アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す   作:駄文亭

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第83話 朝の門を出る

 出発の朝、ルクスンは起こされる前に目を覚ました。

 

 窓から差し込む光が、壁際の荷物を照らしている。

 

 身体を起こし、肩を回す。寝不足の重さも、旅の後に残る鈍い疲れもなかった。

 

 七日間も休んでいられるかと思っていたのに、終わってみれば、もう一晩くらい泊まってもよい気がする。

 

「主よ」

 

 傍らの鞘から声がした。

 

「起きてるよ」

 

「では、なぜまた横になった」

 

「寝台に別れを惜しんでる」

 

「昨日までの威勢はどうした」

 

 ルクスンは笑って身を起こした。

 

 洗面を済ませ、装備を身につける。

 

 修繕した留め具を締め、新しい鞘の位置を確かめた。柄へ手をかけても、荷物の紐は邪魔にならない。

 

 最後に寝台の下を覗き込む。

 

 忘れ物はない。

 

「よし、行こう」

 

「朝食が先じゃ」

 

「分かってる」

 

 ベラを腰へ提げ、ルクスンは部屋を出た。

 

     ◇

 

 食堂には、すでに全員が揃っていた。

 

 ノクティアは窓の近くに座り、外の空を見ている。ゼフィーリアの傍らには、昼に食べる物を包んだ小さな荷があった。

 

 オトフリートは卓上に紙を広げていたが、今日は地図ではなかった。

 

「何を見てるんだ?」

 

「持ち出す書き付けの確認です。借りた資料は、昨日すべて返しました」

 

「豆の帳簿も?」

 

「写した分は持っています」

 

「本当に持っていくんだな」

 

「地名の前後が必要になるかもしれませんから」

 

 ルクスンは向かいへ座った。

 

 湯気の立つ汁物と、パンが運ばれてくる。

 

 数日前まで紙と道具で埋まっていた卓には、今は皿を置く余裕がある。それだけで、いよいよ出かけるのだという実感が湧いた。

 

「忘れ物は?」

 

 ノクティアが聞いた。

 

「ない。寝台の下まで見た」

 

「私も大丈夫です」

 

 ゼフィーリアが答え、オトフリートも紙を畳んだ。

 

「こちらも揃っています」

 

「妾もおるぞ」

 

「お前は忘れようがないだろ」

 

「主は一度、荷物に詰めようとしたではないか」

 

「あれは忘れたんじゃない」

 

 言い返しながら、ルクスンはパンを割った。

 

 笑って食べられる朝食だった。

 

 これから向かう先に何がいるか、誰も知らない。それでも、今この席で不安を数え続ける必要はなかった。

 

 調べられるものは調べた。

 

 傷んだ道具は直した。

 

 足りない物は揃え、持てない物は置いていくと決めた。

 

 後は、道の先を自分たちの目で見る番だった。

 

     ◇

 

 宿の主人に勘定を済ませると、ゼフィーリアが支出の控えへ最後の書き込みをした。

 

 ルクスンは、その細かな文字を横から覗いた。

 

「こうして並べると、結構買ったな」

 

「食べたものも含まれていますから」

 

「僕が食べすぎたみたいに言わないでくれ」

 

「どなたが、とは申し上げていませんよ」

 

 ゼフィーリアは涼しい顔で紙を畳んだ。

 

 宿の主人が荷物を眺め、扉を開けてくれる。

 

「また寄ってくれよ。あの大鍋を使うほど腹を空かせて帰ってこられても、何とかするからさ」

 

 ルクスンは足を止めた。

 

「……何で鍋の話を知ってるんだ?」

 

 ノクティアは先に外へ出た。

 

 ゼフィーリアは主人へ丁寧に礼を言った。

 

 オトフリートは荷紐を直している。

 

 ベラだけが遠慮なく笑った。

 

「有名になったのう、主よ」

 

「もっと別のことで有名になりたかった」

 

 主人の笑い声を背に、ルクスンも朝の通りへ出た。

 

     ◇

 

 ライナスは、すでに動き始めていた。

 

 店先へ商品を運ぶ者。水を汲む者。荷車の車輪を点検する者。

 

 焼きたてのパンの匂いが路地から流れてきて、遠くで誰かが客を呼んでいる。

 

 一行は人の流れを避けながら、門へ向かった。

 

 ノクティアが前を歩き、ルクスンはその少し後ろについた。ゼフィーリアとオトフリートも、無理のない間隔で続く。

 

 稽古場で確かめた荷物は、歩いても大きく揺れなかった。

 

 城門の手前で、ルクスンは一度立ち止まった。

 

「どうしたの?」

 

 ノクティアが振り返る。

 

「いや。最初は、もっと簡単に考えてたなと思って」

 

「建造書のこと?」

 

「ああ」

 

 前世にちらりと見た記事。

 

 ファン近郊で見かけたリウイ。

 

 断片的な記憶をつないで、先に手に入れてしまおうと考えた。

 

 うまくやれる気がしたのは、結果だけを知っていて、そこまでの道を考えていなかったからかもしれない。

 

 エピタフの名を思い出すだけでは、水も食料も用意されない。古い道が今も通れるか分からないし、遺跡の入口まで着けたとしても、そこから先の見取り図は頭の中にない。

 

 それでも、行こうと思っている。

 

 今は隣に、同じ行き先を選んだ仲間がいた。

 

「やめるのか、主よ」

 

 ベラに聞かれ、ルクスンは首を振った。

 

「行くよ。ここまで準備したんだ」

 

「では、顔を上げよ。地面を見ていては、塔も空へ上がらぬぞ」

 

「まだ建ってないけどな」

 

「まずは本です」

 

 オトフリートが言った。

 

「それから内容を読んで、使える技術を調べて、必要なものを——」

 

「続きは歩きながら聞くよ」

 

 ルクスンが笑うと、ゼフィーリアも頷いた。

 

「帰りに運ぶものが増えるとよいですね」

 

「本なら、僕も背負う」

 

「大鍋は?」

 

 ノクティアの問いに、ルクスンは彼女を見た。

 

「遺跡で見つけても置いてくるよ」

 

 四人と一振りは、朝の門をくぐった。

 

 城壁の影を抜けると、道が日差しの中へ延びていた。

 

 ノクティアが歩調を整え、ルクスンもそれに合わせる。背後では、オトフリートが早くも塔の話を再開していた。

 

 エピタフへ。

 

 まだ見ぬ書物を手に入れ、ここへ持ち帰るための旅が始まった。




第十三章「閑話、または嵐の前の静けさ」収支報告

対象:第77~83話/ライナスでの休養・調査・出発準備

本文では価格を設定していなかったため、以下は章の会計用に金額を補った暫定案です。ルールブックの価格表との照合済み数値ではありません。

金銭収支

項目 金額 内容
収入 0ガメル 報酬・戦利品売却なし
宿泊・通常の食事 280ガメル 四人×七日×一日10ガメルで仮計上
湯浴み・市場での飲食・追加料理 40ガメル 滞在中の追加生活費
装備の修繕・紐の交換 30ガメル 水袋、留め具、荷紐など
携行食などの補給 120ガメル エピタフへの旅支度
書物の保護用品 40ガメル 油布、柔らかい布、梱包用の紐
筆記用品の補充 60ガメル 紙、インクなど
稽古場の借用 30ガメル 第81話の連携確認
支出合計 600ガメル
章内収支 -600ガメル

支払い元も未設定のため、この案では共有資金からまとめて支出します。

章末共有資金=第76話終了時の共有資金-600ガメル。
前章終了時の残高は過去の記録でも確定できなかったため、総残高は算出保留です。各人の個人所持金は、この案では変動なしとします。

所持品・資産の変動

* 水袋などを修繕し、傷んだ紐を交換。
* 携行食・筆記用品・書物保護用品を補充。正確な数量は未設定。
* 新規の魔法武器・魔法具・戦利品はなし。
* 大鍋、折り畳み椅子、運搬用木箱、荷運び用動物は未購入。
* ベラの鞘6,000ガメルは前章分。本章では計上しない。
* 魔力の塔建造書は未入手。

経験点・成長

対象 獲得経験点 経験点消費・技能成長
ルクスン 0点 なし
ノクティア 0点 なし
ゼフィーリア 0点 なし
オトフリート 0点 なし
ベラトリクス 0点 なし

全員、未使用経験点と技能は前章終了時から据え置き。
本章の成果は、休養、装備整備、連携確認、エピタフへ向かう道程の調査です。
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