東方理想郷~east of utopia~   作:ホイル焼き@鮭

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儚月抄第三編です。なんということでしょうか。なんと儚月抄。五話かかりそうです。原作が漫画なぶん、説明に時間がかかるかかる。原作をご覧になっていない方にも分かるように書こうとしたら、五話行きそうです。
あと、活動報告にも書いた通り、ペースが落ちます。ご了承下さい。


外伝『東方儚月抄 其ノ参』

side.rin

霊夢が修行を始めてから数ヶ月が過ぎ、冬になった頃。ついに、ロケットが完成した。なので、今日はロケットの完成記念パーティを開くらしい。博麗神社にも、咲夜から招待状が配られた。魔理沙も持っていたから、かなり広範囲に配ったのかもしれない。

というわけで、今から魔理沙と霊夢と俺で、博麗神社を出てパーティ会場である紅魔館に向かおうとしている。霊夢と魔理沙は防寒着に着替え、俺は適当に制服の冬服を作って着ていくことに。

 

「ん?」

「走尸行肉」

 

博麗神社を出てから少し経った頃、紅魔館への道のりを歩いていると、ゆゆちゃんと魂魄に会った。寒いのか、魂魄にはご丁寧にマフラーまでセットされている。

 

「毎日はしゃいでいるのも結構だけど、どうでもいいことばっかりしているのなら、走る屍動く肉と、何の違いもないの」

「あは、結構じゃないか。屍ってことは、ずっと遊んでられるって事だろう?」

「動く屍のお前が言うことじゃないぜ」

「珍しいじゃない、二人お揃いで」

 

確かに、魂魄はともかく、ゆゆちゃんが顕界(こちら側の世界)にいるのは珍しいことかもしれない。億劫がりなのか、なにか考えがあるのかわからないけど、ゆゆちゃんが冥界を離れている所はあまり見たことがない。宴会の時とか位しか。

 

「今からロケットの完成記念パーティの時間なので」

「迎えに来たって言うの?珍しいじゃない」

「今から神社で宴会をしようかなぁと」

「「「「…………」」」」

「いや、そんな時間はないぜ」

 

 

そんな二人を交えつつ紅魔館に着くと、寒いのに美鈴が門の前で突っ立っていた。おそらく招待した人以外が来てないかを確認してるのだろう。とりあえず声を掛ける。

 

「お疲れ様、美鈴」

「あ、凜!」

「通ってもいいかな?」

「うん、もちろん。というか、別に声をかけなくても良かったのに」

「ま、他人の家に勝手に入るほど、ずけずけと大きく出れないもんでね。寒いでしょ?レミリアには言っておくから、招待客の確認が終わったら、中に入るといい」

「あ、ありがとう。皆さん、ごゆっくりどうぞ!」

 

紅魔館に入る。パーティ会場は大広間だと思うので、そこに向かって歩いていると、扉の前に咲夜が居た。

 

「あら。もう来ないかと思ったわ」

「なんでやねん」

「やっすい関西弁ねぇ。ま、入ってよ。もうすぐ始まるから」

 

…………………人妖パーティ中…………………

 

パーティ会場には、手当り次第に呼んだのか、沢山の人妖で溢れていた。紅魔館は悪魔の住む館と知られているせいなのか、そもそも呼んでないのか、人間は俺、霊夢、魔理沙、咲夜、妹紅さん、阿求ちゃんくらいしかいない。あとなんか、レミリアが奥の方にある舞台で話をしている。大抵の招待客はそれに背を向けていた。明らかに聞いていない。かわいそうに。

久しぶりに会った人達と話しながらパーティの時間を過ごしていると、ふと霊夢の様子が気になったので、霊夢に視線をやる。なんか茣蓙をしいて座り呑みし始めている。何やってんだか。

話を切って、霊夢の所へ行く事にした。間をすり抜けて、霊夢の方に行く。

 

「おーい、れ―――――」

「あら、どうしたの?そこの重力が強くなったのかしら?」

 

声をかけようとしたが、やごっちゃんが霊夢に話しかけ始めた。わざわざ割り込む必要も無いかと思うので、咲夜の作ったであろう料理に舌づつみをうつことにする。美味い。そこまで離れてないので、霊夢達の話が聞こえてきた………。

 

「あんたも来てたのね」

「地上では、月の六倍体が重いのです」

「そうそう。今度、私もあんた達の故郷に行くけど、なにかお土産でも欲しい?」

「じゃあ、イルメナイトを一握りでも……でも、私の故郷は地上だけどね」フフッ

 

そこまで聞こえた辺りで、レミリアの話題が別に変わった。

 

「……………そこで、このロケットの愛称を募集したいと思うんだけどー!」

 

どうやら、愛称を募集するらしい。愛称ねぇ………やめといた方が良いと思うけどなぁ………。

名は体を表す。名前をつけてしまえば、それに力が縛られる可能性があるのに。

 

「ロケットの愛称募集だってよ。あいつらにはわからないような言葉で、変な名前つけてやろうぜ」ククッ

「………私はそれに乗るのよ?」

「愛称って………ペットか何かみたいですね」

「愛称……ね。あのロケットは住吉三神のご加護があるというのに。下手な名前をつけてしまえば、月にたどり着けないかもしれないというのに」

 

どうやら、やごっちゃんも同じ事を考えたらしい。すると、何故かゆゆちゃんが立ち上がり、魂魄を引き連れてパーティ会場から出ていった。ん?なにかあったのかな………。

 

「あれ?」

 

と、霊夢がやごっちゃんに向けて発言した。一瞬ゆゆちゃんの行動を疑問に思ったのかと考えたが、やごっちゃんに話しかけた辺り、違うみたいだ。

 

「なんであんたが住吉三神の事を知っているの?」

「ん?そ、そうねぇ………」タラ-ッ

 

あ、確かに。彼女がそれを知る由はない。

 

「貴方たちは全く話を聞いていなかったみたいだけど、さっき事細かに説明してましたわ。あの吸血鬼が」

「ふぅん?」

 

嘘をつくな。レミリアはあのロケットで、月を攻めようとしていることしか言っていない。そんな事を明かしたら、せっかくの自分たちの力だけで月に行くっていうアピールが台無しだからな。

そんな風に考えていたら、魔理沙が愛称の提案をして、それに決定した。

 

「三段ロケットの愛称は、上からミンタカ、アルニタク、アルニラムになりましたー!」

「「「「「「「「「「おぉーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ふぅん?星の名前じゃないか。オリオン座だったか?3つセットのロケットにはふさわしいかもしれない。誰が考えたのやら。大体想像つくけど。魔理沙じゃないのは確か。

さて、やごっちゃんが住吉三神の事を知っていた以上、何かしらの行動をしていたという事だ。元月の民である彼女なら、それが好意的な行動であるとは考えにくいだろう。

とりあえず話は終わったようなので、やごっちゃんに話しかける。

 

「やっ、やごっちゃん」

「あら、凜じゃない」

 

やごっちゃんに擦り寄って、彼女の耳元で囁く。

 

「霊夢や魔理沙を騙せたからって、俺も騙せるとは、限らないぜ?」ボソッ

「!」

 

それを言って、すぐに離れる。

 

「はっはー、君、裏でなにかしてたんでしょ?あるとすれば、それはレミリア………若しくは、『あいつ』の邪魔をするなにかだ」

「…………ばれちゃ仕方ないわね。あなたも、月に行くのかしら?」

「まぁ、一応ね。俺が単独で動くことはないから、君にとっては安心じゃない?」

「ふふ、あなたが行く時点で、安心なんて出来ないわね」

「はっは、あっそ。今の俺は『あいつ』とは別行動だから、『あいつ』に君の考えをリークする気は無いよ。そこは安心していい」

「でも、君の考えはだいたい読めた。永琳がそれにどのような対策をとったかも、大体は想像がつく。どうやって『あっち』に伝えたのかは、分からないけどね。じゃあ、永琳。ばいばい」

 

それだけ言い残して、永琳に背を向けてその場をさる。

ありがとね、永琳、いやさやごっちゃん。これで漸く、推理に確証が持てたよ。

 

「(頑張って働きなよ?豊姫ちゃん、依姫ちゃん?あははははは!)」

 

 

 

 

 

「あの、幽々子様。どうして、パーティを途中で抜け出したのですか?」

「どうしてって……あそこに間諜(スパイのこと)がいたじゃないの」

「あの月の民のことですか?確かに吸血鬼達の月侵略計画を妨害するかもしれないですが……。私たちとは何の関係もないのでは?それどころか、元々吸血鬼の計画を阻止するのが私たちの目的で」

「あの狡猾な月の民が吸血鬼の月侵略を阻止する?」

 

幽々子は検討はずれの言葉を聞いたかのようにきょとんとした顔をした後、盛大に笑い声をあげた。

 

「くすくすくす!私は。あの月の民を間諜と言ったのよ。妖夢が余計なことを言わないように出てきたの」

「余計な事もなにも………。私には何も分からないのですが」

「なにか説明して頂けませんか?」

 

そんな妖夢の問には答える気はないと言わんばかりに、幽々子はその歩みを速めた。

 

「紫の月計画は動き始めたばかり。敵を騙すにはまず味方から」

「さぁ♪」スルリ

「!!」

 

幽々子は服に手を突っ込んで、その胸元から銘酒鬼ごろしを取り出した。紅魔館から持ち出したものである。

 

「家に帰って、パーティの続きでもしましょうか♪」

「……」アゼン

 

やはり、妖夢は何もわからないまま、己が主についていくしかないようだった。苦労の絶えない従者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

Place.Daitosyokan

 

パーティからひと月ほど経ち、ついにロケットを発射する日になった。そのロケットは、外とは比べるまでもないが、なかなか整っており、これに荒波を越える為の航海の神のお力添えがあるのならば、おそらく月に着けるはずだ。もしあれなら、最悪俺の力で月まで送り出すが。

 

そんな風に考えていたら、ロケットの天辺付近に、なにかハンカチのようなものが引っ付いているのが見当たった。あん?あれは………おいおい、月の羽衣じゃねぇか………。何回か月で見たことあるぞ………?

誰がつけたんだ――――って。一人しかいないか。

永琳。君の考えは、だいたい読めた気でいたが。むしろ手助けもしてるじゃないか。このロケットが月にたどり着こうとなんだろうと、別に関係ないだろうに。

 

つーか、何を俺は腹の探り合いをしているのだろうか。俺がそんなことする必要はねぇんだよなぁ。単純に、依姫ちゃんか豊姫ちゃん、どっちかに会えることを楽しみにしていれば良いんだよ。おそらく、地上と月を一瞬で繋げる『あいつ』の対策に、同じく地上と月を一瞬で繋げる豊姫ちゃんが当たるだろうから、こっちに来るのは依姫ちゃんかな?

 

「何考えてんだ?凜」

「ん、魔理沙か………。いや、なんでもないよ。それより、ロケットの発射準備は終わった?」

 

何やら赤い絨毯を敷いてたり、ロケットの内装を確認してたみたいだけど。

 

「おう。後はお前と私が乗り込めば、発射出来るぜ」

「へぇ、それはそれは。まぁ、行きますかね。通算三回目の月旅行」

「なんだぁ?凜、お前月に行ったこと有ったのか?」

「あは、まぁね~。この腕時計も、月で買ってきたものなんだぜ?」ジャラ

「なんか見たことないもんぶら下げてると思ってたぜ」

「月の都は最先端だよ?美味いもんも食えるし、楽しい遊びも出来る。可愛いものも買えるしな」

「ははは、そいつは楽しみだな」

「…………ま、月の都までたどり着けたらの話だけどね」ボソッ

「うん?凜、なにか言ったか?」

「あは、なんでもないさ」

 

暫く雑談をしていたら、霊夢から催促の声が掛けられた。

 

「ちょっと。あんた達、早く乗りなさいよー!」

「おう、今行くぜ」

「せっかちになるなよ、霊夢。あははは!」

 

ロケットに乗り込む。乗員は俺、霊夢、魔理沙、咲夜、レミリア、妖精メイド二人だ。

俺と魔理沙がロケットに乗り込んだのを確認してから、パチュリーは外から鎖をかけ始めた。内側からの圧力で開かないようにしているらしい。その後、十字を切って二礼二拍手一礼していた。洋と和の夢のコラボレーションだった。

そしてその後、乗り込んでいない妖精メイドがお賽銭を投げ込みはじめた。

 

「お賽銭は、神社でするもんじゃないのか?」

 

そんな魔理沙のある種当たり前の疑問に、霊夢が鉢巻を頭に巻きながら答える。

 

「神社ってのは何もあの建物じゃなくても構わない。同時に何ヶ所存在しても問題ない。神棚だけでも十分神社と同じ役割を持つ……いや、神棚だってただの飾りで、神様の宿る器さえあれば十分」

 

そして俺は、その霊夢の発言を手助けするかのように口を出す。

 

「このロケットは、住吉三神の神徳の宿る場所。つまり――――」

「このロケットは、空飛ぶ神社なのよ」

 

霊夢はそう告げると、ロケットの中央に座り込み、神降ろしを始めた。ぶつぶつと彼女が呟くとその神の神力が船に宿っていくのを感じる………。大図書館の天窓が開かれ、ロケットが浮き始めた。これが、神降ろしか――!

 

「さぁ―――――いざ、月の都へ――――!」

 

 

 

 

 

 

と。まぁ盛大な声を上げて発射したロケットではあったが、月に行くまでの道程になにかあるわけじゃない。5日が経ち、一番広い下段を切り離し、真ん中の階に移った。ふむ。三段で月に行く割に、早く切り離すもんだな。

「宇宙旅行つっても、同じ景色ばっかでつまらんな」

「ずっと青い空のままですからねぇ………多少は、色が薄くなってるようですが」

 

それもおかしな話だよな。下段を捨てたってんなら、大気圏くらい突破してるのかと思ったが。まぁ、なんでも良いけど。

 

「咲夜、今日の紅茶はまだかしら?」

「今、淹れますね」タッタッタ

「真ん中のロケットのテーブルは、小さくて窮屈ねぇ……。下段のおっきなテーブルが恋しいわ」

「それでも、テーブルがあるだけマシだと思うけどねぇ………」

 

霊夢なんか、ずっと座りっぱなしだしね。神様の宿る器である霊夢の仕事は多いから、仕方が無い事だが。

 

「あら!」

 

と、咲夜が驚きの声をあげた。うん?なにかあったのかな?

 

「どしたの、咲夜?」

「どうやら下段に、油のストックを残したまま切り離してしまったみたい」

「へぇ。相変わらず、間抜けだな」ニヤニヤ

 

言っておくが、この発言は俺ではなく、魔理沙だ。咲夜はフル無視だが。

 

「残りの燃料では、お料理するのに少し困るわね………」

「多少でもあれば、俺が増やしてあげるから大丈夫だよ?」

「そうは言っても、あなたの能力って、精神力を使うんでしょう?無理はさせられないわ」

「いや、別にそこまで疲弊しないけど…………。まぁいいや。じゃあ、魔理沙。お前のミニ八卦炉を貸してやれよ」

「これか?」スッ

「それ、放熱も出来るだろ?魔力を流して、軽めの熱魔法を使えば…………よっと」

 

魔理沙からミニ八卦炉を受け取り、多少の魔力を流して魔法を使う。多少魔力を流しておけば、後は勝手に増幅してくれるので、使うのもラクチンだ。そしてそれをコンロの穴にセットしておく。

 

「大体これで、火と同じ程度の火力だと思うから。料理したいときは、俺か魔理沙を呼んでくれ」

「ありがとう、助かったわ。じゃあ、早速」

 

ミニ八卦炉の上にティーポットを置く。割とすぐにお湯が沸き、咲夜は紅茶を見事な手際で淹れ始めた。そしてそれを少し蒸らした後、レミリアの下へ。

 

「遅かったわね?なにか揉めてたみたいだけど」

「いえ、大したことじゃないんです」

「私がいたから、大したことがなくて済んだんだろ?」ニヤニヤ

 

魔理沙がニヤニヤと得意げに咲夜に笑いかける。あははは、魔理沙が良いものを持ってるってだけの話なんだが。あれの魔力増幅器としての力は計り知れないからなぁ。霊力でもいいなら、流してみたいんだけどね。魔力はそこまで増やしていないし。

 

「?まぁ、良いけど。そう言えば、お茶、上空になるほど味が変わってきているような」

「なんか。お湯の沸点が下がってきているみたい」

 

沸点が下がる?

 

「おいおい。ロケットの空気でも漏れてるんじゃないだろうな」アセアセ

 

とは魔理沙の言。ふむ、確かに。まだ何故か大気圏を突破してないみたいだし、別に空気はあるだろうが。

 

「あら、別に外にも空気はあると思いますけど」

 

と言って、咲夜はロケットについてる窓に手をかける。

 

「ま!」

 

と、魔理沙が言ったが、待つわけもなく。咲夜はそのまま、窓を開け放った。瞬間、ロケット内に空気が流れて込んできた。強力な風となって。わぷ。

 

「宇宙は空気がないっていうのは、都市伝説だったのか」

「そう言えば重力だって地上と変わらないしな」

 

部屋の中の皆がわーきゃー騒いでいると、霊夢が明らかに不機嫌そうに眉をひそめていた。

 

「もう!集中出来ないじゃないの!もうすぐ二段目も捨てるから、上に昇る準備して!」

「あら。もうそんなに来たのかしら?」

「上筒男命から、退屈だからそろそろ代われって」

「…………」

 

神様ってのは、わからないもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな事をしていたのも、もはや何日も前の事。何日経っても、外が青空の形を無くすことは無かった。あれ?あれあれ?なにかを俺は誤ったのか?一向にたどり着けやしない。

………いや。これは原作の通りの方向性ではある筈だ。ゆかりんが霊夢に稽古をつけてたことも、航海の神というゆゆちゃんのヒントのことも、方向性の正しさを示している。やごっちゃんの羽衣も、一助とはなってる筈だ。

 

「うーん…………」

 

もしかしたら、外の常識で図っているからか?そもそも、二週間やそこらで月にたどり着けるはずは無い。それでもたどり着けるとパチュリーが計算したのなら、その距離は外の地球から月までの距離とは違うはず。

ここはまだ、幻と現実の境界の内側。外での常識は、ここでの常識ではない。こんなロケットでは月にたどり着けないと言うのが外の常識なら、このロケットは絶対に、月までたどり着く。

 

それでも一抹の不安を感じずには居られなかったため、外を眺めながら朗報を待っていると、咲夜がこちらに来た。まぁ狭いロケットの事、どこでも会話が聞こえるくらいには近いんだが。

 

「凜、何を黄昏ているの?」

「咲夜。うぅん、黄昏る夕日はないわけだけど………。あっても困るが。ま、朗報でも来ないかと思ってね…………」

「そう。あなた紅茶、飲むかしら?このままじゃ冷めるだけだし」

 

咲夜がティーポットを見せながら言う。レミリア用の紅茶だったのかもしれないが、生憎レミリアは何故か魔理沙と取っ組み合いをしていた。狭いんだから暴れないでくれると助かるのだが。

 

「ん、貰おうかな?」

「えぇ…………。はい、どうぞ」

「ありがと…………。ズズズズ。ふう」

「どうかしら」

「いやまぁ、さすが咲夜だ、美味しいよ」

「ありがとう」

「んー、なんか不思議な感覚だな。メイドに紅茶をいれてもらうってのは。俺にはメイドさんはいなかったし。そこまで裕福な家でもなかったからねぇ」

「いや、かしら?」

「いやいやいやいや、そういう意味で言ってんじゃないけど。寧ろ嬉しいくらいだ」

「それなら良かったわ」ニコッ

「……………咲夜もなぁ、少しは自分の可愛さをわかってて欲しいぜ」

 

少し赤くなってしまった顔を誤魔化すように、再度窓に視線を移す。

 

「!?」

 

でこぼことしたクレーターの跡、まんまるい形。俺が過去にみたものとは違い、その空は青かったが。それは間違いなく、月だった。

ついに、月に到着したのだ。

 

「おーい、みーんなー!ちょっと窓の外を見てくれ!」

 

喧嘩をしていた魔理沙とレミリアが、一旦は中断をして外を覗く。近くにいた咲夜は俺が声をあげた瞬間に窓を覗き見ていたので、既に戦慄済みだ。

 

「こ、これは…………!」

 

眼下に広がる、広大な土地。これが月である。予想よりも遥かに荘厳であるその光景は、初めて見るものには壮絶すぎた。魔理沙とレミリアが口を開けながら呆気にとられる。

 

「さぁ!最後の仕上げよ!」バッ

 

ずっと座りっぱなしだった霊夢が立ち上がり、皆に呼びかけた。

 

「なにかが起こるわ!」

 

そう彼女が叫んだ、その瞬間。

ロケットの機体ががくんと揺れ動き、ロケットから神力が完全に消えるのを感じた。あのバカ……!まだ着陸もしてないのに、エンジンを切るやつがあるか………!

このままじゃ落ちる。というか、もう落ちてる!仕方ねぇなぁ!

 

「――――はぁ!」

 

ロケットが完全に落ちる前に、全力の霊力をロケットに流し込み、浮遊させる。前の紅霧異変の時の寸胴鍋を浮かしていたのと全く同じ理屈だが、質量が大きすぎる。みるみると霊力が減っていく。随時能力を発動して回復させながら頑張る。それで回復は追いつくが、長くは使いたくない!

 

「っ……………くっ、この………!」

 

なんとかかんとかやりつつ、外の様子を窺う。近くに浜があるようだ。ってーことは、ここは豊かの海か…………。豊かの海。月の都の結界内に幾つかある海の一つ。

だが、少しは時間が稼げた。イメージを必要とする以上、霊力を維持しながら能力を使うのは厳しいんだが…………。やってみせる。

 

「事象を理想的に――――『このロケットと皆の位置の理想』を、豊かの海の浜辺に―――!」

 

再度、軽い浮遊感が訪れたあと、ロケットが移動し、浜辺に不時着した。ふぅ、なんとかなったか……。ロケットも一応は無事のようだ。上筒男命にはもう一度頑張ってもらわなければいけないので、ロケットの無事は必須だった。

 

「っ、はー………危ないことしやがって………」

 

不時着を終えたのでしばらく呼吸を落ち着けてから、ロケットの様子を窺ってみる。人が全力を尽くしていたというのに、俺をほっといて外に出ていた。おいこら。はぁ。まぁ、無事なら万々歳だが…………。ひとまず汗を拭い、少し体調を整える。霊力を回復しておいてと。んー、少しゆっくりしよう…………。ちょっと焦った。

 

…………………青年湯ッ栗中……………………

 

「じゃ、俺も行きますか……。豊かの海なら、割と月の都に近い場所に落ちたんだな」

 

開け放たれているロケットのドアを通り、外に出る。外には、海があった。まぁさっきから言っているとおりだが。

とまぁ、それは普通のことなんだが――――。普通じゃない光景も、あるようだった。

俺は『彼女』の後ろから、その背に声を掛ける。

 

「おいおい、依姫ちゃん――――。いきなり喧嘩を売るなんて。元気いいなぁ。なにかいい事でもあったのかい?」

「―――っ―――!?り、凜さん!?」

「り、凜…………」

 

そう言った霊夢は、冷静な表情ではあれど、焦っているように見えた。

依姫ちゃんは、持っている刀を地面に突き刺して、霊夢と魔理沙、レミリアや咲夜を刀で拘束していたのだ。身じろぎひとつ出来ないほどの、強力な結界。霊夢でも張れやしないだろう。

 

「はっはー、ホントに元気いいねぇ。でもさぁ、依姫ちゃん………。そいつら俺の連れなんだよねぇ…………。離してやってくれない?」

「いくら凜さんでも。月の都に仇なすのであれば、容赦はしません」

「あなたもこの祇園様の剣で―――拘束させていただきます!」

 

その地面から生えてる刃は、俺の元からも伸びてきた。はっははは。俺にそんなもんが通じるかっつーの。

 

「伸びている剣の大きさを、ミニマムサイズに」

 

小さくなった剣をひょいとのりこえ、瞬間で天狗化し依姫ちゃんの下に突っ込み、突き刺さっていた刀を蹴飛ばす。すると、四人の拘束がとれた。ふん、やっぱりあれが大元か。

 

「祇園様………って言ったっけ?神降ろし………霊夢なんかよりよっぽど高度だね。あはっ、別にどうでも良いんだけど」

「………」ギロッ

「おいおい、そんなに睨むなよ――――。久しぶりに会った旧友に、挨拶ぐらいしてもいいんじゃないかなぁ?」

「………………。お久しぶりですね、凜さん」

「おう、お久しぶりですよー。………………あ」

 

久しぶりに依姫ちゃんと見つめ合うと、その首筋に輝くスカイブルーのチョーカーが見えた。

 

「それ、まだ着けててくれたんだ。もう忘れ去られてるかと思ったのに」

「貰い物ですし………。それに、これはあなたとの思い出でもありますから」

 

依姫ちゃんは首筋に手を触れながらそう言う。らしくもないその発言に、らしくもなく目が熱くなった。そいつは嬉しいことだ。

と、軽く感傷に浸っていたら、レミリアが俺に質問をぶつけてきた。

 

「ねぇ、凜…………。あなた、そいつと知り合いなのかしら?」

 

周りを見てみると、どうやらそれは全員の疑問みたいだ。ま、当たり前だわな。

 

「あは、まぁ一応はね。えーとレミリア、一つ問いたいが。お前の目的は、月の侵略でいいわけだよな?」

「もちろん。月は、私のものよ」

「誰のものかって言うと、誰のものでもないのだけどね………。別に、それ自体は止めやしないよ。でも、俺は何もする気はないんだ。ただの安全弁だしね」

 

そこでレミリアに向けていた体を翻し、依姫ちゃんを見据える。

 

「依姫ちゃん。聞いてたかな?テラちゃんやヨミちゃんとの約束を破る気はないよ。それは約束する」

「……………そうですか。ならば凜さん。手出しは無用です。私も月の使者として――――侵入者を許すわけにはいきません」

「あぁ、別に構わない。けどね、依姫ちゃん――――」

「『そいつらを一人でも殺したら』――――――君、殺すから」

「――――っ―――!」

 

冷ややかな目線で、俺は依姫ちゃんを見据えながら、そう言う。そこに嘘偽りなどひと欠片も交えていない。

 

「あぁ、殺すだけじゃ足らないか。そうだね、月の都はとりあえず、ぶっ壊しておこうかな。ヨミちゃんの月神としての力でも守れないくらい―――――徹底的に」

 

本気でそんな事が起こってしまったのなら、俺は躊躇いなくするだろう。タガが外れる。

霊夢が死んでも魔理沙が死んでも咲夜が死んでもレミリアが死んでも。妖精メイドはまず殺せないのでどうでもいいが………。

絶対に許さない。

 

「あは、ごめんねぇ、なんか怖がらせちゃって。ま、それは頭に入れとけってこと――――それだけのことだ。もちろん、俺はそこの所依姫ちゃんを信用してはいるけど…………。もし万が一、億が一にもそれが起こったら―――覚悟はしな」

「………………………ふっ」

「?」

「相変わらず、幻想郷がお好きなのですね」

 

想定外の返答。脅しとはいえ、何も嘘は言っていないが………。さすが、かな?全然臆した様子がない。ふふ………。少し嘗めてたか。

 

「………………あはっ。もちろん」

「しかし、凜さん。それは私も同じ事です。そちらに敵対行動をとられた以上、何もしないわけにはいきません」

「うん、それもわかってる。俺は君達のことだって好きだし、君達に危害を加えたいわけじゃない――――だから」

「人でも妖怪でも月人でも、等しく誰もが楽しめる勝負―――――スペルカードルール。それで決着をすればいい」

 

と。

俺はキメ顔でそういった。

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