アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第十六章 まだ飛ばない船

章頭・成長報告

第十五章の獲得経験点は、各自4500点。前章末の未使用経験点へ加算し、今回の成長を以下の通りとします。

名前 繰越 今回獲得 成長・消費 残り
ルクスン 500 4500 ファイター5→6/5000点 0
ノクティア 0 4500 レンジャー4→5/3000点 1500
ゼフィーリア 4000 4500 今回は保留 8500
オトフリート 4000 4500 ソーサラー4→5/7000点 1500
ベラトリクス 4000 4500 今回は保留 8500

成長後の技能

名前 技能
ルクスン ファイター6、シーフ4、レンジャー5、プリースト〈創造神〉3、ルーンマスター〈ラーニング〉2
ノクティア シーフ6、シャーマン5、レンジャー5
ゼフィーリア ダークプリースト〈ファラリス〉7、シャーマン4、レンジャー2、シーフ1
オトフリート ソーサラー5、セージ5、ファイター2、レンジャー1
ベラトリクス ソーディアン6

ルクスンの全言語理解・完全版知識・聖なる右手などの特殊能力は継続。ベラトリクスの武器性能は変更ありません。新たなラーニング魔法の取得、能力値上昇はありません。


第110話 槌音のする町

 町へ入って最初に気づいたのは、音だった。

 

 槌が鉄を打つ。

 

 少し離れた場所で、別の槌が答える。

 

 鋸を引く音が混じり、荷車が石畳を軋ませていく。戸口で男が板を削り、その足元には薄い木屑が丸まっていた。

 

 エレミアの熱い風に、炭と木と、油の匂いが重なっている。

 

 僕は歩きながら、工房の開いた戸口を覗いた。

 

 壁に吊るされた刃物。

 

 大きさの揃った金具。

 

 作りかけの車輪。

 

 奥では、職人が赤くなった鉄を挟んでいた。

 

「前」

 

 ノクティアに袖を引かれ、僕は慌てて道を空けた。

 

 長い材木が、鼻の先を通り過ぎる。

 

 前後を二人で担いだ男たちは、こちらを見る余裕もなく歩いていった。

 

「危なかった」

 

「三軒目」

 

「何が?」

 

「覗いて、止まりかけた店」

 

 数えられていたらしい。

 

 僕は道の端へ寄った。

 

 それでも、目は自然と次の工房へ向いた。

 

     *

 

 宿を決め、荷物を置いた後、僕らは修理先を尋ねた。

 

 外套の裂け目は、自分で縫った。

 

 しかし、盾の縁に残った歪みは、針と糸では直らない。

 

 ジャイアントゾンビの腕を流した時についたものだ。使えないほどではないが、留め具にも無理がかかっていないか、調べてもらいたかった。

 

 宿の主人が教えた工房は、大通りから一本入った場所にあった。

 

 看板が古い。

 

 戸は開いている。

 

 だが、表には客がいなかった。

 

 さっき歩いた通りでは、職人が客を待たせ、客が職人へ納期を尋ねていた。

 

 ここには、その声がない。

 

 代わりに奥から、一定の間隔で槌の音が聞こえた。

 

「すみません」

 

 声を掛けると、音が止まった。

 

 しばらくして、一人の職人が出てきた。

 

 袖を捲り、革の前掛けをつけている。煤のついた顔で僕らを見て、それから盾へ目を落とした。

 

「修理か」

 

「縁と、留め具を見てほしくて」

 

「置いてくれ」

 

 示された台へ盾を載せる。

 

 職人は、まず表を見た。

 

 裏返し、革帯を引き、金具の根元へ指を当てる。

 

 僕らには、何も尋ねなかった。

 

 しばらく確かめてから、ようやく顔を上げた。

 

「でかいものを受けたな」

 

「ええ、まあ」

 

「次は、もう少し上手く逃がせ。ここを握った手首まで持っていかれるぞ」

 

 返す言葉がない。

 

 僕は素直に頷いた。

 

 ベラが腰元で何か言いたそうにしたので、柄へ指を置いておいた。

 

     *

 

「直せますか?」

 

「直せる。縁を戻して、留め具を締め直す。革はまだ使えるが、傷んだところは見ておく」

 

 返事は早かった。

 

 買い替えろとも、全部交換しろとも言わない。

 

 職人は修理の内容と代金を伝え、僕の返事を待った。

 

「お願いします」

 

 頼むと、彼は盾を奥へ運んだ。

 

 僕らは邪魔にならない場所で待つことにした。

 

 壁には、剣が一本飾ってあった。

 

 派手な宝石はない。

 

 それでも、柄から切っ先まで目を走らせると、姿が整っているのがわかる。

 

 その下の棚には、鍋の取っ手や戸の蝶番、輪になった金具が並んでいた。

 

 こちらは飾りではない。

 

 同じ形のものが、幾つも揃えて置かれている。

 

 僕が見ていると、職人が言った。

 

「上の剣なら、売り物じゃない」

 

「ああ、いえ。下の金具を」

 

 彼の手が、一瞬止まった。

 

「そっちか」

 

「同じ形が、きれいに揃ってるなと思って」

 

「揃わなきゃ、取り付ける奴が困る」

 

 当然だろう、という口調だった。

 

 確かに当然だ。

 

 ただ、その当然を全部で守るには、手間がかかる。

 

 僕は棚へ顔を近づけた。

 

 穴の位置。

 

 厚み。

 

 曲げた部分の角度。

 

 見比べても、大きな違いはわからなかった。

 

「これ、何に使うんです?」

 

「荷車の部品だ。替えを作っておけば、壊れた時に一から合わせずに済む」

 

 僕は頷いた。

 

 その時、不意に、坑道で見た壊れた巻上げ設備を思い出した。

 

 金具が残っていても、軸がなければ動かない。

 

 軸があっても、取り付ける枠と合わなければ使えない。

 

 物を動かす仕掛けは、強い部品を一つ作れば済むものではなかった。

 

     *

 

 オトフリートも、棚を見ていた。

 

「数を揃えて作る仕事も、請け負っているのですか」

 

「図と寸法があればな。現物があるなら、そっちの方が話は早い」

 

「新しく仕掛けを作る場合は?」

 

「何を動かす。どこへつける。どれだけ力がかかる。それを聞かんと答えられん」

 

 職人は盾へ目を戻した。

 

 槌が鳴る。

 

 僕は、その音を聞きながら考えた。

 

 図と寸法。

 

 何を動かすか。

 

 どれだけ力がかかるか。

 

 僕の荷物には、古代王国の技術が記された本がある。

 

 文字は読める。

 

 描かれた線も、見える。

 

 けれど、その線を鉄へ変えるには、こういう人が必要なのだ。

 

「何か、作るつもりか」

 

 職人に尋ねられ、僕は顔を上げた。

 

「まだ、考えているところです」

 

「なら、考えがまとまってから持ってこい。できるかどうかは、それからだ」

 

 断られたようで、断られてはいなかった。

 

 僕は、そのことを覚えておこうと思った。

 

     *

 

 修理が終わるまでの間に、一人の客が来た。

 

 戸口へ立った男は、壁の剣を見た後、奥の職人へ尋ねた。

 

「先代の品は、まだ残ってないか」

 

「売り物は、もうない」

 

「そうか。知り合いが探していてな」

 

「新しく打つなら、相談には乗れる」

 

 男は曖昧に笑った。

 

「いや、銘が欲しいんだ。また寄る」

 

 それだけ言って、出ていった。

 

 職人は追わなかった。

 

 盾を持ち上げ、明かりへ透かすように縁を確かめる。

 

 オトフリートが、壁の剣へ目を向けた。

 

「あれが、先代の作品なのですね」

 

「ああ」

 

「こちらを継がれたのですか」

 

「炉も、道具も、仕事もな」

 

 少し間があった。

 

「客は、ついてこなかったが」

 

 職人は、直した盾を僕へ渡した。

 

 僕は革帯へ腕を通した。

 

 握る。

 

 傾ける。

 

 手元が、しっくりした。

 

 縁の歪みだけではない。緩んでいた部分が締まり、盾を動かした時の余計な遊びがなくなっていた。

 

「どうだ」

 

「いいです。握りやすくなった」

 

「なら、持っていけ」

 

 僕は代金を払った。

 

 壁の剣ではなく、今、自分の腕にある盾を見ながら。

 

     *

 

 工房を出ても、僕はすぐには歩き出さなかった。

 

 通りの向こうでは、荷車が動いている。

 

 職人の打つ槌が、あちこちで鳴っていた。

 

「気になる?」

 

 ノクティアが尋ねた。

 

「うん」

 

「剣?」

 

「金具の方」

 

 腰でベラが、満足そうな声を出した。

 

「よい心掛けじゃ」

 

 そういう意味ではない。

 

 僕はオトフリートを見た。

 

「塔の建造書にある設備、ああいう職人に造ってもらう部分もあるよね」

 

「もちろんです。魔法を働かせるためのものでも、土台や支持具まで、すべて魔法で済ませる必要はありません」

 

「船なら、なおさらか」

 

 口にすると、オトフリートの目がこちらへ向いた。

 

「船?」

 

 僕は空を見た。

 

 建物の間に、青い空がある。

 

 そこを、雲の影がゆっくり通っていた。

 

「空を飛ぶ塔のこと、考えてたんだけど」

 

「ええ」

 

「移動して、荷物を運んで、僕らが暮らすなら……船を土台に考えた方が、職人にも相談しやすいかなって」

 

 塔の技術を使う。

 

 けれど、造るものまで塔と同じ形である必要はない。

 

 船なら、人も荷物も載せる。

 

 長く旅をするための備えもある。

 

 船大工なら、僕が思いついていないことを、幾つも知っているはずだった。

 

 ゼフィーリアが尋ねた。

 

「水の上を進む船を、空へ?」

 

「うん」

 

「寝る場所はありますね?」

 

 最初の質問が、それだった。

 

「造れば」

 

「では、検討する価値はあります」

 

 ノクティアも空を見た。

 

「上から道を選べる」

 

「関所もないぞ、主よ」

 

 ベラの声に、僕は笑った。

 

 つい先日まで、それで苦労していたばかりだ。

 

     *

 

 オトフリートだけは、少し難しい顔をしていた。

 

「ルクスン。建造書に、空飛ぶ船の造り方が載っているわけではありませんよ」

 

「わかってる」

 

「船体を浮かせたとして、動かし、曲げ、止める方法も考えなければなりません」

 

「うん。だから、相談する相手が欲しい」

 

 彼は工房を振り返った。

 

 奥から、また槌の音が聞こえていた。

 

「……確かに。エレミアにいる間に、聞けることはありそうですね」

 

 僕は頷いた。

 

 オランへ行く目的は変わらない。

 

 魔術について、もっと知る必要がある。

 

 しかし、その知識を使って物を造る人との縁は、ここで結べるかもしれなかった。

 

「まず、船大工を探そう」

 

 僕が言うと、ノクティアは宿のある方を指した。

 

「聞くなら、主人に」

 

「そうだね」

 

「今度は、材木にぶつからないで」

 

 僕は前を見た。

 

 ちょうど、長い板を担いだ男が歩いてくるところだった。

 

 全員で道を空ける。

 

 板が通り過ぎた後、僕はその木目を目で追った。

 

 ああいう板と、あの工房の金具。

 

 それに、エピタフから持ち帰った知識。

 

 まだ、何もつながっていない。

 

 それでも、さっきまでより、少しだけ形を想像できる気がした。

 

 僕らが一緒に乗る船。

 

 誰かの許しを待たず、行きたい場所へ向かう船。

 

 その船はまだ紙の上にもなかったが、職人の町には、造るための音が満ちていた。

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