アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第71話 二度目の婚約破棄

 拘束されたゼクノワの前へ、祭司長が立った。

 

 目隠しは外さない。

 

 耳栓も片方だけ残してある。

 

 巫女の姿を見ず、その声を聞かなければ、混沌の女神による干渉は弱まる。

 

 ゼクノワ自身も、いまは女神の存在を敵として認識している。暗黒神の加護による強い精神抵抗も、ようやく本来の意味を取り戻していた。

 

「久しいな、ゼクノワ」

 

「祭司長には、ご迷惑をおかけしました」

 

「お前が自ら望んで巫女へ従ったわけではないことは理解した。それでも、お前の命令によって同族の血が流れた事実は消えない」

 

「承知しています。混沌の女神を排除したあと、必要な裁きを受けます」

 

 ゼフィーリアが二人の間へ入る。

 

「裁きの話は、すべてが終わってからです。それより、婚姻の儀について知っていることを話してください」

 

 ゼクノワが頷いた。

 

「祭祀場へ集められるのは、十二支族の代表者たちだ。俺が次代の族長として巫女を花嫁に迎え、新たな神へ服従を誓う。代表者たちもそれに続き、十二支族全体の信仰を女神へ捧げる」

 

「私の身体を奪う儀式は、どこで行われるのです?」

 

「婚姻の誓約と同時だ。巫女は祭司の血統を持たない。だから儀式の途中でお前を祭壇へ上げ、女神の魂を移す。巫女の身体は、そのための橋として使い潰される」

 

「身体を奪われている巫女本人は、まだ生きていますか?」

 

「わからない。時折、女神とは違う声で助けを求めることがある。しかし、その声も日に日に弱くなっている」

 

 仮初めの器となった巫女にも、まだ自我が残っている可能性がある。

 

 ならば、巫女ごと殺すという手段は選びにくい。

 

 現在の身体を破壊すれば、混沌の女神は再び霊体となる。

 

 その場にゼフィーリアがいれば、すぐに新たな器として狙われるだろう。

 

「ベラのバロウルの魔眼は使用禁止だな。巫女を斬って即死させたら、混沌の女神だけが飛び出してくる可能性がある」

 

「せっかくの魔眼なのに、使ってはならぬ場面ばかりではないか!」

 

「即死攻撃を気軽に使えると思うな!」

 

          ◇

 

 祭司長が地図を広げた。

 

「ゼクノワを救出した以上、婚姻の儀は行えないのではないか?」

 

「女神は俺を取り戻そうとする。それが無理なら、別の者を族長代理として立てるかもしれません。儀式の正統性は落ちますが、十二支族の代表者を集めて信仰を誓わせることはできます」

 

「つまり、ゼクノワを攫っただけでは止まらない」

 

「時間は稼げます。しかし、巫女と祭壇を残すかぎり、別の形で儀式は行われます」

 

 ルクスンは地図を見つめた。

 

 祭祀場を武力で制圧するだけなら、旧守派を総動員すれば不可能ではないかもしれない。

 

 だが、巫女へ従っている者たちもダークエルフ十二支族の一員である。

 

 正面から戦えば、混沌の女神を倒す前に十二支族が潰し合う。

 

「公衆の面前で、儀式そのものを否定する必要がある。ゼクノワが次代の族長として婚姻を拒否し、ゼフィーリアが祭司の正統な血統として女神を認めない。十二支族の代表者が見ている前でやれば、巫女へ従っている連中にも迷いが生まれる」

 

「巫女の近くへ行けば、私は再び操られる可能性があります」

 

「だから目と耳を塞いだまま祭祀場へ入る。宣言するときだけ外す」

 

 ゼフィーリアがゼクノワを見る。

 

「その瞬間に支配されたら?」

 

「俺が婚姻を受け入れたとしても、お前が拒絶すれば儀式は完全には成立しない」

 

 祭司長が低い声で答える。

 

「ゼフィーリアは本来、お前と結ばれることで祭司と族長の血統を一つにするはずだった。巫女がゼフィーリアの身体を奪えば、同じ条件を満たせる」

 

「私がゼクノワの花嫁ではないことを、十二支族の前で証明すればいいのですね」

 

 ルクスンは嫌な予感を覚えた。

 

 ゼフィーリアが、ゆっくりとこちらを見る。

 

「最後の手段があります」

 

「まだ最後じゃない! もう少し粘ろう!」

 

 ゼクノワが事情を理解できず、顔を上げる。

 

「何の話だ?」

 

「祭司の血統に連なる娘が、自らの自由意思で別の婿を選んだと宣言すれば、族長の血統と結ぶために決められた婚約は無効になります」

 

「相手は、その人間か?」

 

「最終的には」

 

「最終的にもやめろ!」

 

 祭司長がルクスンを値踏みするように見る。

 

「人間を婿に迎えるなど認められん」

 

「父上に認めていただく必要はありません。祭司の娘が自ら選ぶ婿は、本人の自由意思によって決められます」

 

「ファラリスの教義が、ここで最悪の方向に強い!」

 

 ノクティアが真顔でルクスンを見る。

 

「結婚するの?」

 

「しない! まだ作戦会議だ!」

 

「嫌なの?」

 

「そういう確認を今するな!」

 

 ベラトリクスが鞘の中で騒ぎ始める。

 

「主よ、ダークエルフの婿になるなら、その前に妾を第一夫人として認めるのじゃ!」

 

「お前は剣だ!」

 

「人型になれるぞ!」

 

「余計に話をややこしくするな!」

 

 オトフリートだけが冷静に地図を見ていた。

 

「ゼフィーリアが別の婿を選んだと宣言すれば、少なくとも婚姻の儀が掲げる正統性は崩せます。しかし、混沌の女神が力ずくで身体を奪おうとする可能性は残ります」

 

「そう。だから本当に最後の手段だ。婿取り宣言だけで神様が消えてくれるわけじゃない」

 

 ルクスンは地図上の祭壇を指した。

 

「第一の目的は、十二支族の信仰を女神から切り離すこと。第二の目的は、巫女から混沌の女神を引き剝がすこと。第三の目的は、巫女本人を可能なら救出すること。この順番でいく」

 

          ◇

 

 隠れ里へ、森の奥を監視していた斥候が駆け込んできた。

 

「祭祀場で動きがあります! 婚姻の儀が今夜へ繰り上げられました。各支族の代表者が、すでに集められ始めています!」

 

「ゼクノワを奪われたことで、女神も焦っている」

 

「日没まで、あまり時間がありません」

 

 祭司長が旧守派の戦士たちを招集する。

 

 正面から祭祀場へ向かう者。

 

 退路を確保する者。

 

 巫女派の増援を食い止める者。

 

 それぞれの役割が決められていく。

 

 ルクスンたちも準備を始めた。

 

「祭祀場へ近づく前に、オトフリートがカウンター・マジックをかける。相手は神様だ。精神抵抗を上げられるだけ上げておく」

 

「対象を増やして、皆さんへかけます。ただし、祭祀場へ入る前に行いましょう。いま使って、移動中に効果が切れては意味がありません」

 

「頼む。ノクティアとゼフィーリアは精霊力を温存。巫女の身体を傷つけずに拘束できる機会が来るまで、攻撃魔法は使わない」

 

「ルクスンは?」

 

「僕は前に立つ。混沌の女神がゼフィーリアへ移ろうとしたら、創造神の力で運命そのものへ割り込む」

 

 どこまで通用するかはわからない。

 

 だが、創造神がルクスンへ神聖魔法を押しつけた理由は、混沌の女神を倒すためだった。

 

 使うべき場面は近づいている。

 

          ◇

 

 目隠しをしたゼクノワが立ち上がった。

 

 両手の拘束は外されたが、耳栓は残されている。

 

 祭祀場へ着くまで、巫女の声を聞かせるわけにはいかない。

 

「ゼフィーリア」

 

「何です?」

 

「俺はお前との婚約を破棄する。十二支族の前でも、同じことを宣言する」

 

「ありがとうございます」

 

「代わりに、その人間を婿にするのか?」

 

「必要になれば」

 

「必要になるな!」

 

 ルクスンの叫びが、隠れ里へ響いた。

 

 混沌の女神を倒すための祭祀場突入。

 

 それは同時に、ルクスンの人生を守る戦いにもなりつつあった。

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