アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
章頭・成長報告
第十五章の獲得経験点は、各自4500点。前章末の未使用経験点へ加算し、今回の成長を以下の通りとします。
名前 繰越 今回獲得 成長・消費 残り
ルクスン 500 4500 ファイター5→6/5000点 0
ノクティア 0 4500 レンジャー4→5/3000点 1500
ゼフィーリア 4000 4500 今回は保留 8500
オトフリート 4000 4500 ソーサラー4→5/7000点 1500
ベラトリクス 4000 4500 今回は保留 8500
成長後の技能
名前 技能
ルクスン ファイター6、シーフ4、レンジャー5、プリースト〈創造神〉3、ルーンマスター〈ラーニング〉2
ノクティア シーフ6、シャーマン5、レンジャー5
ゼフィーリア ダークプリースト〈ファラリス〉7、シャーマン4、レンジャー2、シーフ1
オトフリート ソーサラー5、セージ5、ファイター2、レンジャー1
ベラトリクス ソーディアン6
ルクスンの全言語理解・完全版知識・聖なる右手などの特殊能力は継続。ベラトリクスの武器性能は変更ありません。新たなラーニング魔法の取得、能力値上昇はありません。
町へ入って最初に気づいたのは、音だった。
槌が鉄を打つ。
少し離れた場所で、別の槌が答える。
鋸を引く音が混じり、荷車が石畳を軋ませていく。戸口で男が板を削り、その足元には薄い木屑が丸まっていた。
エレミアの熱い風に、炭と木と、油の匂いが重なっている。
僕は歩きながら、工房の開いた戸口を覗いた。
壁に吊るされた刃物。
大きさの揃った金具。
作りかけの車輪。
奥では、職人が赤くなった鉄を挟んでいた。
「前」
ノクティアに袖を引かれ、僕は慌てて道を空けた。
長い材木が、鼻の先を通り過ぎる。
前後を二人で担いだ男たちは、こちらを見る余裕もなく歩いていった。
「危なかった」
「三軒目」
「何が?」
「覗いて、止まりかけた店」
数えられていたらしい。
僕は道の端へ寄った。
それでも、目は自然と次の工房へ向いた。
*
宿を決め、荷物を置いた後、僕らは修理先を尋ねた。
外套の裂け目は、自分で縫った。
しかし、盾の縁に残った歪みは、針と糸では直らない。
ジャイアントゾンビの腕を流した時についたものだ。使えないほどではないが、留め具にも無理がかかっていないか、調べてもらいたかった。
宿の主人が教えた工房は、大通りから一本入った場所にあった。
看板が古い。
戸は開いている。
だが、表には客がいなかった。
さっき歩いた通りでは、職人が客を待たせ、客が職人へ納期を尋ねていた。
ここには、その声がない。
代わりに奥から、一定の間隔で槌の音が聞こえた。
「すみません」
声を掛けると、音が止まった。
しばらくして、一人の職人が出てきた。
袖を捲り、革の前掛けをつけている。煤のついた顔で僕らを見て、それから盾へ目を落とした。
「修理か」
「縁と、留め具を見てほしくて」
「置いてくれ」
示された台へ盾を載せる。
職人は、まず表を見た。
裏返し、革帯を引き、金具の根元へ指を当てる。
僕らには、何も尋ねなかった。
しばらく確かめてから、ようやく顔を上げた。
「でかいものを受けたな」
「ええ、まあ」
「次は、もう少し上手く逃がせ。ここを握った手首まで持っていかれるぞ」
返す言葉がない。
僕は素直に頷いた。
ベラが腰元で何か言いたそうにしたので、柄へ指を置いておいた。
*
「直せますか?」
「直せる。縁を戻して、留め具を締め直す。革はまだ使えるが、傷んだところは見ておく」
返事は早かった。
買い替えろとも、全部交換しろとも言わない。
職人は修理の内容と代金を伝え、僕の返事を待った。
「お願いします」
頼むと、彼は盾を奥へ運んだ。
僕らは邪魔にならない場所で待つことにした。
壁には、剣が一本飾ってあった。
派手な宝石はない。
それでも、柄から切っ先まで目を走らせると、姿が整っているのがわかる。
その下の棚には、鍋の取っ手や戸の蝶番、輪になった金具が並んでいた。
こちらは飾りではない。
同じ形のものが、幾つも揃えて置かれている。
僕が見ていると、職人が言った。
「上の剣なら、売り物じゃない」
「ああ、いえ。下の金具を」
彼の手が、一瞬止まった。
「そっちか」
「同じ形が、きれいに揃ってるなと思って」
「揃わなきゃ、取り付ける奴が困る」
当然だろう、という口調だった。
確かに当然だ。
ただ、その当然を全部で守るには、手間がかかる。
僕は棚へ顔を近づけた。
穴の位置。
厚み。
曲げた部分の角度。
見比べても、大きな違いはわからなかった。
「これ、何に使うんです?」
「荷車の部品だ。替えを作っておけば、壊れた時に一から合わせずに済む」
僕は頷いた。
その時、不意に、坑道で見た壊れた巻上げ設備を思い出した。
金具が残っていても、軸がなければ動かない。
軸があっても、取り付ける枠と合わなければ使えない。
物を動かす仕掛けは、強い部品を一つ作れば済むものではなかった。
*
オトフリートも、棚を見ていた。
「数を揃えて作る仕事も、請け負っているのですか」
「図と寸法があればな。現物があるなら、そっちの方が話は早い」
「新しく仕掛けを作る場合は?」
「何を動かす。どこへつける。どれだけ力がかかる。それを聞かんと答えられん」
職人は盾へ目を戻した。
槌が鳴る。
僕は、その音を聞きながら考えた。
図と寸法。
何を動かすか。
どれだけ力がかかるか。
僕の荷物には、古代王国の技術が記された本がある。
文字は読める。
描かれた線も、見える。
けれど、その線を鉄へ変えるには、こういう人が必要なのだ。
「何か、作るつもりか」
職人に尋ねられ、僕は顔を上げた。
「まだ、考えているところです」
「なら、考えがまとまってから持ってこい。できるかどうかは、それからだ」
断られたようで、断られてはいなかった。
僕は、そのことを覚えておこうと思った。
*
修理が終わるまでの間に、一人の客が来た。
戸口へ立った男は、壁の剣を見た後、奥の職人へ尋ねた。
「先代の品は、まだ残ってないか」
「売り物は、もうない」
「そうか。知り合いが探していてな」
「新しく打つなら、相談には乗れる」
男は曖昧に笑った。
「いや、銘が欲しいんだ。また寄る」
それだけ言って、出ていった。
職人は追わなかった。
盾を持ち上げ、明かりへ透かすように縁を確かめる。
オトフリートが、壁の剣へ目を向けた。
「あれが、先代の作品なのですね」
「ああ」
「こちらを継がれたのですか」
「炉も、道具も、仕事もな」
少し間があった。
「客は、ついてこなかったが」
職人は、直した盾を僕へ渡した。
僕は革帯へ腕を通した。
握る。
傾ける。
手元が、しっくりした。
縁の歪みだけではない。緩んでいた部分が締まり、盾を動かした時の余計な遊びがなくなっていた。
「どうだ」
「いいです。握りやすくなった」
「なら、持っていけ」
僕は代金を払った。
壁の剣ではなく、今、自分の腕にある盾を見ながら。
*
工房を出ても、僕はすぐには歩き出さなかった。
通りの向こうでは、荷車が動いている。
職人の打つ槌が、あちこちで鳴っていた。
「気になる?」
ノクティアが尋ねた。
「うん」
「剣?」
「金具の方」
腰でベラが、満足そうな声を出した。
「よい心掛けじゃ」
そういう意味ではない。
僕はオトフリートを見た。
「塔の建造書にある設備、ああいう職人に造ってもらう部分もあるよね」
「もちろんです。魔法を働かせるためのものでも、土台や支持具まで、すべて魔法で済ませる必要はありません」
「船なら、なおさらか」
口にすると、オトフリートの目がこちらへ向いた。
「船?」
僕は空を見た。
建物の間に、青い空がある。
そこを、雲の影がゆっくり通っていた。
「空を飛ぶ塔のこと、考えてたんだけど」
「ええ」
「移動して、荷物を運んで、僕らが暮らすなら……船を土台に考えた方が、職人にも相談しやすいかなって」
塔の技術を使う。
けれど、造るものまで塔と同じ形である必要はない。
船なら、人も荷物も載せる。
長く旅をするための備えもある。
船大工なら、僕が思いついていないことを、幾つも知っているはずだった。
ゼフィーリアが尋ねた。
「水の上を進む船を、空へ?」
「うん」
「寝る場所はありますね?」
最初の質問が、それだった。
「造れば」
「では、検討する価値はあります」
ノクティアも空を見た。
「上から道を選べる」
「関所もないぞ、主よ」
ベラの声に、僕は笑った。
つい先日まで、それで苦労していたばかりだ。
*
オトフリートだけは、少し難しい顔をしていた。
「ルクスン。建造書に、空飛ぶ船の造り方が載っているわけではありませんよ」
「わかってる」
「船体を浮かせたとして、動かし、曲げ、止める方法も考えなければなりません」
「うん。だから、相談する相手が欲しい」
彼は工房を振り返った。
奥から、また槌の音が聞こえていた。
「……確かに。エレミアにいる間に、聞けることはありそうですね」
僕は頷いた。
オランへ行く目的は変わらない。
魔術について、もっと知る必要がある。
しかし、その知識を使って物を造る人との縁は、ここで結べるかもしれなかった。
「まず、船大工を探そう」
僕が言うと、ノクティアは宿のある方を指した。
「聞くなら、主人に」
「そうだね」
「今度は、材木にぶつからないで」
僕は前を見た。
ちょうど、長い板を担いだ男が歩いてくるところだった。
全員で道を空ける。
板が通り過ぎた後、僕はその木目を目で追った。
ああいう板と、あの工房の金具。
それに、エピタフから持ち帰った知識。
まだ、何もつながっていない。
それでも、さっきまでより、少しだけ形を想像できる気がした。
僕らが一緒に乗る船。
誰かの許しを待たず、行きたい場所へ向かう船。
その船はまだ紙の上にもなかったが、職人の町には、造るための音が満ちていた。