アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
【章頭成長報告】
第十二章最終任務の獲得経験点:五百点
現在のレベルキャップ:七
* ルクスン:未使用経験点五百点。成長は保留。
* ノクティア:未使用経験点千五百点。成長なし。
* ゼフィーリア:未使用経験点五百点。成長なし。
* オトフリート:未使用経験点五百点。成長なし。
* ベラトリクス:九千点を消費し、ソーディアン五から六へ成長。残り五百点。
【ベラトリクスの成長】
* 必要筋力:六から七
* 打撃力:十五から十六
* 魔法の武器修正:+二
* 最大タレントポイント:十八点
* ブロードソードのまま、刀身が一回り大型化
* 《アンブレイカブル》取得
《アンブレイカブル》
消費タレントポイント六。発動後、使い手がベラトリクスを手にしている間、その使い手に対する精神攻撃を無効化する。手を離せば効果は終了する。
混沌の女神は滅びていない。
神の心臓に棲む不死鳥の再生の炎を利用し、仮初めの器を再生させた。
そして、ルクスンから受けた傷を抱えたまま神の心臓へ逃げ、再び力を蓄えようとしている。
敵の居場所はわかっている。
だが、そこへ行く手段がなかった。
氷結海を越える航海には大型帆船が必要となる。
アレクラストで大型帆船を建造できるのは、事実上オランだけ。
船一隻を用意し、船員と物資を揃え、火山島へ上陸するまでに必要な経費は、大国の国家予算にも匹敵する。
それならば、ルクスンがかねてより目論んでいた飛空挺――あるいは空飛ぶ魔力の塔を建造するのと、大差がなかった。
「金がない。信用も足りない。職人もいない。魔力の塔を建てる書物も、まだ手に入れてない。ないものだらけだな」
「最初からすべて持っておる者などおらぬ。妾とて、初めは名前すらない短剣だったのじゃぞ」
「珍しくいいこと言うね」
「もっと褒めてもよいのじゃ!」
「そこで黙っていればね」
すぐに調子へ乗るベラトリクスを腰へ下げ、ルクスンはラムリアース王都ライナスの魔術師ギルドへ向かった。
立ち止まっている余裕はない。
すぐに神の心臓へ行けないのなら、その間に一つでも足りないものを埋めていくしかなかった。
◇
魔術師ギルド地下。
幾重もの魔法と分厚い鉄扉に守られた禁書庫の入口で、オトフリートは一人、入室許可証を番人へ渡した。
ルクスンたちに許可はない。
この先へ入れるのは、ラムリアースで正式に研究を認められたオトフリートだけだった。
「無の砂漠より南にある古代遺跡から、魔力の塔を建造するための書物が発掘される。それが僕の知っている歴史だけど、この時代に本当に書物が存在しているかどうかは確認できない」
「そこで、禁書庫に保存された古代王国期の記録から裏付けを探します。書名、著者、保管場所、遺跡の来歴。いずれか一つでも確認できれば、発掘へ向かう根拠になるでしょう」
「頼んだ。僕の前世知識だけを頼りに無の砂漠を越えて、何もありませんでしたでは洒落にならない」
「数日で済むとは限りません。その間、皆さんは旅の準備を進めておいてください」
オトフリートは一人で鉄扉の向こうへ消えた。
扉が閉じる。
禁書庫の中で、魔力の塔を探す調査が始まった。
◇
ルクスンが次に訪れたのは、ライナスでも魔法の武具を扱う店だった。
長い旅へ出る前に、ベラトリクスの装備を整える必要がある。
彼女は人間の姿になれるようになったものの、変身するたびに裸となる。
普通の衣服を着ても、剣へ戻ればその場へ残されてしまう。
旅の最中に何度も着替えを繰り返すのは、あまりに不便だった。
店内を見回していたルクスンは、一本の鞘から漂う魔力に気づいた。
「《鍛えの鞘》か」
ブロードソードを一時間以上納めることで、抜いた剣へ《エンチャント・ウェポン》を与える魔法の鞘。
基本取引価格は六千ガメル。
多少の寸法差なら鞘そのものが伸縮し、剣へ合わせてくれる。
成長するベラトリクスには都合がよさそうだった。
「ベラは最初から魔法の剣だから、《エンチャント・ウェポン》はかからない。鞘本来の効果は無駄になるな」
「妾を強くできぬのなら、用はないのじゃ」
「待って。この鞘も魔法の品なら、《ヒューマノイド》に追従するかもしれない」
店主の許可を得て、ベラトリクスは《鍛えの鞘》へ収まった。
試着用の衝立の向こうで《ヒューマノイド》を使う。
銀色の刀身が人の身体へ変わると同時に、鞘も柔らかく形を変えた。
やがて、衝立の向こうから銀髪銀眼の少女が姿を現した。
ベラトリクスは、丈夫そうな茶色の革服をまとっていた。
胸元まで閉じた上着。
動きやすい革のズボン。
膝まで覆う長靴。
防具としてはソフトレザー相当。旅装として申し分ない。
「断るのじゃ! これでは森で兎を追い回す狩人ではないか!」
「最高じゃん。動きやすくて、防具にもなって、変身しても裸にならない」
「妾は可憐にして勇壮なる魔剣姫ぞ! 主の横で獲物を担いで歩く猟師ではないのじゃ!」
「魔法の鞘に服の趣味まで要求するなよ!」
店主が困ったように二人を見比べた。
「《鍛えの鞘》そのものが珍しい品です。人間形態へ追従して衣服となり、さらに本人の気に入る意匠となる品を既製品から探すのは、かなり難しいかと存じます」
「仕立て直せる?」
「魔法の鞘を扱える職人がいれば、あるいは。ただ、新しい品を探すより難しいかもしれません」
「ならば探すのじゃ。妾に相応しい鞘と、可憐で強そうなドレスを!」
「神の心臓へ行く準備をしている最中に、服探しのクエストを増やすな!」
ルクスンの脳裏へ、聞き覚えのある幻聴が響いた。
――サブクエスト『ベラトリクスの気に入る魔法の鞘を探せ』が発生しました。
「誰だ、今の幻聴を流した奴!」
結局、《鍛えの鞘》の購入は保留となった。
六千ガメルの支出は、まだ発生していない。
◇
同じ頃。
ノクティアとゼフィーリアは、ライナスの茶店で大量の買い物目録を広げていた。
無限のバック①と無限のバック②に収められた品物の確認。
保存食。
水袋。
縄。
油。
薬草。
防寒具。
野営道具。
予備の武器。
まだ進路さえ決まっていないため、どこへ向かっても無駄にならない物から揃えている。
確認が一段落したところで、ノクティアが顔を上げた。
「で、実際どうなの?」
「実際ですか?」
「ルクスン。婿にするって言った」
ゼフィーリアは変身リングで人間の姿となり、優雅に香草茶を飲んでいた。
「一族を二つに割らないための最後の手段でした。ですが、必要なら本当に申し出るつもりでした」
「嫌ではない?」
「嫌な相手に婚姻を申し出たりはしません。彼は私に帰る場所を作ると言いました。あの人がどのような場所を作るのか、私は見ていたいと思っています」
「好きなの?」
「随分と直接的ですね。では、あなたはどうなのです?」
ノクティアの手が止まった。
「わたしは、拾われただけ」
「拾われたから、神の心臓までついていくのですか?」
「帰る場所がないから」
「彼が帰る場所を作れば、そこへ帰る?」
ノクティアは答えなかった。
その沈黙を破るように茶店の扉が開き、ルクスンが入ってくる。
腰に下げられたベラトリクスは、鞘探しの結果が不満なのか、珍しく静かだった。
「ノクティア、僕と一緒に一角獣の森まで来てくれ」
「行く」
ノクティアは理由も聞かずに即答した。
ゼフィーリアが静かに微笑む。
「随分とよい頃合いのお誘いですね」
「何の話?」
「何でもありません。ノクティアを一角獣の森へ連れていく理由を説明してください」
「ドルイドから《ヴァルキリー・ジャベリン》を学びたい。ターシャスへ行けば高位の精霊使いはいるだろうけど、今のあそこへ近づくのは危険すぎる。一角獣の森なら、魔術師ギルドから紹介状を貰えるかもしれない」
「わたしは付き添い?」
「精霊使いでもない男が一人で高位精霊魔法を見せろと言っても、魔法泥棒にしか見えない。正式な精霊使いが一緒なら、話くらい聞いてもらえると思う」
「わかった。精霊との仲介はわたしがする」
鞘の中からベラトリクスが声を上げた。
「主よ、一角獣の森にはドルイドがおるのじゃろう? 魔法の鞘を仕立てられる職人を知らぬか、妾のために尋ねるのじゃ!」
「目的を増やすな!」
「妾の服も大切な旅支度じゃ!」
「僕は《ヴァルキリー・ジャベリン》を学びに行くんだよ!」
「では、魔法を一つと鞘を一つ。二つの用事を済ませればよいではないか!」
「簡単に言うな!」
ゼフィーリアが楽しそうに二人のやり取りを眺めていた。
◇
魔術師ギルドは、ルクスンの申し出を完全には拒まなかった。
古代遺跡の調査。
持ち帰った資料。
混沌の女神を巡る事件。
これまで積み上げてきた信用により、身元と訪問目的を保証する紹介状が発行されることになった。
ただし、それはドルイドへ命令する書状ではない。
話を聞いてもらうための、最初の扉を開く鍵にすぎなかった。
「《ヴァルキリー・ジャベリン》を教えるかどうかは、森のドルイドが決めます。ギルドの名を出して強要しないでください」
「最初から最後まで詠唱と発動を見せてもらえれば充分です。あとは自分で覚えます」
「それだけで習得できるという話の方が、よほど信じ難いのですが」
「僕もそう思います」
隣に立つノクティアが、紹介状を確認する。
「森の禁忌には従う。精霊との交渉は、わたしがする」
「それならばよいでしょう。くれぐれも一角獣を怒らせないように」
紹介状へ魔術師ギルドの封蝋が押された。
ルクスンの未使用経験点は五百点。
ラーニングで呪文を一つ習得するために必要な経験点と、ちょうど同じだった。
禁書庫では、オトフリートが魔力の塔を追う。
ライナスでは、ゼフィーリアが長旅の支度を整える。
ルクスンとノクティアは、高位精霊魔法を求めて一角獣の森へ向かう。
その腰には、自分の気に入る魔法の鞘まで探させようとするベラトリクスがいる。
神の心臓へ逃げた女神との再戦を前にした、ささやかな寄り道。
嵐の前の静けさの中、二人と一本の短い旅が始まった。