アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
現在の設定を反映した**「転生直後(初期ルクスン)」**は以下のとおりです。
⸻
ルクスン(初期)
基本情報
項目 内容
名前 ルクスン
前世 八坂 鷹(18歳・高校生)
出身 現代日本
転生先 フォーセリア世界・アレクラスト大陸
開始地点 ロマール闘技場・死体置き場
身分 奴隷(ロマールでは蛮族扱い)
⸻
能力値
能力 値
器用度 16
敏捷度 19
知力 17
筋力 19
生命力 19
精神力 13
⸻
初期技能
技能 レベル
ファイター 2
レンジャー 2
※セージ技能は取得不可。
※プリースト〈創造神〉は未取得。
※ルーンマスター〈ラーニング〉は未取得。
⸻
特殊能力
《ソード・ワールド完全版の知識》
転生前に『ソード・ワールドRPG完全版』を熟読していた知識。
内容
* モンスターデータ
* 魔法
* アイテム
* 国家
* 地理
* 神話
* 歴史
* 原作シナリオ
* ダンジョン
* 冒険者技能
* 判定ルール
などを把握している。
特徴
* セージ技能ではない
* 経験点で成長しない
* 冒険者レベルに加算しない
* セージ技能は取得できない
* 現実との差異は現地確認が必要
⸻
《聖属性の右手》
創造神を殴ったことで宿った特殊能力。
効果
* 右手限定
* 打撃力 50
* 聖属性
* アンデッドに極めて有効
注意
* 命中は通常どおり判定
* 右手で攻撃できる状況を作る必要がある
* 冒険者技能ではない
⸻
《常時センス・オーラ》
常時発動している感知能力。
* 詠唱不要
* 精神力消費なし
* 精霊力を感知
* 精霊の存在を知覚
* 任意解除不可
※シャーマン技能ではない。
⸻
《常時センス・マジック》
常時発動している感知能力。
* 詠唱不要
* 精神力消費なし
* 魔力を感知
* 魔法の品を感知
* 魔法陣や魔力反応を知覚
* 任意解除不可
※ソーサラー技能ではない。
⸻
未取得技能
転生直後は取得していない。
* プリースト〈創造神〉
* ルーンマスター〈ラーニング〉
* セージ
⸻
後に取得する能力
プリースト〈創造神〉
創造神との再会後に習得。
* 経験点ではなく創造神から与えられる
* 《コントロール・ダイス》などを使用可能になる
⸻
ルーンマスター〈ラーニング〉
創造神との再会後に解禁。
* ラーニングした魔法を使用するための技能
* 魔法は敵からラーニング、または学習して覚える
* 技能レベルは精神力消費軽減にも影響する
⸻
初期装備
転生直後は何も持っていません。
* 武器なし
* 防具なし
* 所持金なし
* 食料なし
* 信用なし
* 身分なし
闘技場の死体置き場から生き延びるところが物語の始まりです。
⸻
初期ルクスンの特徴
強み
* ファイター2・レンジャー2の戦闘能力
* 『ソード・ワールド完全版』の膨大な知識
* 常時センス・オーラ
* 常時センス・マジック
* 聖属性・打撃力50の右手
* 死を恐れるからこその高い生存意識
弱み
* 奴隷という最下層の身分
* 装備・資金・仲間がない
* 知識どおりに世界が動くとは限らない
* プリースト、ルーンマスターはまだ使えない
* 魔法技能を持たない
* 権力も社会的信用もない
この時点のルクスンは、「世界を知り尽くしている高校生が、何も持たない奴隷として本物のフォーセリアで生き残ろうとする」という状態から物語を開始します。
臭い。
最初に意識したのは、鼻の奥へこびりつくような悪臭だった。
血、汗、汚物。それらが湿った地下の空気と混ざり合い、吐き気を催すほど濃く淀んでいる。
次に感じたのは、背中へ伝わる石床の冷たさ。
胸と左脚には、何か重いものが載っていた。
ルクスンは呻きながら目を開けた。
暗い。
天井近くに設けられた小窓から、細い光が差し込んでいる。それだけでは、部屋の全体までは見渡せない。
それなのに、ルクスンには周囲の様子がある程度分かった。
石壁や床の温度差が、ぼんやりとした濃淡となって視界へ浮かんでいる。
「暗闇でも見える……インフラビジョン?」
呟いた自分の声が、石造りの部屋へ反響する。
胸に載っていたものを押しのける。
人間の腕だった。
「うわっ!」
ルクスンは慌てて身を起こした。
周囲には、何人もの死体が積み重ねられている。
筋骨隆々とした大男。痩せ細った老人。獣の毛皮をまとった戦士。まだ少年と呼べそうな者もいる。
どの身体にも、無数の傷が刻まれていた。
剣による裂傷。
鈍器で殴られた痕。
獣に食いちぎられたような傷。
ルクスン自身の身体にも、乾いた血と砂がこびりついている。首には粗末な鉄輪がはめられ、切れた鎖が短く垂れていた。
夢ではない。
死後の幻でもない。
湿った空気も、肌に触れる冷たさも、肺へ入り込む腐臭も、嫌になるほど現実だった。
脳裏に、黄金色のハムスターが浮かぶ。
『もう決まったことだから、諦めて』
「ふっざけんな! やり直しだ、ボケぇぇぇぇ!」
反射的に叫んだ。
声が地下室の奥まで響いていく。
直後。
視界の端で、黄色い何かが揺れた。
光ではない。
石壁の向こうから染み出すような、濁った黄色のオーラ。
一つ。
二つ。
三つ。
動かない死体の間から、次々と浮かび上がる。
ルクスンの頭に、存在しないゲームマスターの声が響いた。
『ルクスンは《センス・オーラ》によって、黄色い負の精霊力を感知しました』
「黄色い負の精霊力……アンデッド!?」
闇の中で、何かが身を起こした。
人間に似ている。
しかし、生者ではない。
腐敗した皮膚が骨へ張りつき、裂けた口から濁った息を吐いている。指先から伸びる爪が、石床を引っかいた。
死体の一つだと思っていたものが、ゆっくりとこちらを向く。
完全版の知識が、その正体を導き出した。
「グール……!」
見覚えがある。
もちろん、実物を見るのは初めてだ。
ルールブックの挿絵とデータで知っているだけである。
ゲームでは低レベルの冒険者が戦うこともあるアンデッド。しかし、武器も防具もない状態で遭遇してよい相手ではない。
攻撃を受ければ痛い。
傷を負えば血が出る。
生命力が尽きれば、本当に死ぬ。
この世界にセーブもロードもないことだけは、嫌というほど理解していた。
「待て。僕は死体じゃない。食べても美味しくないぞ。話し合おう。お互い、知性ある存在として――」
グールが床を蹴った。
「話を聞け!」
腐った爪が、ルクスンの顔へ伸びる。
考えるより先に身体が動いた。
左へ半歩ずれ、頭を振って爪をかわす。完全には避けきれず、頬へ熱い痛みが走った。
浅い。
だが、本物の痛みだった。
「痛っ……!」
恐怖で身体が硬直しかける。
グールが口を開いた。
黄色い歯が並んでいる。
噛まれる。
そう理解した瞬間、ルクスンの右拳が熱を帯びた。
創造神を殴った拳。
転生の瞬間から宿っていた、聖属性の右手。
ルクスンは腰を落とし、グールの胸へ右の正拳突きを叩き込んだ。
「このっ――!」
拳が命中した。
白い光が炸裂する。
グールの身体が、冗談のような勢いで後方へ吹き飛んだ。
壁へ激突し、石室全体を震わせる。
黄色い負の精霊のオーラが激しく揺らぎ、弾けるように消滅した。
グールは起き上がらない。
ルクスンは、自分の右拳を見た。
「打撃力50……本当に?」
拳そのものに傷はない。
先ほどまで感じていた熱も消えている。
アンデッドに対してのみ、異常な威力を発揮する右手。どうやら創造神を殴った代償か、副作用か、あるいは悪趣味な贈り物らしい。
「当たりさえすれば倒せる。それなら――」
言葉が止まった。
地下室の奥。
黄色いオーラが、さらに増えていた。
五つ。
八つ。
十――。
「ちょっと待て」
死体の山が崩れる。
その下から、別のグールが這い出してきた。
壁際に開いた暗い通路からも、黄色い負の精霊力が近づいている。
先ほどの叫びと戦闘音を聞きつけ、地下に潜んでいたアンデッドが集まってきたのだ。
『グールの群れが現れました』
「数を数えるな! 知りたくなかった!」
右拳なら倒せる。
しかし、自動的に命中するわけではない。
一体を殴っている間に、横や後ろから噛みつかれれば終わる。防具も盾もない。逃げ場のない部屋で包囲されれば、打撃力50など何の役にも立たない。
ルクスンは周囲を見回した。
石壁。
閉ざされた扉。
死体の山。
そして、部屋の隅から中央へ続く、深い排水溝。
闘技場の血や汚物を洗い流すためのものらしく、人間一人なら這って進めそうな幅がある。鉄格子はなく、暗い穴が奥へ続いていた。
「今度は、あれか!」
グールが二体、同時に迫る。
ルクスンは死体の山を回り込み、間に障害物を挟んだ。一体の爪が死体へ引っかかり、もう一体とぶつかる。
その隙に走った。
排水溝へ飛び込み、石の縁で肩を強く打つ。
「痛いっ!」
呻いている暇はない。
手と膝を使い、狭い水路を前へ進む。
背後で、グールの唸り声が響いた。
振り返らなくても分かる。
黄色い負の精霊のオーラが、排水溝の入口へ集まっている。
しかも、一つが中へ入ってきた。
「追ってくるのかよ!」
排水溝は低く、立ち上がれない。
右拳を振るう空間もない。
ルクスンは四つん這いになり、必死に進んだ。
膝が擦れる。
手のひらが切れる。
狭い水路の中へ、自分の荒い呼吸と、背後から迫る爪の音が反響する。
『グールとの距離が縮まっています』
「分かってる! 脳内で実況するな!」
水路は少しずつ下っている。
前方から、水の流れる音が聞こえた。
同時に、湿った空気の中から微かな精霊力を感じる。
水だ。
水の精霊が存在している。
この先に、広い場所があるかもしれない。
ルクスンは痛む手足を動かし、さらに速度を上げた。
そのとき。
右手をついた石板が、ぐらりと沈んだ。
「え?」
嫌な音がした。
水路の底に亀裂が走る。
『足元が崩れます。回避判定を――』
「シーフ技能はない!」
石床が抜けた。
ルクスンの身体が、瓦礫とともに暗闇へ投げ出される。
背後まで迫っていたグールの黄色いオーラが、急速に遠ざかっていった。
「こういう落とし穴は、見つけて回避するものだろぉぉぉ!」
絶叫しながら落下する。
やがて背中から硬い床へ叩きつけられ、肺の空気が一気に押し出された。
「がっ……!」
しばらく息ができなかった。
全身が痛む。
それでも、生きている。
ルクスンは咳き込みながら上半身を起こした。
崩れた穴は、頭上のはるか高い位置にある。
グールの黄色いオーラは見えない。追ってくる気配もなかった。
代わりに、ルクスンの前には、地下の排水設備とは明らかに異なる光景が広がっていた。
継ぎ目なく組まれた石壁。
幾何学模様が刻まれた床。
崩れかけてなお精緻さを失わない柱。
そして、長い年月を経ても消えずに残る、微かな魔力。
ロマールの闘技場より、はるか昔に造られた場所。
「古代遺跡……?」
完全版の知識が警告する。
アレクラストの古代遺跡は、初心者へ都合よく宝物を与える場所ではない。
危険な魔法。
解除不能の罠。
魔法生物。
そして、古代王国が滅びた後も残り続ける怪物。
ルクスンは頭上の穴を見上げた。
戻れない。
目の前には、暗い通路が一本だけ続いている。
「死体置き場から逃げたら、帰還不能の古代遺跡に落ちたんだけど……」
返事はない。
グールの唸り声も、もう聞こえない。
ルクスンは傷ついた右手を握り、暗闇の奥を見つめた。
「これ、本当に第一話の難易度か?」
こうしてルクスンは、出口のない古代遺跡へ足を踏み入れることになった。