東方理想郷~east of utopia~ 作:ホイル焼き@鮭
Place.Yakumotei
「あのー、紫様」
「?何かしら、藍」
「今回の月侵略、なんで凜を戦力に組み入れてないのですか?彼がいれば、紫様の悲願である勝利も、けして夢ではないと思うのですが」
「…………くすくす。まぁ、凜さえいれば、そうでしょうね」
「凜が月に行く事を禁じられているのは聞いてますが、別に強制力もないとも聞いてます。それならば…………」
「うふふ、いいのいいの。今回、凜に頼むことなんてないわ」
「はぁ…………」
藍は紫の真意が見えず、納得がいっていない様に曖昧に頷く。
「藍。あなたは、私の言う通りに動けばいいのよ」
「まぁ、分かってますけど。式神ですので」
「ふふ、そろそろ吸血鬼のロケットも完成に近づいてる頃かしら?」
「え、止めないんですか?」
「うふふ。少しは自分で考えなさいな。そんなんじゃ、私の式としては落第よ」ニコリ
「はぁ…………」
さっきは言う通りに動けばって言ってたのにな。
藍はまた、納得いかずに返事をもらす。夜はまだ始まったばかりだ……………。
side.rin
Place.Hakureizinzya·Engawa
「という訳で霊夢。ロケットを宇宙を旅する船だと仮定した。航海を安全に進めさせてくれる神徳のある神で、三柱で一組の神。もちろん三柱である必要は無い、複数いれば。心当たりはないか?」
「………………航海の神ねぇ…………そして三柱………あ」
「なにか思いついた!?」
「まぁ…………一応ね。上筒男命、中筒男命、底筒男命って、住吉さんっていう愛称で呼ばれてる航海の神がいてね―――――」
ベネ!やっぱアタリだったな!あとは咲夜にこれを伝えて、霊夢にその神様の力を借りれる様に稽古してもらったら、あとは飛び立てる!
密かにそんな事を思っていると、お空から来客があった。魔理沙だ。
「よう、霊夢、凜。邪魔するぜ」
「あっ、魔理沙」
「はよっす。しばらくぶりだな」
「何の話してたんだ?」
「んー?実はね―――――」
……………………青年説明中……………………
「ほほう。なるほどな」
大まかにだが、現状分かっている事実も含めて魔理沙に説明した。俺の考えとかは除いて。
「というかさ、凜。なんで私が妖怪の悪巧みの手伝いなんかしなきゃいけないのよ」
「そりゃまぁ、退屈だし面白そうだからさ。お前もそう思うだろ?だったら協力してくれよ~」ケラケラ
「まぁ、確かにそうだけど………」
「いいんじゃん?話を聞くに、レミリアは紫の邪魔をしようとしてるんだろ?それなら妖怪退治の一環だぜ」
「うーん………。ま、あんたらがそう言うなら、別にいいけど…………」
どうにか説得できた。まぁ、霊夢もここしばらくは家でぐてーってして退屈そうだったので、まぁまぁ乗り気になってくれると思う。
そろそろ咲夜も来るだろうか。多分来るだろうから、来た時に教えて、そのままロケットを完成させてもらおう。ゆかりんが月に行くのは冬だって話だし、それまでには完成するはずだ。
「じゃあ霊夢。早速だけど、その神様の力を借りられる様に修行してもらえるか?」
「はいはい、分かった分かった」
霊夢が立ち上がり、境内の改造を始めた。色々と準備がいるらしい。何も口を出さず、それを見ていることにした。居間から急須と湯のみを持ってきて、お茶を注ぐ。ついでに煎餅が入っている器も持ってきて、それを一口。
ふぅ。
今日も今日とて、平和な毎日だ。少しすると魔理沙も隣に腰掛け、霊夢に軽口を叩きながら煎餅を口にしていた。相変わらず仲がいい。
お茶を飲んでほんわかしつつ、ぼんやりと修行の様を眺め続けていると、またしても空から来客。咲夜だ。
「こんにちは………って、何してるの?」
「三段の筒の修行だってよ」
「??」
「動力源、見つかったんだよ。今、その神様の力を借りる修行中」
「本当に!?」
「上筒男命、中筒男命、底筒男命だってさ。住吉さんと呼ばれてるらしい。宇宙を旅する事を航海として考えて、三柱一組の神で航海の神となった場合、その神様達がピッタリなんだ」
「なるほど………。早速、パチュリー様に伝えなきゃ。凜、ありがとね、それじゃ!」
来て早々、咲夜は紅魔館に帰っていった。忙しい奴だ。
さぁて、これで俺の役割は終わりかな?後はほっといてもロケットは完成する筈だし、それに乗ってけば連中の無事も保証できる。月に行こうだなんて危ない真似、するからには万全を期さなければ。
お茶でも啜りながら、ぼんやりとしていれば完成するだろう。俺はそのまま、ゆったりと霊夢の修行を眺めているのだった。
side sakuya
Place.Koumakan·Daitosyokan
私は大急ぎで神社を後にし、紅魔館にとんぼ返りをした。小走りで大図書館の中に入る。
大図書館の中には、ロケットがある。見た目は大分と綺麗になり、内装もかなり快適になった。進捗状況は順調で、後は推進力さえどうにかなれば、飛び立てるそう。
「コショコショコショ…………」
「なんですって?三段の筒を見つけたって?」
「ええ。これでロケットは無事に完成しますよ」
「どこにその筒があるのかしら?」ワクテカ
「残念ながらここにはございません。今は神社にあります」
「神社…………?」
「その筒とは、上筒男命、中筒男命、底筒男命の事です」
「三柱合わせて住吉さんと呼ばれている、航海の神様なのです」
「……………」
「奇しくも航海の神様で三段の筒ですよ。宇宙を飛ぶのも一つの航海なのです。ですからこの神様が持つ神力こそ、ロケットに相応しいと、凜が言ってました」
「ふん、流石凜、と言った所かしら?で、どうやってその神様をロケットに乗せるつもり?聞かなくても想像つくけど 」
「霊夢がその神様の力を借りるのです。先ほど博麗神社に行ったのですが、その神様の力を借りる修行をしていたので、協力してくれるようです。つまり、霊夢をロケットに同乗させる必要が出てきますが」
「神様を乗せるより、霊夢を乗せる方が遥かに簡単だわ。それで間違いない。三段の筒でさらに航海の神だなんて、完璧すぎて裏がありそうなくらい。私たちの宇宙計画は、住吉さんを名乗れば必ず成功する!」
「『
「ついに我々は、月の都にたどり着く」
side.marisa
Place.Hakureizinzya.Keidai
「………………………」ブツブツ
夜になっても、霊夢は修行を続けていた。目を閉じながら、何かをブツブツと呟いている。凜は今、夕ご飯を作っているのでここにはいない。霊夢らしくないな、と思ったので、邪魔になるかもしれないと思ったが、霊夢に声を掛ける。
「本気で修行してるんだな。お前らしくもない」
「住吉さんは三柱の神だからね」
「通常の三倍で修行しないと」フンス
「神様も大変だな。巫女の体を借りるとなると、三世帯住宅みたいなもんだろ?」
「神様の世界ではよくある話」
「………世知辛いな………」
「しかし不思議だな………。巫女が神様の力を借りるというのは」
境内に立てられている松明のような棒に手を触れながら言う。普通の松明のように見える。一体これが何の意味を成すのか…………。
「一体どういう仕組みなんだ…………か!?」グラリ
「ふぅ」バタン!
棒が倒れてしまった!霊夢が呆れたように息を漏らす。倒れた棒を元に戻そうとする。
うー、重いぜ…………。慌ただしくしていると、後ろから霊夢が話を始めた。
「日本の神様には面白い性質があってね。神様は何分割しようと、元の神様と同じ力を持つ」
棒をようやっと立て直す。霊夢は他の棒から火をもらった木の棒で、棒の上の器の木材に点火させた。
「神様の宿る器さえあれば、無限に神様を増やすことが出来るの」
「つまり、分身の術が得意ってことだな。でも、どうしてそんな物理法則に反したことが出来るんだ?」
「主に神様じゃなくて神霊だけど、神霊は精神を示すからよ」
「精神という字に神が入っているように、考え方は人に伝播しても減らないし、無限にその数を増やすことが出来るでしょ?」
「この松明のように、か?ということは、お前に神様が宿るって事は」
「その神様の性格を持つ。ってだけの話ね」
「なんだ。三世帯住宅じゃなくて、霊夢が四重人格者になるだけか」
「それがまた大勢の神様を宿らせると、神様同士喧嘩を始めたりと大変なのよ」
「はははっ、人間くさいぜ」ケラケラ
「時には人間以上にね」クスクス
「そういや、最近越してきた山の神。あいつらも分身するのか?」
「神奈子と諏訪子の事?肉体を持っている神は、自分の神霊を分身させるのよ」
「肉体と神霊の関係って言うのは、本体と生き霊の関係みたいなもんよ。生き霊はいくらでも分かれるけど、本体は分かれたりしない」
「ふん。分身しても面白かったんだがな。それで、修行して本当に月に行くつもりなのか?」
「面白そうじゃないの」
「修行の目的がすり変わってる気がするぜ。紫は今頃、どこで何やってんのかな?」
「もしかして、魔理沙も行きたいの?多分吸血鬼のロケットは、私と有事の為の凜しか乗らないと思うわよ?」
「私は私の方法で、月に行くだけだぜ」
「魔理沙の方法って……」
「忍び込むってことね」ニヤッ
「……………」ニイッ
私は何も言わず、ただ口の端だけを吊り上げる。霊夢はニヤニヤとこちらに笑いかけていた。
月には、何が待ち受けているのだろう。それを想像するだけで愉快だった……………。
side.???
Place.Tukinomiyako
「はぁ………はぁ」ダッダッダッダッ
走っていた。私は走っていた。なぜ走っているのかというと、それは五日前に遡る――――――。
五日前。私は月の都から逃げ出した。私達『月の兎』は、嫦娥様という罪人の贖罪のために餅つきをしている。生産性もなく、ただただ体を動かすだけの単純な仕事。そんなのは最下層の仕事だと思った。
だから逃げ出した。月の羽衣を使って、地上にたどり着いた。
優しそうな巫女に会ったりして、色々と施しを貰った。少しの間お世話になるのもいいかもしれないと思っていたら、ふと何かの声が聞こえたのだ。
…………玉兎よ…………。
「!」
………××の罰を受け負い続ける玉兎よ…………。
「!?」バッ
声が聞こえた側を見据える。手がこちらに来いと言う様に曲げられた。いかなくては。手が出ている体を見失わないように追いかける。
しばらく歩いていると、その女性は立ち止まった。好機とばかりに、私はその背に声を掛ける。
「××様の名前を口にできるあなたは一体………」
「…………その名前を呼んだのは、あなたが月の兎かどうか確かめるため」クルリ
「私が月の兎だってことを知っているの!?××様の名前だって地上の人には発音できないはず」
「もう気安くその名前を呼ばない方がいいわ。地上では××は嫦娥と呼ばれているから、これからはそうしなさい」
嫦娥という言葉を、私はここで初めて知った――――。嫦娥様は、不死の薬を飲んで、今も月に幽閉されている人物だ。月では、××様と呼ばれているが。
「私は八意××(嫦娥の××とは意味も発音も違う)。嫦娥が飲んだ不老不死の薬も、とある月のお姫様が飲んだ不老不死の薬も、作ったのは私。覚えているかしら」
「八意××様!?遥か昔に月から逃亡したと言われる八意様であられますか!?」
「なんという偶然!なんという幸運!」
「幸運?指名手配されてるであろう私を捕まえて手柄を立てようって事かしら?」
「まさか!そんな事はしません。いや、出来ませんよ」
「…………」
「そうでなくて幸運というのは――――私を匿って頂けるんじゃないかと思いまして」
「……………ふぅ、随分と自分勝手ね。匿うって、貴方も逃げてきたの?」
「嫦娥様の罰の代わりはもうこりごり。いつまで薬を搗いていればいいのやらわかりもしない。そこで噂を聞いたのが」
「革命ってこと?」
「さすが分かっていらっしゃる!そしてその革命のリーダーが地上に居るって耳に入りましてねぇ」
「それが私ってことになってるのね」フゥ
今月の都では、何やら不穏な動きが起きているという噂で持ちきりだ。確かな根拠もない憶測も後を絶たない。
その中でも有力なのが、地上に逃げた賢者、八意××様の逆襲という説。だから私は、地上に逃げてきたのだ。革命のリーダーである八意様ならば、私を匿っていただけるはずだ、と。
「でも、貴方を匿うわけにはいきません。今すぐにでも月に帰るのです」
「いいのですか?私は八意様の位置を掴んだのですよ?」
「残念ながら私は革命も侵略もしない。もう月の都には興味がありません。だから貴方が月の都を忘れられない兎である限り、匿うわけにはいかないのです」
「ほ、本当に、月の都の混乱の原因は、八意様ではないのですか?」
「私はその混乱の原因を探りたいのです。誰が月の都を侵略し、私を悪役に仕立てているのかを」
「八意様…………」
「私は嘘をつきません」
「月から逃げてきた玉兎の一匹や二匹、スペースデブリ(宇宙に漂ってるゴミのこと)で亡くなったことにするぐらい容易いことです。なのになぜ嘘をつく必要があるのでしょう」フフッ
「失礼しました、八意様。しかし私も逃げてきた身、簡単に月に帰ることは出来ません」シュン
なんという事だろう。頼みの綱として地上に逃げてきたというのに…………。
「そこで貴方に仕事を与えます。貴方が月に戻っても、地上に降りてきた事を正当化できる仕事です」
「なんという………私にもう一度月に帰れと仰るのですか?」
「私は昨晩、貴方が月の羽衣で降りてくるのを見ました。月の羽衣は月と地上を行き来できる道具です。それで降りてきたと言うことは、また帰る事を考えていたのでしょう?月の都に未練があるのでしょう?そのような者をうちに置くわけにはいきません」
!図星だった。そんな考えが私にあることを、八意様は瞬時に見破ったのだ。
「賢者様には何もかもお見通しなのですね………」
目を伏せながらそう口にすると、八意様は懐から封筒を取り出し、こちらに差し出してきた。
「この封書を、そこに書いてある人物に届けなさい」
封筒を受け取って、その裏に目を通す。そこには、綿月姉妹へ、と書かれていた。綿月様!?
「わ、綿月様の所にですか!?無理ですよ、私みたいなただの兎が会える相手じゃありません!」
「大丈夫よ。堂々と私の名前を出してこの封書を渡しなさい。この封書には今起きている現実とこれから起こるであろう未来が書かれています。このとおりにすれば月の都は安泰でしょう」
「それに。あなたの逃亡の罪はこれで帳消しになるはずです」
それが、五日前の事。それから私は月の羽衣で月に帰ってき、そこから正装に着替えてから綿月様の屋敷まで走っていたのだ。しかし、屋敷についた後私に待ち受けていたのは、予想していた現実だった。
「だから。兎風情が綿月様に何の用事があるって言うんだ?」
なんてことは無い。普通に門番に止められただけだ。綿月様は要人である為、警備があるのは当然の事だ。そりゃあ止められる。私は焦りながらも、門番に通してくれるようにお願いをする。
「緊急の用事なのです。あるお方からの命令で………」アセアセ
「だったらその証拠を出せばいいじゃないか」
「…………それは………その」
「それに。お前は誰に仕えている兎なんだ?」
「………っ(身元を明かすと、私が地上に逃げたこともバレてしまう。かといって八意様の封書は誰にも見せるなって言われてるし………)」
どうすれば。
そう悩んでいると、上の方から桃が落ちてきた。なぜだろうと上を見上げてみると、三メートルはあろうかという高い門扉の上から、人が降りてきていた。!?
そのまま私は踏みつけられ、そこで私の意識は途絶えた。
side.Toyohime
「あ、あれ?」モンバンソノイチ!
「豊姫様!?」モンバンソノニ!
「何やら表門が騒がしかったので見に来たの。何を揉めていたのかしら」
「いや、その。豊姫様の足元でのびている兎が、どうしても豊姫様と依姫様に会いたいと」フタリアワセテ!
「あや。そんなんで揉めてたの?」
足元の兎を見やる。何か、ぐでーっとした体勢で倒れている。ふむ…………。
「じゃ、この子は私が連れていくわね~」
兎を小脇に抱えて、門を開けて中へ。門番の人の慌てる声(フタリハモンバン!アレ、イナイ!?)が聞こえてきたが、気にしないことに。
side.???
Place.Watatukitei
目覚めたら、私はベッドで寝かされていた。周りを見やると、笑っているロングヘアの女性がいた。
綿月豊姫様。会いたかったうちの一人だ。封書を豊姫様に見せると、豊姫様は驚いた。そして、少し神妙な顔をした後、
「それじゃ、依姫の所に行きましょうか」
と言って部屋を出て、廊下を歩き始めた。慌ててその背中についていく。豊姫様は、歩いている最中、いろんな話をしてくれた。桃もくれた。優しいいい人だなと、私は思った。月並みだけど。
「お姉様?」
そう言って廊下の対面から現れた薄い青紫色のロングヘアを束ねてポニーテイルにしているのは、綿月依姫様。
「また新しいペットですか?もう、いい加減にして下さいよ」
「残念ながら。ペットじゃないわよ」「ペットじゃありません」
「それにその桃だって庭になっていた奴でしょ?」
依姫様は、豊姫様がたくさん抱えてらっしゃる桃を見つめながら言う。
「もうちょっと熟れたら。全部取って宴会を開こうと思ってましたのに……………。前も取ってたじゃないですか。同じ事を言わせないでください」
「ごめんごめん。でも依姫、これを見てよ」バッ
「手紙?………!」
……………………玉兎説明中……………………
私は応接間らしき場所に通された後、豊姫様と依姫様に、説明をした。
「なるほどね。八意様は、ご壮健のようで何よりです」
「地上に逃亡した八意様を許されるのですか?」
「許すも何も、あのお方は私達の恩師です」
お茶を啜っていた依姫様も、当然と言わんばかりに普通の顔で言う。
「―――――燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや(燕や雀のような小さきものには、鳳や白鳥のような大きな物の考えは分からない)。私たちから見たら地上に追放された形になってるけど、間違ったことをする方じゃないからね」
「もちろん。建前上は月の使者のリーダーである私たちが討伐しなければならない相手、となってますが……………」
「きっとその日は永遠に来ないでしょう」ニコッ
「………」ウンウン
「…………ホッ」
「でも。貴方が地上に逃げた罰は与えなければなりません」
「え?…………あ、なんで!?」ガタッ
「月の兎には課せられた仕事があります」
依姫様の顔が、今までの優しさが消え、暗い顔になっていた。
「それが嫌だからといって逃げてしまえば。罰があるのは当然のこと。貴方の仕事は餅つきだったはず」
「…………っ」
あぁ、なんという事だろうか。こんな事になるというのであれば、あのまま地上で暮らしていれば良かったのではないだろうか。私には、どんな刑が下されるのだろう…………。そもそも、なぜ私は逃げ出してしまったのだろう。何の不自由もなかったというのに……………。そんな、後悔の念だけが脳裏をよぎる。
「………………」プ
「………………」ププ
「貴方への罰は、この宮殿に住み、私たちと共に月の都を守ること」
「……………!?」バッ
予想外の発言に、驚きながら私は依姫様を見る。依姫様もこちらを見て、言った。
「餅つきの現場に、もう戻れないでしょ?」
「晴れて新しいペットになったね。今日から貴方のことはレイセンと呼ぶわ。これは昔、地上に逃げたペットの名前。もう永久に戻ることは無い彼女の名前」ナデナデ
「貴方にはちょうどいいわね」
豊姫様は、私にそう言ってくれた。依姫様も、私に笑みを向けてくれている。こんなに嬉しいことはないと、素直にそう思った。
「はい」
side.yorihime
レイセンを兎達の宿舎に案内して、お姉様と私だけになった部屋で、お姉様は八意様からの封書を開けた。
すると、ある文字が浮き上がる。1だ。
「まだ誰も読んでないみたいね」
八意永琳と書かれている封書の留め具には、見た回数が浮かび上がるようになっている。これは最先端である月の都でも、八意永琳様ただひとりにしか出来ない事であり、本人である事の証明の代わりにもなる。
「なんて書いてあるのかしら。八意様からの手紙なんて、凜くんが持ってきたあれ以来じゃないかしら」
「……………お姉様………」
「もう、気にしてないって言ってるでしょう?私が割り切ったんだから、貴方も割り切ってちょうだいな。それに、もし凜くんがこっちに来たとき、貴方がそんな態度じゃ、不審に思われるじゃないのー」
「……………まぁ。そういう事にしておきましょう」
「何よそれ~…………もう」
「それで。なんて書いてあるんですか?」
「………ええっと……………」
お姉様が書を広げるのを横からのぞき込む。ええと……………。
―――月の都を侵略しようとしている輩がいるという噂を聞いた。
当然、月の都では私を疑っている者もいると予想する(書いた時点では、レイセンの話は聞いていないから、まだ分かってない)。
でも貴方たちなら、私の言うことを信用してくれると思っている。
私は月の都を守るための知恵を貸したいだけだ。
大丈夫、私の言うとおりに動けば、見えざる敵が誰であろうと足を封じることができる。
「「…………」」
「「?」」
「えっと……これは……」
「そうじゃなくて………」
「あーでもない?」
「こーでもない?」
私たちに意味は分からなかった。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。やはり、八意様の言う事は高尚にすぎるのだ。
しかし、そんな事を言っても始まらないので、私たちは読み進めながら、議論をする事になった…………。月の都に、夜はない。秋の日長を味わいながら、月の都の時間は過ぎていくのだった……………。