アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

26 / 65
第26話 ボーン・ゴーレム二体

 石段を下りきった瞬間、暗闇の中で二つの影が動き始めた。

 

 人間や獣の骨を寄せ集め、魔力でつなぎ合わせた魔法生物。

 

 身体は辛うじて人型に近いが、骨格は生物として成立していない。大きさの違う骨が無秩序に組み合わされ、頭部らしき場所には複数の頭蓋骨が埋め込まれている。

 

 武器も防具も持っていない。

 

 戦士としての技量もない。

 

 ただ侵入者を排除するという命令に従い、鈍重な動きで近づいてくる。

 

「ボーン・ゴーレム二体。名前にボーンとついているけど、アンデッドじゃない。骨を材料にした魔法生物だ!」

 

 ルクスンの目には、アンデッドがまとう黄色い負の精霊のオーラが見えなかった。

 

 代わりに感じるのは、骨の内部を巡る無機質な魔力だけである。

 

「僕の右手は効かない。部屋へ入らず、階段の入口で一体ずつ壊す! オトフリートはメイスに《エンチャント・ウェポン》!」

 

「承知しました」

 

 ルクスンは借りてきたメイスとラウンドシールドを構えた。

 

 金属鎧は、スモール・アイアン・ゴーレム戦まで荷物へ入れておく。いまは動きやすい軽装のままである。

 

 ボーン・ゴーレムは二体並んで進もうとしたが、入口が狭いため、先頭の一体しか階段へ入れない。

 

 後ろの個体は、前の個体につかえて動きを止めた。

 

「よし。記憶どおりだ」

 

 先頭のボーン・ゴーレムが、骨を固めた腕を振り回す。

 

 狙いも技術もない。

 

 ルクスンは一歩下がって攻撃をかわし、伸びきった腕へメイスを叩きつけた。

 

 乾いた音が響く。

 

 骨の腕が途中から砕け、破片が床へ散った。

 

 オトフリートの古代語魔法が完成する。

 

 メイスが淡い魔力を帯びた。

 

「これで魔法の武器として扱えます」

 

「ありがとう。ノクティアは先頭へ《ウィル・オー・ウィスプ》。オトフリートも同じ個体へ《エネルギー・ボルト》!」

 

 ノクティアは短槍を壁へ立てかけ、両手を空けた。

 

 精霊語の呪文を唱える。

 

 呼び出された光の精霊が、ボーン・ゴーレムへ飛ぶ。

 

 魔法は狙いを外さない。

 

 光球は骨の胴体へ命中し、魔力をつなぎ止めている部分へ衝撃を与えた。

 

 続けて、オトフリートの《エネルギー・ボルト》が突き刺さる。

 

 ゴーレムは魔法へ抵抗したものの、二つの必中魔法を受けて身体を大きく揺らした。

 

「いまだ!」

 

 ルクスンが踏み込む。

 

 ラウンドシールドでゴーレムの腕を押し除け、魔力を帯びたメイスを胴体へ振り下ろした。

 

 頭蓋骨と肋骨を固めた部分が、まとめて砕ける。

 

 身体を動かしていた魔力のつながりが切れ、ボーン・ゴーレムはその場へ崩れ落ちた。

 

「一体!」

 

 後ろにつかえていた二体目が、崩れた骨を踏み越えてくる。

 

 その動きも遅い。

 

 仲間が倒されたことを理解している様子もなく、同じように腕を振り回す。

 

「こいつら、同じ動きしかできないのか?」

 

「単純な命令しか与えられていないのでしょう」

 

 オトフリートが答えた。

 

「侵入者を見つける。近づく。殴る。それだけか」

 

「十分に危険です」

 

 ノクティアの警告どおり、骨の腕がルクスンのラウンドシールドへ命中した。

 

 衝撃は重い。

 

 しかし技量のある戦士の攻撃とは違い、軌道は読みやすかった。

 

 ルクスンは盾で押し返し、足元を崩さないよう踏ん張る。

 

「正面は僕が止める。同じ場所へ魔法を集中!」

 

 二度目の《ウィル・オー・ウィスプ》。

 

 光球がゴーレムの胴体へ確実に命中する。

 

 オトフリートは精神力を温存し、今度は魔法を使わなかった。

 

 ルクスンが亀裂へメイスを叩き込む。

 

 一撃。

 

 骨が砕ける。

 

 二撃目。

 

 胴体が大きく歪む。

 

 三撃目を振り下ろす前に、ボーン・ゴーレムの腕がルクスンの肩を掠めた。

 

「痛っ!」

 

「動かないでください」

 

 後方で待機していたゼフィーリアが神聖語を唱えた。

 

 ファラリスへ祈り、《キュア・ウーンズ》を発動する。

 

 温かな力がルクスンの身体を包み、肩の痛みが消えていく。

 

「本当にファラリスの神聖魔法で治療できるのですね」

 

 オトフリートが驚いた。

 

「だから言ったでしょう! 暗黒神官でも《キュア・ウーンズ》は使える!」

 

「主よ。余所見をしておるぞ!」

 

 妖姫殺しの声で、ルクスンは正面へ向き直った。

 

 ボーン・ゴーレムが残った腕を振り上げている。

 

 ルクスンはラウンドシールドで攻撃を外側へ流した。

 

「これで終わりだ!」

 

 魔力を帯びたメイスを、亀裂の中心へ叩き込む。

 

 胴体が砕けた。

 

 二体目のボーン・ゴーレムも、魔力を失って骨の山へ戻る。

 

          ◇

 

 地下室に静寂が訪れた。

 

 ルクスンはメイスを肩へ担ぎ、崩れた二体を見下ろす。

 

「よし。今回は記憶どおりだった」

 

「思ったより余裕がありましたね」

 

 オトフリートが骨の山を調べる。

 

「こいつらは入口の番人だからな。単体なら、いまの僕たちが正面から倒せる相手だ。二体同時に囲まれれば危ないけど、階段で一体ずつ相手にすれば問題ない」

 

「先ほど肩を殴られていた」

 

 ノクティアが指摘する。

 

「治ったから問題ない」

 

「治したのは私です」

 

 ゼフィーリアが訂正した。

 

「ありがとうございます!」

 

 妖姫殺しが、ひとりでに鞘から抜ける。

 

「妾の出番はなかったのか?」

 

「今回はメイスの方が適していた。お前はメデューサ戦まで温存」

 

「妾も戦いたいのじゃ!」

 

「自分で飛べるようになったばかりだろ。骨の間に刺さって抜けなくなったらどうする」

 

「その程度の失態はせぬ!」

 

「壁に刺さったのは昨日だぞ」

 

「いつまで言うのじゃ!」

 

 ゼフィーリアが床へ散らばった骨の一つを拾い上げる。

 

「人間の骨です」

 

 ルクスンの笑みが消えた。

 

 卓上では、ただのモンスターデータだった。

 

 しかし現実のボーン・ゴーレムは、実在した人間や獣の遺骨を材料に造られている。

 

「古代王国の魔術師にとっては、これも材料だったんだろうな」

 

 オトフリートは骨を元の場所へ戻した。

 

「報告書には記載しておきましょう」

 

 ルクスンは松明を掲げ、部屋の奥へ続く通路を照らした。

 

「次はオブシディアン・ドッグだ。見た目は黒い犬の彫像だけど、魔力を持った番犬だ。詳しい戦い方は、実物を確認してから決める」

 

「以前の知識を、そのまま信じないのですね」

 

「知っているつもりが一番危ないからな」

 

 一行は骨の山を越え、奥の通路へ入った。

 

 松明の光が、黒く滑らかなものを照らす。

 

 通路の先に、一匹の犬が座っていた。

 

 光を受けた身体は、磨き上げられた黒曜石のように輝いている。

 

 ただの彫像にしか見えない。

 

 しかし、ルクスンのセンス・マジックは、その内部から明確な魔力を感じ取っていた。

 

 黒曜石の犬が目を開く。

 

 赤い光が、暗闇の中で二つ灯った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。