街で買い物途中にヤンキーに絡まれた俺。
相手は男女の4人組。
ヤンキー2人とそれぞれの彼女だ。
怯える俺の様子をニヤニヤと眺めるヤンキー達。
その様子に段々腹が立ってくる。
彼女にアピールする為に俺をボコそうとするヤンキーにも、
ニヤニヤ見ているだけで 自分の手を汚さない彼女達にも、
ただただ奴らのおもちゃにされている俺自身にも、
心底腹が立った。
そんな時、ヤンキーの彼女が、
「タカシ!やっちゃえー!」
と彼氏を焚き付けている。
これに「こいつのニヤケ顔をぶち壊したい」
と猛烈な衝動が巻き起こる。
俺は突如そのヤンキーの彼女に向かって猛ダッシュをし、
そのまま体当たりをぶちかますのであった…

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ヤンキーの株を下げる誰でもできる方法

「痛っ!いっったぁぁーい!」

ヤケクソになった俺の全力の体当たりを喰らい

ぶっ飛ばされたヤンキーの彼女が強打した頭を抑えて

のたうち回っている。

「アケミ!大丈夫か!」

痛みにうずくまる彼女に駆け寄るヤンキー。

「何やってんのよ!タカシ!なんでアタシが!痛っぁい…」

彼女から非難の目で見られ、焦るヤンキー。

とりあえず非難の矛先を変えようと、

「ってめぇ!女に手を挙げるなんて、卑怯だぞ!」

と俺に向かって喚いている。

「はあ?普通に買い物中の俺に絡んで来たのはお前らだろ?4人がかりで1人を襲っておいて、どっちが卑怯だよ」

とりあえず1人減らせたことで、少し冷静になり、

ヤンキー達に反論する俺。

「ふざけんな!アケミは女だぞ!」

間抜けにも彼女に攻撃されるという失態を取り戻そうと、

必死に「彼女を守る彼氏」を演出しているヤンキーに、

先ほどまでの恐怖心が薄らいでいく感覚。

「は?俺にとってあんた達は暴漢だろ?犯罪グループだ。男も女もねぇよ。」

両手を上げ、呆れたというジェスチャーをする俺。

そんな俺の様子に先ほどまでのニヤニヤ見ていただけのヤンキーの友人が、

「許さねえ…」

とこちらに近づいて来る。

流石はヤンキーだ。仲間意識だけは一丁前に強い。

仲間の彼女を暴行された仇を取る仲間思いの友人という自分に酔っている。

俺にはそうとしか見えなかった。

しかし、

「チャンス!」

俺は一気に駆け出す、近づくヤンキーと逆の方向でも、

ヤンキーの方向でもない方向に。

そこには、そう!ヤンキーの友人の彼女のいる方向へ。

先程、ヤンキーの彼女への情け容赦ない攻撃を見てたヤン友のオンナは

「違う!私は何もして無い!」

と走りくる俺に必死に弁明する。

「遅ぇんだよ!今更」

俺は覚えている。

ヤンキーが絡んで来た時、この女はニヤニヤと楽しんでいた。

こいつも立派な共犯なのだ。

その時の怒りと、そのニヤニヤ顔にすら恐怖していた自分を思い出し、

さっきに近い感情が俺に芽生える。

そして、走る勢いそのままに女を足蹴にする。

吹っ飛ぶ女。

そして、体をくの字にして足蹴にされたお腹を抑えながら、

「ぐっ、ゲホッ、ゲホッ」

と咳をしながら悶えている。

その様子を見ながら、

「ヤンキーなんかとつるんでるからそんな目に合うんだよ!バカ女!」

と捨て台詞を吐き、そのまま、俺は表通りに逃げ込み、

人混みに紛れてヤンキー達から逃げ切った。

 

あの日、ヤンキーの彼女達に向けて湧き上がった感情を

ここ数日、ずっと考えている。

あの怒りは、あの殺気はなんだったのか。

数日思案した結果思い至ったのは、

「ヤンキーが俺に絡んで来た原因の一端があの女達にあった」

という事だった。

中学生の間では何故かヤンキーがモテる傾向がある。

何故か?

簡単だ。

彼らヤンキーが持つ他人へ暴力を振るうという特性が、

中学生くらいの女の子にとっては、

「自分を庇護するチカラ」

として目に映るからだ。

ヤンキー達も女の子達が自分達に期待しているものが、

「暴力性」である事だと勘付いている。

だからこそ、自らの「暴力性」を誇示する為に、

わざわざ女を連れて他人に喧嘩をふっかけるのだ。

そこに気が付いた事で俺は理解した。

「ヤンキーと付き合う女がいるからヤンキーは一般人に絡む」

その結論は自分自身が絡まれた時に見た女達のニヤニヤ顔と

ピッタリと一致したのだ。

その瞬間、俺の中から「女性へ暴力を振るってしまった」という

罪悪感は綺麗さっぱり無くなり、逆に、

「ヤンキーをけしかけたヤンキーグループの指示役に目にものを見せてやった」

という誇らしい気持ちに変わっていた。

 

そんな爽快な気持ちでいたある日の休日、

街で先日のヤンキーにばったり出会い、再び絡まれる事になる。

「あー!お前!あの時の!今度は逃がさねぇぞ!どうなるか分かってんだろうな!」

今回はヤン友の彼女はいない様で、3人で絡んで来た。

いや、3人では無く、ヤンキーの彼女は前回で懲りたのか、

「もう良いじゃん。ほら、あっち行こう…」

と前回と違いヤンキー達を止めていた。

そんな変化を横目に見ながら、俺の方も前回と違い、

無理矢理ではなく自ら進んで裏路地に向かう俺。

その態度が気に入らなかったのか、

「テメェ!何余裕かましてんだよ!お前!ボッコボコにしてやるからな!」

と今回は初めから2人がかりてやる気のようだ。

勝ち目は薄そうだなと思いながら、

前回はニヤニヤと眺めていたヤンキーの彼女の方に目を向ける。

「ひぃっ…」

俺に視線を向けられて、小さな悲鳴を上げ、

怯える様子のヤンキー彼女。

「前回のことがよほど堪えたのかな?」

などと考えていると、

「テメェ!アケミ!情けねぇ声出してんじゃねぇぞ!」

ヤンキーが彼女に向かって怒鳴りつけている。

「えっ?この前はやたらと尻に敷かれている感じだったけど…」

と不思議に思っていると、ヤンキーの友人が、

「何、ボーッとしてやがる!お前のせいであの後、彼女と別れる事になっちまったじゃねぇか!お前!責任とれや!オラぁ!」

と怒鳴っている。

「別れたんだ。ププッ!ざまあー」

と思ったが口には出さない。

…が、思わずニヤけてて口元が緩んでしまう。

「て、テメェ!何笑ってやがる!」

と言いながら殴り掛かってきた。

「チャンス!」

ヤン友をすり抜けた先にヤンキーの彼女が見えたのだ。

俺もヤンキー彼女に向かって猛ダッシュする。

ヤン友は俺がヤン友に対峙する為に走り出したと思い、

迎撃の為、一瞬その場でもたつく。

俺はそのもたつくヤン友の横をそのまま駆け抜けて、

ヤンキーの彼女の元へ一直線。

そしてそのまま、怯えるヤンキー彼女の横面に走りながら

ビンタをお見舞いする。

バッチィィーン!

凄まじい音が裏路地に高らかに響き渡り反響する。

横面を強かに叩かれたヤンカノは、

くるりくるりと数回回転した後、ドシンとその場に尻餅をつく。

「ミッション終了!」

前回に続き、これだけ痛い目にあったのだ、

これであの女もヤンキーから離れるだろう。

ヤンキーをカツアゲや一般人へ暴行を誘導する元凶を成敗したのだ。

この後、俺はボコボコにされるだろうけど、

以降、彼らが一般人を襲う理由は無くなるだろう。

「さあ、あとは煮るなり焼くなら好きにしろ!」

そう心の中で覚悟を決めた直後、

「もう、ヤダァー!だからあっち行こうって言ったじゃーん!」

とヤンカノが大声で泣き出してしまう。

「お、おい!アケミ…」

慌ててヤンキーは彼女の元に駆け寄るが、

「もう良い!やっぱ別れる!もうやってられない!」

そう言って立ち上がると、そのまま立ち去ろうとする。

「ちょ!待てよ!おい!なんだよ別れるって!テメェ!俺に恥をかかせんな!」

そう言って彼女の胸ぐらを掴む。

「何よ!また殴るの!殴りたければ殴れば良いじゃん!あんた全然守ってくれないじゃん!あんたといても意味無いわ!さよなら!」

とヤンキーの腕を振り払う彼女。

さらに激昂したのか、

「テメェ!ふざけんな!」

と言ったと思った瞬間、

パシンッ

とヤンキーが彼女を引っ叩く。

叩かれた頰を抑えながら一瞬茫然とするも、

すぐにヤンキーの方に向き直り、

「気は済んだ?あんたの事強い男だと思っていたけど、違ったわ。あんたはただの乱暴者!あんたといたら私の身がもたないわ!」

真っ正面から罵倒する。

「このアマァァ!」

さらに殴り掛かろうとするヤンキーをヤン友が羽交締めにして止める。

「タカシ!女相手に止めろって!」

「こういう女は殴っていう事を聞かさなきゃダメなんだよ!」

ともがくヤンキー。

ヤンキー達が痴話喧嘩を始め、俺は放ったらかしになる。

もうちょっと見てみたいという欲求を抑えつけ、

俺はそっとその場を離れるのであった。

 

その日の晩、

とあるネット掲示板で、

「カツアゲされそうになったけど、ヤンキーの彼女をぶっ飛ばしたら逃げられた件」

というスレッドを立ち上げる。

はじめは

「女性に手を挙げるとか、スレ主、クソ」

「俺は死んでも女性を蹴らねぇ!」

と批判的な書き込みが多かったが、

俺の編み出した、

「ヤンキーが一般人を襲う元凶はヤンキーの彼女理論」

を展開し、丁寧に説明を行った。

特に、

ヤンキーと付き合う女性は虎の威を借る狐的クソ。

彼女に良いとこ見せる為、無関係な俺たちを襲うクソ。

というロジックは、彼らにも分かり安かった様で、

ヤンキーの彼女という元凶を叩き潰す事への正当性について

理解を得られるようになっていった。

それどころか、

「そういや俺がカツアゲされた時もヤンキーの彼女が後ろでニヤニヤしてやがったわ」

「俺の好きな女の子がヤンキーと付き合ってる奴に虐められた時も、ヤンキーの彼氏が参加してたわ」

などなどの目撃談や体験談が集まり、

一気にヤンキーと付き合ってる女性へのヘイトが高まる。

「俺のお小遣いはお前達のホテル代のためにあるんじゃない!」

「何故、童貞の俺から巻き上げた金でコンドームを買うのか!」

モテない僻みすら上乗せして、

「ヤンキーの彼女、許すまじ!」

という気運が日本全国に広がっていった。

 

「ヤンキーと一緒にいると攻撃される」

今までは彼氏の暴力を彼氏の後ろでニヤニヤと眺めていた

ヤンキーの彼女達は大いに焦った。

なんと言っても、何故かいじめの対象が自分達を見つけると

神風特攻隊の様に真っ直ぐに自分達に攻撃する様になったのだ。

もちろん、その多くはその後、ヤンキーである彼氏がボコボコにしてくれた。

しかし、そんな事になんの意味がある?

自分は既に強かにぶっ飛ばされた後に、そいつが殴られた所で、

打たれた所は痛いままだし、汚れたり破けた衣服は元には戻らない。

元々はヤンキーの暴力の傘に入る事で、自分は安全圏にいながら

ヤンキーの暴力で他人を見下したり、支配してみたい。

そんな軽い気持ちだった。

小学校の時は足の速い子がモテたり、

中学の時は面白い子が女の子に受けるのと同じだ。

せっかく自分には若い身体があり、

周りにはそれをチラつかせば都合よく使える思春期の猿がいるんだ。

それを上手く使って何が悪い。

大人まであと少ししか時間が無いんだから、手っ取り早く、

残り少ないお姫様な時間を謳歌しただけじゃ無いか!

にも限らず、一時の女王様な気分はぶっ飛ばされた時に一緒に

どこかに飛んでいってしまった。

彼氏が自慢げにボコボコにされた被害者を連れてきて、

「安心しろ!お前の仇は討ったからよ!」

と犬が褒めて欲しそうな目でこちらを見てくるのが、

腹立たしい。

「いや、私が殴られる前に守れよ!」

喉元までその言葉が出てきそうになるが、あえて飲み込む。

役に立たないなら別れようという気持ちが、

無駄な問答をしても意味が無いと判断したのだ。

しかし、つい態度が邪険になってしまう。

「…ん?ああ、そう…」

返事も彼氏が期待したものとは違う言葉を返してしまう。

すると、先ほどまでの暴力で頭に血が昇っている彼氏は、

「ああん?何だそれ!お前の為にやってやったんだろうが!」

と普段、彼らがターゲットにした奴らに使う様な口調で怒鳴られる。

恐い…。

その時になってやっと気がつく。

彼らは暴力で他人を傷つける事ができるか側の人間であった事に。

そして、その暴力の世界にわざわざ自分から乗り込んでしまった

愚か者であった事に。

暴力の傘には近づいてはいけなかったのだ。

傘の下にいる時は安全だと思っても、傘から出ようとした時、

その暴力を受ける側に変わってしまう事に、

今更になって気付いたのだった。

一刻も早く、この暴力の世界から離れたい。

そう願い、彼氏に別れを願い出るも、

返ってきたのは彼氏の怒号と拳の雨であった。

 

日本中で彼氏からDVを受ける女性が急増する。

それは暴力の痛さと理不尽さに気付いたヤンキーの彼女達が、

暴力の傘を出ようと決意し、ヤンキー彼氏に

別れ話を切り出した結果であった。

「ヤンキーと付き合うと、攻撃を受ける。しかも、別れ話をするとその彼氏から暴力を受ける事になる」

女子学生の間でこの事実が広まりだす。

それと同時に、

「他人への暴力に躊躇が無いのは、特性であり、精神障害の一つである。特性であるからコントロールが難しく、本人も自覚が乏しい」

という学説が実しやかに広がりだす。

簡単にいうと、ヤンキーが暴力を振るうのはコントロールが

出来ていないからなので、近づいた者は等しく被害を受ける

可能性がある事が、学術面からも後押しされた様な形になった。

これらの状況により、

「ヤンキーと付き合うと酷い目に合う」

という事が一般常識となる。

ヤンキー漫画やドラマは放送を自粛するか、

必ずカツアゲやイジメ、恋人への暴力もちゃんと正しく

描かなくてはならなくなる。

憧れるどこらか、

日本中から友人、恋人に限らず、

ヤンキーと付き合おうとする者はいなくなった。

 

こうしてヤンキーは世界から孤立する。

そんな世界が変化する様を眺めながら、俺は、

「やっぱり平和が一番だね」

ヤンキーのいない街をのんびり散策するのであった。

 


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