いします」

 

 ザインへ入る前から、課題は山積みだった。

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