『はぁ…』
ドールに口はないけども、母なる大地が溜息を出した。
そうして彼女が丸いビー玉みたいなものを掲げる。
アイテムの名前はワールド移動アイテム。
世界を移動する事が出来る使い捨てのアイテムである。
あれから時間が経った。
彼女は彼女なりに努力していた。
タイミングが合えば俺から地球の話を聞き取り、絵本の話も聞き取り、他のドールの皆とも色々と情報交換をしていたようだ。
ずっとその様子を間近で見ていた俺だから言える事は、努力は報われればならないという事。
だから可能性の塊である俺のとっておき…ワールド移動アイテムの情報と一緒に、そのアイテムを渡したのだ。
もっと渋っておこうと思ったが、恐らく俺のクリエイター活動のサポート案内をしてくれる彼女がその内容を知らせる、もしくは聞かれたら答えるだろうから、そういう予測から答えに近いアイテムをそろそろ出していいだろうと思った次第である。
『クリエイター活動のサポート案内のドールである彼女から話を聞いていますが、このアイテムの場合はワールドメタバースであるこの世界の何処かへの移動であって、この世界の外に移動させてくれる訳ではないそうです』
「そう言われても諦めきれないよな」
『はい。抱き枕も前に言ったじゃないですか。なら裏技みたいなやつを探せばいい…と』
「そうだね」
あ、彼女の周りを回ってる提灯アンコウと目が合った、元気そう?
是非そのまま彼女を支えてやってくれないか?
多分彼女はこの世界の外に出たら天体の数々は俺がお願いした通りにそこら辺に置いてくれると思うから。
『この前のあの話は本当なのですか?』
「皆の集まりの時の?」
『はい、抱き枕パーティーの時のです』
俺主催の皆の集まりは、今では抱き枕パーティーと呼ばれている。
最近は専ら地球に関する話ばかりしている気がするぜ…。
これって話を頼まれたりするし、他の皆も結構外の世界とかに興味とかあるのかな、まあ分からんけども。
意思のレベルアップ、柔軟な思考が育まれるというのならそれはもう何でも歓迎である。
説明疲れはあるけどね。
「何処の部分の話よ?」
『恐らく外の世界は生物の寿命が当たり前にある世界、という部分です』
「あああれか」
『私の寿命も無くなると思うと気になって…』
「地球の寿命ねぇ…聞いた事ないけどね。あっ…」
『何ですか今のあっ…って。説明して下さい』
相変わらず目も耳も口もないのに察し力は高いドールである。
学習意欲が他のドール達より明らかに高い気がするんだよね。
まあ母なる大地なら当然か。
「ふむ」
『濁さないで下さい抱き枕』
「いやさぁ、前に資源の話したよね」
『資源ですか?私の中にあるエネルギーという話の辺りでしょうか?』
「当たり。まあ地球って海を含めて資源の塊みたいなもんなんだけど、それをエネルギーと言い換えれば、エネルギーが尽きたら寿命も尽きる…と言っていいかもしれない」
『そ、そんな…』
「…とは言うが、海の底にある海底にも沢山資源が眠っているから大丈夫でしょ」
『ほ、本当ですか?』
「へーきへーき。てかマグマとかいうとんでもない資源も沢山あるし資源?エネルギー?資源エネルギーは枯渇する事はないっ!断言するっ!」
『だ、断言までしてくれるんですね。それなら安心できますね、ありがとう抱き枕』
「うむ」
皆との交流が増えたので、仲良し度合いも上がっている。
少し俺の抵抗があったけども。
時とは残酷なものだ、抵抗があれよあれよと受容になるのだから。
俺も彼女達の事を偶に奴らだとかお前だとか言ってたけど、そんな気持ちになれるのは相手を受け入れたがっている状態なのかもしれない。
なんか勝手に俺は管理者で彼女達がアイテム扱いで、管理者がどうたらこうたらとかあるけど何だかもうその辺りは深くは気にしていない。
結局同じこのワールドメタバースの住民って事でしょ。
『でも早く外の世界へ行ける方法を見つけたいです。あれから何か閃きましたか?』
抱き枕パーティーとは絵本の読み聞かせの次の段階である。
決して勉強会などではなく俺の知識や今後に関する雑談会みたいなもので、後は俺が不本意ながら抱き枕として使い回されるパーティーでもある。
普通に話の途中で寝だす奴もいるし既に寝ている奴もいるというカオスなパーティー、それが抱き枕パーティーの現状。
寝るか話聞くかどっちかにしろよと言いたい。
自立という点でいい事だと思いはするが、自由過ぎるのも考えものである。
どんどんドールの皆と打ち解けていく度に俺の心配事が増えているんですがそれはいいんですかね。
まあ気楽な関係と言えば聞こえはいいのかも。
喧嘩し合う関係じゃないならもう何でもいいかもしれない。
「なぁ…」
『何でしょうか?』
「多分、外の世界って宇宙の事だと思うんだよなぁ」
だってさ、ドールの誰も宇宙を知らないっておかしいだろ。
地球である彼女自身の方も少しだけしか地球の事が分からないと言ってるし…。
宇宙だぞ宇宙、世界の始まりなんだぞ。
宇宙にはブラックホールもホワイトホールも太陽も月もあるし、地球もあるっての。
どうなってんだ全く。
いや、今彼女の周りを回っているのがそれなのか…。
なんかもう…不思議だよな。
『ですから私達は宇宙を知らないんです』
「はぁ…」
誰か宇宙の説明した事ある?
俺は一応絵本で宇宙の説明したよ。
マジで意味わからん。
ダークマター?
ダークエネルギー?
知るかよマジで、もうクソゲーだよクソゲー。
あっすみません汚い言葉を使ってしまいました。
いかんいかん。
でもなぁ…。
「だから前にも行ったように俺にも宇宙の事は分からないんだって」
『絵本がありますよね?説明してましたよね?』
「してたけど俺理解してないよ。雰囲気で独自解釈して無理矢理説明してたじゃん」
だって急にダークマターとダークエネルギーとか言われても何ファンタジーみたいな事言ってんだこいつってなるでしょ。
あのさぁ、ここはメタバースの世界なの、ワールドメタバースの世界なのよ。
メタバースってのはインターネット使ってたんだから科学よりの世界でしょ。
何いきなり科学のかの字もなさそうなダークうんちゃらとか絵本で出してくる訳?
ファンタジーじゃないよね、ここはファンタジーじゃありません、絶対ファンタジーじゃありませんっ!
『もう抱き枕だけが頼りなんです…』
「いやそう言われても…」
『外の世界に行きたい…行きたいです…』
「うーん…」
『初めて会った時に私に言ったじゃないですか。興味を持って、そして欲しくなって、やがて願っていればいつかは理想が来るかもと。管理者の願いは時に力を及ぼすと説明してもらったんだとっ!』
「あ、あー…。ほら、それは君の姿の話であって…。いや、管理者ならあらゆる願いも含む…か」
『地球の事を全く知らない知識の浅い私は管理者失格なのでしょうか…。私自身が地球であるのに…』
はぁ?
母なる大地が地球の管理者失格?
何言ってんのほおおぉっ!
天体と提灯アンコウ常にくるくるさせて神みたいな姿晒してんのに、地球の管理者じゃないパターンは絶対有り得ないんじゃい"っ…ぐぅっ!
彼女が母なる大地じゃなくて他の誰が母なる大地なんだよぉっ!
神扱いは流石にファンタジーすぎるから深くは突っ込まないけれども。
「意思がまだ未熟だとか力の制御がどうのこうのとか…」
『力が…、もっと私に力があれば…』
「あれっ?話聞いてる?んっ?どしたーん、話聞こっか?ちょっと。ねぇ…」