砂の海に、君が流れ着く   作:陽炎帽子

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最強の先輩

 午前三時二十七分。

 ホシノの予約メッセージを読み終える前に、シロコが通信車へ入ってきた。

「西」

 開口一番に言った。

「どうして分かる?」

「ホシノは、人数が多くて一番強い道を選ぶ。私たちが追うなら、別の道を使わせたいから」

 アヤネが、南へ進む無人保守車を停止する。

 

 車内にホシノはいない。

 予備発信器だけ。

「西側排水路の監視は?」

「三日前の砂嵐で二台故障しています」

「知ってた」とシロコ。

 俺は端末の予約文を閉じた。

 濃紺の上着は、椅子に畳まれている。

「追跡経路を出す」

「カナタさん」とアヤネ。

「前へは行かない。西側の道路、排水路、使える車両を整理する。ホシノの嘘に付き合って南を探すよりましだ」

 声は静かだった。

 怒りが消えたわけではない。

 怒る相手を生きて連れ戻すために、今は使わないだけだった。

 

      *

 

 午前四時八分。

 病院から、先生本人の通信が入った。

 背景には診察室。

 額と右腕に包帯。

 声は少しかすれている。

『状況を教えてください』

 アヤネが、爆発後からの全記録を送った。

 旧契約。

 シェマタ。

 ノノミ拘束。

 ホシノの単独離脱。

 壊れた三機のWatercloud。

 先生は、途中で一度も口を挟まなかった。

『今から行きます』

「先生、病院ですよ!」

『簡易検査を受けます。医師の許可条件を守り、護衛と医療監視を付けます』

「でも――」

『生徒が一人で責任を取ろうとしている時に、大人が病室から見ているだけにはできません』

 アヤネは唇を結んだ。

「……待っています」

 

      *

 

 午前五時二十二分。

 先生は、連邦生徒会の車でアビドスへ戻った。

 

 医療端末を腕につけ、同行者から走ることと重い物を持つことを禁じられている。

 校庭の三機を見て、足を止めた。

「全員、無事です」とセリカ。

「ホシノ先輩が、機体だけを止めました」

「分かりました」

 先生は対策委員会室へ入り、三人の生徒と俺からもう一度報告を受けた。

 ノノミは捕らわれている。

 ホシノは単独で西へ。

 学校にいる生徒は、シロコ、セリカ、アヤネの三人。

「勝てますか」と先生が尋ねる。

 シロコは即答しなかった。

「戦えば、今は負ける」

「止める言葉は?」

「まだ届いてない」とセリカ。

「それでも、行きますか」

「行きます」

 三人の声が重なる。

「では、先にホシノの一人だけで決められる状態を終わらせましょう」

 先生が、学校規則の画面を開いた。

 アビドス生徒会長。

 長く空欄の役職。

「現存する生徒の六十パーセント以上が参加すれば、緊急選挙を成立させられます。今ここにいる三人で、ちょうど六十パーセントです」

「ノノミさんとホシノ先輩がいないのに?」

「在籍を取り消す選挙ではありません。学校代表を選び、二人を迎えに行くための選挙です」

 アヤネが規則を読み込む。

「シャーレが、学校顧問と外部監督として手続を保証できる……」

「はい」

「立候補します」

 アヤネは一秒も迷わなかった。

「私がアビドス生徒会長になります」

「投票」とシロコ。

 三人が端末へ署名する。

 賛成、三。

 反対、零。

 先生が時刻と本人確認を証明した。

 午前五時四十一分。

 奥空アヤネが、アビドス高等学校生徒会長へ就任した。

「最初の決定を」

 先生が促す。

 アヤネは深呼吸する。

 

「対策委員会を、名称を維持したままアビドス生徒会へ統合します。構成員は小鳥遊ホシノ、砂狼シロコ、十六夜ノノミ、黒見セリカ、奥空アヤネ」

「ホシノの役職は?」

「書記です」

「私とかぶる」とシロコ。

「では、特別書記です!」

「何をする役?」

「今から考えます!」

 セリカが、こんな時なのに少し笑った。

 アヤネは続ける。

「旧契約を維持する意思を表明。ネフティスと私募ファンドへの権利移転を拒否。十六夜ノノミの転校・退会は、本人と生徒会の正式承認がないため無効。即時解放を要求します」

「ホシノ先輩の単独宣言は?」

「特別書記に、契約終了権限はありません」

 アヤネの眼鏡の奥に、涙が浮いている。

 それでも声は震えなかった。

「先輩が一人で学校を終わらせようとしても、もうできません」

 宣言はシャーレ、連邦生徒会、債権者組合、ネフティス、ハイランダーへ同時送信された。

 俺は投票しなかった。

 生徒ではない。

 署名欄にも入らない。

 代わりに、送信機の時刻証明と三重バックアップを確認した。

 自分の役割で、決定を消されないようにした。

 

      *

 

 ノノミの端末は切られていた。

 しかし、磁気拘束具の管理信号が一度だけ外部局へ応答している。

 位置は、旧アビドス中央駅。

 契約期限の会談場所と同じだった。

 周囲には四方向の封鎖。

 東、ヘルメット団系の歩兵。

 西、闇市場の警備会社と装甲車。

 南、玄武商会から雇われた兵と無人砲台。

 北、特殊バリケードを持つ傭兵。

「ホシノは西」とシロコ。

「一番硬いからですね」とアヤネ。

「それと、旧排水路から近い」

「私たちも西へ行くの?」とセリカ。

「ホシノが道を開ける。でも追うだけじゃない。横から残った敵を止めて、退路を作る」

 先生が頷く。

「救出と契約宣言が最優先。ホシノとの戦闘は避けます。カナタは?」

「西の保線道路で通信車を動かします。駅から二キロ以内には入りません」

「負傷者搬送はできますか」

「銃撃区域の外まで運ばれた人なら」

「お願いします」

 午前六時十二分。

 対策委員会兼アビドス生徒会は、ノノミとホシノを迎えに出た。

 

      *

 

 西側封鎖は、すでに崩れ始めていた。

 盾を持った一人の生徒が、装甲車列を正面から押し返している。

 

 煙。

 砂。

 短い銃声。

 白い髪は黒い帯で束ねられ、濃色の装具が風を切る。

「右、三台」

 ホシノは、自分だけへ指示する。

 盾で砲火を受ける。

 一台目の車輪。

 二台目の機関部。

 三台目の武装基部。

 動けなくするだけで、操縦席は撃たない。

 市場警備兵が後退する。

「化け物か……!」

「失礼だねぇ」

 軽い声。

 目は笑っていない。

 古い通信器が鳴る。

『ホシノ』

 俺の声。

 新しい回線から、旧通信器へ割り込んでいる。

「どうやって見つけたの?」

『昔の通信器の識別番号が、校内記録に残ってた』

「さすがだねぇ」

『南だと信じた』

 ホシノの足が、一瞬だけ止まる。

『帰るためのキスだとも信じた』

「……うん」

『話は、帰ってからする』

「怒ってる?」

『怒ってる』

 まっすぐな答え。

『でも今は、右後方から装甲車が二台。シロコたちが止める。ホシノは駅へ進んで』

「手伝ってくれるんだ」

『ノノミを助ける。ホシノも連れ戻す。そのあと怒る』

 ホシノは、笑いそうになった。

 泣きそうにもなった。

「怖いなぁ」

『俺も怖かった』

 通信は切れない。

 ホシノは、今度こそ右後方を見た。

 シロコの射撃が装甲車を止める。

 セリカが歩兵を下げる。

 アヤネが退路を示す。

 先生が全体を動かしている。

 自分一人で開けた道ではなかった。

 

 それでもホシノは、速度を緩めなかった。

 

      *

 

 駅の内側では、別の裏切りが始まっていた。

 債権者組合の代表たちは、ネフティスが自分たちを消耗させた後に権利を奪う計画を知っていた。

 執事を取り囲む。

「我々を囮にしたな」

「鉄道を債権者の兵器にさせないためです」

「契約違反だ!」

 その時、駅舎の正面扉が開いた。

 カイザーPMCの部隊。

 カイザー理事。

 カイザーPMCジェネラル。

 そして、スオウ。

「どうして、あなたが」と執事。

「私は、助けを頼んだことはない」

 スオウの声は冷たい。

「居場所がなかったあなたへ、ネフティスが役目を――」

「それを借りとは思っていない」

 スオウが発砲する。

 執事の胸部装甲に、非致死の停止弾。

 

 老執事型の身体が床へ崩れた。

 ノノミが拘束椅子から身を乗り出す。

「執事さん!」

「壊してはいない」とスオウ。

「動力を一時停止しただけだ」

 カイザー理事は債権者たちへ、新しい契約を投げた。

「諸君の組織を、カイザー傘下へ迎えよう。買収価格は千円だ」

「ふざけるな!」

「拒否しても構わない。駅の外を見たまえ」

 窓の外には、カイザー部隊。

 債権者側の兵とも交戦を始めている。

「我が社の章が蛸なのはね。腕を伸ばし、多くの企業を抱え込むからだよ」

「ただ絞めつけてるだけじゃないですか!」

 ノノミの声に、理事は笑う。

「鉄道砲の情報を隠していた君たちよりは、誠実だと思うがね」

 スオウが、ジェネラルから封鎖区画の座標資料を受け取った。

 そこには、砂漠閉鎖区画三十五―九。

 生徒会の谷。

 秘匿支線。

 理事の目が輝く。

「ようやく見つけた」

 

      *

 

 午前十一時五十三分。

 ホシノが旧中央駅の会談室へ入った。

 盾には新しい弾痕。

 頬に浅い傷。

 歩みは止まらない。

「ノノミちゃん」

「ホシノ先輩!」

「怪我は?」

「ありません! でも執事さんが」

 床の執事へ視線を落とす。

 胸部表示は待機状態。完全停止ではない。

 

「あとで直せる」

 ホシノはノノミへ近づく。

 カイザー兵が銃を向ける。

 ジェネラルが前へ出た。

「小鳥遊ホシノ。ここは会談場だ」

「人質を椅子に縛る会談?」

「契約を終了すると宣言しろ。そうすれば十六夜ノノミを返す」

 条件が変わっている。

 旧生徒会を否定すればネフティスへ。

 契約を終了すればカイザーへ。

 どちらにせよ、鉄道とシェマタを渡す。

「期限は?」

 壁の時計。

 十一時五十五分。

「五分だ」とジェネラル。

「分かった」

 ホシノは、机の契約終了書を見る。

 ノノミの拘束。

 列車砲。

 学校。

 俺と後輩たち。

 一つを守るため、一つを捨てる。

 

 いつもと同じ答えが、手の届く場所にある。

 ペンを取る。

「その決定は無効です」

 会談室の入口から、先生の声がした。

 シロコ、セリカ、アヤネ。

 その後ろに、救護鞄を持った俺。

 俺は駅外二キロのはずだった。

 西側が制圧され、先生が安全確認した後に、負傷者搬送車で入ってきた。

 銃撃区域が終わるまで待った。

 

 今も先生とシロコの遮蔽より前へは出ない。

「先生……」

「小鳥遊ホシノさんに、学校代表として契約を終了する権限はありません」

「私は副会長です」

「今は特別書記です!」

 アヤネが認証画面を掲げる。

「今朝、緊急選挙を行いました。アビドス生徒会長は私、奥空アヤネです!」

「……特別書記って何?」

「後で決めます!」

 ホシノの手から、ペンが落ちる。

「私は旧生徒会の――」

「今の学校を終わらせる決定は、今の生徒会長がします。私は終わらせません」

 アヤネが震えながら言う。

「契約維持の意思を表明します。ノノミ先輩の転校も認めません。ホシノ先輩の単独宣言は、全部無効です!」

「ん。ホシノ、負け」とシロコ。

「勝負では勝ったんだけどなぁ」

「選挙では三対零」

 セリカがノノミの拘束具を撃ち抜く。

 磁気錠が開く。

 先生が手を差し出した。

「ノノミが対策委員会を離れるには、本人の意思と生徒会の承認が必要です」

「離れません!」

 ノノミが立ち上がる。

「私は、アビドスの生徒です!」

 午前十一時五十九分。

 カイザー理事が笑った。

「感動的だ。だが、もう遅い」

 駅全体の警報が鳴る。

 正午。

 旧契約の履行期限が過ぎた。

 権利状態が、未確定へ切り替わる。

「争っている間に、期限は終わった。契約は失効。あとは実力のある者が取るだけだ」

 カイザー部隊が煙幕を張る。

「退路を確保!」と先生。

「アヤネ、ノノミを!」

「はい!」

 ホシノが盾を立てる。

 煙の向こうで、ヘリのローター音。

 カイザー理事とスオウが屋上へ上がる。

「逃がさない」とシロコ。

「今はノノミちゃんと負傷者!」

 ホシノが止める。

 自分で、後輩の救出を先にした。

 俺は床の執事へ駆け寄らず、まず先生の許可を待つ。

 

「待機表示です。移動していいですか」

「ノノミ、確認を」

「胸部フレームを支えてください。カナタさんと私で運びます」

 ロボット用担架へ執事を固定する。

 その間に、屋上から叫び声がした。

 カイザー理事が、飛び立ったヘリから砂の斜面へ落ちてくる。

 ヘイロー持ちの生徒ではないが、防護装備が展開して落下を和らげた。

 命はある。

 ヘリには、スオウ一人。

 

 ノノミが胸元を押さえる。

「カードがない」

「スオウが取った?」

「金のカードには、ネフティス管理施設の認証権があります」

 空中のスオウから通信が入る。

『小鳥遊ホシノ』

 全端末へ同時送信。

『列車砲を止めたいなら、生徒会の谷へ来い』

「ノノミちゃんを使って、次はカード?」

『来なければ、シェマタを起動する』

 通信が切れる。

「全員で追う」と先生。

「経路を確認してからです!」とアヤネ。

 けれどホシノは、壁面の古い区画図を見ていた。

 三十五―九。

 その数字を知っている。

 

      *

 

 ――Hoshino side

 

 二年前。

 校庭の配管を直して制服を濡らした私へ、ユメが古い展示館の資料を持ってきた。

 砂漠閉鎖区画三十五―九。

 一般公開されなかったアビドス展示館。

 価値のある品が残っているかもしれない、とユメは笑った。

 結局、その日も入口を見つけられなかった。

 地図の数字だけが、ノートの端に残った。

 

      *

 

「ホシノ」

 カナタ君が呼ぶ。

「一人で行くな」

「場所が分かる」

「皆に言って」

「三十五―九。旧展示館。そこから生徒会の谷への支線がある」

 今度は、場所を言った。

「じゃあ、一緒に作戦を」

 私はカナタ君を見る。

「ノノミちゃんをお願い」

「ホシノ」

「もう嘘はつかない。先に行く」

「一人で行くのと何が違う」

「行き先を言った」

「それだけじゃ足りない!」

 カナタ君が声を上げた。

 私の肩が揺れる。

「知ってる」

 一瞬だけ、泣きそうな顔になる。

「でも、止まったら撃たれる」

 私は煙の残る出口へ走った。

 シロコが追おうとする。

「ノノミと執事を安全圏へ!」

 先生の指示。

「その後、全員で追います!」

 

      *

 

 旧展示館の地下で、ノノミの金のカードが認証を通した。

 スオウが先に列車を出す。

 少し遅れて、私が別の車両へ飛び乗った。

 二本の列車が、砂の下の支線を生徒会の谷へ向かう。

 アビドス校の通信圏が遠ざかる。

『ホシノ、応答して』

 カナタ君の声に雑音が混じる。

「聞こえてる」

『戻って』

「列車砲を止めて戻る」

『一緒に止める』

「カナタ君は駅にいて」

『また決めるのか』

 私は通信器を握る。

「……ごめん」

 圏外表示。

 今度は私で切らなかった。

 それでも、返事が届く前に離れた。

 

      *

 

 生徒会の谷は、巨大な岩壁の間に隠されていた。

 夕方。

 地下線を抜けた私の前に、列車砲シェマタが現れる。

 砲身は駅舎より長い。

 複数の装甲車両が連結され、峡谷の軌道を塞いでいる。

 アビドスとネフティスの古い章。

 その上から、新しい紋章が刻まれていた。

 ゲヘナ。

「どうして」

「その姿になったのは、私が知る計画より後だ」

 スオウが砲身の基部に立っていた。

 ノノミの金のカードを指に挟んでいる。

「砂漠横断鉄道は、学校と街を戻すための事業だった。兵器計画は存在したが、実現不能として封じられた」

「今は、完成してるように見えるけど」

「二年前、ゲヘナの雷帝が設計を奪い、大規模に作り替えた。超長距離砲、独立電源、制御系。アビドスもネフティスも、残された名前に騙されていた」

「雷帝は?」

「すでに失脚し、キヴォトスを去った。だが、作った物は消えない」

 私は盾を構える。

「カードを返して。砲を止める」

「それだけか?」

「何が言いたいの」

「私は、お前を見に来た」

 スオウの声が変わる。

 規律を読み上げる監督者の声ではない。

「アビドスの恐怖。誰にも従わず、強さだけで全てを押し通す狂気。それを否定する」

「おじさんのこと、そんなに好きだった?」

「軽口で逃げるな」

「逃げてないよ。君が何を否定しても、ノノミちゃんはアビドスの生徒」

「なら、私を倒して証明しろ」

「最初から、そのつもり」

 風が止まった。

 スオウが武器を構える。

 私の語尾から、伸びた音が消える。

「退いて」

「断る」

 戦闘が始まった。

 

      *

 

 スオウは強かった。

 正面から私の盾を抜こうとしない。

 峡谷の高低差を使い、側面と背後へ回る。

 砲基部の点検路へ罠を置き、退路を一つずつ削る。

 私は急がない。

 一発目を盾。

 二発目を岩壁。

 三発目の角度から、次の位置を読む。

「右上」

 散弾。

 スオウが点検階段から飛び降りる。

 着地前に二発返す。

 私の肩から血が散った。

 深くない。

 止まらない。

「その程度?」

「まだだ」

 スオウが起爆器を押す。

 足元の保守床が崩れる。

 

 私は盾を橋にして、隣の梁へ渡った。

 カナタ君の巻いた布が、汗を吸う。

 握りはずれない。

 距離を詰める。

 スオウの銃身を盾で受ける。

 肘。

 肩。

 体勢を崩す。

 スオウは近接用の刃を抜き、盾の縁を滑らせた。

 私の頬へ二本目の傷。

「最強と呼ばれるだけはある」

「呼ばれた覚え、ないんだけどね」

 私は盾を放した。

 重い装備が落ちたと思わせる。

 スオウの視線が一瞬だけ下がる。

 その手首を取った。

 背負投げ。

 点検床へスオウの身体が落ちる。

 武器が滑る。

 私のショットガンが、胸部装甲へ向く。

「終わり」

「まだ、聞きたくないのか」

「何を?」

「梔子ユメのノート」

 私の指が止まった。

「どこにある」

「私に勝てば教える」

「もう勝った」

「なら、止めを刺せ」

 スオウは笑わない。

 その言葉だけが、私の古い傷へ入る。

「知ってるの?」

「さあな」

 嘘。

 けれど私には、確かめないという選択ができない。

 ショットガンの銃床を返し、スオウの武器を遠くへ弾く。

 胸部装甲へ一発。

 致命にならない距離と角度。

 スオウが気を失う。

 

 私は息を切らし、盾を拾った。

 肩から血が流れる。

 峡谷の中央で、シェマタの制御灯が点いている。

 ノノミのカードによる起動準備。

 ユメのノート。

 列車砲。

 過去と今が、同じ場所で私を呼ぶ。

 遠くから、別の列車の音が聞こえた。

 後輩たちと先生が、追いつこうとしている。

 私は、その音へ背を向けた。

 シェマタを壊すため、砲身の奥へ歩き出した。

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