アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第54話 罠は敵を選ばない

 地下へ続く石段を、ルクスンたちは一気に駆け下りた。

 

 オトフリートの杖には、《ライト》をかけた小石が結びつけられている。白い魔法光が揺れ、古代王国の石壁を照らしていた。

 

 背後から石を砕く音が迫る。

 

 真キマイラは、遺跡の入口へ強引に身体を押し込んできた。

 

 翼を広げるだけの空間はない。

 

 それでも、獅子を思わせる巨体と四本の脚だけで、人間より遥かに速く走ることができる。

 

「階段を下りたら左の壁際! 黒い床石を踏むな!」

 

 ルクスンの記憶では、階段の下に落石の罠がある。

 

 一定以上の重量が床へ加わると、天井を支えている留め具が外れる仕組みだ。

 

 ノクティアが先頭へ出た。

 

 走りながら床へ目を走らせ、左端に並ぶ僅かな窪みを見つける。

 

「罠はある。左端は作動範囲の外」

 

「記憶どおりだ! 壁に沿って抜けろ!」

 

 ノクティア、オトフリート、ゼフィーリアが左側を走り抜ける。

 

 ルクスンも続いた。

 

 最後の一人が罠の先へ出た直後、真キマイラが石段を駆け下りてきた。

 

 巨体が黒い床石を踏み抜く。

 

 鈍い音がした。

 

 天井から石材が崩れ落ち、真キマイラの背と翼を直撃した。

 

 石塊が通路を塞ぐ。

 

「やったか!?」

 

「そういうことを言うと、絶対にやってないのじゃ!」

 

 腰のベラが叫んだ直後、瓦礫の山が内側から吹き飛んだ。

 

 真キマイラが三つの咆哮を重ね、落石を押し退ける。

 

 鱗と毛皮には傷が刻まれている。

 

 だが、動きを止めるには至っていない。

 

「知ってた! こんな罠で倒せるなら一軍級なんて呼ばれないよ!」

 

 ルクスンたちは十字路へ飛び込んだ。

 

 宝物庫への最短経路は正面である。

 

 しかし、ルクスンは右の通路へ曲がった。

 

「そちらは遠回りではありませんか?」

 

「正面には、足止めに使える罠がない! 右の槍回廊を通る!」

 

「主よ。壁の中から無数の刃を感じるぞ。数は多すぎてわからぬ!」

 

 ベラの《センス・ソード》が、壁へ隠された刃物を捉えていた。

 

「それで合っている! 白、白、黒、白の順で床を踏め! 絶対に走る順番を変えるな!」

 

「記憶だけで踏むの?」

 

「止まって調べていたら食われる!」

 

 ノクティアが先頭で床石を踏んでいく。

 

 白い石を二枚。

 

 黒い石を一枚。

 

 再び白い石。

 

 古代王国の罠は沈黙したままだった。

 

 全員が回廊を抜ける。

 

 数秒後、真キマイラが入口へ突っ込んできた。

 

 巨大な前脚が、複数の床石を同時に踏む。

 

 壁面に刻まれた細い溝が開き、左右から何十本もの槍が飛び出した。

 

 槍の穂先が、真キマイラの身体へ突き刺さる。

 

 大半は厚い皮膚と鱗に阻まれた。

 

 それでも、数本が翼の皮膜と脚へ食い込み、巨体を壁の間へ縫い止める。

 

「今度こそ!」

 

「言うなと言ったじゃろう!」

 

 真キマイラの口から炎が溢れた。

 

「角を曲がれ!」

 

 一行が次の曲がり角へ飛び込む。

 

 直後、槍回廊を火炎が埋め尽くした。

 

 炎は直線状の通路を走ったが、石壁の角を曲がることはできない。熱風だけがルクスンたちの背を叩いた。

 

 プロテクションの魔力が、僅かな熱と飛び散った石片を受け止める。

 

 炎の中で、金属の槍が歪む音がした。

 

 真キマイラが力任せに拘束を引き千切っている。

 

「飛べない。炎も曲がらない。罠にも全部引っかかる。ダンジョンの中なら、やっぱり弱体化している!」

 

「それでも追いつかれたら全員死にます」

 

「わかってるよ、オトフリート!」

 

          ◇

 

 次の広間には、二本の通路があった。

 

 左は宝物庫へ通じる道。

 

 右は行き止まりだが、途中に落とし格子がある。

 

 ルクスンは迷わず右へ走った。

 

「また遠回り?」

 

「ノクティア、壁の燭台を右へ回せ! オトフリートは奥の壁際まで走れ!」

 

 ノクティアが跳び上がり、錆びついた燭台へ手をかける。

 

 動かない。

 

 両手で握り、体重をかける。

 

 石壁の内部で歯車が軋み始めた。

 

「回った!」

 

「全員、格子の向こうへ!」

 

 一行が通過した直後、鉄の格子が天井から落ちた。

 

 床を叩く轟音が広間へ響く。

 

 真キマイラが曲がり角を飛び出し、格子の前で急停止した。

 

 三つの頭が、それぞれ格子へ噛みつく。

 

 前脚の爪が鉄棒を捉え、力任せに引き広げ始めた。

 

「行き止まりですよ!」

 

「知ってる! こっちだ!」

 

 ルクスンは壁際に積もった埃を蹴り払った。

 

 足元に、小さな石の突起が現れる。

 

 それを踵で踏み込むと、行き止まりだった壁が横へずれた。

 

 記憶どおりの抜け道である。

 

 一行は隠し通路へ入り、反対側から石壁を閉じた。

 

 直後、鉄格子が引き千切られる音がした。

 

 長くは保たない。

 

          ◇

 

 隠し通路の先には、最後の罠があった。

 

 床一面が、薄い石板で覆われている。

 

 その下には深い縦穴が口を開けていた。

 

 人間一人の重量なら耐えられる。

 

 真キマイラの巨体が乗れば、床全体が崩落する。

 

「一人ずつ渡れ! 走るな、同じ石へ二人で乗るな!」

 

「後ろから来る」

 

 ノクティアには、暗闇の中でも真キマイラの熱が見えていた。

 

 隠し通路を塞いでいた壁が砕かれる。

 

 赤く燃える三対の目が現れた。

 

「急げ!」

 

 ノクティアが渡る。

 

 オトフリートが続く。

 

 ゼフィーリアが身軽に石板を踏み、対岸へ辿り着く。

 

 最後にルクスンが飛び移った。

 

 着地と同時に、真キマイラが偽装床へ突っ込んできた。

 

 薄い石板が砕ける。

 

 真キマイラの巨体が、床ごと縦穴へ落下した。

 

 狭い穴の中では、翼を開くことができない。

 

 三つの咆哮が重なり、地下通路全体を震わせる。

 

「これで、少しは時間を稼げる」

 

 ルクスンが縦穴を覗き込む。

 

 真キマイラは死んでいない。

 

 壁へ爪を突き立て、既に這い上がろうとしていた。

 

「少しだけ」

 

「わかってる。宝物庫まで走るぞ!」

 

          ◇

 

 宝物庫の扉は、記憶と同じ場所にあった。

 

 違っていたのは、扉の錠前である。

 

 前世のセッションでは、既に壊れていたはずだった。

 

 現在は古代王国の機械錠が、扉を固く閉ざしている。

 

「開けられる?」

 

「やる」

 

 ノクティアが盗賊道具を取り出し、錠前へ細い金具を差し込む。

 

 縦穴から、石壁を引っ掻く音が聞こえてくる。

 

 時間はない。

 

 ルクスンは背後を警戒し、メイスを握り直した。

 

 オトフリートは杖を構え、ゼフィーリアは治癒の祈りに備える。

 

 鞘から抜けたベラが宙へ浮かび、切っ先を通路へ向けた。

 

「急ぐのじゃ、ノクティア。妾の刃でも、あれを長く止められるとは思えぬぞ」

 

「喋ると集中できない」

 

「すまぬ」

 

 錠前の奥で、小さな金属音が鳴った。

 

 ノクティアが扉を押す。

 

 重い石扉が、ゆっくりと内側へ開いた。

 

 魔法光が宝物庫の中へ差し込む。

 

 壁際には七つの保管台が並び、それぞれに武器、道具、箱、封印容器が残されていた。

 

 伝説に謳われるような秘宝ばかりではない。

 

 それでも、古代王国の遺物が七口。

 

 持ち帰る価値は十分にある。

 

 ルクスンは《無限のバッグ①》を下ろし、その中に収めた《無限のバッグ②》の口を開いた。

 

「鑑定はあとだ! 端から全部入れろ!」

 

 縦穴の方角から、巨大な爪が石床を捉える音が響いた。

 

 宝物を運べるかどうかではない。

 

 真キマイラが這い上がるまでに、七口すべてを袋へ押し込めるか。

 

 時間との勝負が始まった。

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