東方理想郷~east of utopia~   作:ホイル焼き@鮭

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紫との戦闘の、おまけ感がやばい。


16話『萃まる夢、想い、そして…………』

…………………………青年少女調査中……………………………

 

「ダメね……………。妖気は感じるのに、どこから出てるかが分からない……………」

 

そりゃそうだ、この妖気は全体に広がってるんだから。

だが、それを教えるのもな………。せめて、ゆかりんの許可をもらうまでは。

 

「あら?何してるのかしら?」ニュッ

「紫…………」

「体調は良いのか?」

「ええ、もうすっかり元気よ~♪それより二人とも、宴会に戻りましょ?大丈夫、何も起きやしないわよ」

「……………紫戦は霊夢に任せる。かっこいいとこ、見せてくれよ?」コソコソ

「…………当然!」コクリ

 

「そうかしら?もう何か起こってると思うんだけど………」

「大丈夫、貴方達が喜びそうなお酒もあるわ。度数90度。直角ね」

「というか紫、あんた居たの?」

「ガーン………。霊夢、ひどぉい」シクシク

「で、紫。なんでこんなことしてんのよ。この妖霧、あんたの仕業でしょ?」

「あらあら、存在を忘れられてるのにそんな暇なことしないわよ」

「怪しい。怪しすぎるわ。大体いつも怪しいのよ。呼ばれてないのに出てくる。呼んでも出て来ないし…………」

「あらあら、私を呼んだことなんてあるの?」

「あるわけがない!」

「ふふ、でしょうねぇ。私を呼びたいんなら凜に頼むんでしょ?」

「呼びたいと思ったことないもん」

「ガーン………!……ふふっ」

「………?なに笑ってんのよ?」

「いいえ?ただ、成長したなぁ、って思っただけよ?」

「??」

「まぁいいわ。そろそろ夜も明けるでしょう。みんながひどいもんだから、昼と夜を同時に楽しめるように境界を弄っておいたわ。今のまま朝が来れば、空は夜になるでしょう。日光と月光の境界も私のもの、このままずっと、夜宴を続けましょうか?」

「さすがに、だるすぎるでしょ!」

「なら、止めてみなさい!」

 

「皆がスペルカード戦を、『弾幕ごっこ』だなんて言うもんだから、遠距離から弾幕を打ち合う物みたいになっているけど………。たまには、近距離戦もやりましょうか!」

 

「さぁ、行くわよ!」

 

ゆかりんが近づいて傘を振るう。霊夢は後方にバックステップしてそれを躱す。

 

「はぁっ!」

 

霊夢は足に霊力を込め、高スピードで霊力を纏わせたお祓い棒を振るう。

 

「甘いわ!」

 

ゆかりんは下方への攻撃を見切り、霊夢の一閃よりも先に、傘の一撃を霊夢の顔面にぶち当てる。

 

「うわー、痛そう………いや」

 

かなりのダメージかと思ったが、霊夢は寸前で顔にも霊力を纏わせ、防御にあてたらしい。大ダメージではなさそうだ。こういうとっさの判断が出来る勘が、霊夢の強みであり、自慢でもある。

 

「こっちからも行くわよ!」

 

ゆかりんは回転し、空中から霊夢に傘を当てようとする。

 

「ぅあぁっ!」

「きゃっ!」

 

それに対し霊夢は、下がって回転の弱まった所を狙い、先ほど同様に、霊力を纏わせたお祓い棒で打ち返す。

冷静な判断だ。だが、欲を言えばもうちょっと女の子らしい声で叫んで欲しいもんだぜ。その点ゆかりんは可愛い。きゃっ!

 

「まだ行くわよ、紫!」

 

足に霊力を込めた高速ダッシュで吹き飛ばした方向に飛び、攻撃を与える。それはもうボコボコと。容赦など一切なかった。

 

「もう、容赦ないわねぇ。ちょっとは手加減してちょうだいよ~」

「知らないわよ、そんなの」

「符の壱「四重結界-lunatic」」

 

ゆかりんが1枚目のスペルを宣言すると、四枚の結界が、ゆかりんの前に1枚、背後に3枚展開された。

ゆかりんが飛び上がると、後ろの3枚の結界からある程度整列している弾幕を発射する。

霊夢は、ゆかりんに肉薄する。だが、大きな結界のどこから出てくるか分からない上、弾幕の範囲も広い。ゆえに。

 

「………くぅっ……!はぁ!」

 

例え霊夢でも、全く攻撃を受けないことはできないようだ。

しかし攻撃を受けつつも、ゆかりんに攻撃を与える。

 

「そんなの効かないわよ!」

 

ここで、前方の結界が邪魔をしてくる。明らかに強度は低いようだが、ゆかりんへと与えるダメージを激減させている。

 

「くっ………!まだよ!」

 

諦めずに結界へダメージを与えていく。攻撃を最小限の被害に抑えながら、だ。本当に霊夢は腕をあげた。春の時とは大違いだ。

 

「………くっ、きゃぁっ!」パリン!

 

前方の結界が破壊され、お祓い棒の直撃を受ける。

 

「うう~。いったーい~!もう!」

 

ゆかりんさぁ、君ももうちょい威厳のある立ち居振る舞いを出来ないもんかなぁ?ガキじゃないんだからさ。

とかなんだの俺が思っている間に、ゆかりんは二枚目のスペルを宣言。

 

「符の弐「八雲卍傘」

 

傘に強い妖力を纏わせ、回転しながら霊夢に襲いかかる。

 

「こんなもの!」

 

霊夢が札で簡易的な結界を作り、防御する。

………キンッ!

傘と結界がぶつかり合い、しのぎを削る。どちらも、勢いは同程度と言ったところか。

 

「なら!」

 

ごうを煮やしたのか、ゆかりんが上に飛び上がり、上空から結界を超えて衝撃波を飛ばす。

 

「甘いわよ、紫!」

 

高速ダッシュで前へ跳んで衝撃波を躱す。そして、あれほどの衝撃波を撃った以上、ゆかりんの体は上空に浮いている。

 

「宝符「陰陽宝玉」!」

「きゃぁぁっ!」

 

ゆかりんを丸い霊力で覆い、それを狭めて押しつぶす。

 

「げはっ………。本当に、痛い………」シクシク

「ふん、いい気味ね……」ニヤニヤ

 

うわー、痛そう……。そして、鬼だな、鬼。鬼巫女霊夢。なんか流行りそうなネーミングだな。後で人里にでも流しておこう。

 

「仕方ないわねー」

 

ゆかりんが傘を振るい、弾幕を発射する。連続の攻撃に、霊夢も若干手間取ってるようだ。

 

「………くっ、面倒ね……!」

 

結界を作り、ゆかりんの攻撃を耐える。

 

「今よ!」

「符の参「八雲藍-lunatic」!」

 

後ろかららんちーが現れ、レーザーを放つ。

 

「!!?」シュッ

 

驚いて、とっさに上へよけてしまった霊夢。

 

「そこよッ!」ドカ-ン!

「きゃっ!」

 

傘に妖力を纏わせ、飛び上がり、傘を腹にぶち当てる。実に痛そうだ。モロに入ったっぽいしな。

 

「今よ、藍!」

「分かっていますとも!」

 

地面に接触する瞬間、らんちーがレーザーを当てる。すごいな、あの速度で落ちる物体に合わせて攻撃するなんて。流石は九尾の狐、強い。でも、らんちーからはそんなに威厳を感じないんだよなぁ………。九尾の狐感があんまりないんだよな。いや、見た目からは分かり易いけど。九本尻尾があるし。でも、敬語使ってくるからなぁ…………って、んなことはどうでもいい。

 

「………くぅっ、流石にやるわね、紫………」

「やられっぱなしは性に合いませんから」

「ふん、次のスペルカードを使いなさいよ。流石にもう引っかからないわよ?」

「ええ、分かっているわ」

「外力「無限の超高速飛行物体-lunatic」」

 

超高速で飛び回るナニカを投げる。だが、ご丁寧にも道を示してから飛んでくれるため、そんなに難しくはない。知覚できない位には速いが、どこを飛ぶか分かるなら効果は低い。こういう楽しませてくれるスペカは素晴らしいと思うんだ。

 

「そろそろ終わらせるわよ、紫!」

「神霊「夢想封印」!」

 

己の霊力を高め、印を結ぶ。あとは言霊を入れこめば発動できる。

だが………。

 

「…………ただ夢想封印を撃っても効果は薄いはず。封印の力があるとはいえ、ダメージを抑えられては威力は発揮しない」

 

さあ、どう出るだろう?

 

「…………ふっ、なんてな?」

 

あいつの考えている事ぐらいわかる。どうせ………。

 

「夢想封印!」

 

虹色の封印弾がゆかりんへと向かう。

 

「神技「八方鬼縛陣」」

 

あっはっは、やっぱりか。やると思ったよ。

敵を羽交い締めにし、封印弾を直撃させる。霊夢が良く使う手だ。もっとも、対処はもう出来るから、俺との弾幕ごっこでは使わなくなったがな。

 

「うふふ…………本当に成長したわよ、あなた。イイ感じね」

「はいはい、そりゃどうも。お祝いはお酒でいいからね、後お賽銭」

「あらあら、欲張りねぇ。ふふ、考えておきましょう」ピッチュ-ン!

 

K.O.!winner Reimu!格ゲー風に言ってみた。

 

「うーん…………」

「結局、何よ」

「うーん………。私はやってないわよ~。全部、あいつの遊びなのよ~。なんとなく宴会を始めるのも、なんとなく妖夢が酔って踊り出すのも」

「あいつって誰よ」

「さぁ?凜にでも聞けば良いんじゃない?あー、ひどい目にあったわ………」ニュッ

 

そう言ってゆかりんは去った。許可が出た、と言うことでいいのかな、ゆかりん?

 

「ちょっと。凜、知ってたの?」

「ん?さぁ、どうだろうねぇ。ゆかりんは時々むつかしい事をゆうからねぇ。はてさて、どんな意図が有ったのか………」

「今更、あんたのそんな小芝居で騙されたりなんかしないわよ」

「あっはっは、やっぱり?………ま、知ってたよ。だが、俺はあくまで管理側、許可もなしに行動するわけにはいかないからな」

「ふん、分かってるわよ。それより、元凶わかってるならさっさと呼び出してくれる?」

「ん、それは構わないんだが……」

 

どうやればいいんだ?伊吹萃香の状態を、霧状からあの姿に………。いやでも、俺の伊吹萃香のイメージは完全に二次作品の絵だぞ。ほぼそのまんまとはいえ、完璧には一緒じゃないんだ。それに鮮明に思い出せるわけでもないし。あれ、結構難関?あ、自分から出てきてもらえばいいじゃん。

 

「妖霧の広がる範囲の理想を、ここら一帯に変更…………おっと」

 

薄くて見えなかった霧も、流石にここまで活動範囲を狭めれば可視化は容易だ。

 

そして、変化が有れば自分から出て来るはず。

 

「あれぇ?拡がってたつもりだったのに、なんか狭まってる?って、あ、見つかっちゃった。もう少し遊べると思ったのになぁ」

 

馬鹿でかい2本の角を持った少女が姿を表した。おーおー、鬼ですなぁ。文に会って化人符のスピードアップスペカが強化されたのと同様、パワーアップスペカも強くなるかもしれない。って、新しいスペカ作らないとなぁ。

 

「というか、あんたら何?」

「というか、誰?」

「私は、気持ちよく遊んでただけなのに」

「あんたがこの騒動の主犯ね?何でこんなことしたのよ」

「こんなこと、って、何が起きてるか分かってるんだ。私には、あんた達が2人で騒いでるだけにしか見えないんだけどね」

「最近、宴会が多いじゃない。それに、妖霧が出ていて………。って、私達の行動を見ているって事はやっぱり………!」

「ちょっとちょっと、宴会が多いのは私のせいかい?」

「って、紫と凜が言ってた」

「まぁ、そうなんだけど」

「ほら、やっぱり私の言った通りじゃない!」

「そう言ったのは紫とそいつでしょ?まぁ、宴会が続いた方がいいでしょ?賑やかでさ。私は賑やかなのが大好きなんだ。もっと賑やかにならないのかなぁ」

「あんたみたいなの、宴会に居たっけ?」

「霊夢、そいつが妖霧の正体だぞ。だから宴会には居た筈だぜ」

「ありゃ、知ってたんだね。楽しかったよ?妖怪、巫女、吸血鬼、幽霊。まるで百鬼夜行のように」

「ああ、なるほどね。妖霧自体が犯人だったのか、よかった」

「何が良かったのさ?」

「私の勘が鈍った訳じゃなくて」

「ふぅん。所で、そこのお兄さん」

「もしかしなくても俺か?」

「そうそう、そこの人。もしかしなくても戦うんでしょ?だったら………あんたとやりたいと思ってね」ニヤ

 

ゾクッ。好戦的だなぁ………。こわいこわい。

 

「残念だが、お前の相手は間違いなく霊夢だぜ」

「えー」

「大丈夫大丈夫。スペルカード戦なら俺と霊夢に差はないし。それに面倒だからな」

「ふぅん、逃げるんだね?」

「安い挑発だなぁ………。そこまでガキじゃないもんでねぇ」

「私は知ってるよ、ずっと見てきたから。宴会ではいろんな所にいたね。あんたは誰とでも仲良かったし、誰とでも楽しく過ごせるもんね」

 

…………?いきなりなんだ?

 

「でも、私は知ってる。そんなの只の外面だろう?あんたはあんな奴じゃないだろう。優しくて、面白くて、かっこいい。それはあんたの外面だろう?」

「??凜、あいつが何て言ってるか、聞こえてる?私には何も聞こえないんだけど………」

「うん?ま、聞こえてるよ。………わりぃ、ちょっとどっか行っててくれるか?」

「え?なんでよ」

「あっはっは、ちょっとイラついたからさ。地獄絵図を見る事になるぜ?そんなん、見たくねぇだろ?」ニィ

「っ………。ふん、その程度の事で気分が悪くなるほど繊細じゃないわよ。でも………。『お願い』するなら、考えてあげてもいいわよ。パートナー、だものね」

「あはー、別にお前を遠ざける位、やろうと思えばやれるがなぁ。まぁ、お願いしてやってもいいぜ?」

「お願いする側にしては、上から目線ねぇ。ま、何にせよ早くしてちょうだいよ。何をしたいのか知らないけど、ね」

「……………ありがと」

「それじゃあね」ザッザッ

 

霊夢は神社の方に戻っていった。ふぅ、危なかったねぇ。ありもしないことを話されて誤解されちゃ面倒だし。

 

「あんたの能力かい?あの子、聞こえてなかったみたいじゃないか」

「変なこと聞かせて、印象悪くするのは嫌だからね」

「ふふ、やっぱりあの子が大事なの?」

「ふん、大事じゃないわけないだろ。というか、知り合い全て大事」

 

「嘘だろう?全部どうでもいい、面倒、うっとおしい………そう思ってる」

 

「あっは、冗談はやめろよ。なんか誤解してないか?」

 

「嘘、嘘、嘘………。鬼は嘘が嫌いだよ。そんなに自分偽って楽しい?ま、楽しいんでしょうね。周りの女の子があんたを好いてくれてるのを、心の中で嘲笑するのが好きなんだ」

 

「……………やめろって、言ったよな?」

 

「周りなんてどうでもいい、うっとおしい。それがあんたの本心だ。そうだろう?」

「…………………………あはっ☆」

 

ああ、もう、無理だ。自制が、効かない。せめて、うまくやってくれよ、俺……。

 

 

「あはっ!あははははは!よーく分かってんじゃんかぁ!その通りだねぇ!?でも、そんな事はひっじょーにどーでもいい!やるんだろう?伊吹萃香。悪いがイラついてんだ、手加減なんてしてやんないぜ!」

 

ああ、よく知りもせず人の事をグチグチと言いやがって!

 

 

「そりゃあ奇遇だね。私もだよ、高橋 凜!」

 

 

「うらぁ!」

「うおっ………!あはっ!おいおい、俺は人間だぜ?鬼の力でなんか殴ったら……ほら、こんなんなっちゃったじゃねえかぁ……………」プラプラ

「…………あんた、気でも狂ってんじゃないの?人間は脆い。だから普通は、痛みを回避しようとするもんだと思ってたんだけど?」

「あはっ、そうだね、その通りだ……。じゃあ、俺はおかしいのかもな」

 

射命丸並みの速度、鬼並みの力、吸血鬼並みの再生速度、天狗並みの思考速度………。

 

「ただ、そのほうが都合がいいって、こー、と!」

 

距離を一気に離し、射命丸速度で拳を振るう。

 

「!?はぁぁぁぁ!」

 

伊吹が、周りの地面を萃めて強固な岩の盾を作り出す。

 

「その程度で、この拳、止められると思うな!」

 

何重にも施された盾を、速度を出し続ける事で勢いを緩めず突破する。

 

「………ぅああああ!」

「!?」

 

デタラメな俺の特攻を伊吹が対処する。速度を利用し、腕の側面を掴んで投げ飛ばしたのだ。

 

「…………げぇっ!!」

 

今からスピードを緩めても間に合わない!仕方ねえ!

 

「俺の速度の理想を、最小に!」

 

投げの勢いが弱まる。能力解除。よし、おっけ。しかし……。

 

「ちっ、上手くいなしたねぇ……。あの速度で突っ込んで来といて、よく止まれるもんだ。ちょっとおかしいよ」ケラケラ

「おいおい、あの攻撃を投げられる奴が、そんなこと言うなよ」

「?ただ投げただけでしょ」

 

いやいや、あの速度で突っ込んで来る物を掴むとか。近接で使えるように、多少は速度も抑えてはいるけど…………。それを見切る動体視力。おぞましい。

 

「さぁ、行こうか!」

 

伊吹が殴りかかってくる。くっ………。

 

しばらく殴り合う。すると。

 

「うらぁ!」

「ちぃっ!くそ、だりい………」

 

こっちにも並の鬼の力はあるはずなのに、伊吹には傷が入らず、俺の体には傷が入っていく。まぁ、すぐ治るが。有効打が与えられないのは問題だ。

 

「………ちっ、面倒な奴だな……。なら、これでどう!?」

 

伊吹が周りの地面を萃め、俺を閉じ込めてくる。圧縮された地面は熱を発し、体を焦がしていく。

 

「(やべぇ、このままじゃ素っ裸になる………!)」

 

誰もが持っている羞恥心を利用するとは、流石だな、伊吹萃香……!

 

「だが甘い!」

 

服が燃え尽きる前に脱出する!翼の力を利用して要塞を破壊する。

 

「こっちからも行くぜ?」

 

先ほどと同じく、距離をとって鬼パンチを放つ。もちろん、このままだとまた投げられるが………。

 

「事象を理想的にする程度の能力!」

「うわ!?何これ!?」

 

掴まれる前に、伊吹萃香の前髪の量を、ちょっとしたカツラができるレベルにまで増やす。如何に鬼と言えど、視界が無ければ対処はできまい!

 

「鬼を…………なめるな!」

 

そんな俺の予想を伊吹は覆す。

俺の拳に合わせて、殴ろうとしているのだ。

 

「うぅらぁぁあ!」ガキン!

「なんだと!?」

 

そんなバカな!如何に力に差があるとはいえ、あの速度で繰り出したんだぞ!?力がなくたって大きな力を出せる位のスピードに、鬼の腕力。この二つの組み合わせを打ち破ると言うのか!?技もなにもなく、ただ力のみで!?

 

「………驚いた。私が全力で殴ることになるなんてね。すごいじゃん」

「ふん、遠まわしに自慢してないか?こっちこそ、驚いたぜ。まさか射命丸と同じ速度で、鬼の力を振るったというのに、止められるとは思わなかった」

「射命丸………ああ、天狗のか。元気にしてる?」

「まぁな。今日も今日とて、新聞作りに精を出してると思うぜ」

「ふーん………ならいいや。さぁ、続きを始めよう」

「……………なぁ。もうやめにしないか?やっぱり、お前と争う理由は、ないように思うんだ」

 

さすが俺、大分冷静になってきた。よかった。

 

「何言ってんのさ。せっかく楽しくなってきた所だろう?もっと楽しもうよ!」

「…………はぁ、それもそうだな。流石にあそこまでの暴言を吐かれちゃ、見過ごせはしない。嘘ついてごめんなさいって、謝らせてやるぜ!」

「ふふ、良いだろう。鬼が正直者って事を、見せつけてやる!」

「ミッシング………パワー!」

 

伊吹が巨大化する。でかくなっても力は同じだが、攻撃の範囲が拡がる。面倒だ。

 

「サン・フィスト!」

 

サン=太陽。ここまで言えば、分かるよね、みんな?

 

「くっ……眩しっ………」

「今のうち!」

 

伊吹萃香の大きさの理想を、通常サイズに!

 

「………!?」シュゥゥ

「…………これが俺の、全力全開………!スピリチュアル・ビーーーーーム!!!」

 

俺の満タンの霊力を、空っぽになるほどの霊力ビームを伊吹に放つ。どっかで聞いたようなセリフなのは気にしない。

 

さぁ、伊吹。どう出る………!?

 

「………あんまり、なめるんじゃないよ!」

 

伊吹は能力を使い、スピビを圧縮する。…………大丈夫だよ、な?さっきのパンチよりも強い力を込められてるんだ。いくらなんでも、これは対処できないはず………。

 

「…………ハァ!」ガイン!

 

伊吹がビームの下の方を思いっきりぶん殴り、ビームを真上に飛ばす。遠い空で爆発が起こったのが見えた。…………スペースデブリにでもぶつかったのかな………。

 

「ま、なんとなくそんな気はしてた、よっ!」ブゥン!

 

伊吹に突っ込んで回し蹴りを脇腹に放つ。

 

「うわっと!あぶない、なぁ!」シュッ

 

回し蹴りをしゃがんで躱し、俺の着地点を刈り取りに来る。

 

それを俺は能力を使用し、足場になる空気の理想を固体に変動、それを足場にして跳び、かかと落としをお見舞いして対処する。

 

「ぐがっ!このぉ!」

 

既に足払いのフォームに入っていた伊吹はかかと落としをモロに貰い、顔を地面に押し付けられる。だが、それを利用して足を上に持っていき、俺の頭を蹴った。

 

「……うがぁ!」

 

一旦下がり、体制を立て直す。

 

「…………ペッ!やるじゃ、ないか………」

「………かはっ………それは、ありがとう………」

「ほんと、分かんないよ………。今のあんたは最高にいい奴なのに、自分を偽ってさ……。そっちの方が、良いじゃないか……」

「………誤解しないでくれるか?別に俺は、自分偽ってるわけじゃねぇよ。ただ、どっちも俺ってだけだ」

「………私にはわかんないや。相反する物を、一緒に一まとめになんて出来るわけない、いや、しちゃいけないんじゃないの……?どっちかが偽りで、どっちかが正しい。そうじゃないの…………!?」

「…………そんな訳があるか……!今の俺も、普段の俺も。どれも全部俺だ………!暗いとこも、明るいとこも。全部高橋 凜だ!てめぇなんかに、俺の事を否定させるかよ……!」

「…………やっぱり分かんないや」

「ケッ、そうかよ……。なら、決着を付けようか、伊吹。勝った方が正義………。たまには、そんな無粋な結論も悪くねぇ、そう思わないか?」

「……………ふっ、そうだね。私が勝ったら、あんたには素で居てもらうからね」

「はっ、良いけどな。俺が勝ったら、生意気言ってごめんなさいでした~って謝ってもらうからな?」

「ふっ、ありえないけどね」

「あ、あともう一つ」

「なんだなんだ、二つ目かい?ずるいなぁ」

「これが終わったら、改めて友達になろう。後腐れなく行こうぜ?」

「…………悪くない」ニヤリ

 

「……………俺の腕力の理想を、伊吹萃香並に!」

 

これで力は同じ。スピードで勝る以上、俺が圧倒的有利。

 

「一撃で決める!………はぁぁぁぁ………!」

 

霊力は切れたので、代わりに魔力を翼に流す。ついでに加速魔法、対ダメージ結界を施す。これで終わらせる…………!

 

「こっちもだ!」

 

伊吹のゆかりん並の妖力が、ただただ拳のみに萃められる。まぁ、拳を避けて殴れば良いが………それじゃ面白くないよなぁ、伊吹!

 

「終われ、伊吹萃香ァ!」

 

「こっちのセリフだ、高橋 凜!」

 

二人の拳が交わった時、そこに立っていたのは……………。

 

「………………勝ったか……」

 

俺、だった。

 

 

「……………うわ、拳がひしゃげてる………。プラプラじゃん……」

 

対物結界がなかったら、負けてたのは俺だったかもな…………。

 

「……………負けるわけには、いかないからな」

 

俺は皆にとって、『イイ奴』じゃなければいけない……。だって、そうあらなければ………。

 

――――――――この、化物がぁッ!――――――――

 

「……………うぁ………」

 

イラナイ……!こんなモノいらない………!!アンナノはもう、たくさんだ………!

 

「…………大丈夫かしら?」

「ハッ……………………ゆかりん………………」

「ごめんなさいね、この子が無神経な事言って」

「……………やっぱり見てたのか…………いや、別にいい」

「……………ごめんなさい」

「だから、いいって。俺の事を知ってもらえば、分かってくれる。だから、少し待ってくれるか………?すぐ、いつもの俺になるから…………」

「…………無理、しないで良いのよ?勝手にだけど、調べさせて貰ったから、私は、貴方のことを知っている。私の前で、貴方が無理をする事は、無いのよ?」

「……………紫」

「…………ふぇ?」ギュッ

 

気がつけば、俺は紫を抱き締めていた。支えを、無意識に欲していたのかも、しれないな。

 

「…………あったかい、なぁ…………」

 

紫の身体。いつも尊大な紫。こんなに小さい。なのに、なんで、こんなに、安心するんだろう?

 

大丈夫。ここでは、俺は否定されない。なにせ、ほぼ全員が異能持ちだもんな。それに………支えてくれる人達が、いるから。

 

「…………悪ぃな、紫………しばらく、このままで………」

「……………し、仕方ない、わね……………」カァァ

「…………はっはー、自分も嬉しいくせにー…………ああ、あったかいなぁ……………」

 

こんなに自分がナイーブだとは思わなかったなー…………。

紫のぬくもりを全身で感じる。何もなくても抱きたくなりそう。

 

うん、大体調子は戻ってきたかな…………。

 

「…………………………」

「…………………………」カァ

「…………………………」

「……………………あ、あの、まだ…………ダメなの?」

「…………………うん、ダメ」ニヤニヤ

 

紫からは見えないようにニヤつきながら答える。

 

「…………………そ、そう……」

「……………………………」ニヤニヤ

「……………………………」カァ

「……………………………」ニヤニヤ

「……………………………あの、凜…………」

「…………ん、なに?」ニヤニヤ

「…………………その、やっぱり…………恥ずかしい//」

「……………~~~っ!あっはっはー!紫、顔赤っ!耳まで真っ赤なんてホントにあるもんなんだなぁ…………あはっ、あははは!」

「なぁ!?りぃん~~!?あなた、とっくに大丈夫だったわね~!?人が恥ずかしいのを我慢してたって言うのに!」

「……………あはっ、あははははは!あはー、ごめんごめんww」

「………………………まったく、笑い事じゃないわよ、この天然女たらし………」ボソッ

「…………へ、なんか言った?」

「なんでもない」

「いや、なんか気になる……」

「なんでもないって言ってるでしょ!」キシャ-!

「…………俺の周り、小声で喋る奴多いなぁ、なんでだろ……?」

 

なぜ毎回モヤモヤしなければいけないのか。難問である。

 

「まぁいっか。ありがとねぇ、ゆかりん。いやはや、ゆかりんにはお世話になりっぱなしで恥ずいぜ。今度お礼でもさせてね」

「………ふん、別にいいわよぅ………」

「いつまでいちゃついてんのさ」

「およ?いつから起きてたんだ?」

 

伊吹が息を吹き返したようだ。

 

「そうだねぇ、凜がニヤニヤしながら紫を抱きしめてた所からかなぁ?」

「……………み、見られてたの…………?…………くらっ」

 

ゆかりんが倒れ出す。

 

「よっと。いきなりフラつくと危ないぜ?」

「……………そっとしておいてちょうだい………」

「そう?じゃ、後始末して宴会に戻ろうかなぁ。伊吹はどうする?交じるかい?」

「んー…………。やめておこうかな。流石に私も重傷なんでね、治すのにちょっと時間かかりそうだ」

「そう?じゃ、ちょちょいのちょいっと。ボロい状態から、元の自然の状態へ………」

 

実は気を使ってたんだぜ?音を小さくしたり、衝撃波が発生しないようにするとか。

 

「じゃ、ゆかりん、送って?」

「あなたがやればいいじゃない。簡単でしょう?」

「えー、結構疲れてんのに能力使いたくないんだけどー」

 

実はちょっと疲れるのである。他の皆みたいに、霊力やら魔力やらが減る感じはないんだけど、なんというか、精神を摩耗する感じというか………そういうのがある。

 

「はいはい、分かったわよー………」ニュッ

「ありがと。じゃーねぇ、二人ともー」ニュッ

 

地面に着地。どうやら、境内にある木の裏側っぽいな。

 

「ふいー、たっだいまー」

「お、凜じゃないかぁ………。霊夢に聞いたぜぇ、なんか異変解決してたんだろぉ?」

「うへっ、酒くさ………。まぁ、その通りだけど。霊夢はどこにいる?一応報告しとこうかと思ったんだが」

「霊夢ぅ?ああ、確かあっちに……、あ、こっち来てるっぽいな………」

 

見ると、霊夢がこっちに歩いてきてるのが見える。

 

「帰ってきてたのね?どうやら無事みたいで何よりだわ」

「霊夢の奴、結構心配してたんだぜ?強い妖力を感じたーとか、角が有ったから、もしかして鬼かもしれないーとか、流石に凜でも、危ないんじゃーとか、うるさかったぜ?」ニヤニヤ

「魔理沙!余計なこと言うんじゃないわよ!」

「…………へぇ、霊夢が?」

「おう」「そ、そんな訳ないでしょ!?」

「顔赤いぜ、霊夢。心配してくれてありがとう。いやー、マジで疲れたぜ………もう二度とやりたくないね」

「…………そ、そんなに?」

「勝ったけどな。でも、流石にもう騒ぐ気分じゃないわ。俺はもう寝させてもらう。良いよな?」

「………え、ええ。おやすみなさい………」

 

神社の中に向かって歩いて行くと、

 

「おや、凜くんじゃないか」

「ああ、霖之助か………。悪いが、もう寝させてもらおうかと思ってるんでな。それじゃ」

「ちょっと待ってくれるかい?」

「ん、何さ?」

「お疲れのところ悪いけど、明日………もう今日か。いつでもいいから、香霖堂に来てもらえるかな。道具の使用方法について、教えてもらいたい」

「ああ、約束のか。せっかちだねぇ………いいよ、分かった。じゃ、またね」

「ありがとう、それじゃあね」

 

起きたら香霖堂に行くことにするか…………。眠い、さっさと寝よう………。

 

 

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