アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第61話 白と黒の蛇王

 八時間の休息を終えた。

 

 オトフリートとノクティアの精神力は全快。

 

 前哨戦で負った傷も、ゼフィーリアの治癒によって塞がっている。

 

 十一匹のスモール・バジリスクはすべて倒した。退路を襲う怪物は、もういない。

 

 一行は用意してきたヘンルーダを服用し、リザードマンから借りた大盾と磨かれた金属板を確認した。

 

「ヘンルーダが防いでくれるのは石化だけだ。蛇王の死の邪眼には効かない。盾か手鏡で視線を遮ることを最優先にする」

 

「万が一、視線を受けてしまった場合に備えましょう」

 

 オトフリートが四人を対象に、古代語魔法を拡大する。

 

「全知全能、万能なるマナよ。敵意ある魔力を退け、我らが魂を守れ——カウンター・マジック」

 

 魔法への抵抗力が引き上げられる。

 

 ベラには必要ない。

 

 剣の姿をした彼女には、石化する肉体も、病に冒される身体も存在しない。

 

「妾こそ、蛇王の邪眼を恐れぬ最強の戦士ということじゃな!」

 

「自分で飛んで斬るより、僕が持った方が強いけどな」

 

「決戦前に剣の士気を下げるでない!」

 

 オトフリートが《ライト》をかけた小石を用意し、ノクティアはウィルオーウィスプを呼び出した。

 

 光によって壁や床を調べる。

 

 光の外側は三人のインフラビジョンと、使い魔の暗視で警戒する。

 

 準備は整った。

 

          ◇

 

 キングヒュドラの頸骨は、三本の通路へ分かれていた。

 

 中央の頸骨は最も太く、左右の頸骨は緩やかな弧を描いて中央へ向かっている。

 

 三つの通路が行き着く先には、三つの巨大な頭蓋骨があった。

 

 中央の頭蓋。

 

 左右の頭蓋。

 

 人間たちは頭蓋骨の間を削り、互いの内部が見通せる一つの戦場へ作り変えていた。

 

 中央へ蛇王。

 

 左右へ護衛。

 

 三匹のバジリスクが互いを守れる配置だ。

 

 同時に、中央の王から左右の護衛が見えてしまう配置でもある。

 

「わざわざ護衛が王の邪眼を受ける位置に置かれてる。作った連中は何を考えてたんだ?」

 

「蛇王へ絶対に顔を向けないよう、護衛を従わせるためではありませんか?」

 

「蛇王を守る陣形というより、蛇王が二匹を支配する陣形か」

 

 ルクスンは磨かれた金属板を取りつけた大盾を構えた。

 

 ただ視線を防ぐだけではない。

 

 角度を合わせれば、受けた邪眼を別の方向へ返すことができる。

 

「オトフリート。角度は?」

 

「中央から正面へ向けられた視線を、左の頭蓋へ返します。盾をあと少し内側へ傾けてください」

 

「こうか?」

 

「そこで固定してください」

 

 ノクティアとゼフィーリアは手鏡を持つ。

 

 オトフリートは石柱の陰。

 

 ベラはルクスンの手。

 

 ウィルオーウィスプが、三つの頭蓋が交わる広間へ進んだ。

 

 白い光が、最初に左右の怪物を照らす。

 

 通常のバジリスク。

 

 二匹ともスモール種よりはるかに大きい。

 

 太い四肢と長い尾。

 

 人間を一噛みで絶命させる牙。

 

 そして、訪れた者を石へ変える邪眼。

 

 二匹が同時に頭を上げた。

 

 続いて、中央の頭蓋から王が現れる。

 

 体格は左右の個体と大きく変わらない。

 

 だが、その顔にある二つの眼だけが明らかに違った。

 

 片方は黒い生物の眼。

 

 もう片方は、白く輝く宝石。

 

 眼球ではない。

 

 研磨された魔法の宝石が、眼窩へ埋め込まれている。

 

 ルクスンの《センス・マジック》へ、白い眼から溢れる強い魔力が映った。

 

「待て。白い方はバジリスクの眼じゃない」

 

「魔法の品ですか?」

 

「ああ。バロウルの魔眼だ」

 

 ルクスンの知識に、呪われた宝石の情報が浮かび上がる。

 

 精神抵抗を無効にし、死に至る病をもたらす魔眼。

 

 本来の石化能力しか持たないバジリスクへ、人の手で埋め込まれた魔法の宝石だった。

 

「白い邪眼による死は、あの宝石の呪いだ。石化とは別に抵抗しなきゃならない。ヘンルーダでは防げない」

 

「では、白い眼を破壊しますか?」

 

「壊すな。あれは呪われていても、相当な価値を持つ魔法の宝石だ。蛇王を倒して、安全に摘出する」

 

「決戦中に、お宝の心配を始めたぞ」

 

「質のいい宝は持って帰る! 冒険者として当然だろ!」

 

 白い魔眼は戦利品。

 

 黒い眼は危険な石化の邪眼。

 

 倒すべき敵と、壊してはならない宝が同じ顔についている。

 

「ベラ、白い眼は斬るなよ」

 

「黒い方だけ斬ればよいのじゃな?」

 

「できれば頭そのものを斬ってくれ!」

 

          ◇

 

 三匹の邪眼が、同時に一行へ向けられた。

 

「盾と鏡を上げろ!」

 

 ノクティアとゼフィーリアが手鏡で目元を覆う。

 

 オトフリートは石柱へ身を隠す。

 

 ルクスンは磨かれた大盾を正面へ掲げた。

 

 通常のバジリスク二匹の視線は遮られる。

 

 蛇王の黒い邪眼と、白い宝石から放たれた妖光が、大盾の金属板へ映った。

 

「少し左へ!」

 

 オトフリートの指示に従い、ルクスンは盾の角度を変えた。

 

 二つの妖眼が、磨かれた金属板から左の頭蓋へ返される。

 

 そこにいたバジリスクは、自分の王へ顔を向けていた。

 

 護衛の身体が硬直する。

 

 鱗の色が灰色へ変わり、四肢から石化が広がった。

 

 尾まで完全な石となり、巨体が頭蓋の床へ倒れる。

 

「一匹!」

 

「主よ、右の奴が眼を閉じたぞ!」

 

 もう一匹のバジリスクは、仲間が石へ変えられるところを見ていた。

 

 蛇王の妖眼を恐れ、両目を固く閉じている。

 

 石化の邪眼を使うどころではない。

 

 自ら視界を捨てた怪物が、匂いと水音だけを頼りに前進する。

 

「これで邪眼は封じた。右の一匹を先に倒す!」

 

 ノクティアがウィルオーウィスプへ命じる。

 

 光の精霊が、眼を閉じたバジリスクへ飛び込んだ。

 

 魔法の一撃は外れない。

 

 白い閃光を受けた怪物が、頭を振り回す。

 

 視界を失っているため、反撃の牙は空を噛んだ。

 

 オトフリートが杖を向ける。

 

「全知全能、万能なるマナよ。不可視の衝撃となりて、かの敵を撃て——エネルギー・ボルト」

 

 光弾がバジリスクの胸へ命中する。

 

 ノクティアが水を蹴り、横合いから短槍を突き刺した。

 

 バジリスクが眼を開こうとする。

 

 だが、その正面には白と黒の妖眼を持つ蛇王がいる。

 

 開けば、今度は自分が王の視線を受ける。

 

 眼を閉じたまま、怪物は尾を振り回した。

 

 ノクティアが水中へ身を沈める。

 

 尾が頭上を通過した。

 

 水によって回避は鈍っていたが、相手も眼を閉じている。

 

「ルクスン!」

 

「任せろ!」

 

 ルクスンは大盾を手放した。

 

 蛇王の邪眼を直接見ないよう、中央の石柱を視界の端へ置く。

 

 両手でベラを握り、眼を閉じたバジリスクの首へ振り下ろした。

 

 ミスリル銀の刃が鱗を割る。

 

 一撃。

 

 さらに踏み込み、二撃目。

 

 首の骨が断たれた。

 

 二匹目のバジリスクが水中へ崩れ落ちる。

 

 王一匹。

 

 護衛二匹の陣形は、ほとんど機能しなかった。

 

 一匹は王の邪眼によって石化。

 

 もう一匹は王を恐れて眼を閉じ、自ら最大の武器を封じた。

 

「準備して来れば、こんなものだ!」

 

「主よ、後ろじゃ!」

 

 蛇王が中央の石柱を回り込んでいた。

 

 邪眼を反射されたことで、盾の危険を理解したらしい。

 

 今度は妖眼を使わず、牙でルクスンへ襲いかかる。

 

 振り向いたときには、巨大な顎が迫っていた。

 

 水中では避けきれない。

 

 牙がルクスンの左肩へ食い込んだ。

 

 ミスリルチェインが、牙を受け止める。

 

 鎖帷子には傷一つつかない。

 

 だが、噛みついた衝撃までは消えず、ルクスンの身体が水中へ倒された。

 

「主!」

 

 ベラが手から離れる。

 

 蛇王が倒れたルクスンを踏みつけ、再び牙を突き立てようとする。

 

 十メートル後方から、ゼフィーリアが手を伸ばした。

 

「暗黒の神ファラリスよ。傷つきし者へ、望むままに生きる力を与えたまえ——キュア・ウーンズ」

 

 治癒の奇跡が距離を越えて届く。

 

 肩の痛みが薄れ、ルクスンは水中で身体を転がした。

 

 蛇王の牙が、直前まで頭のあった場所を噛む。

 

「ベラ!」

 

「ここじゃ!」

 

 水面へ落ちていた魔剣が、自ら飛び上がった。

 

 リバティ・ソード。

 

 ベラは蛇王の顔へ斬りつける。

 

 狙うのは黒い眼。

 

 白い宝石には触れない。

 

 自力で飛ぶ剣の一撃では深い傷を与えられなかったが、黒い眼の上を切り裂き、蛇王の注意を引くには充分だった。

 

 ルクスンが立ち上がる。

 

 飛んで戻ってきたベラの柄を掴む。

 

 魔剣が戦士の手へ戻った瞬間、その威力が跳ね上がった。

 

「お前は剣なんだ。僕が持って殴る!」

 

「今ばかりは異論なしじゃ!」

 

 蛇王の白い魔眼がルクスンへ向く。

 

 視線を遮る大盾は、少し離れた場所へ落ちている。

 

 ノクティアが手鏡を投げた。

 

 ルクスンは左手で受け取り、白い宝石との間へ差し込む。

 

 死をもたらす妖光は、小さな鏡に遮られた。

 

「本当に手鏡で防げるんだな!」

 

「確かめるために命を賭けないで!」

 

 蛇王が苛立ったように頭を振る。

 

 その横腹へ、オトフリートの光弾が命中した。

 

 ウィルオーウィスプも続く。

 

 必中の魔法を二つ受け、蛇王の身体が大きく傾いた。

 

 ルクスンは手鏡を投げ捨て、両手でベラを握る。

 

 蛇王の牙が再び迫る。

 

 今度は正面から踏み込んだ。

 

 牙が閉じるより早く、その下を潜り抜ける。

 

 ベラを振り上げる。

 

 ミスリル銀の刃が、蛇王の顎から頭部へ深く食い込んだ。

 

 白い魔眼を避け、脳へ向かって刃を通す。

 

「終わりだ!」

 

 刃を引き抜く。

 

 黒い瞳から力が消えた。

 

 白い宝石の光も、ゆっくりと弱まっていく。

 

 蛇王の巨体が水中へ倒れた。

 

 大きな波が広間全体へ広がり、三つの頭蓋を洗った。

 

          ◇

 

 しばらく、誰も動かなかった。

 

 黒い眼は完全に光を失っている。

 

 白い魔眼も輝きを収めていたが、魔力そのものは消えていない。

 

 ルクスンの《センス・マジック》には、蛇王の死後も禍々しい魔力が見えていた。

 

「黒い眼は潰す。白い方は摘出する。絶対に素手で触るなよ」

 

 ベラの切っ先で、黒い眼を破壊する。

 

 続いてノクティアが盗賊道具から小さな鉗子を取り出した。

 

 ルクスンが白い眼の周囲を切り開き、ノクティアが宝石を慎重に挟む。

 

 眼窩から引き抜かれた宝石は、鶏卵ほどの大きさだった。

 

 乳白色の内部に、黒い筋が瞳孔のように浮かんでいる。

 

「これが、バロウルの魔眼?」

 

「そうだ。精神抵抗を無効にして、死に至る病をもたらす呪われた宝石。価値は高いけど、絶対に誰かへ取りつけようとするな」

 

「妾の銀眼の代わりにしてはどうじゃ?」

 

「話を聞いてたか! 絶対に駄目だ!」

 

「冗談じゃ。主は本気で慌てるから面白いのぉ」

 

 宝石を厚い布で幾重にも包み、硬い小箱へ収める。

 

 誰にも装着されていない状態なら、死の妖光を放つことはない。

 

 それでも、呪われた魔法の品であることに変わりはない。

 

 《バロウルの魔眼》。

 

 白と黒の蛇王を生み出した宝石は、それ自体が今回の財宝の一つだった。

 

 中央の頭蓋の奥には、さらに人の手で作られた石扉がある。

 

 蛇王の身体が倒れたことで、その全体が見えるようになっていた。

 

 扉には、宝物を捧げる人間たちの姿が刻まれている。

 

「開けるぞ」

 

「今度こそ、呪われていないお宝がよいのぉ!」

 

 石扉を押す。

 

 隙間から、《ライト》の光を受けた金色の輝きが零れた。

 

 量は山のように多くない。

 

 だが、ひと目でわかる。

 

 蛇王へ捧げられた品々は、どれも並の財宝ではなかった。

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