アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第56話 怪物の丘から持ち帰ったもの

了解。ルクスンのミスリルチェインも、真キマイラの爪を受けて傷一つつかない形でリテイクします。

 

第十章 キメラの丘

 

 

 退路となる横穴は、人間一人がようやく通れるほど狭かった。

 

 ルクスンたちは七つの収蔵品を二つの魔法のバッグへ押し込み、身を屈めて通路を走っていた。

 

 背後から石壁が砕ける音が迫ってくる。

 

 真キマイラは、身体を横穴へ無理やりねじ込んで追ってきていた。

 

 翼は使えない。

 

 左右の前脚も、同時には振るえない。

 

 三本の首も並べず、先頭の一頭しかルクスンたちを狙えない。

 

 だが、それでも一軍に匹敵すると謳われる怪物だった。

 

「急げ! こいつ、通れないから諦めるって発想がないぞ!」

 

「もう出口が見えている。ルクスンも早く」

 

 最後尾を走るルクスンの背後で、岩を引っ掻く音がした。

 

 振り返る間もない。

 

 真キマイラの前脚が、狭い通路を薙いだ。

 

 巨大な爪が、ルクスンの背中を直撃する。

 

 金属音が響き、ルクスンの身体が前方へ吹き飛ばされた。

 

「ぐえっ!」

 

 地面を転がったルクスンへ、ノクティアが駆け寄る。

 

「背中を見せて。鎧が裂けているかもしれない」

 

「いや、鎖帷子は無事だ。僕の背中は痛いけどな!」

 

 ルクスンが身を起こす。

 

 真キマイラの爪をまともに受けたにもかかわらず、ミスリル銀の鎖帷子には傷一つなかった。

 

 銀色の細い環は一つも切れず、潰れず、歪んでもいない。

 

 衝撃までは消してくれないが、怪物の爪で引き裂かれるような鎧ではなかった。

 

「さすがミスリルチェイン。必要筋力十で、盗賊や野伏の動きを一切邪魔しないうえに、この頑丈さ! 竜神官の武器庫から持ち出しておいてよかった!」

 

「鎧の説明は、逃げ切ってからにしろ!」

 

 今度は真キマイラの首が伸びる。

 

 獅子の顎がルクスンへ食らいつく寸前、銀色の剣が横から飛び込んだ。

 

 ベラが自ら動き、牙を受け止める。

 

 巨大な顎に挟まれたベラの刀身が、甲高い音を立てた。

 

「ベラ!」

 

「騒ぐでない。妾もお主の鎖帷子も、安物の鉄とは違うのじゃ!」

 

 ベラが獅子の口内を斬りつけ、牙の間から抜け出す。

 

 ミスリル銀製の魔法剣である刀身にも、刃こぼれ一つなかった。

 

 オトフリートが横穴の出口から杖を向ける。

 

「全知全能、万能なるマナよ。万物を縛る力となり、かの者を打て。《エネルギー・ボルト》!」

 

 魔力の矢が真キマイラの鼻先を撃つ。

 

 怪物が怯んだ一瞬に、ベラがルクスンの手へ戻った。

 

「全員、外へ!」

 

 ルクスンたちは横穴から丘の斜面へ飛び出した。

 

 最後に出たノクティアが、壁際に残されていた古い楔を蹴り抜く。

 

 それはルクスンが記憶していた、非常通路を封鎖するための仕掛けだった。

 

 天井を支えていた石材が外れる。

 

 横穴が崩れ、追ってきた真キマイラの頭上へ大量の岩が落下した。

 

 怒りに満ちた三頭の咆哮が、崩落の向こうから響く。

 

「倒してはいない。あれくらいで死ぬ相手じゃない」

 

「それでも、すぐには追ってこられない」

 

 ノクティアの言葉どおり、崩れた横穴から真キマイラが出てくる気配はなかった。

 

 正面へ回れば、スフィンクスとヴァンパイア・マンティコアの縄張りを通らなければならない。

 

 ルクスンは地面へ座り込み、痛む背中を押さえた。

 

「勝ったとは言い難いな。僕たちは遺跡へ入って、罠を使って、宝を抱えて逃げただけだ」

 

「生きて宝を持ち帰ったのだから、冒険者としては勝ちでしょう」

 

 オトフリートが眼鏡を直す。

 

 黒猫姿のゼフィーリアが、ルクスンの背中へ前足を置いた。

 

「骨は折れていないようね。治してあげるから、動かないでいなさい」

 

「鎧に傷はないのに、中身だけ痛い。防具ってそういうものだけど、なんか納得いかないな……」

 

「ならば次からは、鎧の外へ出て戦えばよいではないか」

 

「どうやって戦うんだよ、ベラ!」

 

          ◇

 

 ラムリアースへ戻った一行は、魔術師ギルドへ遺跡の調査記録を提出した。

 

 遺跡の構造。

 

 現在も作動する罠。

 

 三体の怪物が支配する縄張りの範囲。

 

 そして、真キマイラが遺跡内部へ侵入できるという事実。

 

 真キマイラを討伐してはいない。

 

 それでも、これまで誰も持ち帰れなかった内部情報には十分な価値があった。

 

 報告書を読んだギルドの担当者は、何度も内容を確認した。

 

「本当に、この横穴を真キマイラが追ってきたのですか?」

 

「壁を壊しながらね。狭いから安全だと思ったら大間違いですよ。翼と尻尾は封じられるし、三本の首も一度に攻撃できないけど、前へ進めないわけじゃない」

 

「この印は?」

 

「天井を落とす仕掛けです。僕たちが使ったから、いまは崩落しています。再調査するなら、別の退路を用意してください」

 

「貴重な情報です。この報告書は、今後キメラの丘を調査する者すべてに閲覧させます」

 

 その功績により、ルクスンたちには古代王国期の建築目録と、周辺遺跡に関する一般資料の閲覧が許された。

 

 上級魔術師だけが利用できる書庫へ入れるわけではない。

 

 それでも、魔術師ギルドから正式な調査者として扱われ始めたことは大きな前進だった。

 

 次いで、持ち帰った七つの品が鑑定された。

 

 厳重な箱や壺に収められていたのは、いずれも精霊力を蓄えた結晶だった。

 

 地晶石。

 

 氷晶石。

 

 水晶石。

 

 暗晶石。

 

 炎晶石。

 

 光晶石。

 

 雷晶石。

 

 七点の評価額は、合わせて一万九千八百ガメル。

 

 売却すれば半額の九千九百ガメルとなる。

 

「怪物の格に対して、宝の質が妙に普通じゃないか?」

 

「量はありました。七点すべて、実用できる品です」

 

「一軍に匹敵する真キマイラに追い回された結果が、精霊晶石詰め合わせか……」

 

「生きているだけ、当たりじゃろう」

 

「お前が言うと腹立つな。真キマイラに噛まれても無傷だったくせに」

 

 結局、七つの晶石は売却しなかった。

 

 これから挑む蛇王の迷宮や、さらに先の冒険で役立つ可能性がある。

 

 金にはならなかったが、無駄な戦利品ではない。

 

 こうしてキメラの丘への最初の潜入は終わった。

 

 三体の怪物は、すべて健在。

 

 遺跡も、その大部分が未探索のまま残されている。

 

 攻略したとは到底いえない。

 

 だが、ルクスンたちは生きて帰り、七つの宝と、魔術師ギルドからの信用を持ち帰った。

 

 冒険者にとっては、それで十分な勝利だった。

 




第十章 章末リザルト

獲得経験点:各五千点

最大の障害:真キマイラ
討伐には至らず。ただし、三体の縄張りを突破して遺跡へ潜入し、真キマイラの追撃を退けて生還した功績を評価。

収支

* 現金収入:〇ガメル
* 売却品:なし
* 持ち帰った財宝:精霊晶石七点
* 評価総額:一万九千八百ガメル
* 売却時価格:九千九百ガメル
* 宿泊費・生活費:ラムリアース滞在費として月次精算
* 装備修理費:〇ガメル
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