彼女の両手でじっとする提灯アンコウ。
逃げようとしないと所は諦めているのか、それとも同じく地球の話を聞く姿勢なのだろうか。
彼女の様に座っている訳ではないけども。
「ストレスっていうのは、苦手な事や嫌いな事を思ったままそれをやってします事で心に溜まってしまうものだよ。無い方が楽だと思う」
『好きなものの範囲が広い程そういう事とは無縁になるという形でしょうか?』
「そうだね。ただ地球の話と絡めるとこれまた違った形になる」
地球である彼女は地球の話を知りたがっている。
もしかしたら絵本なんかより俺の口から出た内容の方が重要視されたりして?
はははんなわきゃないわ。
『地球のストレスですか?』
「そう。でもこの場合は君自身のストレスに繋がるのか」
『例えばどういう事を知っていますか?』
「そうだなあ。じゃあストレスで山を作ろうってなった時はどう思う?」
『沢山嫌な事をやればいいですか?』
「ふむ。じゃあそういう事をし続けたとしよう。なのに後から起きた事は山に関わる地上の方じゃなくて海の方に影響が起こるかもしれない」
『海の方ですか?』
「海の中にも山ができたりする事があるんだよ」
『地上に出来る山が、海の中にもですか?』
「そう。それが起こるとしたらマグマのお陰だと思う」
『マグマとはどういうものですか?』
『地球の中に埋まっているもの凄く熱くてどろどろとして、熱すぎて赤色やオレンジ色に光っている液体の事だよ』
『それが山になるんですか?』
「そう。冷えたら勝手に固まっていくんだけど、それが大量にあると山だって出来るし地上だって増えたりすると思う」
『地上の陸地が増える手段があるなら、海を増やす方法もある訳ですね?』
「そうだね、地上の陸地を海がどんどん削っていったら、海の範囲が広がるよ。陸地と海、君はどちらが好きかな?」
『どちらかを選ばないといけないんですか?』
「いや、そうじゃなくてもいい。けれど、好きな方を決めておいたら後々そういう物事に対面した時にやる気が上がるかもしれない」
『なら後から色々と知ってどちらがいいか決めておくのが良さそうですね』
「まあそうかな」
『今の私の状態はこのワールドメタバースと外の世界、そして私の周りにある太陽と月やブラックホールとホワイトホール、それにこの手の中の提灯アンコウ以外には興味が持てていない状態です』
「中々多くていいじゃないか。俺は興味が湧くものが少ないんだよなあ」
『そうなのですか?どういうものでしょうか?』
その問い掛けに答えようとした所で『フォローリストに【厚切りレンコン】【新世界2】が追加されました』とアナウンスに似た音が頭に響き、つい顔が緩む。
多分抱き枕にされる事以外の自分の頑張りが、この世界に届いているからこその結果だろう。
2人も増えてしまった。
『優しい顔をしていましたが何かあったのでしょうか?』
「あーそうだね…あれだ。あれ…」
『あれとは?』
「管理者として頑張ってはないんだけどなぁ…」
自分の意思で管理者という存在になった訳じゃない。
まだ地球の事について話せる絵本の内容を思い出しながらも、上手く答えようとして口を開いた。
「興味が湧くものは優しい顔になる。ちょっと色々と思い出してね」
『それは話せない事なのですか?』
「うーん、じゃあ俺の話でもしようか?地球の話と関係な…いやちょっとはあるけど変な感じだな」
『地球の話をまだ知っているんですね?なら一緒に聞いておきたいです』
あー…まあいっかそういう流れだし。
自分のここにきてからの人生。
そういう事をを交えて語り続けようと思ったあたりで、いつの間にやら絵本の読み聞かせの時の様に自然と他の彼女達が釘を刺していたのにこちらへと集まってきてしまった。
なんでまだ撫でてこないんだみたいなプレッシャーを感じるのは、気のせいだと思いたい。
ドール同士の挨拶を眺めて、そしてついでとばかりの提灯アンコウの取り合いを少し諌めてから頬を掻いた。
どうやらまだ彼女達は居座る気らしい。
俺の身の上話なんて聞いてもいいけど呆れるなよー?
まあ聞かせたくない話でもないし、そろそろ俺がどういう奴なのか、そしてだったのか知ってもらうには良い機会かもしれないな。
喋る抱き枕だけの存在じゃないことを彼女達に知ってもらおう。
彼女達に悪気は全く無いのだろうが喋る抱き枕はちょっと悲しい称号なのよ、ふぬぬ。
「じゃあ、どこから話そうかな…」
蛍と提灯アンコウの外装だった頃の彼女達や、クリエイター活動のサポート案内頑張りますを継続している彼女に対して、気にもしていなかった身の上話をするタイミングはなかったな。
そもそも俺の人生はちっぽけでポンコツ。
そしてゲーム漫画アニメに何度も逃げる人生みたいな感じだ。
聞いてて気分の良い話じゃないかもしれないけど、皆いるし取り敢えず話してみるか。
絵本の読み聞かせの時の様にヤジや冗談が飛んできたら適時対応しよう。
4体のドールと両手で地球に掴まれている提灯アンコウの前で、ゆっくりと自分がいた地球の頃の話しを自分視点で始めた。
「俺は集団の中で暮らすと、必ず1人から嫌われる暮らしを送っていた」
「受け入れたくない事に対して直ぐに感情的になったりするので、誰か1人からあいつはダメだと嫌われる…そういう人生のパターンだな。嫌な事をされても直ぐに怒り、怒鳴ったり物を投げたりと、攻撃的な奴だった。我慢という概念を知らない直ぐに感情的になる奴、いつも周りからの評価は一緒だった」
「勝ち負けの勝負は感情的になるし、他人との距離感でも感情的になるし、俺は感情を結構大事にしつつ暮らしていた」
「ある時、小説ってやつを見つけた。そしてこれは感情的になりやすい俺向きなんじゃないかと驚いた。小説っていうのは沢山文字が書かれた本の事だな、絵本はそれに文字が少ないけど絵がついていたりする」
「勝手に感情的になって文字を書いてたら、それが色々な文になっているからだ。そういう事ができる事に自分自身でも凄く驚いた事を未だに覚えている」
感情的になる事を受け入れられる。
小説とはそういう世界なのかと思った。
そう、思っていた。
「ある時、人に自分が書いた小説を見てもらいたくて、その為だけに小説を書いた」
「そして返ってきたのがお前はダメだという評価と感想。これが俺の最初の人に見てもらう小説だった」
「でも俺は諦めなかった。評価する人なら他にもいるし、感想だって他の誰かがしてくれる。だからいつかは誰かが俺を評価してくれる。そう思っていた」
「全てが無駄だった。小説を10回書いても低評価とお前はダメだという感想。20回でもダメ、30回でもダメ、40回でもダメ、50回でもダメ。いつの頃からは、俺は人から低評価を受けた小説を必ず消す作業を始めた」
「低評価になったから消す、次も消す、これも消す、次もまたダメだから消す。消す事が1つの誇りにもなってきた。俺は小説を50回以上も書いたんだぞ、だから俺は凄いやつなんだって」
「ある時、小説を書く事は俺を苦しめる為に存在している事なんだと気がついた」
4体のドールと提灯アンコウは静かに俺の言葉を聞いていた。
俺は今、俺がどういう人間でどういう風に過ごしてきてだなんて事をここで打ち明けている。
人から必ず何処かで嫌われてしまう人間、そういう奴である俺の話だ。
絵本の読み聞かせの時みたいにヤジはこないな。
まあ俺の身の上話だし配慮とか?