アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
風が、熱かった。
歩いているうちに汗をかき、その汗を風に撫でられる。
涼しくなると思ったのに、頬へ触れた空気は、むしろ温かかった。
僕は顔を上げた。
道の両側で、木々の間隔が開いている。
葉の重なりに隠れていた空が広くなり、地面には乾いた色が増えていた。風に揺れる草も、ザインで見たものより硬そうに見える。
砂漠の国、エレミア。
国を越えたからといって、道の脇から突然砂丘が始まるわけではない。
それでも、運ばれてくる空気が違った。
「……暑いね」
僕が言うと、誰も反論しなかった。
オトフリートは額の汗を拭い、ノクティアは外套の留め方を変えていた。
ゼフィーリアは髪を押さえ、風の吹く方へ目を細める。
「今のうちに、水を確かめましょう」
彼女の言葉に、僕は頷いた。
水袋を持ち上げる。
まだある。
だが、まだあるからといって、好きなだけ飲んで歩けばよい土地ではなかった。
「次に補給できる場所で、ちゃんと満たそう」
「休むなら、日陰も」
ノクティアが言った。
道の先を見る。
木陰はある。
これから先も、同じ間隔で見つかるとは限らない。
また、土地に合わせて歩き方を変えるのだ。
*
しばらく進んだところで、僕らは道を少し外れた木陰に腰を下ろした。
荷物を置く。
それだけで、背中へ風が通った。
僕は外套の襟を緩め、首筋を拭いた。
「脱げばよいではないか」
ベラが言った。
「日差しもあるからね」
「人間は面倒じゃの」
「剣も、日に当てっぱなしだと熱くなると思うよ」
少し沈黙があった。
「主よ。妾を、もう少し陰へ」
僕は鞘の位置を直した。
「ここ?」
「うむ」
隣でオトフリートが笑った。
その笑い方に、張り詰めたものはなかった。
ザインでは、彼が何か言うたび、僕は周りを気にしていた。
古代語魔法の話。
研究しているものの話。
杖や、書物の話。
どこまでなら聞かれても構わないかと、考えずにはいられなかった。
今は、少なくとも魔術師であること自体を隠しながら歩く必要はない。
僕は木へ背を預けた。
「ようやく、普通に相談できるね」
「今までも、相談はしていましたが」
「声を小さくしなくても」
オトフリートは一度周囲を見て、それから頷いた。
「ええ。それは、ありがたいことです」
*
彼は建造書の箱へ手を置いた。
開けはしなかった。
乾いた風に砂埃が混じっている。道端で貴重な資料を広げるには、向いていない。
「オランへ着いたら、まず資料を落ち着いて並べたいですね」
「宿の部屋、紙だらけになりそう」
「できれば、机を広く使えるところが」
「寝台も広いところをお願いします」
僕が付け加えると、ゼフィーリアが言った。
「水を使えるところも」
「戸がちゃんと閉まるところ」
ノクティアも続ける。
「妾を置く台も必要じゃ」
最後に、ベラ。
僕は全員を見た。
「注文、多くない?」
「あなたが最初に寝台を増やしました」
ゼフィーリアに指摘され、口を閉じた。
その通りだった。
オトフリートは笑いながら、箱の留め具を確かめた。
魔力の塔の建造書。
持ち帰ってからも、これ一つで何かが完成したわけではない。
読む必要がある。
調べる必要がある。
使える部分を選び、足りないものを揃えなければならない。
けれど、それを相談する場所へ、少しずつ近づいていた。
僕らの荷物の中で、一番遠い未来を抱えている箱だった。
*
休憩の間に、僕は坑道の地図を取り出した。
入口。
巻上げ口。
落とし穴。
点検通路。
荷扱い場。
紙の上を指で辿ると、その場所の臭いや音まで思い出せる。
最後に書いた『アイアンゴーレム、健在』の文字で、指が止まった。
「倒しておけばよかったと思ってる?」
ノクティアが尋ねた。
僕は首を振った。
「いや。あれは、あれでよかった」
勝てるかどうかだけなら、考える余地はあっただろう。
魔法をどう使うか。
どこで戦うか。
どれだけ傷を負う覚悟をするか。
しかし、僕らが欲しかったのは鉄の残骸ではない。
向こうへ出る道だった。
それは、手に入れた。
「ただ、次に入る人へは、ちゃんと知らせたい」
「手紙には書いたでしょう」
ゼフィーリアが言った。
「うん。届けるところまでやらないとね」
下書きは、地図と別にしまってある。
あの老人は、道を売らなかった。
代わりに、今の道の様子を求めた。
橋は落ちていた。
死者が徘徊していた。
灯りに誘われれば、巨人のいる穴へ落ちる。
鉄の番人は動いている。
それでも、古い搬出路は外へ続いていた。
知らせたいことは、はっきりしていた。
僕は紙を畳んだ。
手紙を託せる便を探すことを、次の町でやることに書き加えた。
*
「しかし、儲かりませんでしたね」
オトフリートが、何気なく言った。
僕は顔を上げた。
「あなたがそれを言う?」
「いえ。資料や道具を拾う余裕もありませんでしたから」
「原石らしいものはあったけどね」
言った途端、ノクティアとゼフィーリアがこちらを見た。
「戻らないよ」
先に言っておく。
ベラが笑った。
「惜しかったのじゃな」
「惜しかったよ」
そこは否定しない。
古い計量所の箱に残っていた石。
灯りを受けて、わずかに光った粒。
ただの石かもしれない。
価値のある原石だったかもしれない。
わからないまま置いてきたことは、少し心に引っ掛かっていた。
「でも、あそこで選り分けてる間に、鉄の足音が戻ってきたら嫌だから」
「賢明です」
ゼフィーリアが頷いた。
僕は、修繕した外套の縫い目を見た。
宝は増えていない。
金は減った。
服も裂けた。
それでも、全員いる。
ベラも折れていない。
建造書も無事だ。
「通行料だと思うことにするよ」
「随分、物騒な料金所じゃったがの」
ベラの言葉に、僕は苦笑した。
今度の旅の勘定は、帳面に書けるものだけでは済まなかった。
*
休み終えて立ち上がると、風がまた頬へ触れた。
熱い。
僕は水袋の栓を確かめ、荷物を背負い直した。
ノクティアが道へ出る。
オトフリートが続き、ゼフィーリアも外套を整えた。
僕は最後に、木陰へ忘れ物がないかを見る。
何も残していない。
それを確かめてから、仲間を追った。
「オランまで、もう少し楽に行けるといいね」
僕が言うと、ノクティアが振り返った。
「今度は、ちゃんと道を調べてから」
「今回も調べたよ」
「もっと」
返す言葉がなかった。
ゼフィーリアが笑う。
オトフリートも、口元を緩めた。
ベラだけが堂々と言った。
「主よ。妾は、次の宿に期待しておる」
「何を?」
「黙らずに済む部屋じゃ」
「それは、僕らの部屋なら大丈夫だと思う」
「では、よい旅になる」
剣の願いは、意外と慎ましかった。
乾いた道の先で、陽炎が揺れている。
僕らは、砂漠の国の熱風を受けながら歩き出した。
今度は、誰かの目を避けるためではない。
オランへ行くために。
ようやく、そう言える旅に戻った。
第十五章 収支報告
対象:第99話〜第109話
金銭収支
項目 今章の記録
依頼報酬・戦利品売却 0ガメル
荷車救援の謝礼 辞退したため0ガメル
船賃 四人分を支払い。本文では金額未記載
宿泊費・食費 支払いあり。泊数・金額の明記なし
旅の食料 購入・消費あり。数量・金額未記載
修繕 外套を手縫いで修繕。新たな購入費の記載なし
章末所持金 章頭残高と支出額の照合が必要なため、数値未確定
今章の現金収入は0ガメル。旅費による支出が発生しています。本文にない料金や残高は加算していません。
取得・持越品
品目 状態
老ドワーフの略図 無償で受領
坑道の探索図 実際に通った範囲を記録。高低差・危険箇所を追記
魔力の塔建造書 前章から持越し。損失・破損なし
計量所の原石らしい石 未鑑定・未回収。資産に計上しない
アイアンゴーレムの素材 未討伐のため取得なし
老ドワーフ宛て報告書 下書き完成。まだ発送していない
ベラトリクス 破損なし
ルクスンの外套 損傷後、応急修繕済み
戦闘・探索結果
対象 結果
スケルトン 計4体を撃破
ゾンビ 1体を撃破
ジャイアントゾンビ 1体を撃破
下層通路のゾンビ 交戦を避けて通過
ジャック・オー・ランタン 誘導を看破。未討伐
アイアンゴーレム 地形を利用して突破。未討伐・健在
ドワーフの廃坑道 搬出側へ通り抜け。全域踏破ではない
ザイン通過 関所を迂回し、全員が拘束されずに出国
消耗・負傷
オトフリートはジャイアントゾンビ戦でエネルギー・ボルトを2回使用。ゼフィーリアは同戦闘で攻撃の祈りを1回、戦闘後にルクスンの肩へ治療の祈りを1回使用しました。
ルクスンの負傷は治療済み。魔晶石の消費、装備の喪失、能力値の恒久的な低下は描写されていません。正確な精神点残量は、使用魔法の処理と休息回復を照合して確定します。
経験点
今章分の獲得経験点は未確定です。アイアンゴーレムの突破を含む冒険全体の達成分として、章頭成長に使った経験点とは分けて精算します。
名前 第十五章頭の成長後残高 今章分加算前の繰越
ルクスン 500 500
ノクティア 0 0
ゼフィーリア 4000 4000
オトフリート 4000 4000
ベラトリクス 4000 4000
第十四章分の3500点は、第99話の成長報告で計上済み。今回、重複して加算しません。