アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す 作:駄文亭
出発の朝、ルクスンは起こされる前に目を覚ました。
窓から差し込む光が、壁際の荷物を照らしている。
身体を起こし、肩を回す。寝不足の重さも、旅の後に残る鈍い疲れもなかった。
七日間も休んでいられるかと思っていたのに、終わってみれば、もう一晩くらい泊まってもよい気がする。
「主よ」
傍らの鞘から声がした。
「起きてるよ」
「では、なぜまた横になった」
「寝台に別れを惜しんでる」
「昨日までの威勢はどうした」
ルクスンは笑って身を起こした。
洗面を済ませ、装備を身につける。
修繕した留め具を締め、新しい鞘の位置を確かめた。柄へ手をかけても、荷物の紐は邪魔にならない。
最後に寝台の下を覗き込む。
忘れ物はない。
「よし、行こう」
「朝食が先じゃ」
「分かってる」
ベラを腰へ提げ、ルクスンは部屋を出た。
◇
食堂には、すでに全員が揃っていた。
ノクティアは窓の近くに座り、外の空を見ている。ゼフィーリアの傍らには、昼に食べる物を包んだ小さな荷があった。
オトフリートは卓上に紙を広げていたが、今日は地図ではなかった。
「何を見てるんだ?」
「持ち出す書き付けの確認です。借りた資料は、昨日すべて返しました」
「豆の帳簿も?」
「写した分は持っています」
「本当に持っていくんだな」
「地名の前後が必要になるかもしれませんから」
ルクスンは向かいへ座った。
湯気の立つ汁物と、パンが運ばれてくる。
数日前まで紙と道具で埋まっていた卓には、今は皿を置く余裕がある。それだけで、いよいよ出かけるのだという実感が湧いた。
「忘れ物は?」
ノクティアが聞いた。
「ない。寝台の下まで見た」
「私も大丈夫です」
ゼフィーリアが答え、オトフリートも紙を畳んだ。
「こちらも揃っています」
「妾もおるぞ」
「お前は忘れようがないだろ」
「主は一度、荷物に詰めようとしたではないか」
「あれは忘れたんじゃない」
言い返しながら、ルクスンはパンを割った。
笑って食べられる朝食だった。
これから向かう先に何がいるか、誰も知らない。それでも、今この席で不安を数え続ける必要はなかった。
調べられるものは調べた。
傷んだ道具は直した。
足りない物は揃え、持てない物は置いていくと決めた。
後は、道の先を自分たちの目で見る番だった。
◇
宿の主人に勘定を済ませると、ゼフィーリアが支出の控えへ最後の書き込みをした。
ルクスンは、その細かな文字を横から覗いた。
「こうして並べると、結構買ったな」
「食べたものも含まれていますから」
「僕が食べすぎたみたいに言わないでくれ」
「どなたが、とは申し上げていませんよ」
ゼフィーリアは涼しい顔で紙を畳んだ。
宿の主人が荷物を眺め、扉を開けてくれる。
「また寄ってくれよ。あの大鍋を使うほど腹を空かせて帰ってこられても、何とかするからさ」
ルクスンは足を止めた。
「……何で鍋の話を知ってるんだ?」
ノクティアは先に外へ出た。
ゼフィーリアは主人へ丁寧に礼を言った。
オトフリートは荷紐を直している。
ベラだけが遠慮なく笑った。
「有名になったのう、主よ」
「もっと別のことで有名になりたかった」
主人の笑い声を背に、ルクスンも朝の通りへ出た。
◇
ライナスは、すでに動き始めていた。
店先へ商品を運ぶ者。水を汲む者。荷車の車輪を点検する者。
焼きたてのパンの匂いが路地から流れてきて、遠くで誰かが客を呼んでいる。
一行は人の流れを避けながら、門へ向かった。
ノクティアが前を歩き、ルクスンはその少し後ろについた。ゼフィーリアとオトフリートも、無理のない間隔で続く。
稽古場で確かめた荷物は、歩いても大きく揺れなかった。
城門の手前で、ルクスンは一度立ち止まった。
「どうしたの?」
ノクティアが振り返る。
「いや。最初は、もっと簡単に考えてたなと思って」
「建造書のこと?」
「ああ」
前世にちらりと見た記事。
ファン近郊で見かけたリウイ。
断片的な記憶をつないで、先に手に入れてしまおうと考えた。
うまくやれる気がしたのは、結果だけを知っていて、そこまでの道を考えていなかったからかもしれない。
エピタフの名を思い出すだけでは、水も食料も用意されない。古い道が今も通れるか分からないし、遺跡の入口まで着けたとしても、そこから先の見取り図は頭の中にない。
それでも、行こうと思っている。
今は隣に、同じ行き先を選んだ仲間がいた。
「やめるのか、主よ」
ベラに聞かれ、ルクスンは首を振った。
「行くよ。ここまで準備したんだ」
「では、顔を上げよ。地面を見ていては、塔も空へ上がらぬぞ」
「まだ建ってないけどな」
「まずは本です」
オトフリートが言った。
「それから内容を読んで、使える技術を調べて、必要なものを——」
「続きは歩きながら聞くよ」
ルクスンが笑うと、ゼフィーリアも頷いた。
「帰りに運ぶものが増えるとよいですね」
「本なら、僕も背負う」
「大鍋は?」
ノクティアの問いに、ルクスンは彼女を見た。
「遺跡で見つけても置いてくるよ」
四人と一振りは、朝の門をくぐった。
城壁の影を抜けると、道が日差しの中へ延びていた。
ノクティアが歩調を整え、ルクスンもそれに合わせる。背後では、オトフリートが早くも塔の話を再開していた。
エピタフへ。
まだ見ぬ書物を手に入れ、ここへ持ち帰るための旅が始まった。
第十三章「閑話、または嵐の前の静けさ」収支報告
対象:第77~83話/ライナスでの休養・調査・出発準備
本文では価格を設定していなかったため、以下は章の会計用に金額を補った暫定案です。ルールブックの価格表との照合済み数値ではありません。
金銭収支
項目 金額 内容
収入 0ガメル 報酬・戦利品売却なし
宿泊・通常の食事 280ガメル 四人×七日×一日10ガメルで仮計上
湯浴み・市場での飲食・追加料理 40ガメル 滞在中の追加生活費
装備の修繕・紐の交換 30ガメル 水袋、留め具、荷紐など
携行食などの補給 120ガメル エピタフへの旅支度
書物の保護用品 40ガメル 油布、柔らかい布、梱包用の紐
筆記用品の補充 60ガメル 紙、インクなど
稽古場の借用 30ガメル 第81話の連携確認
支出合計 600ガメル
章内収支 -600ガメル
支払い元も未設定のため、この案では共有資金からまとめて支出します。
章末共有資金=第76話終了時の共有資金-600ガメル。
前章終了時の残高は過去の記録でも確定できなかったため、総残高は算出保留です。各人の個人所持金は、この案では変動なしとします。
所持品・資産の変動
* 水袋などを修繕し、傷んだ紐を交換。
* 携行食・筆記用品・書物保護用品を補充。正確な数量は未設定。
* 新規の魔法武器・魔法具・戦利品はなし。
* 大鍋、折り畳み椅子、運搬用木箱、荷運び用動物は未購入。
* ベラの鞘6,000ガメルは前章分。本章では計上しない。
* 魔力の塔建造書は未入手。
経験点・成長
対象 獲得経験点 経験点消費・技能成長
ルクスン 0点 なし
ノクティア 0点 なし
ゼフィーリア 0点 なし
オトフリート 0点 なし
ベラトリクス 0点 なし
全員、未使用経験点と技能は前章終了時から据え置き。
本章の成果は、休養、装備整備、連携確認、エピタフへ向かう道程の調査です。