アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第24話 黒猫の正体

 魔術師ギルドとの契約を終えた一行は、その足で宿へ戻った。

 

 部屋へ入るなり、ルクスンは窓の鎧戸を閉め、扉へ鍵をかける。

 

「オトフリート。これから見せるものについて、絶対に大声を出さないでください。剣も抜かない。攻撃魔法も禁止です」

 

「そこまで念を押されると、余計に不安になるのですが」

 

「喋る短剣より驚くかもしれません」

 

「妾より珍しいものなど、そうはあるまい!」

 

「お前は少し黙ってろ」

 

 ノクティアが寝台の上へ衣服と外套を並べた。

 

 黒猫となったゼフィーリアは、オトフリートを見つめている。

 

「まさか、その猫も喋るのですか?」

 

「猫の姿では喋れません。とにかく、剣を抜かないでください」

 

「話が見えません」

 

 ルクスンとノクティアは、オトフリートへ背を向けるよう指示した。

 

 黒猫の外皮が鷹の羽を思わせる形へ開き、《鷹の羽のマント》へ戻る。

 

 その内側から人間形態のゼフィーリアが現れた。

 

 ノクティアが外套を差し出し、ゼフィーリアは身体を覆う。

 

「もういい」

 

 ノクティアの声を聞き、オトフリートが振り返った。

 

 褐色の肌。

 

 銀色の長髪。

 

 人間より長く尖った耳。

 

 ゼフィーリアを見た瞬間、オトフリートの手が腰の剣へ動く。

 

「抜くなって言ったでしょう!」

 

「ダークエルフですよ!」

 

「知ってます!」

 

「知っていて同行させていたのですか?」

 

「だから隠してたんです!」

 

 ゼフィーリアは落ち着いて衣服を身につけた。

 

「改めて名乗りましょう。私はゼフィーリア。ターシャスの森に住むダークエルフ十二支族を束ねる、祭司の血統に生まれた者です」

 

 オトフリートの手は、まだ剣の柄にかかっている。

 

「ダークエルフは人間社会で妖魔として扱われます。正体を知られれば、問答無用で討伐されてもおかしくありません」

 

「ですから、黒猫の姿で同行しています」

 

「なぜルクスンたちと?」

 

「望まない結婚から逃げました。森の外で狩人の罠にかかっていたところを、ルクスンに助けられたのです」

 

「罠に?」

 

 ゼフィーリアの表情が僅かに険しくなる。

 

「動物の姿になれば、その動物の目や耳や鼻は使えます。しかし、野生の勘まで得られるわけではありません」

 

「狐の姿で、普通に罠へかかった」

 

 ルクスンが補足した。

 

「余計な説明は必要ありません」

 

「重要な出会いだから」

 

「私の失態です」

 

「罠にかかる間抜けな狐だと思って助けたら、裸のダークエルフが出てきた僕の気持ちも考えてほしい」

 

「裸?」

 

 オトフリートの声が低くなった。

 

「違います! 変身を解いたら服がなかっただけで、僕はすぐマントを貸しました!」

 

「主は顔を下へ向け、必死に見ないようにしておったぞ!」

 

「妖姫殺しは黙れ!」

 

 オトフリートは剣から手を離したものの、警戒を解いてはいなかった。

 

「祭司の血統と言いましたね。何を信仰しているのです?」

 

「ファラリスです」

 

 オトフリートの手が、再び剣へ戻った。

 

「だから抜くなって!」

 

「ダークエルフで、ファラリスの神官。それを先に言ってください!」

 

「先に言ったら、絶対に剣を抜いたでしょう!」

 

「今も抜くべきか迷っています!」

 

 ゼフィーリアはオトフリートを真っ直ぐ見た。

 

「ファラリスは、己の欲望と自由を肯定します。私は十二支族から与えられた地位も結婚も役目も望まなかった。だから捨てました。それが罪だと言うなら、剣を抜けばよいでしょう。ただし、私も抵抗します」

 

「話をややこしくするな!」

 

 ルクスンは二人の間へ立った。

 

「ゼフィーリアは、僕らと一緒に人狼から村を守った。追っ手から逃げるときも偵察してくれた。正体を隠しているのは、人間を襲うためじゃない。人間に殺されないためです」

 

「ファラリス神官であることに変わりはありません」

 

「オトフリートだって、ファンドリアについて知っているでしょう。ファラリスを信じているだけで全員を殺していたら、この国では歩けません。種族と信仰だけじゃなく、これまで何をしたかも見てください」

 

 オトフリートはしばらく黙っていた。

 

 最後に大きく息を吐き、剣から手を離す。

 

「今すぐ敵とは見なしません。ただし、正体を隠したまま魔術師ギルドへ連れていくのは危険です。発覚すれば、僕まで共犯者になります」

 

「分かっています。人間の前では動物の姿を保ちます」

 

「遺跡では?」

 

「人間形態へ戻ります。ルクスンが負傷した場合、私が神聖魔法で治療します」

 

「ファラリスの神官が治癒魔法を使えるのですか?」

 

 オトフリートが驚いた。

 

 ゼフィーリアが答えるより先に、ルクスンが口を開く。

 

「使えますよ。ダークプリーストだからって、傷つける魔法しか使えないわけじゃありません。《キュア・ウーンズ》による治療ができます」

 

「あなたは、暗黒神官の魔法まで知っているのですか?」

 

「完全版に載ってるから」

 

「その完全版とは、何なのです?」

 

「説明すると長いので、僕が知識だけは持っていると覚えてください」

 

 ゼフィーリアは外套の留め具を締めた。

 

「ファラリスは自由と欲望を肯定する神です。信徒を傷つけることしかできない神ではありません。仲間を生かしたいという私の意思を、否定する理由もありません」

 

「むしろ、僕らの中では一番強力な回復役なんだよなぁ」

 

「不満ですか?」

 

「助かるけど、ファラリス神官を生命線にしてゴーレムと殴り合う冒険者パーティって、字面がひどい」

 

「治療してほしくないのであれば、そう言ってください」

 

「ぜひお願いします!」

 

 オトフリートが額へ手を当てた。

 

「ほかにも隠していることは?」

 

 ルクスンはノクティアを見る。

 

 元暗殺者であることは説明済み。

 

 妖姫殺しは勝手に喋る。

 

 ゼフィーリアの正体と信仰も明かした。

 

「僕が逃亡奴隷だったことくらい?」

 

「初耳ですが」

 

「あれ? 言ってませんでした?」

 

「聞いていません!」

 

 オトフリートは椅子へ腰を下ろし、両手で顔を覆った。

 

「逃亡奴隷、元暗殺者、ファラリス神官のダークエルフ、喋って飛ぶ魔剣……僕は、とんでもない一行へ加わってしまったのでは?」

 

「気づくのが遅いのぉ」

 

「妖姫殺しが言うな!」

 

          ◇

 

 秘密を明かした後、一行は武具店へ向かった。

 

 遺跡前半では、現在の軽装を使う。

 

 罠や落とし穴を調べ、メデューサの鏡の間を突破するには、動きやすさを失うわけにはいかない。

 

 問題は、資料室の手前にいるスモール・アイアン・ゴーレムだった。

 

「鉄の身体を剣で斬っても効率が悪い。最後の戦闘だけ装備を替える」

 

 ルクスンは店内に並ぶ金属鎧を確認した。

 

 必要なのは、現在の筋力で扱える金属鎧。

 

 打撃武器であるメイス。

 

 そして守りを固めるラウンドシールド。

 

「鎧を着替える時間はあるのか?」

 

 ノクティアが尋ねた。

 

「メデューサの部屋とゴーレムの間に通路がある。そこで装備を替える。スモール・アイアン・ゴーレムは、資料室へ近づかなければ動かない」

 

「その情報も、八坂鷹だった頃の冒険から?」

 

「そう。起動させる前に、オトフリートから《エンチャント・ウェポン》と《プロテクション》をかけてもらう」

 

 オトフリートは、金属鎧を調べるルクスンを見た。

 

「前衛を一人で引き受けるつもりですか?」

 

「ゴーレムを自由に動かしたら、後ろの三人が危ない。僕がメイスと盾で押さえる。ノクティアは後ろから《ウィル・オー・ウィスプ》。オトフリートはゴーレムの攻撃範囲から外れ、《エネルギー・ボルト》で攻撃。ゼフィーリアは《キュア・ウーンズ》の準備をして待機する」

 

「長期戦になりますね」

 

「だから防御を優先する。魔法は必中だ。僕が倒れずに時間を稼げば、少しずつでも確実に削れる」

 

「抵抗されれば威力は減少します」

 

「それも承知してる。効かないわけじゃない」

 

 ルクスンは金属鎧を持ち上げた。

 

 ずしりと重い。

 

 これを着ている間は、盗賊や野伏のようには動けない。

 

 戦士として、正面からゴーレムを受け止めるためだけの装備だった。

 

「問題は値段だな」

 

 店主から示された金額を聞き、ルクスンの顔が引きつった。

 

 共同資金は三千五百六十ガメル。

 

 メイス、ラウンドシールド、金属鎧に加え、松明、油、ロープ、保存食、鏡を覆うための厚布も必要になる。

 

「十万ガメルを取りに行く前に破産しそうだ……」

 

「装備を買わずに死ぬよりよいでしょう」

 

「オトフリート、貴族なんだから貸してくれない?」

 

「発見物を山分けする、対等な仲間なのでしょう?」

 

「対等って厳しいな!」

 

 妖姫殺しが鞘の中から笑った。

 

「財宝を得るため、まず財を失う。冒険者とは因果な商売じゃのぉ」

 

 ルクスンは値札と残金を何度も見比べた。

 

 《銀の冠》への最初の障害は、メデューサでもゴーレムでもない。

 

 装備を揃えるための予算だった。

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