「視聴者の皆さんこんにちわ! 私達、今日も頑張ってダンジョン育てていきます!」 作:rikka
「突然のダンジョン化現象はまずあり得ない。だよね、レイカ?」
「うんそう、絶対にないな~い。という事は、多分前からどこかを基点にして、このお店は異界化してたハズなんだよね~」
ダンジョン化が発生して三十分の間に、状況把握はおおよそ把握した。
私達がいる地点から出入口は見当たらず、また何かしらの神秘の核らしきモノも確認出来ない。
これは私達の中で見たことあるのが陰陽術の実用試験を受けたレイカのみなので彼女頼りになるが、まぁ間違いないだろう。
同じく、レイカがとりあえず店員さんを代理責任者としたうえで三級陰陽師の免許証を提示した上で術を行使して結界を展開。
今いるこの場を臨時の避難所として安全を確保した上で、これからの活動を決める事になる。
「店員さん。え~と……」
「あ、な、名取と申します」
「名取さん、これだけ大きな商業施設なら定期的な神秘検査を入れてたと思うんだけど、反応なかったんですよねぇ?」
「はい。特に店長は何も言っておりませんでしたし、日報にもそんな記述はなかったです。店舗に関する連絡事項は全て書き込まれていたハズですし、出勤時に社員バイト問わず日報に目を通すのは絶対なので……間違いありません」
ふむ。
ダンジョンの攻略とは基本的に核の確保か、それを狙っている敵性神秘の排除をすることだ。
管理しているお店の人がなにも感じなかったという事は、本当に古くからそこに在ったのだろう。
「……巻き込まれたって言うのが痛いな~。どれが核側でどれが入口への道なのか分かんない」
「まず、出口はあるのかい? レイカ君」
「例外はあるけど、核となる神秘は空気の含まれる微細な神秘性――魔力とかマナを常に取り込み続ける習性があるから、外と繋がる道は必ずあるよ」
「食事みたいなものか」
「どっちかっていうと呼吸って言う方が正しいかな~」
今自分達――店員さん含めて四人がいる空間はT字路のようになっている。
雰囲気的には地下鉄駅だろうか。滞留しているせいで空気を重く感じる、独特の感じがする。
「だから必ず店の外にいる人たちはダンジョン化に気付いている。今頃異変の通報があって警察や消防、役所の担当部署が辺り一帯を封鎖。ダンジョン攻略班を招集して救助作戦開始! ってなってるはずだけど~」
「まだ救助には時間がかかる?」
「野良のダンジョン化は内部空間がどれだけ拡張されるか分からないからね~。今回みたいなケースだとどこか――一番多いのは古い配管とかかな。対神秘処理が古い奴。そういう狭くて人目に触れない場所に長く残ってた小さな異界が、なにかに刺激されて慌てて広がったんだと思う」
「つまり、蓄積されている神秘の力がどれほどか分からないと」
管理されたダンジョンならば、どれだけ神秘の力を核に吸わせるかを調整することでおおよその規模を決定させる事ができる。
無論未だ謎が多い神秘が関わる事なので完璧にとはいかないが、それでも調整が可能な誤差には抑えられるのだ。
「むぅ~。道具があれば出口の方向は分かるのに……」
「今は何も持ってないの?」
「効果の弱い符とか人型でも持ち出しには用意がいるから、今日はさっぱり~。学校鞄の中になら緊急用の術符を縫い込んでいるんだけど、今日は私服だからね~」
このご時世、特に若い世代は万が一の自衛に備えて何かしらの神秘に対応できる術を学んでいる子は珍しくない。
レイカは陰陽術。
お札や人の形に切った紙、それに呪文を使って神秘に介入し、時には部分的に支配する術。
「リコ君、さっき君の鞄の中に割り箸が見えたんだが」
「ん? うん、前にコンビニで買い物した時に付けられた奴がそのままになってる」
「ちょっと見せてくれ。ひょっとしたら、簡単な術なら使用できるかもしれない」
そしてイギリスから来たトウは、ドルイドだったというお祖母ちゃんから多少とはいえその術を習っている。
魔除けの類の護身術を主に教えられているという話だ。
「えぇと、ホイコレ」
「
袋を破り、割り箸をその手で触る。
「……白樺か。うん、悪くない。出来ればもっと大きい、板状の物がいいんだが……」
主に樹木とルーンを媒体に術を発動させる彼女の術式は、手軽さという点ではトップクラスと言えるだろう。
「ルーンを使う。とりあえずの魔除けを作るよ」
トウはレイカと違い明確な資格こそ持っていない。
ドルイドは余りに分派が多く、明確な家や会がないからだ。
だけど、初歩的な神秘の使用免許は取得している。
割り箸を割いてから二本を無理やりへし折って、程よい四本の大きさの棒へと変える。
そうしてトウはそれらを纏めて握りしめると、綺麗な輝きがその握った拳から溢れる。
黄色とも緑ともつかない、綺麗な光は一瞬立ち上り、そしてすぐに収まる。
「とりあえず四人分だ。敵性神秘をかき消すほどの効果はないが、少しは防御力が上がるし発見されづらくなる。落とさないように身に着けていてくれ」
「ありがと、トウ」
よし、これで活動可能。
レイカもしっかりカメラを回している。
スマホのカメラだと言うのが気にかかるが、多少ブレや雑な方が緊迫感が上がるだろう。
「レイカ、実際こういう時はどうするのがベスト? 育成に関しては最近本を読んでたけど、こういう攻略や事故に関してはまだ手を付けてないの」
「ん。今回はトウちゃんのおかげで移動しながらの安全確保がある程度とはいえ出来たし、進路を決めて移動しよう」
「いいのかい? こういう時は動かない方がいいんじゃないかと思ったんだが」
「山ならね~。でもこういう規模不明の野良ダンジョンでは、よほどの術士が結界張らない限りは一定時間ごとに動いた方がいいの」
道具こそないけど、それでも陰陽術は真言――呪文が大事らしい。
凄い専門家の攻略動画みたいな戦闘は無理だが、三級の彼女がトウと組めば危険な神秘生物に見つからず、あるいは避けて移動する事は可能だろう。
「人間がその場に留まると危険な神秘ほど寄りやすくなっちゃうんだよね。こういう突発型で巻き込まれた人は、移動できるのなら数時間に一回は移動した方がいいの」
「しかしレイカ君、危険なモンスターと出くわすリスクがあるんじゃないかい?」
「囲まれるリスクよりは~って感じかな。役所のページでも、『何かサインを残して移動先を示しながら定期的に場所を変えて救助を待ってください』って推奨してるよ~」
よしよし、それなら問題ない。
下手な事をして出だしから炎上するのは不味い。
「幸い、神秘に対応できる人間が最低三人揃ってる。これならば移動しながら探索できる」
「え、お客様も出来るんですか?」
ポッチャリ系店員の名取さんがキョトンとこちらを見ている。
「あ、はい。術とかは使えないんですけど特異体質があって――」
時突然、『ザァァァァァァァァァ……』という音が近づいてきた。
水だ。
まるで雨が降る中の河原のように。
いくつかある道の中でもっとも大きく真っ直ぐ平らな方から、水音が迫っている。
「あっちゃあ。ダンジョンの定番っちゃ定番だけど水はヤバいなぁ。皆、高い方に昇って!」
レイカが少しだけ顔をしかめて、全員を誘導する。
こういう時、やはり役所の対応を知っているレイカは頼りになる。
「……リコ君、レイカ君」
「んん?」
「どしたのー?」
「何か、蹄のような音がしないか?」
「……んお?」
流れてくる水の量は結構ある。
あのまま突っ立っていれば、今頃靴は水没してグチョグチョになっていただろう。
その流れの先から、確かに「カッポカッポ」と音がする。
咄嗟に店員さんを引っ張って、物影に身を隠す。
トウとレイカも自主的に隠れている。
さすがだ。
息を潜めて、水が流れてくる先を見つめる。
そうしていると、蹄の音の主がヌッと姿を現す。
「あれは……ケルピーか?」
現れたのは、水が馬の形になって所々に苔が皮のように張り付いている馬だった。
ケルピー。
ヨーロッパ地方ではよく出現するらしい水の神秘生物だ。
「故郷にいた頃何度か見た事があったけど……どうして日本のダンジョンに発生している?」
「……核を刺激したの、この子達かもね~。ここの商品ってヨーロッパからの輸入品あったりします?」
「えぇと、どうだろう。東南アジアからなら多いけど……あぁ、でも確かにキッチン周りの品は向こうから発注したのありました」
「……ケルピーもケルピーでどこかに隠れてたのかな~。油断していると閉じっぱなしの食洗器の中が異界化してたなんてあるあるだし」
よし。とレイカは呟き、私の肩に手を乗せる。
「リコちゃん」
おう。
「あの子達ぶん殴ってきて」
「お客様!!?」
「よしきた。カメラまわしといて」
「お客様!!!!???」