アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第28話 銀冠の魔眼

 三体の守護者を倒したルクスンたちは、その場で遺跡の探索を中断した。

 

 ただし、地上へ戻るつもりはない。

 

 二体のボーン・ゴーレムを倒した入口の部屋と、オブシディアン・ドッグ二体にスケルトンウォーリアを倒した第二の部屋。

 

 ここまでの区画は制圧している。

 

 守護者たちが再び動き出す気配もない。

 

 周囲に存在するのは、砕けた魔法生物の残骸だけだった。

 

「ここで休む」

 

 ルクスンの宣言に、オトフリートが遺跡の入口へ続く通路を振り返った。

 

「地上へは戻らないのですか?」

 

「戻らない。精神力は八時間眠れば完全に回復する。わざわざ地上へ出なくても、この部屋で休めばいい」

 

「魔術師ギルドの管理人へ、遺跡の発見を知らせる必要は?」

 

「全部終わってからで充分だ」

 

 ルクスンは、スケルトンウォーリアの残骸を部屋の隅へ蹴り寄せた。

 

 古代王国の遺跡が存在していた。

 

 それだけなら、魔術師ギルドも契約を守るかもしれない。

 

 だが、この奥には十万ガメル相当の銀の冠が眠っている。

 

 冠の存在を知ったあとも、ギルドが同じ態度を取る保証などなかった。

 

 地下遺跡は地上のストーンサークルと一体の施設だ。

 

 そのため、すべての発見物はギルドに帰属する。

 

 銀の冠は危険な魔法の品なので、研究と保管のために提出しなければならない。

 

 そのように契約の解釈を変えられる可能性はある。

 

 契約を反故にするつもりがなくても、内部の別派閥や上役が口を出してくることも考えられた。

 

「魔術師ギルドそのものを信用していないのですか?」

 

「組織の全員が悪人だとは思ってない。でも、十万ガメルを前にしても全員が契約を守る善人だとは、もっと思ってない」

 

「魔術師ギルドには、長年にわたって積み重ねてきた信用があります」

 

「だから正面から奪うような真似はしないだろ。でも、契約の解釈を変えるくらいはするかもしれない。僕らはギルドに所属していない冒険者だ。しかも、逃亡奴隷と元暗殺者とファラリス神官までいる」

 

 黒猫姿のゼフィーリアが顔を上げた。

 

「私は、いまはただの猫です」

 

「しゃべってる時点で、ただの猫じゃないんだよ」

 

「猫は気まぐれなので、たまにはしゃべります」

 

「しゃべらないよ!」

 

 ノクティアが、部屋の入口へ細い糸を張りながら口を挟んだ。

 

「ギルドへ知らせない。それでいい」

 

「だろ? 銀の冠も資料も確保して、遺跡を完全に調べてから報告する。契約を変更しようとしても、品物が僕らの手元にある状態なら交渉できる」

 

「先に確保した者が強いということですね」

 

「そういうことだ、オトフリート。契約書だけを握っているより、契約書と現物を両方握っていたほうがいい」

 

 妖姫殺しが鞘の中から声を上げる。

 

「十万ガメルの冠を手に入れたら、わらわにも新しい鞘を買うのじゃ!」

 

「お前は冠を売ることに賛成なのか?」

 

「十万ガメルじゃぞ? 売るに決まっておろう!」

 

「僕は使うことも考えてる」

 

「主が銀の冠を被るのか?」

 

「石化を無効にできるんだぞ。売るには惜しい」

 

「似合わぬと思うがのう」

 

「実用性の話をしてるんだよ!」

 

          ◇

 

 守護者の残骸を片づけたあと、一行は寝床を整えた。

 

 生命力は、一日安静にすれば本人の生命力抵抗値に応じて回復する。

 

 しかし、今回はゼフィーリアが神聖魔法で負傷者を治療している。丸一日を自然回復へ費やす必要はなかった。

 

 一方、魔法を使うための精神力は、八時間の睡眠で完全に回復する。

 

 ノクティアとオトフリートは戦闘で何度も魔法を使っている。これからメデューサと戦うのなら、二人の精神力を全快させておく必要があった。

 

「全員が八時間ずつ眠る。見張りは交代制。途中で起こされたら、改めて不足分を眠ってもらう」

 

「妖姫殺しは眠らない」

 

 ノクティアが短剣を見る。

 

「では、見張りを任せられますね」

 

「任せるのじゃ! 近くへ剣が来れば、わらわの《センス・ソード》が捉えてみせよう!」

 

「剣を持っていない敵は感知できないけどな」

 

「オブシディアン・ドッグが戻ってきてもわからない?」

 

「わからぬ」

 

「役に立たない」

 

「主従そろって、わらわへの扱いが酷くないか!?」

 

 結局、妖姫殺しだけに見張りを任せることはできなかった。

 

 人間三人と黒猫一匹が交代で起きる。

 

 妖姫殺しは常に見張りへ参加し、刃物の接近を警戒することになった。

 

 保存食を分ける。

 

 ルクスンとノクティアは堅いパンと干し肉を食べ、オトフリートは自分で用意していた携帯食を取り出した。

 

 ゼフィーリアは差し出された干し肉の匂いを嗅ぎ、不満そうに顔を背ける。

 

「生肉はないのですか?」

 

「遺跡探索へ生肉を持ってくる奴がいるか。腐るだろ」

 

「黒猫の身体なら、生肉のほうが食べやすいです」

 

「干し肉で我慢しろ。水に浸せば少し柔らかくなる」

 

「狩りへ行ってきても?」

 

「ダンジョンの中で、何を狩るつもりだよ!」

 

 ゼフィーリアは諦めて干し肉を噛み始めた。

 

 黒猫の牙には固すぎるらしく、前足で押さえながら何度も引っ張っている。

 

「人間に戻って食べればいいだろ」

 

「服がありません」

 

「また僕のマントを貸すの?」

 

「周囲を見張っていてください」

 

「食事のたびに全員で後ろを向くのかよ!」

 

 結局、ゼフィーリアは黒猫のまま干し肉を食べた。

 

          ◇

 

 遺跡の中に朝も夜もない。

 

 明かりを消せば、辺りは完全な暗闇となる。

 

 最初の見張りを担当したルクスンは、壁へ背を預けて座っていた。

 

 常時働いているセンス・マジックが、周囲に残る魔力を捉えている。

 

 砕けた魔法生物の残骸。

 

 遺跡そのものに流れる古代の魔力。

 

 そして、奥の部屋から漂ってくる濃密な気配。

 

 眠っているのか、起きているのか。

 

 メデューサの動きまではわからない。

 

 だが、まだ奥にいることだけは確かだった。

 

「眠れぬのか、主よ?」

 

 隣へ立てかけた妖姫殺しが尋ねた。

 

「いまは見張りだよ」

 

「そうではなく、このあと眠れるのかと聞いておる」

 

「眠るさ。精神力を使わない僕でも、寝不足で戦えば判断を間違える」

 

「怖いのか?」

 

 ルクスンは少し黙った。

 

 前世では、一度この遺跡を攻略している。

 

 仲間たちと卓を囲み、地図を描き、賽を振った。

 

 鏡に映った魔眼を見てしまい、何度も石化への抵抗を行った。

 

 仲間の一人が石になりかけ、回復手段が足りないと大騒ぎした。

 

 最後にはメデューサを倒し、銀の冠を手に入れた。

 

 あのときは笑い話だった。

 

 判定に失敗しても、死ぬのは紙の上のキャラクターである。

 

 いまは違う。

 

「怖いに決まってるだろ。失敗したら石になるんだぞ」

 

「主は、前にもあの怪物を殺したのであろう?」

 

「八坂鷹として遊んだ物語の中でな。ルクスンとして戦ったわけじゃない。前世の仲間もいなければ、能力も装備も違う」

 

「ならば、今回の仲間を使えばよい」

 

「使うって言い方はやめろ」

 

「頼ればよい、と言い直してやろう」

 

 ルクスンは眠っている仲間たちを見た。

 

 壁際で身体を丸めるノクティア。

 

 外套を毛布代わりにして横たわるオトフリート。

 

 荷物の上で丸くなっているゼフィーリア。

 

「そうだな。一人で攻略するわけじゃない」

 

「それに、わらわもおる!」

 

「お前は冠を傷つけるなよ」

 

「感動的な雰囲気を台無しにするでない!」

 

          ◇

 

 全員が八時間ずつ眠り終えるころには、休息を始めてからかなりの時間が経過していた。

 

 途中で敵が現れることはなかった。

 

 ノクティアとオトフリートの精神力も完全に回復している。

 

 簡単な食事を済ませ、装備を点検する。

 

「次は落とし穴だ」

 

 ルクスンはメイスを肩へ担いだ。

 

「場所は?」

 

「この先の通路。僕の記憶では、横幅いっぱいに罠床がある。底には槍が並んでいた」

 

「解除する?」

 

「いや。場所がわかってるなら、罠として残しておく必要はない。壊そう」

 

 ノクティアが先行し、記憶にある場所を調べた。

 

 床板の継ぎ目。

 

 踏み込んだ際に沈む石。

 

 壁の内部へ続く仕掛け。

 

 罠はまだ生きている。

 

「本当にある」

 

「今度こそ記憶どおりだな」

 

「今回も、でしょう」

 

「そうだった。今回も記憶どおりだ」

 

 ルクスンは罠床から距離を取り、ボーン・ゴーレムの残骸から運んできた骨片を投げた。

 

 床へ落ちたが、罠は作動しない。

 

「軽すぎるか」

 

「スケルトンウォーリアの剣を使えばよいのではないか?」

 

「剣で床を突いても、重さが足りないだろ」

 

「主が持って踏めばよい」

 

「僕ごと落ちるだろうが!」

 

 ルクスンは壁際へ立ち、メイスを振り上げた。

 

 罠床の手前、その継ぎ目へ叩き込む。

 

 石が欠けた。

 

 二度目の打撃で亀裂が広がる。

 

 三度目。

 

 罠床を支えていた部分が砕けた。

 

 連動した石板が傾き、次々と穴の中へ落ちていく。

 

 轟音が遺跡を揺らした。

 

 舞い上がった埃が収まる。

 

 通路を横断する大穴が、完全に露出していた。

 

 穴の底には、上向きに設置された無数の槍が並んでいる。

 

「記憶どおり?」

 

「ああ。槍に毒が塗られてる可能性はあるけど、落ちなければ関係ない」

 

「罠を解除したのか?」

 

 オトフリートが穴を覗き込む。

 

「いや。破壊した」

 

「確かに、もう落とし穴としては機能しませんね」

 

「落とし穴は、穴が隠されているから危険なんだ。最初から見えていれば、ただの障害物だよ」

 

「渡れない」

 

 ノクティアが指摘する。

 

「それはこれから何とかする」

 

 妖姫殺しへ《リバティ・ソード》を使わせ、細い紐を結びつける。

 

 短剣はふらつきながら大穴の上を飛んだ。

 

「もっと右だ!」

 

「わかっておる!」

 

「下がってるぞ。槍に近づくな!」

 

「主が騒ぐから集中できぬのじゃ!」

 

「落ちたら拾いに行けないから言ってるんだよ!」

 

 妖姫殺しは辛うじて対岸へ到達した。

 

 壁際の柱を一周し、細い紐を巻きつける。

 

 こちら側から紐を引き、今度は丈夫な縄を渡した。

 

 二本の縄を固定し、一方を足場、もう一方を手掛かりにする。

 

 最初にルクスンが渡り、対岸で縄を支えた。

 

 ノクティア、オトフリートと続く。

 

 最後に残った黒猫姿のゼフィーリアが、穴の前で尻尾を揺らした。

 

「猫なら縄を渡れるだろ?」

 

「野生の勘がありません。落ちたら死にます」

 

「身体的な平衡感覚は猫のものだろ」

 

「それでも嫌です」

 

「人間に戻るか?」

 

「服を貸してください」

 

「やっぱり僕のマントか!」

 

 全員が後ろを向く。

 

 黒猫の外皮が開き、鷹の羽を思わせるマントへ戻る。

 

 人間形態となったゼフィーリアは、ルクスンのマントで身体を隠しながら縄を渡った。

 

 対岸へ到着すると、再び羽が全身を包む。

 

 次に現れた黒猫が、当然のようにノクティアの肩へ飛び乗った。

 

 ルクスンのマントだけが床へ落ちる。

 

「変身用の服を、本気で考えないと駄目だな」

 

「変身すれば置いていくことになります」

 

「持ち運びやすい布でも用意するよ。毎回僕が脱ぐのは面倒だ」

 

「主よ。女子の変身を手伝う役目じゃぞ。喜べばよいではないか」

 

「見たら殺されそうだから、毎回後ろを向いてるんだよ!」

 

「当然です」

 

 黒猫が答えた。

 

「そこだけは猫のふりをしないんだな!」

 

          ◇

 

 落とし穴の先には、古代王国の文字が刻まれた銀色の扉があった。

 

『銀の女王へ、顔を伏せよ』

 

 扉の向こうから、生命の精霊力と濃密な魔力が漂っている。

 

「メデューサはいる。生きてる」

 

「前と同じ?」

 

「僕らのセッションでは、この部屋のメデューサを殺した。違う配置の守護者が増えていたとしても、こいつがいなければ銀の冠は手に入らない。さすがに、ここは変わってないと思いたい」

 

 ルクスンは、記憶にある部屋の構造を地面へ描いた。

 

 正方形に近い玄室。

 

 壁際に並ぶ柱。

 

 壁、柱、天井に張り巡らされた鏡。

 

 そして、銀の冠を被ったメデューサ。

 

「部屋中の鏡が、石化の魔眼を反射する。直接あいつを見なくても、鏡に映った目を見たら石化させられる可能性がある」

 

「鏡を壊す」

 

 ノクティアが即答した。

 

「そうだ。壊せばいい」

 

 前世では、鏡を避けながら戦おうとして苦戦した。

 

 鏡の角度と視線を意識し、僅かな安全地帯を移動する。

 

 それがダンジョンの仕掛けだと思い込み、律儀に攻略しようとしてしまった。

 

 だが、いまは違う。

 

 壁に張られた鏡まで守らなければならない理由はない。

 

「メデューサの銀の冠は持ち帰る。でも、鏡には価値がない。危険な仕掛けなら、全部叩き割る」

 

「目を閉じたまま?」

 

「ああ。僕はセンス・オーラで生命の精霊力を感じ取れる。正確な動きまでは見えないけど、大体の位置はわかる。ノクティアとゼフィーリアも精霊の気配を追える」

 

「私は無理ですね」

 

 オトフリートが言った。

 

「オトフリートは部屋の外で待機。目を閉じたら、エネルギー・ボルトの対象を指定できない。まず僕たちに援護魔法をかけてくれ。メデューサを鏡のない通路まで誘い出せたら、お前の出番だ」

 

「通路へ出たことを、どう知らせるのですか?」

 

「僕が合図する。それまでは扉を直接見るな。石壁の陰へ隠れていてくれ」

 

「承知しました」

 

「ゼフィーリアは治療を優先。ノクティアは短槍で僕を援護。妖姫殺しは《リバティ・ソード》で反対側から牽制する」

 

「わらわには魔眼は効くのか?」

 

「お前には目も肉体もない。石化する部分がないから、おそらく効かない」

 

「では、わらわだけは部屋を見てもよいのじゃな!」

 

「鏡に映った自分の美しさに見惚れるなよ」

 

「剣が鏡を見て、どうやって見惚れるのじゃ!」

 

 ノクティアが地面に描かれたメデューサの位置を指差した。

 

「銀の冠は?」

 

「基本はメデューサを殺してから外す。冠を直接殴らないかぎり、戦闘で壊れるような品じゃない」

 

「戦っている途中で奪う必要はない?」

 

「ない。普通に倒せるなら、そのほうが早い」

 

 ただし、正面から倒せない場合には別の手段もある。

 

「戦況が悪くなったら、ノクティアに冠を奪ってもらう」

 

「動く相手から?」

 

「ああ。相手の隙を突いて、頭から冠だけを盗み取る。かなり難しいけど、僕たちの中でできる可能性があるのはお前だけだ」

 

「外すとどうなる?」

 

「銀の冠は石化を無効にする。つまり、冠を失ったメデューサは自分の魔眼にも耐えなきゃならなくなる。鏡張りの部屋なら、自分の視線を何度も浴びることになる」

 

「必ず石になる?」

 

「いや。石化への抵抗はできる。でも、何度も抵抗を強いられれば、いずれ失敗する可能性はある」

 

「鏡を壊してから冠を奪ったら?」

 

「自分を石化させる作戦は使えなくなるな」

 

「どちらを先にする?」

 

 ルクスンは少し考えた。

 

「まず、入口付近の鏡を壊して安全地帯を作る。メデューサを通路へ誘い出して倒す。それが無理なら、鏡を残した奥へ押し返して冠を奪う」

 

「わかった」

 

「最初から冠を盗もうとするなよ。目を閉じた状態で、メデューサの頭へ手を伸ばすんだ。失敗したら噛まれるか、爪で裂かれる」

 

「それでも、必要ならやる」

 

「頼りにしてる」

 

          ◇

 

 準備が始まった。

 

 オトフリートが古代語の呪文を唱え、ルクスンのメイスへ魔力を付与する。

 

 続いてルクスンの身体を防護の力が包んだ。

 

 ノクティアとゼフィーリアは厚い布で目を覆う。

 

 ルクスンも目隠しを巻き、完全に視界を閉ざした。

 

 暗闇の中で、センス・オーラが周囲の精霊力を捉える。

 

 隣に立つノクティア。

 

 黒猫姿のゼフィーリア。

 

 後方へ下がったオトフリート。

 

 そして銀色の扉の向こうには、強く歪んだ生命の精霊力が存在している。

 

「前世で殺した相手でも、今回は初対面だ。向こうは僕たちの戦い方を知らない。でも、僕はあいつの能力も部屋の仕掛けも知っている」

 

「敵の配置は違った」

 

 ノクティアが指摘する。

 

「わかってる。だから記憶を信じ切らない。扉を開けたあと、何かおかしいと思ったらすぐに退く」

 

「主よ、わらわは先に飛び込めばよいのか?」

 

「まず扉の隙間から中を確認してくれ。メデューサの位置と、鏡の配置を教えてほしい」

 

「任せるのじゃ!」

 

「絶対に冠へ斬りかかるなよ。十万ガメルだぞ」

 

「何度も言わずともわかっておる!」

 

「お前、調子に乗ると突撃するからな」

 

「わらわを何だと思っておる!」

 

「自力で飛ぶようになって、ますます騒がしくなった短剣」

 

「うるさい!」

 

「それ、僕がお前に言う言葉だから!」

 

 緊張していたノクティアが、小さく息を漏らした。

 

 笑ったらしい。

 

 ルクスンは銀色の扉へ手をかける。

 

「開けるぞ。オトフリートは下がれ。絶対に部屋を見るな」

 

「皆さんが通路へ戻るまで、壁の陰で待機します」

 

「ゼフィーリアは最後尾。ノクティアは僕の後ろ。妖姫殺しは先行して中を確認」

 

「承知したのじゃ!」

 

 扉を僅かに開く。

 

 妖姫殺しが、その隙間から部屋の中へ滑り込んだ。

 

「鏡があるぞ。右にも左にも、正面にもじゃ! 天井にもある!」

 

「メデューサは?」

 

「部屋の奥じゃ。銀色に光る冠を被っておる。こちらを見たぞ!」

 

 部屋の中から、無数の蛇が一斉に蠢く音がした。

 

 続いて、女の低い声が響く。

 

「目を隠して来たのね。少しは賢い侵入者のようだわ」

 

 初対面の声。

 

 それでいい。

 

 前世で八坂鷹が倒したメデューサと、この世界に生きているメデューサは同じ存在ではない。

 

 だが、その能力は知っている。

 

 その部屋も知っている。

 

 そして今回は、前世のセッションより先に対策を用意してきた。

 

「妖姫殺し、戻れ! これから入口の鏡を叩き割る!」

 

「わらわが斬ってもよいぞ!」

 

「冠以外なら好きに壊せ!」

 

 ルクスンはラウンドシールドを前へ出した。

 

 視界は閉ざされている。

 

 それでも、部屋の奥にあるメデューサの生命の気配は感じられた。

 

「十万ガメルを回収するぞ!」

 

「目的が金なのか、怪物退治なのかわからぬのう!」

 

「両方だ!」

 

 ルクスンは銀色の扉を蹴り開け、鏡の玄室へ踏み込んだ。

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