アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第25話 銀冠のダンジョン

 十万ガメル相当の《銀の冠》を手に入れるため、一行は三千五百六十ガメルの残金と睨み合っていた。

 

 ルクスンが欲しいのは、メイス、ラウンドシールド、金属鎧。

 

 さらに松明、油、ロープ、保存食、鏡を覆うための厚布も必要になる。

 

 すべて購入すれば、共同資金はほとんど残らない。

 

「金属鎧を買う必要はないのでは?」

 

 オトフリートが言った。

 

「でも、スモール・アイアン・ゴーレムを止めるには必要です。今の軽装で正面から殴り合ったら、回復が追いつかない」

 

「一度の戦闘にしか使わないのでしょう? ならば借りればよい」

 

「冒険者に鎧を貸してくれる店なんてあるんですか?」

 

「ここは“混沌の国”ファンドリアです。傭兵へ装備を貸し出す商人もいます。相応の保証を求められますが」

 

「保証って?」

 

「僕の家名を使います」

 

 ルクスンはオトフリートを見た。

 

「対等な仲間だから、金は貸してくれないんじゃ?」

 

「現金を贈るつもりはありません。僕の名義で装備を借りるだけです。返却できなければ、費用は発見物の売却益から差し引きます」

 

「なるほど。やっぱりインテリ魔術師は便利だな」

 

「便利という理由で仲間へ誘ったのですか?」

 

「それだけじゃないですよ。魔法も必中だし」

 

「否定になっていません」

 

          ◇

 

 オトフリートの家名と旅券を示すと、武具商は金属鎧の貸し出しに応じた。

 

 新品ではない。

 

 傭兵たちが何度も使った鎧を、体格に合わせて組み直したものだった。

 

 傷や凹みは残っているが、金属板も革紐も手入れされている。

 

 ルクスンは鎧を身につけ、その場で数歩歩いた。

 

「重い……」

 

「金属鎧なのだから当然だ」

 

 ノクティアが答えた。

 

「これじゃ、盗賊みたいな動きは無理だな」

 

「最後の戦闘だけ着るのだろう?」

 

「そうする。遺跡前半は今までの軽装。メデューサを倒した後、ゴーレムの手前で着替える」

 

 続いてメイスを握り、ラウンドシールドを構える。

 

 剣と小盾を使うときより動きは鈍る。

 

 しかし、鉄の塊を相手に防御戦をするなら、こちらの方が適している。

 

「妾を使えばよいではないか!」

 

 妖姫殺しが鞘の中から抗議した。

 

「お前はミスリル銀製だからゴーレムにも効く。でも僕がメイスと盾を持ったら、手が足りない」

 

「妾は自分で動けるぞ!」

 

「壁に刺さる程度の操縦技術で、格上のゴーレムへ突っ込むな。折れたらどうする」

 

「妾は魔法の剣じゃぞ!」

 

「壊れなくなるのは、もっと成長してからだろ」

 

 妖姫殺しが黙った。

 

 自分がまだ壊れる可能性を、完全版知識によって指摘されたからである。

 

「今回は周辺警戒。刃物の気配を探してくれればいい」

 

「ゴーレムは刃物を持っておるのか?」

 

「持ってない」

 

「妾の出番がないではないか!」

 

「メデューサ戦で頼るから!」

 

 妖姫殺しは不満そうだったが、ようやく鞘の中へ収まった。

 

 鎧は借用品。

 

 メイスとラウンドシールドも攻略後に返却する。

 

 オトフリートの信用を担保にしたため、その場で高額な保証金を支払わずに済んだ。共同資金から支払うのは貸出料と、松明や油、厚布など消耗品の費用だけである。

 

「壊した場合は?」

 

 ルクスンが尋ねる。

 

「買い取りです」

 

「死んでも鎧だけは持って帰ってね」

 

「死体から剥がしてでも返却する」

 

 ノクティアは真顔だった。

 

「もう少し悲しんでくれない?」

 

          ◇

 

 翌朝。

 

 一行はオトフリートの馬車で町を出た。

 

 魔術師ギルドから渡された調査許可証と契約書の写しも持っている。

 

 道中、ゼフィーリアは黒猫の姿でノクティアの隣に座っていた。

 

 町や街道から離れ、人目がないことを確認してから馬車の幌を閉じる。

 

 黒猫の外皮が鷹の羽を思わせるマントへ戻り、人間形態のゼフィーリアが現れた。

 

 用意していた衣服を身につけ、銀色の髪を外套の内側へ収める。

 

 オトフリートは、その一部始終を見ないよう御者台で前を向いていた。

 

「いちいち人間の姿を挟まなければ、別の動物にはなれないのですか?」

 

「そうです。黒猫から狐へ直接変わることはできません」

 

「不便ですね」

 

「あなたの古代語魔法にも、発動体や鎧の制限があるでしょう。それと同じです」

 

「なるほど。魔法の力には、それぞれ条件がある」

 

 オトフリートは納得した。

 

 ルクスンだけは、ゼフィーリアの能力を魔法の分類へ当てはめようとはしなかった。

 

 鷹の羽のマントは、完全版へ記載された通常の魔法とは異なる。彼の知識にもない、ゼフィーリア固有の力だったからである。

 

          ◇

 

 ストーンサークル群へ到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 

 緩やかな丘陵に、いくつもの環状列石が点在している。

 

 大きさも石の数も、それぞれ異なっていた。

 

 風雨に晒された石の表面には苔が生え、一見しただけでは古代王国の魔法施設には見えない。

 

 管理小屋にいた魔術師ギルドの老人が、調査許可証を確認した。

 

「好きに調べるといい。ただし、石を倒したり削ったりするな。これまで何十人もの魔術師が調べたが、地下への入口など見つからなかった。日が暮れる前に戻らなければ、野営することになるぞ」

 

「ご忠告どうも」

 

 老人は本当に何もないと思っている。

 

 一行が魔物に襲われる可能性すら考えていないのだろう。

 

 管理小屋へ戻っていく老人を見送り、オトフリートが尋ねる。

 

「どのストーンサークルです?」

 

「あれです」

 

 ルクスンは迷わず、一基の環状列石を指した。

 

「調べる必要は?」

 

「入口の開き方を確認する必要はある。でも場所は間違いない」

 

 一行は指定されたストーンサークルへ入った。

 

 円形に並ぶ石柱。

 

 中央には、平らな石盤が埋め込まれている。

 

 ルクスンには、その配置が懐かしかった。

 

 八坂鷹だった頃、方眼紙へ描かれた簡単な図を仲間たちと囲んだ。

 

 石の数。

 

 刻まれた記号。

 

 影の向き。

 

 現在の季節と月の位置を合わせ、地下への入口を開く仕掛け。

 

「あー、この仕掛けだ。暦の読み方を間違えて、ゲーム内で一日待ったんだよなぁ」

 

「ゲーム内?」

 

 オトフリートが聞き返す。

 

「独り言です」

 

 ルクスンは石柱へ手を触れた。

 

 常時働いているセンス・マジックが、僅かな魔力を感じ取る。

 

 地上の石柱だけではない。

 

 魔力の流れは地中へ続いている。

 

「間違いない。地下に魔法施設がある」

 

 オトフリートも杖を使い、魔力の存在を探った。

 

 表面の石柱に残る魔力は微弱だったが、中央の石盤の下からは、よりはっきりした反応がある。

 

「本当に……ある?」

 

「だから言ったでしょう」

 

 石柱には、古代王国の暦に使われた記号が刻まれている。

 

 オトフリートが記号を読み取り、現在の日付と天体の位置を計算した。

 

 ルクスンは完全版知識と、かつてのセッションの記憶を照らし合わせる。

 

「この三本を順番に押す。季節、月、今日の日付」

 

「罠の可能性は?」

 

 ノクティアが尋ねた。

 

「入口にはない。罠は地下へ入ってから」

 

「信用していいのか?」

 

「昔は、これで開いた」

 

「昔というのが、どれほど昔か分からない」

 

「僕も説明できない!」

 

 ルクスンが一つ目の石を押した。

 

 低い音が地中から響く。

 

 二つ目。

 

 中央の石盤に、銀色の線が浮かび上がった。

 

 三つ目を押す。

 

 地面が震えた。

 

 中央の石盤がゆっくりと横へ動き、地下へ続く石段が姿を現す。

 

 冷たい空気が吹き上がった。

 

 オトフリートは開いた入口と、手元の契約書を交互に見る。

 

「魔術師ギルドは、本当に見落としていたのですね」

 

「僕らの発見物は、全部僕らのものです」

 

「喜ぶのは、生きて戻ってからにしてください」

 

 ルクスンは松明へ火をつけた。

 

「降りた先には、ボーン・ゴーレムが二体いる。名前にボーンとついているけどアンデッドじゃない。僕の右手も普通の威力しか出ない。オトフリートは先に《プロテクション》。ノクティアとゼフィーリアは金属鎧を着ていないから精霊魔法を使える。戦闘が始まったら、僕が前へ出る」

 

「知っています。何度も説明されました」

 

 ノクティアが短槍を構えた。

 

「大事なことだから確認してるんだよ」

 

 オトフリートが《プロテクション》を唱える。

 

 魔法は一行全員を対象に拡大され、それぞれの身体を不可視の防護膜が包んだ。

 

 ゼフィーリアも神聖語を唱える準備を整える。

 

 妖姫殺しが、ひとりでに鞘から僅かに身を乗り出した。

 

「いよいよ妾の初陣じゃな!」

 

「まだ抜けるな。階段で飛んだら壁に刺さるぞ」

 

「いつまで壁の話をするのじゃ!」

 

 ルクスンは松明を掲げ、地下へ続く石段へ足を踏み入れた。

 

 かつて仲間たちと遊んだ、《銀の冠》のダンジョン。

 

 記憶どおりなら、階段の先で二体の守護者が待っている。

 

 石段を下りきった瞬間。

 

 暗闇の中で、骨を組み合わせた二つの巨体が動き始めた。

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