アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

22 / 22
第22話 “混沌の国”ファンドリア

 国境を越えても、すぐに緊張が解けたわけではなかった。

 

 ルクスンたちは何度も後方を確認しながら、ファンドリア領内の街道を進んだ。

 

 ヴァルネス家の騎士たちは国境を越えてこない。

 

 ファンドリアは決して安全な国ではない。しかし、ロマールの貴族が私兵を送り込み、好き勝手に暗殺できる土地でもなかった。

 

 この国にはこの国の王権がある。

 

 貴族、商人、傭兵、盗賊ギルド、暗殺者組織、ファラリス神殿。それぞれが独自の利害と規則によって動いている。

 

 秩序が存在しないのではない。

 

 複数の秩序が絡まり合い、互いを利用し、牽制し、ときに争っている。

 

 それゆえの“混沌の国”である。

 

「逃げ切った、と考えていいのか?」

 

 ルクスンの問いに、ノクティアは首を横へ振った。

 

「ヴァルネス家が諦めたとは限らない。だが、同じ方法では追ってこられない」

 

「暗殺者組織の方は?」

 

「依頼の内容を調べるまで追跡を止めると言った。約束を守る保証はないが、すぐに次を送ってくることはないと思う」

 

「つまり、一時的には安全?」

 

「ファンドリア国内で、新しい敵を増やさなければ」

 

 馬車の屋根にいた黒猫が、ルクスンへ視線を向けた。

 

「何だよ。その条件を僕が最初に破ると思ってるのか?」

 

 黒猫は迷わずうなずいた。

 

「否定しろよ!」

 

 妖姫殺しも鞘の中から口を挟む。

 

「主は行く先々で厄介事を拾うからのぉ。妾も拾われた厄介事の一つじゃ!」

 

「自覚があるなら静かにしてくれ」

 

          ◇

 

 夕刻、一行は湖へ続く水路沿いの町へ到着した。

 

 港には漁船と商船が並び、小舟が水路を使って荷物を運んでいる。

 

 市場では魚、穀物、塩、木材が売られていた。

 

 労働を終えた港湾労働者。

 

 網を修理する漁師。

 

 商品の値段を巡って口論する商人。

 

 荷車の間を走り回る子供たち。

 

 その向こうには傭兵らしい武装集団が立ち、暗黒神の紋章を隠そうともしない者も歩いている。

 

 ルクスンは、この国のことを知識として知っていた。

 

 ファンドリアは旧ファン王国の系譜を引き、オーファンと同じ歴史から分かれた国家。

 

 湖と水運によって栄え、王権と裏社会、盗賊ギルド、暗殺者組織、ファラリス神殿が複雑に絡み合う“混沌の国”。

 

 国民全員が悪人なのではない。

 

 漁民も農民も職人も、日々の暮らしを営んでいる。

 

 ワールドガイドには、そう書かれていた。

 

 だが紙面からは、魚と水の匂いも、船頭の怒鳴り声も、石畳を濡らす水しぶきも伝わってこなかった。

 

「これが“混沌の国”ファンドリアか」

 

 ルクスンが呟いた。

 

 オトフリートが振り返る。

 

「ファンドリアについてご存じだったのですか?」

 

「知識だけは。旧ファン王国の系譜を引いていて、オーファンとは同根。湖と水運で栄えているけど、王権と裏組織とファラリス神殿の距離が近い。歴代の王を巡る物騒な話も多い」

 

「概ね間違っていません。どこで学んだのです?」

 

「ワールドガイド」

 

「何という書物です?」

 

「この世界では、たぶん存在しない本です」

 

「また説明できない知識ですか」

 

「そういうことにしてください。知識として読むのと、実際に見るのとでは全然違うな……」

 

 黒猫となったゼフィーリアが、港の一角へ顔を向けた。

 

 そこにはファラリスの紋章を掲げた建物がある。

 

「ゼフィーリアにとっては、ほかの国より暮らしやすいかもしれないな」

 

「ゼフィーリア?」

 

 オトフリートが黒猫を見る。

 

 ルクスンは動きを止めた。

 

 ノクティアも黒猫を見た。

 

 当の黒猫だけが、何食わぬ顔で前足を舐めている。

 

「……猫の名前です」

 

「初めて聞きました」

 

「いろいろ事情があるんです。そのうち話します」

 

「喋る短剣より複雑な事情ですか?」

 

「同じくらい面倒です」

 

「聞くのが怖くなってきました」

 

 黒猫が不満そうに尾を振った。

 

          ◇

 

 宿へ入る前に、オトフリートは馬車を止めた。

 

「ここで当初の同行は終了です。僕は魔術師ギルドへ遊学の手続きを行い、今後の旅程を整えます」

 

 ルクスンはオトフリートを見る。

 

 依頼人として出会ったが、護衛料を巡る話は出発前に消滅した。

 

 それでも彼は家名と馬車を提供し、追っ手との戦いでは古代語魔法を使った。

 

 ルクスンたちだけでは、ロマールから無事に脱出できなかった可能性が高い。

 

「オトフリート。同行はここまでだけど、提案があります」

 

「何でしょう?」

 

「魔術師ギルドが管理しているストーンサークル群。その一つに、未発見の古代王国遺跡が隠されている」

 

「考えている、ではなく断言するのですね」

 

「場所も内部の構造も、だいたい知ってる。ただし、どうして知っているかは説明できない」

 

「いつもの説明できない知識ですか」

 

「はい」

 

 オトフリートは眼鏡の位置を直した。

 

「なぜ魔術師ギルドへ報告するのです? 秘密裏に攻略すれば、発見物を独占できるでしょう」

 

「地上にあるストーンサークルは魔術師ギルドの管理物です。勝手に地下へ入れば、不法侵入か盗掘扱いされる。遺跡の中身を持ち帰れても、ギルドの信用を失ったら意味がない」

 

「信用が必要なのですか?」

 

「これから先、もっと大きな遺跡を攻略する。魔術師ギルドの協力も欲しい。それに、いつか魔力の塔を造る」

 

 オトフリートが沈黙した。

 

「いま、魔力の塔と?」

 

「最終的には空を飛ばす」

 

「話が急に大きくなりましたね」

 

「必要なのは資金、実力、信用、職人、魔術師。その第一歩が《銀の冠》だ」

 

「銀の冠?」

 

「石化を無効にするマジックアイテム。基本取引価格は十万ガメル相当」

 

「なぜ価格まで知っているのです?」

 

「説明できない知識です!」

 

 黒猫が馬車の屋根で前足を顔へ当てた。

 

 ノクティアも無言で首を横へ振っている。

 

「とにかく、遺跡を発見するには魔術師ギルドとの交渉が必要だ。僕らにはギルドの信用がない。オトフリートには家名と古代語魔法の知識がある」

 

「代わりに、あなた方には遺跡を攻略する力がある」

 

「そういうこと。今度は依頼人と護衛じゃない。発見物を山分けする、対等な仲間として一緒に来ませんか?」

 

 オトフリートはすぐには答えなかった。

 

「遺跡には、どのような危険があるのです?」

 

「入口にボーン・ゴーレムが二体。途中にオブシディアン・ドッグ。鏡の張り巡らされた部屋にはメデューサがいる。資料室の手前には、スモール・アイアン・ゴーレム」

 

「……最後だけ、明らかに危険度が違いませんか?」

 

「正面から戦うつもりはない」

 

「勝算は?」

 

「八坂鷹だった頃に、仲間と一度攻略してる」

 

「ヤサカヨウ?」

 

「忘れてください」

 

「無理です」

 

 ルクスンは強引に話を戻した。

 

「銀の冠を手に入れれば、十万ガメル相当の資産になる。資料室から古代王国の文献も回収できる。ギルドにとっても悪い話ではない」

 

「魔術師として、未発見の古代王国遺跡には興味があります。ただし、魔術師ギルドへ無断で侵入することには反対します。発見物の所有権も、攻略前に文書で確定させます」

 

「決まりだな」

 

「まだ条件があります。遺跡が存在しなかった場合は?」

 

「僕が謝る」

 

「それだけですか?」

 

「全財産から夕食を奢る」

 

「残金はいくらです?」

 

「三千五百六十ガメル」

 

「十万ガメルの魔法の品を探す一行の資金とは思えませんね」

 

「だから取りに行くんだよ!」

 

 こうしてオトフリートは、依頼人ではなく仲間として一行へ加わった。

 

 翌日。

 

 ルクスンたちはファンドリアの魔術師ギルドを訪れ、《銀の冠》の遺跡に関する最初の交渉を始める。

 




章末・獲得経験点

ロマール脱出行において、騎士級の追っ手を退け、暗殺者組織との交渉を成立させ、全員でファンドリアへ到達した。

追っ手はモンスターレベル4~5相当として扱う。

キャラクター 獲得経験点
ルクスン 2000点
ノクティア 2000点
ゼフィーリア 2000点
オトフリート 2000点
妖姫殺し 2000点

この時点では技能成長を行わず、次章冒頭の成長報告で配分する。

章末・収支表

内容 収入 支出
前章からの繰越 9000ガメル ―
一行の装備更新費 ― 4800ガメル
ロマール出発前の生活費・宿代 ― 80ガメル
七日間の生活費・宿代ルクスン、ノクティア各40ガメル×7日 ― 560ガメル
オトフリートからの護衛料 0ガメル ―
敵からの戦利品 0ガメル ―
合計 9000ガメル 5440ガメル
次章への繰越 3560ガメル ―

オトフリートは自分の旅費と生活費を自費で負担。ゼフィーリアは動物形態を利用し、妖姫殺しは食事と宿を必要としないため、共同資金からの生活費は発生していない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

アルカンフェル転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:強殖装甲ガイバー)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼気が付くとアルカンフェルに転生していた▼お仕置きビリビリは嫌だが、巨大小惑星の衝突は回避しないと地球丸ごと死ぬとか草。▼原作開始まで何万年?忘れない様に石板に覚えてる原作内容を書き込んでおこう。気が付いたら眠りの神殿に石板が…


総合評価:3424/評価:8.44/連載:90話/更新日時:2026年08月04日(火) 17:00 小説情報

トローラ・ロージン転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:ファイブスター物語)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼星団暦2988年、アドラー。▼ユーバー・バラダに雇われた傭兵騎士トローラ・ロージンは、目覚めた瞬間に自分が「もう詰んでいる」ことを悟る。▼視界いっぱいに迫る黄金の電気騎士、K.O.G.。▼本来ならここでトローラは、MHバルン…


総合評価:2451/評価:8.79/連載:47話/更新日時:2026年08月04日(火) 18:00 小説情報

CyberPunk: EDGE CASE(作者:エネーロ)(原作:Cyberpunk2077)

目が覚めたらそこは最悪の街だったーーー▼ふと気づくと2020年代のナイト・シティ。▼体は時代錯誤(2077)のクロームまみれ。能力はMOD基準。▼企業にバレたら実験動物よろしく解剖コース。▼生き残る道を探しながら、ジョニー達と関わっていくことになる奮闘劇。▼本作品は設定作成、本文一部にAIを利用しています。▼


総合評価:3333/評価:8.87/連載:28話/更新日時:2026年07月30日(木) 00:00 小説情報

銀河腐れ伝説(作者:ウヅキ)(原作:銀河英雄伝説)

キガ ツク トワ タシ ハギ ンガ テイ コク ノキ ゾク ニナ ッテ イタ▼ソレ デモ ワタ シハ カツ テノ ユメ ヲワ スレ ナイ▼今更ながら原作キャラの血縁者に生まれたオリジナルキャラクターを主人公に、銀河英雄伝説の二次創作に挑戦してみました。クロスオーバー作品ですが片割れはほぼ出番がありません。▼本作品はらいとすたっふ規定(2015年改訂版)を遵守…


総合評価:5883/評価:8.79/連載:36話/更新日時:2026年08月05日(水) 05:26 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:3531/評価:9.03/連載:20話/更新日時:2026年07月31日(金) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>