アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第十章 キメラの丘

章頭・成長報告

第九章はラムリアース滞在と準備のため、獲得経験点なし。技能および特殊能力は第51話章頭から変更なし。

* ルクスン:ファイター5/シーフ3/レンジャー2/プリースト〈創造神〉2
* ノクティア:シーフ5/シャーマン4/レンジャー2
* ゼフィーリア:ダークプリースト〈ファラリス〉7/シャーマン2/レンジャー1
* オトフリート:ソーサラー3/セージ4/ファイター1
* ベラトリクス:ソーディアン5。形状《ブロードソード+2》


第53話 二十秒の空白

 ラムリアースを発って数日。

 

 ルクスンたちは、キメラの丘を望む雑木林へ野営地を設けた。

 

 丘と呼ばれてはいるが、緩やかな斜面ではない。

 

 大地から突き出した岩盤と、古代王国の遺構が折り重なった複雑な地形である。崩れた石柱、半ば埋まった外壁、雑草に覆われた石段。その中心部に、地下遺跡への入口がある。

 

 そして現在、その周囲を三頭の怪物が縄張りとしていた。

 

 オトフリートは木陰に座り、目を閉じている。

 

 使い魔の梟は、丘の上空を大きく旋回していた。

 

「梟から見える範囲では、スフィンクスは丘の東側にある石舞台から動いていません。ヴァンパイアマンティコアは反対側の岩窟付近。真キマイラは中央上空を飛び、一定の範囲を巡回しています」

 

「遺跡の入口は?」

 

「三頭の縄張りが重なる中央部です。ルクスンが記憶している位置と一致しています」

 

「そこだけ合っていて、罠が全部入れ替わっている可能性もあるけどな」

 

 銀冠の遺跡で、ルクスンは前世の記憶との違いを思い知らされている。

 

 未発見の遺跡だからこそ、八坂鷹たちが遊んだシナリオとまったく同じ保証はない。

 

 それでも、何も知らないよりは遥かに有利だった。

 

 入口の先には、地下へ向かう広い階段がある。

 

 最初の罠は、侵入者の重量で作動する落石。

 

 次が、左右の壁から飛び出す槍。

 

 その先には落とし格子と、床の一部が抜ける偽装通路。

 

 記憶どおりなら、正しい踏み石と解除装置の位置もわかる。

 

 人間が使うための迷宮である以上、内部へ入れば真キマイラの翼は使えない。

 

 炎の息も曲がり角と隔壁で射線を切れる。

 

 巨大な身体は罠へ触れやすく、狭い通路では三つの頭を同時に使うことも難しい。

 

 問題は、入口へ辿り着くまでだった。

 

          ◇

 

 夕方。

 

 梟が野営地へ戻ってきた。

 

 オトフリートは羊皮紙へ、三頭の位置と移動範囲を書き込んでいく。

 

 ノクティアが地図上の一点を指差した。

 

「ここなら、三頭から同時に見える」

 

「そうだ。僕たちはスフィンクスとマンティコアの縄張りの境を進み、真キマイラが入口の上へ来た瞬間に中央へ走る。三頭とも僕たちを狙って動くけど、入口の手前で進路が重なる」

 

「怪物同士が衝突する保証はありますか?」

 

「ない。真キマイラは目についたものを攻撃する。スフィンクスとマンティコアは知性があるから、こっちの狙いに気づくかもしれない。だけど、お互いを無視して僕たちだけを追えば、真キマイラに横腹を見せることになる」

 

 ゼフィーリアが人の姿で地図を覗き込む。

 

「三頭が仲良く手を組んだら?」

 

「そのときは人生最後のかけっこが始まる」

 

「随分と楽しそうね」

 

「笑うしかないんだよ!」

 

 ベラは人の姿で近くの木へ背を預けていた。

 

 銀色の瞳を隠すバイザーを着け、実用一点張りの旅装を身につけている。

 

「主よ。妾が人の姿となり、囮を務めてもよいぞ。怪物どもを引きつけ、華麗に遺跡へ駆け込むのじゃ」

 

「人の姿を保つだけでも力を使うだろ。今は剣に戻って温存しろ。遺跡の中で何が出るかわからないんだ」

 

「妾の華麗なる活躍が遠ざかっていくのう」

 

「魔剣が華麗に活躍するときは、僕が死にかけているときなんだよ!」

 

 作戦は決まった。

 

 成功する保証はない。

 

 それでも、三頭を個別に突破するよりは遥かにましだった。

 

          ◇

 

 翌日。

 

 ルクスンはミスリル銀製の鎖帷子を着込み、ラウンドシールドを背負った。腰にはベラとなった《妖姫殺し》。手にはメイスを持っている。

 

 《無限のバッグ②》を収めた《無限のバッグ①》は、身体へ固く固定した。

 

 ノクティアは短槍と投げナイフを確認する。

 

 オトフリートは発動体の杖を握り、精神を集中させた。

 

「全知全能、万能なるマナよ。我らを覆い、迫る刃と爪を退けよ。《プロテクション》」

 

 魔力が一行を包む。

 

 防げるのは、ほんの僅かな損傷にすぎない。

 

 それでも、生死を分ける僅かさだった。

 

 ゼフィーリアは後方へ位置取り、いつでも神聖魔法を使えるよう両手を空けている。

 

「行くぞ。目標は討伐じゃない。入口まで走り、宝を回収して、生きて帰る。怪物に勝とうとするな。欲張るのは宝物庫へ着いてからだ」

 

「ルクスンが一番欲張る」

 

「ノクティア、今それを言うな!」

 

 一行は林を出た。

 

 最初の数十歩は、何も起こらなかった。

 

 丘の上では、スフィンクスが伏せたままこちらを見ている。

 

 岩窟の闇で、二つの目が赤く輝いた。

 

 上空を旋回していた影が、翼を傾ける。

 

 三頭とも、既に侵入者へ気づいていた。

 

「走れ!」

 

 一行が中央へ向かって駆け出す。

 

 スフィンクスが石舞台から立ち上がった。

 

 ヴァンパイアマンティコアが岩窟を飛び出す。

 

 真キマイラは翼を畳み、空から一直線に降下してきた。

 

 三頭の進路が、遺跡入口の前で重なる。

 

 真キマイラが炎を吐いた。

 

 スフィンクスが横へ跳び、マンティコアが翼を打って炎を避ける。

 

 火炎が地面を舐め、石畳を赤く焼いた。

 

 互いの縄張りへ踏み込んだ三頭が、咆哮を上げる。

 

「成功した!」

 

 ルクスンたちは、怪物同士が衝突する横を走り抜けた。

 

 遺跡への階段が見える。

 

 だが、喜べたのは最初の十秒だけだった。

 

 真キマイラが前脚の一撃でマンティコアを弾き飛ばす。

 

 翼を広げ、スフィンクスへ炎を浴びせながら、再び一行へ首を向けた。

 

「もう抜けてきたぞ!」

 

「作戦どおりでは?」

 

「最低でも数分は争ってくれる計算だったんだよ!」

 

 稼げた時間は、僅か二十秒。

 

 ルクスンたちが階段へ飛び込んだ直後、背後から真キマイラの咆哮が響いた。

 

 巨大な爪が、遺跡入口の石床を砕く。

 

 外で作った時間は、もう尽きた。

 

 ここから先は、ルクスンの記憶と、古代王国の罠だけが頼りだった。

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