アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
石段を下りきった瞬間、暗闇の中で二つの影が動き始めた。
人間や獣の骨を寄せ集め、魔力でつなぎ合わせた魔法生物。
身体は辛うじて人型に近いが、骨格は生物として成立していない。大きさの違う骨が無秩序に組み合わされ、頭部らしき場所には複数の頭蓋骨が埋め込まれている。
武器も防具も持っていない。
戦士としての技量もない。
ただ侵入者を排除するという命令に従い、鈍重な動きで近づいてくる。
「ボーン・ゴーレム二体。名前にボーンとついているけど、アンデッドじゃない。骨を材料にした魔法生物だ!」
ルクスンの目には、アンデッドがまとう黄色い負の精霊のオーラが見えなかった。
代わりに感じるのは、骨の内部を巡る無機質な魔力だけである。
「僕の右手は効かない。部屋へ入らず、階段の入口で一体ずつ壊す! オトフリートはメイスに《エンチャント・ウェポン》!」
「承知しました」
ルクスンは借りてきたメイスとラウンドシールドを構えた。
金属鎧は、スモール・アイアン・ゴーレム戦まで荷物へ入れておく。いまは動きやすい軽装のままである。
ボーン・ゴーレムは二体並んで進もうとしたが、入口が狭いため、先頭の一体しか階段へ入れない。
後ろの個体は、前の個体につかえて動きを止めた。
「よし。記憶どおりだ」
先頭のボーン・ゴーレムが、骨を固めた腕を振り回す。
狙いも技術もない。
ルクスンは一歩下がって攻撃をかわし、伸びきった腕へメイスを叩きつけた。
乾いた音が響く。
骨の腕が途中から砕け、破片が床へ散った。
オトフリートの古代語魔法が完成する。
メイスが淡い魔力を帯びた。
「これで魔法の武器として扱えます」
「ありがとう。ノクティアは先頭へ《ウィル・オー・ウィスプ》。オトフリートも同じ個体へ《エネルギー・ボルト》!」
ノクティアは短槍を壁へ立てかけ、両手を空けた。
精霊語の呪文を唱える。
呼び出された光の精霊が、ボーン・ゴーレムへ飛ぶ。
魔法は狙いを外さない。
光球は骨の胴体へ命中し、魔力をつなぎ止めている部分へ衝撃を与えた。
続けて、オトフリートの《エネルギー・ボルト》が突き刺さる。
ゴーレムは魔法へ抵抗したものの、二つの必中魔法を受けて身体を大きく揺らした。
「いまだ!」
ルクスンが踏み込む。
ラウンドシールドでゴーレムの腕を押し除け、魔力を帯びたメイスを胴体へ振り下ろした。
頭蓋骨と肋骨を固めた部分が、まとめて砕ける。
身体を動かしていた魔力のつながりが切れ、ボーン・ゴーレムはその場へ崩れ落ちた。
「一体!」
後ろにつかえていた二体目が、崩れた骨を踏み越えてくる。
その動きも遅い。
仲間が倒されたことを理解している様子もなく、同じように腕を振り回す。
「こいつら、同じ動きしかできないのか?」
「単純な命令しか与えられていないのでしょう」
オトフリートが答えた。
「侵入者を見つける。近づく。殴る。それだけか」
「十分に危険です」
ノクティアの警告どおり、骨の腕がルクスンのラウンドシールドへ命中した。
衝撃は重い。
しかし技量のある戦士の攻撃とは違い、軌道は読みやすかった。
ルクスンは盾で押し返し、足元を崩さないよう踏ん張る。
「正面は僕が止める。同じ場所へ魔法を集中!」
二度目の《ウィル・オー・ウィスプ》。
光球がゴーレムの胴体へ確実に命中する。
オトフリートは精神力を温存し、今度は魔法を使わなかった。
ルクスンが亀裂へメイスを叩き込む。
一撃。
骨が砕ける。
二撃目。
胴体が大きく歪む。
三撃目を振り下ろす前に、ボーン・ゴーレムの腕がルクスンの肩を掠めた。
「痛っ!」
「動かないでください」
後方で待機していたゼフィーリアが神聖語を唱えた。
ファラリスへ祈り、《キュア・ウーンズ》を発動する。
温かな力がルクスンの身体を包み、肩の痛みが消えていく。
「本当にファラリスの神聖魔法で治療できるのですね」
オトフリートが驚いた。
「だから言ったでしょう! 暗黒神官でも《キュア・ウーンズ》は使える!」
「主よ。余所見をしておるぞ!」
妖姫殺しの声で、ルクスンは正面へ向き直った。
ボーン・ゴーレムが残った腕を振り上げている。
ルクスンはラウンドシールドで攻撃を外側へ流した。
「これで終わりだ!」
魔力を帯びたメイスを、亀裂の中心へ叩き込む。
胴体が砕けた。
二体目のボーン・ゴーレムも、魔力を失って骨の山へ戻る。
◇
地下室に静寂が訪れた。
ルクスンはメイスを肩へ担ぎ、崩れた二体を見下ろす。
「よし。今回は記憶どおりだった」
「思ったより余裕がありましたね」
オトフリートが骨の山を調べる。
「こいつらは入口の番人だからな。単体なら、いまの僕たちが正面から倒せる相手だ。二体同時に囲まれれば危ないけど、階段で一体ずつ相手にすれば問題ない」
「先ほど肩を殴られていた」
ノクティアが指摘する。
「治ったから問題ない」
「治したのは私です」
ゼフィーリアが訂正した。
「ありがとうございます!」
妖姫殺しが、ひとりでに鞘から抜ける。
「妾の出番はなかったのか?」
「今回はメイスの方が適していた。お前はメデューサ戦まで温存」
「妾も戦いたいのじゃ!」
「自分で飛べるようになったばかりだろ。骨の間に刺さって抜けなくなったらどうする」
「その程度の失態はせぬ!」
「壁に刺さったのは昨日だぞ」
「いつまで言うのじゃ!」
ゼフィーリアが床へ散らばった骨の一つを拾い上げる。
「人間の骨です」
ルクスンの笑みが消えた。
卓上では、ただのモンスターデータだった。
しかし現実のボーン・ゴーレムは、実在した人間や獣の遺骨を材料に造られている。
「古代王国の魔術師にとっては、これも材料だったんだろうな」
オトフリートは骨を元の場所へ戻した。
「報告書には記載しておきましょう」
ルクスンは松明を掲げ、部屋の奥へ続く通路を照らした。
「次はオブシディアン・ドッグだ。見た目は黒い犬の彫像だけど、魔力を持った番犬だ。詳しい戦い方は、実物を確認してから決める」
「以前の知識を、そのまま信じないのですね」
「知っているつもりが一番危ないからな」
一行は骨の山を越え、奥の通路へ入った。
松明の光が、黒く滑らかなものを照らす。
通路の先に、一匹の犬が座っていた。
光を受けた身体は、磨き上げられた黒曜石のように輝いている。
ただの彫像にしか見えない。
しかし、ルクスンのセンス・マジックは、その内部から明確な魔力を感じ取っていた。
黒曜石の犬が目を開く。
赤い光が、暗闇の中で二つ灯った。