アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第32話 王都ファンドリア

 地上へ戻ったルクスンたちは、ストーンサークルを元の状態へ戻した。

 

 古代王国の暦に対応した石を操作する。

 

 地下へ続く階段が閉じ、入口は再び大地の下へ隠された。

 

 遺跡を管理する魔術師ギルドの者には、探索を終えたことだけを伝える。

 

「地下には、古代王国の天文観測施設がありました。正式な報告書は、王都の魔術師ギルドへ提出します」

 

「発見物は?」

 

「契約に従い、持ち運べる品だけを回収しました。動かせない設備は、そのまま残してあります」

 

「ここで確認する」

 

「その権限は、あなたにはありません」

 

 ルクスンは契約書の写しを取り出した。

 

「地下遺跡の探索は僕たちへ委任されました。携帯可能な発見物は、発見者の所有と明記されています。報告と交渉は、王都で契約権限を持つ幹部を相手に行います」

 

「危険な物を持ち出してはいないだろうな?」

 

「メデューサの死体は地下へ残しました。死後も一週間ほど魔眼の力が残るので、顔を覆った布を絶対に外さないよう、調査員へ伝えてください」

 

「メデューサまでいたのか?」

 

「ほかにもボーン・ゴーレム、オブシディアン・ドッグ、竜牙兵、スモール・アイアン・ゴーレムがいました。すべて破壊してあります」

 

「お前たちが?」

 

 管理人が、ルクスンのへこんだ金属鎧を見た。

 

「その鎧を見るかぎり、嘘ではなさそうだな」

 

「修理代を考えると、嘘であってほしいくらいですよ」

 

 管理人は不満そうだったが、それ以上は荷物を調べようとしなかった。

 

 王都へ報告すれば、いずれ地下遺跡の調査隊が派遣される。

 

 その前に、ルクスンたちは自分たちの所有権を確定させなければならない。

 

「急いで王都へ戻るぞ」

 

「追っ手が来る?」

 

 ノクティアが尋ねた。

 

「まだ銀冠のことは知られていない。でも、未発見だった遺跡が実在したとわかれば、魔術師ギルドの調査員が来る。僕らが持ち帰った品を確認したいと言い出す前に、王都で話を通しておきたい」

 

「契約書があるのに?」

 

「契約書があるから、話し合いで済ませられるんだ。なければ、銀冠を持ったまま逃げるしかなかった」

 

          ◇

 

 一行は、往路と同じ道を辿って王都を目指した。

 

 銀冠は布で幾重にも包み、ルクスンの背負い袋の底へ収めてある。

 

 十点の魔晶石は、オトフリートが保管していた。

 

 古代王国の暦と天文学に関する資料は、壊れないよう箱へ収め、四人で交代しながら運ぶ。

 

 もっとも、ゼフィーリアは黒猫姿なので荷物を持たない。

 

「ゼフィーリアも何か持ってくれない?」

 

 ノクティアの肩に乗った黒猫が、前足を舐めながら答えた。

 

「猫に荷物を持たせるのですか?」

 

「人間に戻れば持てるだろ」

 

「服がありません」

 

「また僕のマントかよ!」

 

「街へ着くまで黒猫でいたほうが安全です」

 

「最初から働く気がないだけじゃないよね?」

 

 黒猫は答えず、ノクティアの肩で身体を丸めた。

 

「寝たふりをしてるぞ!」

 

「猫はよく眠る」

 

「ノクティアまで庇うなよ!」

 

 妖姫殺しは、ルクスンの腰で不満そうな声を上げる。

 

「妾にも荷物を持たせればよかろう」

 

「《リバティ・ソード》の力は使い切りかけてるだろ。十万ガメルの銀冠を空飛ぶ短剣へ結びつけて運ばせる気もない」

 

「では、妾も休むのじゃ」

 

「お前は最初から何も持ってないだろ!」

 

          ◇

 

 やがて、混沌の王国ファンドリアの王都が見えてきた。

 

 高い城壁。

 

 人と荷を満載した荷馬車が並ぶ街道。

 

 門を出入りする商人、傭兵、冒険者、巡礼者。

 

 正道の神々だけでなく、暗黒神を祀る者たちさえ公然と行き交っている。

 

 秩序がないわけではない。

 

 王権、貴族、商人、魔術師ギルド、盗賊ギルド、そして暗黒神の神殿。

 

 互いに異なる権力が牽制し合い、その均衡によって王都の日常が保たれている。

 

「本で読んだとおり、何がいても不思議じゃない街だな」

 

「以前にも来たでしょう?」

 

 オトフリートが尋ねる。

 

「滞在して仕事もした。でも、十万ガメルの魔法の品を持って帰ってくると、街の見え方が違うんだよ。そこにいる全員が盗賊に見える」

 

「わたしも?」

 

「ノクティアは本当に盗賊だろ」

 

「そうだった」

 

 王都へ入る前に、ゼフィーリアが黒猫姿であることを確認する。

 

 ダークエルフの正体を晒すわけにはいかない。

 

 ファンドリアには暗黒神の神殿も存在するが、それと妖魔として扱われるダークエルフが安全に歩けることは別問題だった。

 

「街では絶対に喋るなよ」

 

「猫は喋りません」

 

「いま喋ってる!」

 

「まだ門の外です」

 

「妙なところで線引きが細かいな!」

 

 妖姫殺しにも、喋らないよう厳命する。

 

「妾まで黙る必要があるのか?」

 

「十万ガメルの銀冠と喋る魔剣を同時に持ってると知られたら、盗賊どころか軍隊が来るぞ」

 

「妾は五千ガメル程度なのであろう?」

 

「自分から値段を下げるなよ!」

 

          ◇

 

 王都へ入ったルクスンたちは、最初に借りた装備を返却した。

 

 防具屋の主人は、へこんだ金属鎧を受け取ると、長いあいだ無言で眺めた。

 

「スモール・アイアン・ゴーレムに殴られました」

 

「見ればわかる」

 

「修理できます?」

 

「できる」

 

「修理代は?」

 

「見積もりは後日だ」

 

「いま教えてくれません?」

 

「いま聞けば、遺跡から生還した喜びが消えるぞ」

 

「そんなに!?」

 

「後日だ」

 

 ルクスンは不安を抱えたまま、防具屋を出た。

 

「銀冠の売却代金が、鎧の修理で消えたりしないよな?」

 

「十万ガメルの修理代が必要な鎧なら、貸し出す際にもっと厳重な契約を交わしているでしょう」

 

「オトフリートの常識的な意見がありがたいよ」

 

 次に、古代王国の資料だけを王都の魔術師ギルドへ持ち込んだ。

 

 銀冠と魔晶石は見せない。

 

 暦表、天文記録、ストーンサークルの観測法を記した巻物。

 

 専門家による鑑定の結果、評価額は千ガメルとなった。

 

「古代王国の叡智が千ガメル……」

 

「大半が既知の暦法で、保存状態もよくありません。学術資料としては充分な価格です」

 

「銀冠の百分の一」

 

「比較対象が悪い」

 

 ノクティアの言葉に、ルクスンは肩を落とした。

 

 資料は千ガメルで魔術師ギルドへ売却する。

 

 十点の魔晶石は売らず、パーティーの共有資産として残した。

 

 残るのは、十万ガメル相当の銀冠である。

 

          ◇

 

「銀冠を持ったまま、盗賊ギルドへ行くのか?」

 

 妖姫殺しが、小声で尋ねた。

 

「盗賊ギルドの金庫へ預ける。宿の部屋に置いておくより安全だ」

 

「盗賊に預けるのじゃぞ?」

 

「盗賊ギルドは、預かった品を盗んだら信用を失う。裏社会の組織だからこそ、契約と面子にはうるさいんだよ」

 

 ノクティアの案内で、王都の盗賊ギルドへ向かう。

 

 表向きは倉庫と貸金を扱う商会だった。

 

 裏口で合言葉を告げ、地下へ降りる。

 

 何重もの扉と武装した見張りを通され、最後に小さな応接室へ案内された。

 

 しばらくして現れたのは、上等な衣服を身につけた痩身の男だった。

 

 武器は持っていない。

 

 指には、いくつもの指輪をはめている。

 

「ロマールの盗賊ギルドに縁を持つ冒険者が、古代遺跡から大物を持ち帰ったそうだな」

 

「耳が早いですね」

 

「王都で十万ガメルの品を売ろうとすれば、いずれこちらの耳へ入る。それが少し早くなっただけだ」

 

 ルクスンは銀冠を包んだ布を開いた。

 

 細身の銀冠が、地下室の灯りを反射する。

 

 男は直接触れず、小さな鑑定用の道具を片眼へ当てた。

 

「強い魔力がある。石化への守りか?」

 

「身につけた者に対する石化を無効にします。基本取引価格は十万ガメル」

 

「真正の品なら、その評価で間違いない」

 

「盗賊ギルドと魔術師ギルド、両方の幹部を呼んで競売にかけたい」

 

「魔術師ギルドへ直接売らないのか?」

 

「一対一で交渉すれば、買い叩かれるかもしれない。それに銀冠は、魔術師ギルドが管理するストーンサークルの地下で発見しました」

 

「所有権を主張される可能性がある」

 

「だから、両ギルドの幹部がいる前で、僕たちが正式な所有者だと認めさせたい。そのうえで競売を行います」

 

「こちらを立会人に使うつもりか?」

 

「保管、鑑定、競売の仲介もお願いします。正当な手数料は支払います」

 

 痩身の男が薄く笑った。

 

「面白い。十万ガメルの品なら、こちらにも欲しがる顧客がいる。魔術師ギルドが安く買えるとは思わせないほうが、我々にも利益になる」

 

 盗賊ギルドは銀冠を預かることに同意した。

 

 ただし、一方的に品を管理したと思われないよう、銀冠を小箱へ収め、ルクスンと盗賊ギルド双方の封印を施す。

 

「魔術師ギルドの幹部が来たら、三つ目の封印を加える。三者が揃わなければ箱を開けられないようにする」

 

「それなら、品をすり替えたとは言われませんね」

 

「競売は王都で行う。魔術師ギルドへの招待状は、お前たち売主の名で出せ」

 

「もちろんです」

 

 オトフリートが用意していた書状を取り出した。

 

 遺跡の発見者であり銀冠の所有者であるルクスン一行が、正式な鑑定と競売への出席を求める。

 

 盗賊ギルドは、保管者兼仲介人として名を連ねる。

 

 オトフリートも、騎士身分と家名を持つ共同発見者として署名した。

 

「僕だけだと逃亡奴隷だからなあ」

 

「自分から言うことではないでしょう」

 

「オトフリートの署名があるだけで、書状が一気に立派になった」

 

「皆で発見した品なのです。私の家名が役立つなら使ってください」

 

「騎士で、貴族で、魔術師。こういうときにも強いな」

 

「また叱られるのでしょうか?」

 

「今回は純粋に羨ましいだけだよ!」

 

          ◇

 

 競売は、盗賊ギルドの地下にある取引室で行われることになった。

 

 窓はなく、出入口は一つ。

 

 壁際には武装した見張りが立っている。

 

 長机の片側に、売主であるルクスン、ノクティア、オトフリート。

 

 黒猫姿のゼフィーリアは、ノクティアの膝に乗っていた。

 

 妖姫殺しは厚い布へ包まれ、机の下に置かれている。

 

 反対側には、王都の魔術師ギルド幹部が二人。

 

 盗賊ギルドからも、痩身の男と競売を取り仕切る者が出席していた。

 

 机の中央には、三者の封印を施された小箱がある。

 

「競売を始める前に、銀冠の所有権を確認する」

 

 盗賊ギルドの男が告げた。

 

「銀冠は、魔術師ギルドが管理するストーンサークルの地下遺跡から発見された。ただし、探索前に締結された契約により、携帯可能な発見物は探索者へ帰属する。魔術師ギルドに異議はあるか?」

 

 魔術師ギルドの幹部が、契約書を読み直した。

 

「地上のストーンサークルと、動かせない地下施設は我々の管理下に置かれる。しかし、銀冠は携帯可能な発見物だ。契約書の文面に従い、所有者は発見者であるルクスン一行と認める」

 

 ルクスンは、胸の奥で息を吐いた。

 

 最初の目的は達成した。

 

 王都の魔術師ギルド幹部自身に、銀冠がルクスンたちの所有物だと認めさせた。

 

「品を確認する」

 

 三者の封印が解かれた。

 

 小箱が開く。

 

 銀冠から放たれる強い魔力が、ルクスンの視界に映った。

 

 魔術師ギルドの鑑定役が慎重に調べる。

 

「真正の魔法の品だ。装着者に対する石化を無効にする。基本取引価格は十万ガメル」

 

 競売人が銀冠を机の中央へ置いた。

 

「売主はルクスン一行。開始価格は十万ガメル」

 

 取引室が静まり返る。

 

 魔術師ギルドの幹部が銀冠を見つめる。

 

 盗賊ギルドの男も、指輪をはめた手を机へ置いた。

 

「十万」

 

 最初に値をつけたのは、魔術師ギルドだった。

 

 盗賊ギルドの男が、間を置かずに続ける。

 

「十万五千」

 

 ルクスンの心臓が跳ねた。

 

 王都ファンドリアで、銀冠を巡る競売が始まった。

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