アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
章頭・成長報告
第九章はラムリアース滞在と準備のため、獲得経験点なし。技能および特殊能力は第51話章頭から変更なし。
* ルクスン:ファイター5/シーフ3/レンジャー2/プリースト〈創造神〉2
* ノクティア:シーフ5/シャーマン4/レンジャー2
* ゼフィーリア:ダークプリースト〈ファラリス〉7/シャーマン2/レンジャー1
* オトフリート:ソーサラー3/セージ4/ファイター1
* ベラトリクス:ソーディアン5。形状《ブロードソード+2》
ラムリアースを発って数日。
ルクスンたちは、キメラの丘を望む雑木林へ野営地を設けた。
丘と呼ばれてはいるが、緩やかな斜面ではない。
大地から突き出した岩盤と、古代王国の遺構が折り重なった複雑な地形である。崩れた石柱、半ば埋まった外壁、雑草に覆われた石段。その中心部に、地下遺跡への入口がある。
そして現在、その周囲を三頭の怪物が縄張りとしていた。
オトフリートは木陰に座り、目を閉じている。
使い魔の梟は、丘の上空を大きく旋回していた。
「梟から見える範囲では、スフィンクスは丘の東側にある石舞台から動いていません。ヴァンパイアマンティコアは反対側の岩窟付近。真キマイラは中央上空を飛び、一定の範囲を巡回しています」
「遺跡の入口は?」
「三頭の縄張りが重なる中央部です。ルクスンが記憶している位置と一致しています」
「そこだけ合っていて、罠が全部入れ替わっている可能性もあるけどな」
銀冠の遺跡で、ルクスンは前世の記憶との違いを思い知らされている。
未発見の遺跡だからこそ、八坂鷹たちが遊んだシナリオとまったく同じ保証はない。
それでも、何も知らないよりは遥かに有利だった。
入口の先には、地下へ向かう広い階段がある。
最初の罠は、侵入者の重量で作動する落石。
次が、左右の壁から飛び出す槍。
その先には落とし格子と、床の一部が抜ける偽装通路。
記憶どおりなら、正しい踏み石と解除装置の位置もわかる。
人間が使うための迷宮である以上、内部へ入れば真キマイラの翼は使えない。
炎の息も曲がり角と隔壁で射線を切れる。
巨大な身体は罠へ触れやすく、狭い通路では三つの頭を同時に使うことも難しい。
問題は、入口へ辿り着くまでだった。
◇
夕方。
梟が野営地へ戻ってきた。
オトフリートは羊皮紙へ、三頭の位置と移動範囲を書き込んでいく。
ノクティアが地図上の一点を指差した。
「ここなら、三頭から同時に見える」
「そうだ。僕たちはスフィンクスとマンティコアの縄張りの境を進み、真キマイラが入口の上へ来た瞬間に中央へ走る。三頭とも僕たちを狙って動くけど、入口の手前で進路が重なる」
「怪物同士が衝突する保証はありますか?」
「ない。真キマイラは目についたものを攻撃する。スフィンクスとマンティコアは知性があるから、こっちの狙いに気づくかもしれない。だけど、お互いを無視して僕たちだけを追えば、真キマイラに横腹を見せることになる」
ゼフィーリアが人の姿で地図を覗き込む。
「三頭が仲良く手を組んだら?」
「そのときは人生最後のかけっこが始まる」
「随分と楽しそうね」
「笑うしかないんだよ!」
ベラは人の姿で近くの木へ背を預けていた。
銀色の瞳を隠すバイザーを着け、実用一点張りの旅装を身につけている。
「主よ。妾が人の姿となり、囮を務めてもよいぞ。怪物どもを引きつけ、華麗に遺跡へ駆け込むのじゃ」
「人の姿を保つだけでも力を使うだろ。今は剣に戻って温存しろ。遺跡の中で何が出るかわからないんだ」
「妾の華麗なる活躍が遠ざかっていくのう」
「魔剣が華麗に活躍するときは、僕が死にかけているときなんだよ!」
作戦は決まった。
成功する保証はない。
それでも、三頭を個別に突破するよりは遥かにましだった。
◇
翌日。
ルクスンはミスリル銀製の鎖帷子を着込み、ラウンドシールドを背負った。腰にはベラとなった《妖姫殺し》。手にはメイスを持っている。
《無限のバッグ②》を収めた《無限のバッグ①》は、身体へ固く固定した。
ノクティアは短槍と投げナイフを確認する。
オトフリートは発動体の杖を握り、精神を集中させた。
「全知全能、万能なるマナよ。我らを覆い、迫る刃と爪を退けよ。《プロテクション》」
魔力が一行を包む。
防げるのは、ほんの僅かな損傷にすぎない。
それでも、生死を分ける僅かさだった。
ゼフィーリアは後方へ位置取り、いつでも神聖魔法を使えるよう両手を空けている。
「行くぞ。目標は討伐じゃない。入口まで走り、宝を回収して、生きて帰る。怪物に勝とうとするな。欲張るのは宝物庫へ着いてからだ」
「ルクスンが一番欲張る」
「ノクティア、今それを言うな!」
一行は林を出た。
最初の数十歩は、何も起こらなかった。
丘の上では、スフィンクスが伏せたままこちらを見ている。
岩窟の闇で、二つの目が赤く輝いた。
上空を旋回していた影が、翼を傾ける。
三頭とも、既に侵入者へ気づいていた。
「走れ!」
一行が中央へ向かって駆け出す。
スフィンクスが石舞台から立ち上がった。
ヴァンパイアマンティコアが岩窟を飛び出す。
真キマイラは翼を畳み、空から一直線に降下してきた。
三頭の進路が、遺跡入口の前で重なる。
真キマイラが炎を吐いた。
スフィンクスが横へ跳び、マンティコアが翼を打って炎を避ける。
火炎が地面を舐め、石畳を赤く焼いた。
互いの縄張りへ踏み込んだ三頭が、咆哮を上げる。
「成功した!」
ルクスンたちは、怪物同士が衝突する横を走り抜けた。
遺跡への階段が見える。
だが、喜べたのは最初の十秒だけだった。
真キマイラが前脚の一撃でマンティコアを弾き飛ばす。
翼を広げ、スフィンクスへ炎を浴びせながら、再び一行へ首を向けた。
「もう抜けてきたぞ!」
「作戦どおりでは?」
「最低でも数分は争ってくれる計算だったんだよ!」
稼げた時間は、僅か二十秒。
ルクスンたちが階段へ飛び込んだ直後、背後から真キマイラの咆哮が響いた。
巨大な爪が、遺跡入口の石床を砕く。
外で作った時間は、もう尽きた。
ここから先は、ルクスンの記憶と、古代王国の罠だけが頼りだった。