東方理想郷~east of utopia~ 作:ホイル焼き@鮭
side other
「ちょっと、まずは落ち着こうか」
ずい、と迫る赤髪の少女を、ひとまず凜は落ち着かせようとする。しかしその申し出は聞き入れられず、赤髪の少女はさらに頭を下げる。
「お願いです!あの子を……どうか……!」
「…………あー、っと……。わかった、助けよう。だからひとまずは離れてもらっていいかい?」
即断即決。凜が軽く逡巡した後にそう口にすると、赤髪の少女はぱぁっ、と顔を明るくさせる。
「ありがとうごいます!」
「まぁ、ひとまずは自己紹介ね。俺の名前は高橋 凜だ」
「これはどうもご丁寧に。あたいは火焔猫燐という者で…………りん?」
「………………りん」
ガシッ。
お互いが自己紹介をすると同時に、相手の手をぎゅっと握手する。
「「よろしく、りん」」
なんだこいつら。
さとりは傍から見ていてそう思う。ドン引きである。
「いやぁすごい偶然だなぁ燐」
「本当ですねぇ凜」
「いやさぁ、俺りんって名前のやつ初めてだわー」
「そうそう。りんなんて名前、そうそうないですからねぇ」
「ほんとだよ。ねぇ燐」
「ですねー、凜」
「………あの、りんりんうるさいからよそでやってくんない?」
ついにさとりがそう口にする。
「おっと、そいつは失礼」
「これはさとり様、ご迷惑をおかけしました」
「………はぁ………で、お燐。お空がどうかしたの?」
さとりが『お空』という名を出すと、燐はキリッとした表情に変わって話し出した。
「…………そうです。お空が……お空が…っ!」
「まぁ落ち着きなよ燐。ゆっくり、話してみな?」
「……そうですね」
そして燐は話し始めた。
まず、お空というのは霊烏路空という名前の地獄烏の妖怪の愛称だということ。
そしてそのお空が、ある時を境に強大な力を持つようになったこと。
それにより天狗になって(慣用句ですぜ)しまった彼女が旧地獄の遺物、灼熱地獄跡と呼ばれる場所で暴れている、という事だった。
全ての事情を呑み込むと、凜はさとりに貰った紅茶のお代わりを啜りつつ目を瞑る。
「まぁ、大体分かった。けどさ燐、地上で怨霊が発生している原因は、誰にあるの?その空って子が原因とはつゆとも思えないし違うだろう?」
「………それは、その……なんといいますか」
そう言いながら燐は、凜から目を逸らす。
なにかやましいことがあるかのように不審な態度を取る燐に、凜は思い当たる。
「そういう態度を取るってことはだ、燐。怨霊の管理をしてるのは君だろ」
「それは……はい。あたいです」
「ならなんで怨霊の管理を怠ったのかな?これは大きな問題だぜ」
凜は本来、それを探りにここまでさとりを訪ねてきたのだ。本筋を無視してまで雑事に向けるほど、凜に空を助ける気力はなかった。
恐らくは異変である空の暴走に、大きく自分が関与するのは是であるのか。
それは凜には定かではなかったが故に。
「それ次第では―――――協力できないかもしれないからね」
「…………すみません。なんといいますか……事を起こせば、地上から誰かが来てくださるかと思いまして……悪気は、無かったんです」
「…………はん、なるほど。古明地に相談もなく?」
「………言ったら絶対やめろって言うと思って………」
「…………いや、子供かよ」
「実際言いますけどね」
なるほど、怨霊が漏れでていたのはでっかい釣り針だったわけだ。
見事に引っかかった身として、若干の苛立ちを凜は覚えたが、それを呑み込む。
そもそも引っかかったのは自分ではない。全てゆかりんが引っかかっただけの話。間抜けなのは俺ではなくあいつである。
そう結論づけて(ひでぇ結論だな)、凜はある程度大人の対応をすることにした。
「はぁー。とりあえず、怨霊の管理はやってもらいます。その……なに?空ちゃん?の事は何とかするから、それだけはしっかりしてよね」
「………ほ、ホントですかっ」
「まぁいいよ、空ちゃんぶっ倒すなんてすぐ終わるし。どの程度の強さなのかは知らないけど、テラちゃんヨミちゃんより弱ければ大体なんとかなるでしょ」
それにと凜は繋ぐ。少し冷めた紅茶をグイッと飲み干すと、ニヤリと笑う。
「同じ『りん』のよしみだ。多少は、ね?」
side rin
真っ赤に燃え盛る業火の道を、俺は歩く。
ふいに風が吹くと、肌を焦がすように熱い熱風へと変わる。所詮は風、火傷するほどのものでもないが――――――つー、と、頬に汗を伝わせる程度には熱かった。
やぁどうも。
久々の一人称にワクワクな高橋 凜だ。
うんざりするほど暑苦しい灼熱地獄跡の中、前をゆく黒猫の後を追う。
この黒猫は、燐が姿を変えたものらしい―――妖術の一環だろう。
元々はこれが本体なのだろうか。それともあちらが本体なのか。
それは定かではないけれど、そんな事に興味は特にないので聞かない。
「ねぇ、燐ー………」
「にゃあ?」
「あぁ、喋れないのね……いや、まだかなーってさ」
「にゃあ、にゃにゃあにゃにゃ」
「ふむ……なるほど」
わからん。上海と同じようにはいかないか。
上海はマイフレンドなので、何か不思議な力によって言葉を理解することが出来たが。流石に猫語はわからん。
まぁ、耳のスペックを
そもそも、こんなに乱用するものでもなかったはずだが―――――まぁ、人も最初は遠慮がちになるもんだよね。
最近は万能感というか――――――時折、自分が天の上の存在であるかのような感覚すら覚えてしまう。
自分こそが最強で、全ての超越者である。
そんな過剰なまでの自意識。実際、この世に俺ほど強い存在がいるのか?俺に効くのは唯一、不意打ちのみ―――――――それ以外は何もかも意味がない。どんなに能力が強くても、どんなに身体能力が高くても、そんなものは意味をなさない。
だからこそ―――――時折感じるそれが、怖くもあるのだ。
これ以上、俺が『強く』あれば――――――異能者だらけのこの世界でも、ここですら、俺は―――――――――ダメなのかもしれない。
「――――凜?」
ふとブレスレットから声が響く。
急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、紫がブレスレット越しに話しかけてきたのだ。
俺はハッとすると、首を緩やかに振る。
違うな―――――――こんなんは、らしくない。
「いや、なんでもねぇよ」
「………そう?何か悩みでもあるのかと思ったのだけど」
「あは、まぁ、そーだねぇ……。まぁあったとしても、君に話すことじゃねぇんだなこれが」
俺のハッキリした拒絶の言葉に、紫は一瞬たじろいだように、短く息を漏らした。
しばらく嘆息したあと、紫は言った。
「信用しろと言ったけれど……そういうあなたは、私を信頼しているのかしら?」
街にたどり着く前の話か、と俺は思った。
紫の口調は優しい。本気で責める気はないのがわかる。
「あはは………もちろん、信頼しているに決まってるじゃないか。全面的に信頼を預けてるってばよ」
「…………そう。私もあなたを信頼してる、だから………悩みがあるならどんなことでもいい。相談しなさい」
「……………あは。それってさ。『命令』?」
「いいえ。ただの『お願い』」
「……………あは、まぁ……気が向いたらね」
俺はそんなふうに誤魔化し、黙りこくった。
前を歩く黒猫はこちらをちらりと少し窺ったが、少しの間だけ俺を見てからすぐ、また歩き始めた。
どうやらこっちの言葉は理解出来ているらしい、変なところを見せてしまったかと軽く自省する。
良くないと思った。こんなのは俺のキャラじゃないのである。
「燐ー。まーだー……?」
いい加減あちぃ。
こちとら冬服だぞこら。制服だからある程度通気性はあるけれど。
「なーぉ。にゃにゃあ」
「ふむ、わからんがあと少しだと言ってると捉えてよろしいかい燐さんや」
「にゃあ!」
「おぉ、意思疎通が出来た……気がする」
なるほどなるほど、確かに周囲がどんどんと暑くなってきている気がする。
この熱の発生源へと、確実に近づいているようだった。
しかし……本当に暑い。サウナなんてメじゃない程の暑さ………とまではいかないかもしれないが、同程度には暑いとは言えるだろう。
あまりにしつこいので、俺の周囲の空気の温度の理想を弄ってしまうほどだ。
のののの。あーこういう説明すんの嫌いだわ………。気持ち悪いったらありゃしないよ全く。
しかしスキルのおかげで涼しい。ひんやりだわー………。
「あんまり気軽に使うのもどうかと思うけど」
「まぁ確かにね。しかしなぜ分かったし」
「直感」
「おk理解」
あまり能力を使いすぎるのも、良くないとは思った。
しかし、その判断はあいにく正しかったらしい。
先に進むにつれ、どんどんと周囲を取り巻く熱は大きく、チリチリと肌を焦がした。
確かに、凄まじいほどの熱気ではあった。
サウナ程と言ったのも贔屓目には見ていない。サウナはああ見えて、平均した気温は90℃前後する。それは服を着た人間を相手にする温度ではない。
しかし―――――もはやこの熱量。暑すぎる―――――否、熱すぎる。
その灼熱を放ち、最奥部にふんぞり返っていた
「――――――誰だ、お前」
想像以上の力―――――熱が、黒髪赤眼の彼女からこちらに向けられる。
思ったよりも、はるかに強い力――――妖力か?―――――――――いや、違う……?
この圧倒的なまでの圧力。上から見下ろすかのような、自らの力を示すかのように自己主張するこの力――――――――もしかして。
神力―――――――!!!?
なぜ化けガラス程度が、神力を―――しかも、かなり高位のものを持っている――っ!?
「…………あは。悪ぃけど、燐」
「にゃっ?」
「………あんま手加減、出来ないかも」
「にゃ―――っ!?」
一閃。
砲台のようなものが取り付けられた彼女の右腕から、横薙ぎにオレンジ色に輝く炎剣が振るわれた。
その一閃をバックステップで即座に躱す。
ついでに燐も後ろに蹴っ飛ばしておいた。
「誰だって、聞いてんだけど!」
「あっは、乱暴だねぇ。ダメだぜぇ、短気は損気っていうでしょぉ?」
若干の挑発の意図を込めて、俺はからかい口調で語りかける。
俺がこの子―――――霊烏路空について受けた説明は主に二つ。
一つは、炎を操っていること。それは先ほどの行動にも見られたし、熱気からして、生半なものでもないだろう。
もう一つは、ひどく単純な性格だということだ。平たくいえばバカだと。
挑発にも乗りやすいと考えられるわけだ。
怒りというのは、思考を霞ませる。視界を眩ませる。それを濾過してこそ、エネルギーというのは取り出される―――――濾紙を手に取らない限り、怒りはタダのアイマスクでしかない。そして濾紙を手に取れる者は1握り。
それを利用しようという作戦である。
「――――――何言ってんのかわかんないけど――――あんたが敵だってのは分かった」
「うん?心外だなぁ、敵だなんて。俺は幻想郷にいる者全ての味方、全ての仲間のつもりなんだけどなぁ」
「ごちゃごちゃうるさいよ――――燃えろっ!!」
そう激昂して彼女は再び炎剣を振るい、軌道上に炎弾をばら撒く。フランの『レーヴァテイン』にも良く似た動きだ、しかし。
フランよりも数段落ちる。まぁ、スペルカードの宣言もしていない以上、ただの通常攻撃にレーヴァテイン程の破壊力を求める方が酷というものだろう。
それに、フランはああ見えて頭は回る。あれでも魔法使いでもあるアイツは、こと戦闘に関してはかなりクレバーなタイプ。
というか、まだ戦うとも言っていないのにいきなりこれか。随分と天狗になってる(勘違いしないでよねっ!慣用句……なんだからっ)というのも間違いじゃないようである。
しかし、すごい熱量だ……それに、一妖怪がなぜ、
相手が神力を使うのなら、そこまでの手加減は出来そうにねぇな……………。
いつまでも弾幕や炎剣にかすりもしない俺に業を煮やしたのか、空ちゃんは癇癪を起こしたように叫ぶ。
「あぁもうっ!なんで当たらないのさっ!」
「この程度に当たってちゃ、守護者の名が廃るさ………そうだ、いいものを見せてあげよう」
炎を生み出す魔法『アグニシャイン』を発動させる。棒状に連なるように炎を積み上げ、熱が伝わらないような性質を手に施す。炎剣を素手で掴む。
「劣符「レーヴァテイン」&化人「速きこと風の如く」」
最後に羽をはやし天狗化すると、空ちゃんの方へと突撃する。目にも止まらぬ速度。
炎剣を袈裟に一撃。空ちゃんは慌てて回避行動をとるが、右肩に直撃。
「づ――――らぁああっ!!」
続けざまに横なぎした俺の剣を、空ちゃんは自分の炎剣を振るって制止させる。
一撃、ニ撃。三撃四撃五撃六撃。
何度となく打ち合ったが、流石に全て防がれる。ふむ、化人符が残ってるうちにもう少しダメージが欲しいところだが…………。
流石に劣符だけあり、炎剣の性能は空ちゃんのそれよりも低い。
真正面からの打ち合いは不利―――――となれば。
レーヴァテインを消し、スペルを中断させる。
「速きこと風の如く―――――最大風速ッ!」
黒翼をはためかせ、最大速度で空ちゃんの周囲を旋回する。本来ならば周囲への影響を低減化させた状態でのみ最速は使うのだが―――――今回は低減化させない。
大気をかき回すように旋回し、巨大な風を生み出す――――やがてそれは、竜巻のように渦巻き、外・中問わず切り裂く。
当然、俺の体にもその災禍は降り注ぐ訳だが――――――ところがどっこい、『速きこと風の如く』には自動身体保護の魔法も掛かるように出来ている。
本来ならばそこにもう一つのデフォルト『影響の低減化』も存在するが―――――まぁ、些事なことではある。
「づっ―――――!ぁぁぁぁぁあっ!?」
空ちゃんの絶叫が響く。ふむ、予想以上のダメージである――――――っと?
背中の羽が感じていた重みがふと、全く感じなくなる。うーん、時間切れか。まぁ、よく持った方だぁね………。
ぐちゃぐちゃとまるでお菓子でも作るかのようにかき混ぜていた俺の速度が落ちると、次第に竜巻の勢いも弱まっていく。
旋回していた俺には見えなかった内部の姿が、次第に窺えるようになる――――って。
「―――――――空ちゃん、なんで裸なの………?」
中にいたのはすっぱだかの空ちゃんだった。
文字通りすっぱだか、一糸まとわぬとはまさにこのことな様子の空ちゃんは、真っ赤な目でこちらを睨む。
「み、見るんじゃねーっ!」
「ふむ。…………なかなかいいおっぱいをお持ちですね」
「見るんじゃねぇって言ってんだろうがっ!この……あー、うー………エロ助っ!!」
「あはははっ、無理して難しい言葉を探そうとして失敗してるぜぇ?」
羞恥心はございますようで、空ちゃんはホントにヤバイ所(上と下。みなまでは言わない)だけを手で隠す。しかし隠れてない。寧ろ隠した方がエロい。新たなフェティシズムを開拓させられている気がする。
「ジロジロ見るんじゃねぇよエロ助!観察してないでなんとか言えよっ」
「なんとかってなんだなんとかって!こちとら見たくもない女の裸見せられた被害者なんだぞっ!ほんとに空ちゃんと来たら………!はぁー、もうー……ごちそうさまです(´>ω∂`)」
「わ、私が悪いのっ!?…………って、ひん剥いたのはお前だろうがーっ!」
「え?…………失礼だな、誰が空ちゃんなんかの服をひん剥くって?そんなのはピクシ〇の前の人々の仕事だろう?」
残念ながら俺は絵師ではないし、好きなキャラをひん剥くような、そんなけったいな趣味はあいにく持っていない。それに、好きな
「あの風だよっ!あんなに強い風、服が破れるに決まってんじゃないか!」
「……………あー」
そうか。
やっと合点がいった。
竜巻によるカマイタチの切り傷で、服が破けてしまったのである。
なんぞ露出狂が現れたぞと思えば、そういう事か…………ふむ。
そんなつもりはなかったが――――これは使えるのでは?
大体、俺がスペルカード戦で負けるわきゃあない。縛りに縛りに縛りまくってもなお、負ける気はそうそうない。越符なんかに手ぇ出した日にゃあ目も当てられないだろう(後に手を出すことをこの時の俺は知らない)。
んなモン見てもつまんないだろうし。ねぇ?
「ふっふっふ………」
「な、なんだよ………そんな目でみるなよっ」
「いや?たださぁ………そんな姿で君に何が出来るのかなぁ?げへへ………まともに弾幕も出せやしないんじゃないかい?」
「あ………まさかおまえ!それが狙いだったのかっ!?」
「さぁねぇ?まぁ些事だよ―――――重要なのは今君がすっぱだかで、俺がなーんのハンデもなく戦えるって事だよねぇ?理想神槍「スピア・ザ・グングニル」」
スペルカードを一枚取り出し、宣言。
相手が1枚たりともスペルカードを使ってないのに、こんなに連続で詠唱していいのだろうか。
まぁそんな些事には構わず、霊力を振り絞った神槍を構える(対句)。
「必滅の運命がかかった、我が友の槍の模造品――――あは、選びなよ空ちゃん」
右手に構えた神槍を、孤をかいて突き出す。
レミリアのものとは違い、真っ白な霊力の輝きが美しく槍に追従した。
「この槍で貫かれてズッタズタに引き裂かれるか――――」
何も持ってない左手を突き出す。指先を1本1本動かして、何やら不穏な動きを見せる。
「その豊満な肢体を俺に見せるか!あーはっはっは!なんならアレだぜ――――泣いて許しをこえば、元の姿に戻してやってもいいぜぇ?」
「く――――ひ、ひきょーだぞっ!そんなことしていーと思ってるのかーっ!」
「何馬鹿なこと言ってんの?わきまえた方がいいんじゃねぇ?あははははっ!」
一歩前に出る。
「さぁ」
神槍をひと回し。
「さぁさぁ」
にょろにょろと指を曲げる。
「さぁさぁさぁ!!It’s a select time!」
「う――――――ああもうっ!!」
諦めたようにそう空ちゃんは叫ぶと、取り出したスペルカード(すっぱだかなのにどこから取り出したんだろう……?)を高らかに天に掲げ、宣言する。
やべぇ、エロゲーみたいなことなってる!!
さっと目をそらす。本気で見るつもりなど到底なかった。
「核熱「ニュークリアフュージョン」―――!」
しかし、それがいけなかった。
目をそらしたことで、空ちゃんのスペルカードに対する対応が遅れた―――――故に。
俺は目の前にやってきた『それ』に―――――身を焦がされることになったのである。
「――――――熱ッ!?」
『それ』は、オレンジ色の巨大火球だった。
メラメラと燃え盛りながら、何球も何球もこちらに投げつけられる。間一髪横にすり抜けるようにしてかわせたが―――――身にまとっていた冷気が、一瞬で蒸発させられた。
この熱―――――スペルカードの形をとってはいるものの―――――当たれば即死!
嘗めていた、わけではない。ふざけながらもある程度の警戒はしていたし、何かしらのリアクション、反撃はあるだろうとも思っていた。
しかしそれはあくまで、スペルカードルールの下での―――――つまり、『死ぬこたぁない』程度のものであると思っていたのだ。
こちとら人間だ――――――命あっての物種。死ぬわけにはいかない。
警戒レベルを引き上げる。
「化人「動かざること山の如く」」
頭が冴え渡る。目の前の火球に対し、ひどく客観的になる―――――自分の位置、火球のサイズ、自分と火球との距離感。全ての情報が一瞬でエンコードされる。
その情報を元に、俺は動く――――――火球とともに放たれているらしい、青色の光弾が目に入る。巨大な火球を交わすとともに、進行方向に待ち構えていたそれらを、神槍を用いて消し去る。
神槍がぴしりと軋む。
元々これは投擲用のスペルカード―――――本来振るうようには出来ていない。
どうやらまだ使えそうだので、一か八か、空ちゃんに向けて投げ捨てる。
それはそのまま言葉の意味の投げ捨てるだ。おそらく当たるだろうが、致命傷になるようなものになるとは思えない。
次の神槍を準備しながらそう予測したが、予測に反して―――――というか、俺の思っていたよりも、レミリアの全力を想定した理想神槍は破壊力バツグンのようらしい。
神槍はいとも簡単に火球を真っ二つにし、空ちゃんの下へと向かい―――――彼女の脇腹を突き刺したのである。
相手も妖怪、それは致命傷程ではなかったけれど――――――かなり深刻なダメージではあるらしい。
火球を生み出す手(どこぞのサイボーグみたいな砲身だ)を止め、脇腹を抱える。
「痛――――――ぐ、ぅうう!!」
こんな結果になるとは思いもしていなかったため、ほんの少し戸惑う。
空気を読めないようで申し訳ないけれど、すっぱだかのまんまな空ちゃんに今更ながら元の服をセッティングする。
流石に全裸の女を相手に戦闘はしたくない。
というかしたいやつはもれなくHENTAIだ。
しかしそうした瞬間、脇腹の真っ白な服が真紅に染まる―――――――確かに若干、スペルカードの域を逸脱した威力だとは思っていたが。まさかこんなに火力が高いとは思ってなかった。
「まぁ、それもまた些事だぁね」
確かに俺は幻想郷の守護者で、幻想郷に住む者全員に対して保護の義務と責任は持つ。
紫がなんと言おうと、それは確かなことだ。
しかし―――――だからと言ってこの俺が、幻想郷の住人を傷つける事に躊躇や心痛を覚えるかといえば、それは否であるとはっきり断定する。
だから目の前で他人が俺の攻撃によって痛がっていようがなんだろうが、俺は全くなんとも思わない。
「あは、空ちゃんったら……もうギブかい?そんなけったいな力持った割に、ふぅんなるほど、弱いね」
「おまえ…………きゅーきょくの力を持った私を、弱いだって………っ!?」
「いやまぁ、力は弱いとは言ってないよー?誰に授かったか知んないけど、その力はホンモノだよ―――――ただ、力ってのは精密な機械みたいなもんでねぇ。どんなに優れていても、振るうものが上手くなけりゃあ意味なんてないのさ」
例え何も知らぬ幼児が突然、スマートフォンを手渡されたところで、それを活用することなどできないようにね。
「あは、それにしたって、どこのどいつなのかなぁ?その力を君に与えたのは。気になるなぁ」
「くそ―――なめやがって………っ!」
そう言って空ちゃんは立ち上がる。よく見ると、彼女の神力が脇腹に向けられていることがわかった。ふむ、エネルギーを流し込むことによる自然治癒力の異常上昇か。
面白い。しかし空ちゃんに、そんな知恵があるとは思えなかったのだけれど。
もしかして、何か『いる』のか?
そんな俺の懸念をよそに、空ちゃんはスペルカードをもう1枚、取り出す。
「もう怒った―――泣いて謝ったって、許してやらないからな!」
「地獄極楽メルトダウン」
彼女はそう宣言した。
右腕の砲身から強大なエネルギーをふた方向に撃ち込み―――――超特大の火球―――いや、もはやそれは火などとなまっちょろいものではないか。
超特大の炎球を発生させる。
そしてそこから放たれるは、規則型の赤光弾―――――なるほど、そういうスペルか。
設置された炎球により狭められた空間内で、交差する規則弾幕をかわせという訳だ。なるほど―――――ひどくシンプル、しかし―――――ひどく難しい。
「あっちぃ…………っとぉ!」
炎球の熱に気を取られているうちに、後ろからの光弾に轢かれかける。
まずいまずい―――――守護者から見てもこれはトップクラスの難易度。生半なスペルカードじゃねぇぞこりゃあ……!
しかし―――――リフレクターで返すにしても、こうも全方向から来る弾幕は完全に対処する事はできない。リフレクターの弱点はそこにあった―――――大き過ぎる弾や、全方向から攻められる弾幕は対処しづらいのだ。
そもそも弾幕を出さないようにするのが大事であるが………新しい発見ではある。
「っと、そんなこと考えてる暇はねぇな……」
どうする?アイディアル・エアガンか、アイディアル・グラヴィティか………。まぁ、遠距離の攻撃をかわすことには、右に出るものはない『アイディアル・グラヴィティ』を使えば乗り切れることは乗り切れるだろうが…………。
逆に考えると、ここで切っていいカードなのか―――――――いや。
「違うな、なら……」
懐からもう一つのスペルを取り出し、宣言。
魔理沙、借りるぜ?
「理想恋心――――――「ダブルスパーク」!」
両手を大量の弾幕をばらまいている炎球に向け、ありったけの霊力を注ぎ込む。
リフレクターで読み込んだのは、『理想恋符』だけだが――――――なに。
恋心「ダブルスパーク」は単に、マスタースパークが2本になっただけの技。
それならば、理想恋符を2発、撃ち込めばいいだけのことだろう。
しかし案外、事はそう簡単にいかないようだった。
今どき、作用反作用くらいは小学生でも知ってる話だが――――――それを身をもって経験させられることになったのである。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
なんか、肩甲骨の辺りがすごい事になってる!?
そうか―――――殆ど対極の場所に設置されている炎球に、2本も理想恋符を放ってしまったのだ。両方の腕に均等に力がかかってそれが1点に集中してあわわなことに!
「ぐぐぐぐ………っ!」
痛い!痛いってレベルじゃねぇ!
しかしどうやら考え自体は間違ってはいなかったらしく―――――二つの光線は超特大炎球にぶち当たり、その姿を飲み込んだ。
それを確認して―――――俺はダブルスパークを終了させる。
痛かった―――――魔理沙の全力を舐めすぎた感はある。本来ならダブルスパークは、ミニ八卦炉と魔理沙本人で別々に放つもの。
しかもほぼ同じ方向に放つように出来ている。
その二つを無視した結果がこれだということか―――――納得である。
さておいて、神槍と恋心のせいで、ほぼ霊力が尽きてしまった。
もちろん回復させることは出来るが、それはあまりしたくない。そんなことしたら俺に勝てるヤツなどいないのだ。みんなから借りた(パチった)スペルを連打してしまえば、タダの力技にしかなり得ないのだし。
もちろんのことスペルカードである以上、俺の弾幕にも一定の攻略法は存在するが―――それを見抜くのは至難の技だと、自分で言いたくはないがそう思う。
本来の俺は守護者なので―――――スペルカードは寧ろ、巫女の領分である。
というかまた話がそれてる。悪い癖だな………。あはは。
しかし恋心のおかげで、ひとまずの危機は去ったのである―――――タダの全体弾幕程度、かわすのは妖精にだってできるのだから。
流石にしびれを切らして、空ちゃんは次の手をとろうとした―――――――がしかし。
そこで俺は思い出す――――――今回の件、俺に与えられた仕事は一つ。
地霊殿が本来執り行っているはずの、怨霊の管理がなされていないこと、それを調査するのが今回の仕事だ―――――それに、戦闘は避けてもいいと言われている。
だというのに、なぜ俺はきっちりとした『スペルカード戦』で空ちゃんと争っているのだろう?もちろん、燐に頼まれたからだ――――だがしかし、その方法までは定められていない。
平たく言おうか。
めんどくさくなった☆
しかし俺のげんなりした気持ちなど知らずに、空ちゃんはノリノリで喋りだす。
「まさかここまでやるとは思ってなかったよ―――――でも、これで最後だよっ!」
「サブタレイニアンサン」
空ちゃんを中心として、先程よりも凄まじくなった炎球を展開する。それはもはや、炎球というカテゴリではないだろう――――しかしそうとすると、なんと形容すべきなのか。
『太陽』――――――というべきかもしれない。
その周りにいる身としては、暑いなんて話ではなかった――――――それはもう、『焼く』の領域であった。
それと同時に後ろから、太陽の中心に集まるかのように渦をまいて、青色の光弾が現れる――――――っ!?
「体が―――――引っ張られる!?」
体が引っ張られるとは、文字通り――――太陽に向けて、勝手に体が動かされているということだ――――――つまり。
この太陽には―――――重力があるということにほかならない。
んな馬鹿な――――形容のつもりで発した言葉だったが、これではまるで―――――本当に太陽ではないか。
ありえない―――――どれほど強大な力を、この娘は授かったというのか。
スペルカードという形をとっているが…………その実、全く制御出来てはいない。
スペルカードというのは何度も言う通り、お遊びのもの――――――命の危険があるものではない。単に殺すなら、弾幕なんてもんは必要ないからだ。絶対にかわせるし、絶対に死なない。そういう風に出来ている。
「―――――――あは」
身の危険というものを感じたのは、いつぶりだろう?伊吹以来だろうか?いや幽香さんだろうか。案外本当に怖かったのはレミリアだったりしそうだ。
おっと、昔を懐かしんでいる暇はないか。
これは、今挙げた連中なみの脅威―――――下手したらそれ以上という事はわかった。
スペルカードではあっても、遊びではないと言ったところだろうか?
全く、幻想郷と来たらこうなのだから。
相も変わらず、元一般人(笑)をビビらせる事に長けすぎている。
学生として励んでいた(実際は天才型で全くしていないが)頃を少しだけ思い出し、若干のノスタルジィを覚える。
って、だからのんびりしてる暇はねーんだって。
「――――――――あはっ!」
流石の俺も、6面ボスのラスト弾幕レベルをかわすのは至難の技だ―――――無論霊夢ならば、あるいは今の魔理沙ならば可能なことかもしれないけれど。
しかしこの俺には不可能に近い。
だから――――――スペルカードにはスペルカードで返すしかないのだ。
まぁ――――――空ちゃん同様、スペルカードの域を逸脱したものかもしれないけれど、ね?
「越符―――――――「
天子ちゃんの時にも使った『越符』。
身体能力、弾幕に続く、三枚目の越符だ――――応用版。というか今のところ、これが現存する最後の越符だったりするが。
空気中に含まれる、水蒸気の量を局所的に何万倍、何億倍に引き上げる。
空気中に溶け込みきれなかった水蒸気が、水となって具現化する―――――おそらくは旧地獄を埋め尽くす程の量だ。
しかし、部屋の中央にあるのはめらめらと熱を放つ太陽だ――――――水をどれほど生み出したところで、それで鎮火するような熱源ではない。
そう、水ではこの太陽をどうこうすることは出来ない。
しかし――――それがもっと温度の低い、『氷』であるとすれば―――――話は、別である。
「水が――――凍って」
「この周辺にある水の温度の理想を、K度に―――――」
先程まで感じていたような熱気は、既になく。
先程まで身体を引っ張るように働いた引力も、もはや全く感じられない。
「にゃ……っ!?」
あまりの冷気に、燐が短く息を漏らす―――――猫のフォルムのままだった。
中央に物量で凍らされた太陽が、ドスンと地面に落ちる―――――堕天。
もはや太陽とも言えないほど、タダの球体と化したそれを『天』と呼ぶなら、こんなに相応しい言葉もないかもしれない。
「ふふふ―――――巨大ボウリングの出来上がりってねぇ」
「そんな………ことって……っ!」
「――――まぁ、力は相当のもんだったね」
でも、それじゃタダの力でしかない。
完全に固まる前に溢れた水が、まだ地面に残っている。俺はそれを一瞥してから、ニィっと笑う。我ながら悪い顔をしていることだろう。
「とりあえず――――――頭冷やして、出直してこいや――――!!」
高速で空ちゃんの背後に回り込み、溜まった水に向けて蹴っ飛ばす。
ザバンッ!
「きゅぅ〜……」
「ま、頭と一緒に、傷口も冷やしておきなよ」
さぁこれにて――――――一件落着だ。
後日談というか、今回のオチというわけでもない、タダの与太話。
暫く空ちゃんはしばしおっ死んでいたのだが、さしもの神力というべきか、すぐに起き上がる運びとなった。
流石に真っ向から最後のスペルをぶち壊したのもあり、素直にこちらの言い分(こちらというか、古明地や燐というか)を聞き入れた。
ということで、今回の話はこうやって幕を閉じた――――――と、いうわけにもいかず。
「ねぇ、空ちゃん。君の力は、与えられたものだと思うのだけれど―――――その力の大元は、一体どこなんだい?」
「うーん―――――それはアレだ。なんかこー、でっかいヤツだった」
「でかい?それは身長?」
「そう。あとは――――なんか、でっかい棒みたいなの持ってたの。あと全体的に変なやつだった」
でかい棒。高身長。変なやつ。神力。
これらがありつつ、何かしらに手を入れそうな人達―――――――俺の知るうちでは、まぁ1人しか思い当たるヤツはいない。
化人符もスペルカードの域でしか使っていないし―――――まぁ、明日あたり。
行くことにするか――――――守矢神社。
神奈子様がんなことすると思いにくいが――――まぁ、無駄足を踏むのもたまには、悪くないだろう。