俺は何も言わずにじっと聞いてくれている皆がいるので、一応身の上話は続けている。
内容的に間違いなく楽しくないやつだが、途中のやめ時が分からない。
頑張って喋りながら終わらせるタイミングを見つけよう。
だってこれ恥ずかしいやつだもん。
自分の事長々と話すのって、なんだか凄く変な気分になるな。
そう思うだろう?
そこの提灯アンコウの君。
「辛くて逃げ出したくて、でも感情的になりやすい自分に合っている事なんだからずっと続けていても問題はないと思っていたがそんな事はないらしかった。俺はずっと自分の小説が受け入れられない事に少しずつ気づいていた」
「人から必ず嫌われる存在って、小説を書いて自分も見てくれる人も苦しめるものなんだって、そう思った。小説を書く事は苦しいし楽しいけど、見てくれる人はただただ苦しいだけなんだって」
「それを察した俺はもう随分と遅くなったが自分で自分の小説を書く事から逃げた。そして小説を感情的に書く事よりかは得意な事じゃないけど、そういった少しは楽しそうで得意そうな事にばかり逃げた。小説を書いて自分も読む相手も苦しめるなら書かない事が正解だそうに違いないと、そう思いながら」
「次に待っていたのは、小説を書く事が出来ない反動からやってくる苦しみだった。人から感情的に書いた小説を一度でも褒めてもらいたくて、ずっとずっと書き続けてきた。それを止めてくださいと自分を止める事は自分自身を苦しめた。それでも俺は耐えた。耐えればその先に高評価をもらえる小説が書けるかもしれないと、褒めてもらえるかもしれないと。大人になってからまともに褒められた事がないぶん、その気持ちは想像よりも大きかったのかもしれない」
「そしてある時、メタバースというものの存在を知った」
「クリエイター活動が出来るというので、俺はそれに便乗した。クリエイター活動というのは、俺がずっと書いていた小説を書く事も含まれていたからだ。これなら俺でも大丈夫。耐えたきた分があるからポンコツな俺でも良い小説を書けるに違いないと思った」
「でも、その頃にはもう心が壊れていたんだと思う」
「俺は自分の事を小説っぽいものは一応書けるポンコツだと既に定めていた。そしてその心は自分以外は全員他人、他者、他の人。自分で感情的に小説を書いて、自分でそれを読んで楽しめればいい。もう他人を自分の小説から全て除外する、それこそが感情的に書く自分の小説の本当の姿なんだと定めていた」
ここからは最初のメタバースの話か、懐かしいな。
「この世界に初めてきた時は何故か直ぐに不思議な事が起きた。俺は自分の元いた世界から戻れなくなっていた。でもそういう事実の前でも心は小説の方を向いていた。小説を書く事以外どうでもいい、これが本心のまま一人だけで感情のままに小説を書き続けた」
「そしてある時、飛行機が何故か現れた。飛行機っていうのはなんか硬くて条件次第では皆みたいに宙に浮けるやつの事だな。それが現れた時俺はふと思った。俺が書いた小説の内容がこの世界に反映されるんじゃないかってな」
「そしてまた同じ様な事が起こる。地面から真水…まあ水みたいなものだな、それが沢山でてきて世界の一面が水だらけになった」
ソワソワしている1体のドールは恐らく元が提灯アンコウの彼女だろう。
殆どの場合会話しないと相手が誰なのか分からないんだよな。
完全に同じ3Dモデルだし。
「そして俺は感情的に書いていた小説が続ける度にどんどん難しくなっていき、昔の様にいつも自分だけが置いていかれる状況になった事で怒った。いつもいつも書いた本人の自分だけ取り残されていくので、こうした事になると怒らずにはいられないからだ」
「ある時、そうした中で自分の性格の変化に自分から気がついた。ずっとこの世界に一人でいた影響からか、他の理由がまだまだあるのか分からないが、まさかという内容で、俺は会話が人とまともに出来なくなる自分を嫌がる事に気がついた。人から直ぐに嫌われる癖に、自分とは違う相手を求めだしたんだ」
ああ…ここからはワールド移動アイテムの話か。
ならここで終わりだな。
よしよし、良いタイミングだった。
気がつけれて良かったぜ。
「とまあ、まだ途中だがもういいだろ俺の話は止め止め。終わりだ」
皆集まっちゃってるから、地球との地球に関する長話はまた今度の2人っきりの時だな。
いや、別に地球の話は隠している訳じゃないから別に気にしなくていいのか。
天体セットは外の世界に連れてってもらえる様に渡せたし、提灯アンコウは完全に流れで渡しただけだけど大丈夫なのだろうか。
どうか可愛がってあげてくれ。
あー、なんて言うかなこの後は。
せめて誰か何か反応してくれよ、このまま俺が話さないといけないじゃん。
「あー…。皆集まってるし、絵本の読み聞かせじゃないけど地球の話でも聞いていくか?」
『私も偶には絵本じゃなくていろんな話を聞きたい。出来れば虫の話がいい。地球の虫の話もっと聞きたい』
『海の事でもいいです、前みたいに深海の話も多めに聞きたいです』
『抱き枕なのですからクリエイター活動を含めてあらゆる知識は皆で共有するべきです。地球のクリエイターの話も知っているのならば聞きたいです』
『私は地球の話と渡された天体についての話とこの提灯アンコウについての話、それと意思の成長についての話を希望します』
待て待て待て、情報が多すぎる。
特に最後の地球、お前は俺の頭を沸騰させるつもりかよ。
マジで説明し過ぎて途中で倒れる奴とかいるからな?
自分の小説を自分だけで書く事以外どうでもいいと思っていたあの頃。
気がついたら今は抱き枕としてドールである彼女達に使い回されて、絵本の読み聞かせで意思の成長は図るわ、質問ばかり返してくる彼女達に難儀するわで大変な事になっている。
てかこの雰囲気はあれだ、昔みたいにまた質問地獄を味わせるつもりだろお前らは。
若干あれトラウマになりそうだったんだぞ、勘弁してくれ。
彼女達をお前ら呼ばわりするのはどうかと思うが、既に俺の名前が【抱き枕】に定着しつつあるのでせめてもの抵抗だ。
この前は普通に『おはようございます、抱き枕』だからな。
一瞬でメンヘラスイッチ入っちゃったよあれは。
彼女達の中でもドールではあるが、地球である彼女の周りに浮かんでいる太陽と月にブラックホールとホワイトホールの小さな天体である幾つかのアイテムをじっと見つめて考える。
正直言って、皆の意思の成長の早さに驚いている。
知識の不足から対話までをもの凄い早さでこなして実践出来る段階まで引き上げたのは、俺の絵本の読み聞かせなどではなくドール同士の雑談の成果だと俺は思っている。
ドールは寝る。
確かに彼女達皆は寝る時は寝るのだ。
でも、俺が知るただ寝るだけの行為とは全く違う事を、俺が知らない部分でやっているんだと思う。
ほら、早寝早起き含む寝る人には何らかの秘訣があるとか言うだろ?
この秘訣が寝る方法やタイミングじゃなくて別の事に作用していると俺は考えるなぁ。
『抱き枕。何か考え事でしょうか?』
あのさぁ地球さん、俺の名前把握して使いだすの早過ぎない?
もう早速悲しくなってきた、ぐぬぬ。
てか先に俺の名前が何故抱き枕なのかを直ぐ質問するべきだろ、常識はどうなってんだ常識は。
『フォローリストに【レイヴァン帝国】が追加されました』とアナウンスに似た音が頭に響く。
お、へへへ。