ふと思い立って、これ以上ややこしい小説が書かれないように視界に入る大量のお墓は全部アイテムリストに放り込んだ後に全て削除しておいた。
突発的にやった事は突発的に終わらせるという、計画性のない奴がいつもやる末路である。
沢山のお墓の中で暮らす。
確かに落ち着く空間だったけど、実は…その本当の所は蛍と提灯アンコウがいるという安心感で落ち着いていただけかもしれない。
一人で過ごし続けた人間に生物と無機物どちらに安心感を持ちますかと言われれば、今は間違いなく前者を選ぶだろう。
それにメタバース同士が繋がって真っ暗な世界じゃなくなったから、一度気持ちを一新させたかったという理由があるかもしれない。
理由は作っていけばまだ増えるかもしれないけど、本心はなんとなくこうしたいからこうした、という単純な事だったりしてね。
他人から絶対怒られない自堕落な環境がずっと続いているこのメタバースにおいての俺は、少し性格が変わった事を自覚しているのもあるが、何処かの世界の王みたいな我儘を発揮しだしているのかもしれない。
半分に分かれた黒と白の地面を眺める。
「明るくなっちゃったねえ」
暗くて明かりが欲しいから、そして生物が欲しいからという一方的な理由で蛍と提灯アンコウをキーワード検索から入手して暮らし始めた俺。
自分以外に動いているものを見つけると、相手がいるという安心感を得てもいた。
撫でたり抱き枕にしたり真水や海水をぶっかけたりと好き勝手にやってきた俺だが、今抱えている気持ちを前に出していいものか?
「うーん…」
寝起きの頭と寝起きじゃない普通の頭の状態で考える事多々。
相手が会話が出来ないのは一旦いいとして、やはり外装だけでもいいから動く人型が欲しい。
そう思ってしまって今の所小説をノートに書くペンが重い。
小説の内容が中々ややこしいから、尚更重く感じているのは俺だけか?
そうした感情を持ったままメニューのキーワード検索で色々と物色をしていると、外装交換アイテムという物珍しい?アイテムを発見した。
突発的に探し始めたワールド移動アイテムの話の時と似ている事を再びしているな。
とはいえこういうワールドを移動するという大きな力が働く物があるのだから、外装交換アイテムがあるのもメタバースでは普通の事なのだろう。
いや、そもそもメタバースなのだからワールド移動も外装交換もこの世界においては凄い事や難しい事ではなく、実は普通の事なのかもしれないな。
メタバースを理解もしてないし知識の浅い俺が何を考えた所で予想だけで終わってしまうけどね。
ほらここ、マニュアルとかもないしさ。
自由な遊び場でマニュアルなんて持ち出されても白けたりするのかな?
遊びの王道をしてみたいという一致した目的なら大丈夫なのかも。
マニュアルって王道だとか基本だという意味もあるのかもね。
「役に立って…というか助かっていたんだけどな」
白い地面が明るいお陰で、蛍と提灯アンコウの明るさに頼る事がなくなってしまった。
黒い地面は暗いけど、白い地面にいれば明るいからだ。
「ドールを入手して試しに置いてみたけど動かなかったしな」
そういう結果はあった。
だからという訳じゃないけど、今は蛍と提灯アンコウの外装を、外装交換アイテムを使ってドールという人型のものに変えようと思っていた。
外装交換アイテムなんてものを見つけたからさ、蛍をかっこいいスズメバチにしたり、提灯アンコウをクジラにだとか一人色々迷っていた。
で、その結果でも先ずは動く人型から始めようみたいな。
動く人型に飢えているんだと思うよ。
「外装交換アイテムか…」
これが上手くいってしまえば…まぁ問題なく出来るだろうが、例えばノートやペンなども気に入った外装に何でも変えられるという事が出来てしまうだろう。
ブラックホールとホワイトホール、太陽や月や地球も同じ事が出来ると考えられるかな?
「ワールド移動アイテムは丸っこいビー玉みたいだったけど、外装交換アイテムは星の形をしたビー玉だな」
思い立ったら突発的に動く。
既に俺はメニューのキーワード検索から外装交換アイテムを入手していた。
指で持っているが、その形はガラス細工のお星様だ。
実はさっき自分の外装を、これを使ってアイテムリストにあるドールに交換出来るか試して成功した。
凄いというより面白いという感想かな?
遊びの幅を広げる為には必ず必要そうないアイテムだよなーこれ、とは思う。
だって住民として暮らしてる自分の外装?ドール?くらいは、気楽に弄って楽しみたいとふと思う時あるだろうなと思うもん。
「蛍と提灯アンコウの外装を人型のドールに交換…」
それしたら抱き締めてもらえるじゃん…発想神かな?
沢山抱き締められて寝てた提灯アンコウが、人型になって俺を抱き締めてくるとかもう完全に物語性がある王道の展開だわ。
こりゃ取り敢えずやってみるしかない。
そもそも蛍もその光景を毎日見ていて、俺を抱き締めまくりたいと思っていた可能性がある。
「だが…」
ううーん、だがこれは流石に自己中すぎるか?
できるからこそやらない選択肢をとることの方が大事?
ただ単に自分の抱えたストレスを発散させたいだけ?
ちょっと難しい小説でイライラ溜まってきたから心にメンヘラ来てるかこれ。
あー…。
小説の登場人物の名前すらまともに書けない癖に、蛍と提灯アンコウに迷惑かけんなみたいな…。
そもそもの話として勝手にこの子達の意思を無視して外装を変えるのは、人の心無い奴やんってなりそう。
「ぐぬぬ…」
うう…こんな俺と一緒にいて蛍と提灯アンコウは幸せなのかな?
この子達をアイテムリストに仕舞ったり、気が狂って削除したりなんて事をするつもりはない。
だけど定期的に感情的になる俺は、自分をコントロールする事が苦手だ。
性格だって少しずつ変わってきてるっぽいし、性格は過去に変更に出来る筈もない。
一旦過去を思い出し、すだちを食べてた頃を懐かしんだ。
よし、すだちを食べよう。
キーワード検索っと…。
うん、酸っぱいけど美味しい。
やはりすだちは偉大だ。
変化を恐れるなとは言うけれど、俺から急に外装変えられたら嫌だよね、自分の意思が最初から入ってなかったら尚更だ。
ずっとその体で過ごしてきたのに急に変わったら間違いなく戸惑うよな…。
「だよなー…」
感情で小説を書く癖にこの子達の感情が分からないからこそ俺は不安だったのか?
なんでこんな簡単な事も気付かなかったんだろう…。
もう既にメンヘラモードになってたのか?
自分の事クリエイターとか言うなら勝手に外装変えてはい終わりじゃなくてもっと他にやるべき事があるのでは?
ならこの子達の姿を変えるより自分の考えを変えてみるとか?
やはり先に意思疎通…だがどうする?
あ、俺みたいに小説を書かせれば勝手に覚えるんじゃね?
いや、先に日本語の勉強か。
雑談が出来なくて俺が勝手に発狂するのが先か叶うのが先か…。
勝手に発狂しとけって蛍に言われたら多分俺泣くわ。
なら先ずは読み聞かせからしてみるか?
外装交換アイテムは使い捨てじゃないらしく、俺であるドールと黒目黒髪幼女の姿の外装をぽんぽん簡単に交換出来た。
ドールは美術室にあるような3Dの真っ白な人型人形。
外装弄りのベースとなるものだろう。
取り敢えず独り言が喋れる黒目黒髪幼女の方に今はしておいた。
「ドールって口がないからあの子達の外装変えても話せないじゃん…」
よく考えたらそうだった。
アホか。