アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第33話 銀冠、十四万五千ガメル

「十万五千ガメル」

 

 ロマール盗賊ギルドの代理人が告げた金額に、ルクスンは危うく椅子から立ち上がりそうになった。

 

 王都ファンドリアの盗賊ギルド、その地下に設けられた競売室。

 

 参加者は多くない。

 

 売り手であるルクスンたち。

 

 遺跡の上部を管理していた魔術師ギルドの幹部。

 

 そして盗賊ギルドが名を伏せた依頼人の代理人。

 

 競売台の上には、三者の封印が施された箱が置かれている。

 

 中に収められているのは、メデューサが被っていた銀の冠。

 

 身につけた者を石化から守る、十万ガメル相当の魔法の品だった。

 

「十一万ガメル」

 

 魔術師ギルドの幹部が即座に応じた。

 

 盗賊ギルドの代理人が指を二本立てる。

 

「十二万」

 

「十三万」

 

「十四万」

 

 金額が上がるたび、ルクスンの頭の中で銀貨の山が高くなっていく。

 

 隣に座っていたノクティアが、囁く。

 

「顔が笑っている」

 

「笑ってない。冷静に資産価値を分析してるだけだ」

 

「さっきから口元が上がっている」

 

「仕方ないだろ。十四万ガメルだぞ! ヘンルーダが五十六服も買える!」

 

「そんなに石化される予定があるのか?」

 

「ない。だから売るんだよ」

 

 ノクティアの膝では、黒猫姿のゼフィーリアが眠そうに欠伸をしていた。

 

「人族は面白いですね。銀の輪ひとつを巡り、何十年分もの生活費を差し出すのですから」

 

「猫の姿で喋るな。あとファラリス神官が金銭欲を他人事みたいに言うな」

 

「私は自由を尊ぶだけです。金銭は自由を得る手段であって、崇拝する対象ではありません」

 

「十四万ガメルを前にして寝られる奴の言葉には説得力があるな……」

 

 オトフリートは競売台を見つめたまま、眼鏡の位置を直した。

 

「魔術師ギルドにとっては、単なる石化予防の道具ではありません。古代王国時代の術式を解析できる、保存状態のよい研究資料でもあります。実用品としての価格に、研究対象としての価値が加わっているのでしょう」

 

「なるほど。だから十万ガメルで止まらないのか」

 

「ええ。しかし、そろそろ限界だと思います」

 

 競売室が静まり返った。

 

 十四万ガメル。

 

 基準価格の四割増しである。

 

 盗賊ギルドの代理人は、これ以上の値をつける気配を見せない。

 

 競売人が槌を持ち上げた。

 

「十四万ガメル。他にございませんか?」

 

 魔術師ギルドの幹部が、最後に銀冠の収められた箱へ目を向けた。

 

 しばし考え、片手を上げる。

 

「十四万五千ガメル」

 

 競売人の槌が止まった。

 

 代理人は無表情のまま腕を組む。

 

 やがて、小さく首を横へ振った。

 

「十四万五千ガメル。他にございませんか? ――では、銀冠は十四万五千ガメルで、ファンドリア魔術師ギルドの落札といたします」

 

 槌が打ち下ろされた。

 

 乾いた音が、競売室へ響き渡る。

 

「十四万五千……ヘンルーダ五十八服分……」

 

「主よ。なぜ薬草へ換算するのじゃ?」

 

 妖姫殺しが鞘の中から声を上げた。

 

「完全版で石化対策といったらヘンルーダなんだよ。銀冠を持ち続けるより、必要なときに二千五百ガメル払うほうが安い」

 

「わらわなら、銀冠などなくとも石にはならぬぞ」

 

「剣だからな」

 

「つまり、わらわには銀冠以上の価値があるということじゃな!」

 

「お前を売っても五千ガメルくらいだよ」

 

「桁が二つ足りぬぞ、主よ!」

 

 競売室の全員が、喋る短剣を見た。

 

 ルクスンは何事もなかったように視線を逸らした。

 

          ◇

 

 競売終了後、売買契約の確認が行われた。

 

 魔術師ギルドが十四万五千ガメルを支払い、銀冠の所有権を得る。

 

 盗賊ギルドは競売の開催、品物の保管、参加者の身元保証を行った対価として、落札額の一割を手数料として受け取る。

 

 差し引かれる額は、一万四千五百ガメル。

 

「年会費は免除されていたはずですけど?」

 

「年会費と競売手数料は別だ」

 

「世知辛い!」

 

「十四万五千ガメルの商品を預かり、盗難もすり替えも許さず、魔術師ギルドとの交渉まで整えた。それを無料で行えと言うのか?」

 

「必要経費なのはわかっています。ちょっと言ってみただけです」

 

「お前は金を持つと、急に細かくなるな」

 

 盗賊ギルドの男は、さらに一枚の書面を差し出した。

 

 そこには銀冠が、魔術師ギルドとの事前契約に基づき、発見者であるルクスンたちの所有物として正式に認められたことが記されていた。

 

 今後、地上のストーンサークルを管理していたことを理由に、魔術師ギルドが銀冠の返却や売却金の引き渡しを求めることはない。

 

 オトフリートが書面を確認する。

 

「問題ありません。銀冠の所有権、売却額、競売手数料、そのすべてが明記されています」

 

「よし。これで後になって『やっぱり遺跡ごとギルドの物だった』とは言わせないぞ」

 

「最初から、そのような主張をするつもりはありません」

 

 魔術師ギルドの幹部が苦笑した。

 

「地下に遺跡が存在しないと判断し、調査を皆さんへ委任したのは我々です。危険を引き受けず、成果だけを奪えば、今後どの冒険者もギルドへ協力しなくなるでしょう」

 

「話のわかる人で助かります」

 

「もっとも、固定された天文観測設備と遺跡そのものは、契約どおり魔術師ギルドの管理下へ置きます。回収された暦と天文学の資料については、査定額の千ガメルで買い取りましょう」

 

「安い!」

 

「保存状態を考えれば妥当です」

 

「ダイス目が五じゃ仕方ないか……」

 

「何の話です?」

 

「こっちの話です」

 

 古代王国の資料は、千ガメルで魔術師ギルドへ売却。

 

 十点分の魔力を蓄えた魔晶石は売らず、オトフリートが共同資産として保管する。

 

 銀冠の売却金から競売手数料を引いた十三万五百ガメルと、資料代の千ガメル。

 

 合計十三万千五百ガメルが、今回の探索で得た共同資金となった。

 

 大量の銀貨を持ち歩くわけにはいかない。

 

 金は盗賊ギルドの金庫へ預けられ、四人の署名によって引き出せることになった。

 

「わらわの署名欄がないぞ!」

 

「剣は契約者になれないそうだ」

 

「わらわも命を懸けて戦ったのじゃ!」

 

「命あるの?」

 

「喋る剣に向かって、それを言うか!」

 

「新しい鞘を買ってやるから我慢しろ」

 

「宝石を散りばめたものがよい!」

 

「五百ガメルまでな」

 

「安すぎるのじゃー!」

 

          ◇

 

 すべての手続きを終え、ルクスンたちは王都ファンドリアの通りへ出た。

 

 陽はすでに傾いている。

 

 暗黒神の神殿から鐘の音が響き、商人たちが店じまいを始める一方で、酒場や賭場には明かりが灯り始めていた。

 

 秩序と無秩序。

 

 権威と反逆。

 

 善意と悪意。

 

 あらゆるものが互いを押し退けることなく、危うい均衡を保って存在している。

 

 混沌の王国ファンドリア。

 

 ワールドガイドで読んだとおりの国であり、実際に歩けば本に書かれていた以上に面倒な国だった。

 

 それでも、ルクスンが転生して初めて手に入れた、まとまった資金と信用がここにある。

 

 十三万千五百ガメル。

 

 十点の魔晶石。

 

 未発見だった古代遺跡を踏破した実績。

 

 そして、魔術師ギルドから正式な調査協力者として認められた証明書。

 

 空飛ぶ魔力の塔を造るには、あまりにも足りない。

 

 古代王国の魔導書。

 

 塔を動かす魔力。

 

 飛空石。

 

 魔術師ギルドの信用。

 

 建築家、魔術師、職人。

 

 必要なものを数え始めれば、銀冠の売却金など一瞬で消えるだろう。

 

 だが、ゼロではなくなった。

 

「次は、どうする?」

 

 ノクティアが尋ねた。

 

 ルクスンは王都の向こうへ続く街道を見た。

 

「この金で装備を整える。情報を買う。もっと遺跡を探して、実力と信用を手に入れる。僕たちは、まだ最初の一つを攻略しただけだからな」

 

「また遺跡へ行くのですね」

 

 ゼフィーリアが黒猫の姿でノクティアの肩へ収まりながら続ける。

 

「次は罠にかからない場所を希望します。動物の身体では、人族の仕掛けた罠を見抜きにくいのです」

 

「遺跡に罠がないわけないだろ」

 

「ならば、罠を見抜く者が必要ですね」

 

 ノクティアが自分を指差した。

 

「わたし?」

 

「頼りにしてるぞ」

 

「報酬は?」

 

「共同資金から装備を買っていい」

 

「なら、頑張る」

 

 オトフリートが微笑む。

 

「どうやら、遊学の旅よりも先に、しばらくファンドリアで遺跡を巡ることになりそうですね」

 

「嫌なら先にラムリアースへ行ってもいいんだぞ?」

 

「十四万五千ガメルの魔法の品が眠っていた遺跡を、最初の一つとして扱う人を放っておくほうが危険です。私も同行します」

 

「そういうところ、本当に貴族らしくないよな」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 

 逃亡奴隷として死体置き場から始まったルクスンは、ようやく冒険者としての最初の資産を手に入れた。

 

 まだ塔はない。

 

 飛空石もない。

 

 英雄と呼ばれる名声もない。

 

 だが、最初の一歩は銀の冠へと変わり、その銀の冠は、次の冒険を始めるための十三万千五百ガメルへと変わった。

 

「待ってろ、魔力の塔。いつか必ず、僕の物にしてやるからな!」

 

「主よ。その前に、わらわの鞘を買うのじゃ!」

 

「五百ガメルまでだって言ってるだろ!」

 

 第五章『銀の冠』――完。

 

          




第五章 章末リザルト

競売判定

* 銀冠の基準価格:100,000ガメル
* 競り上がり:2D×5,000ガメル
* 2D結果:9
* 上昇額:45,000ガメル
* 最終落札額:145,000ガメル

収支報告

内容 増減
銀冠の売却 +145,000
古代の暦・天文学資料 +1,000
競売手数料(一割) -14,500
現金収益 +131,500ガメル
十点魔晶石 売却せず共同保有(10,000ガメル相当)

獲得経験点

最大の障害は、モンスターレベル6のスモール・アイアン・ゴーレム。

* 獲得経験点:6×500=3,000点

キャラクター 前回まで 今回 保有経験点
ルクスン 2,000 +3,000 5,000
ノクティア 2,000 +3,000 5,000
ゼフィーリア 4,000 +3,000 7,000
オトフリート 2,000 +3,000 5,000
妖姫殺し 500 +3,000 3,500

※技能の成長処理は、次章冒頭の成長報告で行う。
※妖姫殺しはソーディアン3まで、あと500経験点(笑)。
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