東方理想郷~east of utopia~ 作:ホイル焼き@鮭
物語もいよいよ大詰め。原作編が終わり、いよいよ凜くん過去編になります!
Side.???
…………最悪の目覚めだった。最悪の気分に、最悪の気持ちに、最悪の心境だった。
上司の友人に、よく分からない妖怪の小娘に憑けられた。それも、いつまでも憑いておけとのご命令。それを笑顔で了承する上司。もはや清々しいまでの横暴さ。
それでもいいと、多少は諦めがついた。
やると言ったらやるのだ。あの人達はそういう人なのだ。だから、百歩譲って妖怪の小娘に憑き、力を振るうのはいい。
けれど――――――流石に、この力は予想外すぎた。
先日、青い髪をした妙な青年が訪れた日。
私は力を振るった。バカスカと力を振るおうとする小娘にうんざりしつつも、黙って炎熱を生み出し続けた。半ばを過ぎてもまだその青年が死ななかったので、乱雑に振るっていた(正確には、乱雑に振るわされていた、だが)神力を一旦やめ、凜と名乗ったその人物を眺めてみた。
すると、どうだ。
かの人間は、神力を持っているではないか。
私ももう老いた。天照様のように、いつまでも若々しくあられる方もいらっしゃるが、私はもはや、何かに興味を持つことはなくなっていた。大抵の場合見慣れていて、目新しいものではないからだ。
しかしそれでも――――神力を持つ人間などは初めてだった。流石の私といえども、興味が湧いた。
もはや久しく忘れていた本気の神力を解放し、凜というその青年を焼き殺そうとした。
もはや余熱で建物が溶けるのではないかという程に全力だった。
しかし―――――――――――――――――
「越符――――――『
その私の全力を、意にも介さずに―――その青年は、氷漬けにしてしまったのだ。
なんだ、こいつは……!?
正直に言おう。
滅茶苦茶怖かった。
確かに私の力は、多くは借り物――――天照様の眷属として、授かっているだけに過ぎない物だ。しかしそれでも、あの神は最高神の一角――――さすればその借り物も、並の神は遥かに凌駕する物の筈なのだ。
それを、なんだ。
何の労力もなく――――さも簡単そうに対処する、だって?なんだその規格外は。
こいつだけは――――この青年だけは、敵に回してはいけない――――というか、存在を気取られてはならない。
そう思ったのが、昨日のこと。
それで、今日だ。昨日久々に神力を行使しすぎたので、ただひたすらに爆睡していた。と言うか、この化け鴉の中、暇なのだ。
ここ暫くこの化け鴉の中で過ごしていたが、意外と何もしない。なんというか、確かに態度は横柄だし、侵略がどうこうは言う。
が、恐らく根本的な所がバカなのだろう。
やってる事が幼稚なのだ。だから案外、やることが小さくてやることが無い。
ただ、あれほどの刺激が欲しかった訳では無いが………。
まぁひとまず、寝ていたのだ。
しかし、寝ていたら――――――急に、とんでもない反応を感じとったのである。
言うまでもない――――――目が覚めた私(小娘を通してだが)の前にいたのは、件の高橋 凜だった。
「(なんだこのエネルギー……!はぁ!?)」
しかも、それだけでなく。
既に並の神の神技は軽く凌駕するであろうエネルギーは、何倍にも膨れ上がるのだ。
それも、何回も何回も。
なんだこれは。人一人死ぬどころじゃすまないぞこれは……!?地球ぶっ壊れるんじゃないか!?
冗談抜きでそう思うほど、私の常識で測れるようなエネルギーでは無かった。
天照様ですら、こんなバカみたいな力を見せはしなかったぞ?そりゃああの人も国生みの神の血族だし、似たようなレベルの力は出せるかもしれないが。
ただ、こんな突拍子もなくこんな事をしでかそうとは流石に思わないだろう……。
「さぁさぁ、空ちゃんの中の神様?一分以内に出てきなよ。さもなきゃ、うん、とりあえず消し飛ぶことになるよー?」
なんだこいつ、まさかとは思うがこんなもん人に撃つ気か!?一分以内に私が出てこなかったら!?
おいおいおい、ちょっと待て!!あんなもん食らったら流石の私と言えど死ぬぞ!
そう戦慄していると、宿主の化け鴉も流石に危険を感じ取ったのか、動揺し始めた。
「消し飛ぶって………まさかお前、それ私に撃とうとしてる……?」
「当たり前じゃない。大丈夫、君の中にいる神様が賢明なら何も無いし。最悪死んでも生き返らせたげるからさ☆」
何を言っているのだこの男は!
というか、今何を言った?
死んでも生き返らせたげる?何を不可能なことを言っているのだ。確かに妖怪にとって肉体の死は人間ほど大きな問題にはなりにくいが、それにしたって限界があるのだぞ?
一度体を滅してしまえば、魂は輪廻に帰るのみのはずだ。
しかし――――――これほどまでのエネルギー体を作り出した人間というのが、青年の言を一笑に付しきれなくさせていた。
まさか、この男。
本当にそんな事が、出来るというのか……?
「そーいう問題じゃねぇだろ!何言ってんだお前!」
しかし、宿主の言う通り。
そういう問題ではない。それはまぁ、化け鴉の一匹や二匹、死んだところで私はどうでもいいが!私が死ぬ!
いや、もし神ならば、肉体の消滅は確かに大した問題ではないのだ。神というのは精神に由来する存在であり、肉体の消滅がその神の消滅を表す訳では無いからだ。
しかし、私は神鳥。神徳こそあれ、所詮は鳥類なのだ。肉体の消滅はそのまま、存在の消滅―――――――し、死んでしまう……!?
「あっはっはっは、お前お前言っちゃダメでしょぉ?俺は髙橋凜だ。凜と呼んでくれ」
そんな事はどうでもいい!
「どーでもいいわそんなもん!良いから早くその物騒なもんをしまえって!」
そうだ宿主、頑張れ!
何とか説得しろ!この男、本当に撃つぞ!?
必死に応援する。が、そんな私を嘲笑うかのごとく、青年はニヤニヤと話し始める。
「あっははは――――さ、カウントダウンだ」
ほ、本当にやる気か……?いや、本気なのだろうな……。会ってからそう長い時間が経ったわけではないが、この男はそういう奴だ………そんな気がする。
「さーん」
「ま、マジでやるのか……?私の人生、ここで終わり……?」
「ちょ、ちょっと凜さん……?」
いや、それにしてもどうしたものか……。
因みに、話をする事は不可能ではない。
憑くというのは、精神のみの状態になり、身体を変える事を指す。やっている事は怨霊などと大して変わりはないのだ。
なので、出ること自体は簡単である。
身体の支配権を奪って、会話をするだけでいい。そもそも私はこれでもあの天照大御神の従僕。高々一妖怪の意識程度、奪うことは容易である。
「にー」
「あ、こいつ本気だ\(^o^)/」
「そのようね……」
しかし、私が今回受けた命令はこの小娘に憑き、その意にそぐうように神力を振るうことである。その際、宿主の意識を奪わないようには仰せつかっている。
だから今ここで、この化け鴉の意識を奪うことは、天照様から受けた命令に反することになってしまうのだ。
「いーちー。あは、いいのかなぁ?このまんまじゃ、ホントに消し飛ぶことになるよ?あはははっ!」
「よくよく考えなくてもさとり様、これ私とばっちりですよね」
「間違いないわねそれ」
いや、分かる!このままじゃ死ぬ!自分の身より大切なものはないし、命令なんかにこだわっている場合じゃないのは分かってる!
しかし、命令を破ったら天照様怖いのだ!
「あら、八咫烏。何をしているのかしらねぇこの子は……うふふ。言われたことも出来ないなんて、3流にも値しないわよ?うふふふふふ………」
とかなんだの言って、100日は天岩戸に監禁するんだあの人は!
あのババア、自分が天岩戸に入ってたからって他者にも同じことをしようとするんだ!
…………因みに、天岩戸の中には何も無い。
私ほど長く生きていれば、多少の暇程度耐えられるものだ。しかしそんな私でさえも、真っ暗闇の中何も無しにただひたすら生きるだけというのは堪える。なんというか、精神を病む。30日を越えた程度から死にたくなる。
だから、出来れば避けたい。本気で。
しかし死ぬ。死にたくなる程度ではすまなくなる。普通に死ぬ。もはや避けたいとかそういうレベルではない。避けなければならない。
「ぜ―――――――」
ええい、もう知るか死ぬよりマシだろ―――!
「ちょ、ちょっと待った!出るから!出るから早くその物騒なものをしまえ人間―――!!」
私が小娘の身体を使ってそう言うと、凜という青年はニヤリと笑って、それに答えた。
「はぁい、初めましてぇ。うふふ、ご機嫌いかがですー?」
最悪だわこのバカ。
Side.rin
「あっはっは、驚かせてすみませんねぇ。改めまして、自己紹介と行きません?」
古明地に出てもらったあと、ようやっと出てきた神様と話す。
いやぁ、良かった良かった!さしもの俺と言えど、知り合いを跡形もなく吹き飛ばすのは心苦しかったからなぁ。
まぁ下手したら、この建物くらい吹っ飛ばす弾ではあったけど。
取り敢えず自己紹介かなぁと、普通の考えとともに提案すると、空ちゃん(の、姿をした八咫烏様)は忌々しそうにこちらをジト目で睨む。
いやん、そんな目で見られたら、興奮しちゃうー。
「……まぁ、それには賛成だ」
「あは、ですよねぇ。私は高橋 凜と申す者です。ご存知かは存じませんが、ここで守護者なるものをしている者ですー」
「守護者、ねぇ……。私は……八咫烏と言う。本来は、月の都で天照大御神様に仕えている者だ」
「ははぁ、なるほどー。ひとまず、僕の事は凜とお呼びください、八咫烏様」
「あぁ。凜」
取り敢えず、自己紹介を終える。
しかしなんともふっつーな自己紹介だなぁ。
こんなんじゃ面白くないよねぇ。おい作者、もう少しマシな文章書けやオラ。9ヵ月も放置しやがって………俺がどんだけ暇だったと!
まぁ個人的な怨みは置いとくけど。
「凜。なんで君はあんな、バカげた事をしたのだ?」
「え、バカげた事ですか?うーん、そんな真似しましたかねー?僕はいつでも、必要だと思ったことをしますよ?」
「いや、おかしい。高々私と話すためだけに、あんな真似をする訳ないだろう?」
「いえいえいえ。あくまで僕は、あなたとお話したかっただけですよ?」
「………本気か。本気だな、これは」
「ありゃ、妙に自信気ですねぇ。まさか、心が読める……とか。仰ります?」
可能性はあるね。
なにせ、あのテラちゃんの部下だ。
一応言っておくが、俺は割とテラちゃんの事をなんでもありだなと思っている。
アレは、普通に誰も勝てないだろう。間違いなく、規格外の一角――――――――例え対天子ちゃんの時のメンツを集めたところで、彼女には及ばないだろう。
だからまぁ、あの彼女の部下なのだし、どんだけぶっ飛んでようとまぁ納得出来る。
「いや、思い違いだな。君が私をどう思っているかは知らんが、私にそこまで期待されても困る」
「あら、そうなんですね。あのテラちゃんの小間使いと聞いたので、てっきり規格外の実力をお持ちかと思ってましたが」
「て、テラちゃん……?もしかして、天照様の事を言っているのか……?」
「あっはっは、面白いことを仰いますねぇ。テラちゃんはテラちゃんですよ?」
「いや……しかし、どう考えても」
「あはは。詳しく考えちゃ、ダメですよー?僕にとっちゃ、テラちゃんはテラちゃんであって、天照大御神とかいう神様は知りません。つまりは、そういう事ですよ?」
まぁ、ここまで言わなくても良かったかな?
でもあんまり、あの辺の方々と繋がりがあるとか思われるのは困るんだよなぁ。
なんか、いらない方面に力があるとか思われたら、明らかに面倒くさそうじゃんか。
なんか、要らぬ疑いとか受けそう……。
「………ふむ。まぁ、いいとしよう。ひとまず……そこを追及することはやめにする」
「ご理解感謝します。ではこちらからも、宜しいですか?」
「いい。なんというか……君にはあまり関わりたくない。だから手短にお願いするよ」
「あっはっは!それはそれは。よく言われますよ――――――えぇ。では、そうするとしましょう」
八咫烏様から聞いた話は、主に二つだ。
一つ。今回空ちゃんに憑いていたのは、神奈子様の要請にテラちゃんが応じたからだということ。
これに関しては、少し驚いた。テラちゃんが関与しているとは思っていなかったからである。どのようにして月の都に連絡を取ったのか、非常に気になるところだ。
二つ。自身は神鳥であって、神様ではないということ。
これに関しては俺の無知を感じさせた。神鳥と神様というのは違うものらしい。細かく聞いたわけではないが、神様は神格を元から有した存在であり、神鳥は神格を与えられた鳥であるとのこと。まぁよくわかんない。
「ふむ、なるほど。因みにお伺いしたいのですが、いつ頃までお憑きになるご予定で?」
「知らん。下手したら一生とか言い出しそうな方ではあるな」
「あっはっは、間違いないですねぇ。そう、ですね………こちらとしては、以上ですかね?」
うん。大体気になっていたことは聞けた。
つまり、今回の異変の概要はこうだ。
幻想郷のエネルギー問題を改善したいと思った神奈子様は、新しいエネルギー源として核融合エネルギーを利用しようと考えた。
その熱源として、旧地獄の灼熱地獄跡を利用しようと考えて―――――――空ちゃんに目をつけた。まぁ恐らく、誰でも良かったのだとは思うけれど。聞くに、灼熱地獄跡の管理者は彼女であるらしいのでそこが大きな理由だろうか。
ただ、いくら灼熱地獄跡と言えど。核融合反応を引き起こせるほどの熱エネルギーは生み出せない――――――そこで神奈子様は考えた。足りないなら、足せばいい。
そこで利用しようと考えたのが、かつての自分の小間使い――――――八咫烏。
彼(彼女かもしれないが)は天照大御神に仕える神鳥であり、彼女の熱を操る能力(本当はどうだか知らないけどね)を僅かではあろうが使えた。今回の仕事にはピッタリだ。
後は至極簡単。そのエネルギーを利用して、核融合炉を作る。それを幻想郷のエネルギー源として使おうという話だ。
しかしそこで少し複雑になる。
予想外の力を手に入れた(本来は八咫烏様の力だが)空ちゃんは増長してしまい、暴走してしまったのだ。
それを止めてもらいたいと思った燐は、本来の旧地獄の業務である怨霊の管理を怠る事で地上に助けを求めることにした。
その結果、地上の間欠泉から怨霊が溢れだし、それを見た紫は俺に調査を求めた。
地上の妖怪は、地底に降りることは禁じられているからだ。
と。これが今回の事件の全てという訳だ。
なんというかまぁ。確かに、幻想郷のエネルギー問題としては前進ではあるのだろうが――――――余計なことしてくれたなぁ……。
せめて一言相談してくれれば良かったんだけども。
「ま、良しとしましょう。ご協力感謝します、八咫烏様」
「礼には及ばない……が。出来れば今後は関わりたくないものだ」
「あはは、そうですか?残念ですねぇ、友人になれるかと思ってたんですけどー」
「冗談。君のような規格外の人間と友人など、考えただけで気が滅入るよ」
「あっはっは!辛辣ですねぇ」
なんだか分からんが、随分と苦手意識を持たれているらしい。まぁアレである。
いきなり人をぶち殺そうとする奴とは俺も友達にはなりたくない。
さぁ、これでこの異変は解決なわけだけれど―――――どうにも釈然としない。
確かに、誰が悪いとかそういう話ではないのだろう――――。この一件にあるのは悪意とか害意とかではなく、ただ善意のみである。
だからまぁ、結果論とはいえ。
間違ったと言える者に対して、何か非難の声を向けるのは倫理に反するのだろう。
しかしである。やはり間違いというものは非難されるべきものではないが、正されるべきものでもあると思うのだ。
スキル・場面転換。
さてと、という訳でやってきたのがここ、八雲紫邸だ。ゆかりんは今回の異変、スキマを通してずっと見ていたので報告しなくて良いと言っていたけれど。一応今日の成果も報告しておきたいし、処分に関しては彼女の判断を仰がなくてはならない。
………どーせ、処分なんて必要ないわよーとか言うに決まっているのだが。ゆかりんは身内と決めた人には甘々だからなぁ……。
まぁそれは俺の決めることではない。
家の前でちょろちょろと考えるのも鬱陶しい話なので、取り敢えず八雲邸の戸を叩く。
中から声が聞こえてくる。ん、これは―――橙の声だろうか。
「ど、どちら様ですかー?今、なんていうかその、た、たてこみちゅう?でして!出来ればまた来て―――」
「橙?」
「はれ?その声は―――凜くん?」
さっきとは打って変わった落ち着いた声で、橙はそう返した。
立て込み中、ときたか………またなんぞや厄介事か?
と、そう思ったのも束の間の事で、橙は突然の来訪者が俺だと分かるとすぐに、口調を明るくさせながら扉を開けた。
「良かったぁ、凜くんで……。いらっしゃい!」
「何かあったんかい、橙。何やら忙しそうだったけど?」
「ううん、何にもないよ?」
「うん?いやなんか、立て込み中だとか言ってなかった?」
「あー。今ね、私しかいないの!だから来客が来たらそー言って誤魔化せって、藍様が!」
「ほう、なるほど」
つまり橙に来客対応をさせたくないから、とりあえず追い返すってことね。魂胆丸見えすぎるだろ。もーちょっと信頼してやれよらんちー。
ってか、居ないのかゆかりん……。
別に、今日の所は帰るってのは構わないのだが―――――――まだ昼前だというのに、ゆかりんが行動しているというのは気になる。
元々あいつは自堕落で不健康(言い過ぎだが)なヤツなので、この時間帯に起きているのは珍しいのだ。もちろん、そんな日もあるのだろうけれど………それならそれで、らんちー位は家に残しているような気もするのだ。
なにかあった、のかもしれない。
「橙。とりあえず、中に入れてもらっていいかな―――――少し、ゆかりんに用があるもんでね」
「うん、いいよ!入って!」
ひとまず八雲邸にお邪魔し、居間へ通された。こたつが置かれてあり、非常にぬくぬくである。ちなみに年がら年中置かれてある。暑くないのかソレって前に言ったのだけれど、夏は保熱と保冷の境界を弄るから平気だとのこと。なんでもありだなお前って思った。人のこと言えないけども。
橙が入れてくれた緑茶(めちゃくちゃ濃い。薄いよりはマシかもしれない)を啜りながら、俺は橙に話を聞くことにした。
「橙。ゆかりんは何処に行ってるんだ?こんな時間に、珍しい」
「んー、よくわかんない。聞いても教えてくれなかったし」
「ふーん?らんちーは?」
「紫様の代わりに、境界の管理をしてるって」
「ふむ、なるほどねぇ……」
結局何も知らんと。
まぁ橙に情報を漏らすほど、ゆかりんは馬鹿じゃないからねぇ………。酷なようだけれど、ゆかりんは橙に対してそこまでの仲間意識を持っていないのだし。俺が思うに、彼女が八雲の性を橙に与えていないのは、彼女が橙を認めていないことの表れなように思うのだ。
まぁ勝手な妄想である。
「なんでもいいからさ。なんか、気になった事とか、ある?」
「気になったこと………うぅん。あ」
「何かあった?」
「なんかね?いつもよりお綺麗だった!化粧みたいなのしてー、お洒落な服着てたの!外の世界の服かなぁ?」
なぬ。化粧とお洒落とな?
何故だか知らんが、女が化粧をし、着飾るのに理由はひとつしかないだろう。
古今東西、女性がそんな事をするのは―――――――
「男か……」
いやはや。
それはそれは。
そりゃあ橙には言えんわな。恥ずかしいもんな!やるじゃないかゆかりんも。その年でどんな男を気に入ったのか知らんが、やはりゆかりんも女だということか。
何故か知らんが胸がチクチクとする。なるほどこれがあれか、『女友達に彼氏が出来た時の、ちょっと淋しい感じ』という奴か。
しかし友人の春だ、諸手を挙げてお祝いせねばなるまい。めでたいことである。
しかしそうともあらば無粋なことはすまい。なんなら今夜にでも男を連れ込んでくるかもしれないからな!早めにお暇させてもらうことにしよう。
「よし、橙。お茶、ありがとね。俺はもう行くことにするよ」
「え?紫様、待たなくていいの?」
「いいんです。野暮なことはしないよ」
そうだ、橙もどこかに連れて行ってやった方がいいかな?いやでもゆかりんの事だ、それくらいの対策はしてるよねぇ。今夜は帰ってこないかもしれない!いやぁ、楽しくなってきた……!しばらくしたら根掘り葉掘り聞いてやるぜ!
とかなんだの思いながら、そしてにやけながら八雲邸を後にしたその時。
下衆でしょーもない勘繰りとは、全く関係の無い方向性で――――――かつ、俺の人生でも最も大きなイベントであろう知らせを、ゆかりんが持って帰って来た。
「ゆかりん?あれ、戻ってきたんだ」
「あら、凜?来てたのね。ちょうど良かった、あなたに呼び出しよ?」
「呼び出し?誰からだよ」
「やぁねぇ、あなたなら分かるでしょう?神様よ、神様」
神?
いやまぁ、神に知り合いがいないわけじゃないけれど。ただそんなアバウトな話されても困るんだけどなぁ。呼び出しなんて言う以上、またなんぞやテラちゃんやヨミちゃん辺りなのだろうか?いやでも、ゆかりんがそんな召使いめいた事をする理由がないか。
あれこれ考えるよりも聞いた方が早い。
「神様、って言われてもねぇ。もーちょっと具体的に話してくれなきゃ分かんないぜ?」
「んー、具体的と言われてもねぇ。あの方に、名前なんて稚拙なものありはしないし―――――そんな次元の存在じゃないもの」
「んだそりゃ。ゆかりんがそこまで言う神なんて、俺には想像つかな―――――――」
………あ。
まさ、か。
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
アイツ、か?アイツなのか?
俺にとっての原初、全ての元凶。
俺という人間を作るにあたって、最も大きな影響を与えたと言っても過言ではない―――――――あの神、なのか……!?
「あら、やっと気づいたの。遅いわねぇ、ずっと会いたがっていたのに」
「紫―――――――そいつは、まさか」
「えぇ、そうよ――――――世界の根幹を管理する神にして、あなたに能力を『与えた』神が―――――面会を許可したわ」