東方理想郷~east of utopia~   作:ホイル焼き@鮭

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この度は投稿が遅れましたこと、申し訳ありません。
毎度ここでの謝罪が定例と化してきました。やばいです。
完全に趣味のこの小説ですが、今年は受験生ということもあり、投稿は殆どないと思います。


44話『Which is the best way?』

「―――――――!」

 

ピクリ、とバカ神の眉が動く。口の端は全く動いていないが、それでも充分に動揺は理解できた。そして一転、本当に愉快そうな表情で笑い始めた。( ^∀^)ゲラゲラと、ひっじょーに下品な笑い方だった。

 

「面白いなぁ、面白い!まさか君の口から、あの娘の名前が出ると思ってなかった!どういう心変わりだい!?」

「………べっつにー。どうもしねぇよ」

「いや、断言する!いつもの君なら、あの娘の名前など出さない、いや出せない!あの娘の存在は君の呪縛だ、いつだって忘れようとしてる!その君が、あの娘の名前を出せるわけがない!あぁ興味深い、素晴らしい!まだまだ俺も、全知などではないということか!?」

 

……………………………………………………。

キャッキャともんどり打って倒れ込むバカ神を見て、思うことは一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「((;´∀`)…うわぁ…)」

 

 

 

 

 

 

 

ドン引きだった。

何を1人でまくし立てて、1人で笑っているのだろうこのバカ神は。この気持ちはアレだ、友達の中の1人のツボがおかしくて、1人だけ変なとこで笑い転げている時のグループの人の気持ちだ。日本国民の3割くらいは経験ありそうなアレだ。

 

……………というか俺も、そういうとこあるのでは?冷静に鑑みると、似たような事をしていた気がする………………うわ、恥っず!

 

しかしそんなドン引きの俺の心中には目もくれず(少し表現変えた)、バカ神はまたもや話し始める。

 

「ふふふ………いやぁ、興味深い。見直したぜ凜くん!さぁ教えてくれ、なんで君はあの娘の名前を出せたんだい!?」キラキラ

「だから、どうもしねっつの。言えるわ名前くらい」

「嘘ばっかつくんじゃねぇ!君はそんなに強い人間じゃないだろ!?唯一の心残りである彼女の名前は避け続けていたはずだ!」

「――――――は。知りたいのは大いに結構―――――『ただ俺は何度問われようとも、同じ答えを返す』だけだよ」

「!!……ふふ。ふふふふふ!粋な答えを返すなぁ――――――――――何が望み?」

「望みなんてないよ。ただ俺は質問に答えてくれりゃあいい」

「あ、そう?じゃあ君が教えてくれないなら、俺も質問に答えない。教えてくれるなら、質問にはちゃあんと答えよう。どう?」

「………ゲッスい条件だぁね。呑む以外の選択肢がない。確認。質問には全て正確に答えるか?」

「回答。あぁ答えよう。ただし、あくまでも俺の主観で観測された事実であり、絶対の事実ではないことを留意してくれ」

「質問。それはつまり、お前がそう思っているだけで、事実は異なる場合―――――つまり、お前が何かを勘違いしている可能性を含むということでいいのか」

「回答。相違なし」

「………なるほどね。お前に偽りを握らせる程の存在がいるようには思えないけれど」

「さぁ、それは過大評価かもしれないぜ」

「ふん。まぁなんでもいいさ。じゃ、始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.other

 

そしてお久しぶりのside.otherだ。

なんで視点を変えたのかって?

なんとなくですよ☆

 

「さぁ、まずはこちらからだな。なぜ君は、あの娘―――――『橘 未亜』の名を口にできた?」

「なぜ、と言われても―――――困るんだけどね。未亜は確かに、あまり思い出したくない名前だ――――――でも、口に出せないほどじゃあないよ」

「納得出来ない。俺の知る君にとって、あの娘は誰よりも特別な存在のはずだ。親友の霊夢ちゃんよりも、そこにいる紫ちゃんよりも、ね」

 

バカ神(いい名前だよなコレ。採用)のその言葉に、凜は何も言い返さなかった。

それはつまり、バカ神の言ったことを認めることに他ならない。バカ神の言う通り『未亜』と呼ばれるその存在が、そこまで特別なのだと―――――――――。

 

「…………お前の言ってることは正しい。あの娘は俺の呪縛であり、無二の存在であり、出来れば思い出したくない人だ」

「そうだろう?その君がなぜ、あの娘の名前を口に出せる?」

 

凜はやはり、答えに詰まった。今、彼女に抱いている自分の気持ちがどうであるのか、理解できなかったからだ。凜の頭の中を、様々な光景が過ぎる。

 

燃え盛るビル。倒れ付す木々。ぐちゃぐちゃになった田園。半壊した街並み。響く悲鳴に――――――――少女の、笑み。

 

そんな思い出したくない光景を、なぜ今になって思い出したのか―――――――凜は、よく分からなかった。

ただ、それに理由を付けるとするならば。

1つしかないとも――――――凜は思った。

 

「確かに、あの娘は無二の存在だったけど――――今は『関係ない人』だから」

「…………は?」

「忘れることなんて出来ない。でも、もう俺は幻想郷の人間だ。そしてあの娘と会うことは、もう無い。だったら――――今更だ」

「…………本気か、ソレ?『もう関係ない』?『今更だ』だぁ?そんな陳腐な答えで、俺が納得するとでも思っているのか?」

「………納得出来ない……ねぇ。全知が聞いて呆れるね」

 

小馬鹿にするような凜の発言を聞いて、バカ神は眉の端を少しだけ動かす。

あらゆる生命体のトップが故に、あまり他者の言動に心揺るがす事は少ないバカ神だが、それでもその発言は気に障ったようだ。

しかし、それも一瞬のこと。

すぐに、ニヤニヤとした非常に胡散臭い笑みに戻る。

 

「……はは。言うじゃないかよ―――――確かに、俺も全知には程遠いのかもしれねぇ」

 

けどよ。

そんななめた口をきいていいのかい?

少し脅すように告げられたその言葉とは裏腹に、バカ神の表情は変わらない。

当人にとっては意外なことに、凜は彼から神力や魔力、威圧感の類いを感じ取ることはできなかった。

それが逆に、凜には空恐ろしく感じられた。やはりこいつは、自分たちの世界の存在と同じ領域では推し量れないのだと―――――。

 

「………さぁ?一体全体、どうなるって言うのさ―――――戦争でも始めるのか?」

「発想が野蛮だなぁ。幻想郷、だっけ?朱に交われば赤くなる、か」

「まぁ否定はしないけど。で、どうするのさ」

「んー………どうやら、本当にそうとしか答える気はないみたいだし。ちょっと白けたけど……ま、別の質問に答えてもらうとするよ」

「全て正直に話してやるよ。どうやらカミサマは人ってやつをよく理解してないみたいだからね」

「そいつは嬉しいねェ。まぁ、これはよくある質問だ―――――ここに来た観察対象にはまぁ、殆どしてるな」

 

観察対象。凜と同じく、バカ神によって能力を与えられている存在――――――稀に彼らは、自らの大本たる神までたどり着く。今回のように、神自らが会ってくれるケースは非常に稀なのである。

その者達に対し、まず神は、『ゲームクリアおめでとう』と口にする。そして決まって、質問するのである――――――――――。

 

「君のそのスキルさ。無くして欲しい?」

「――――――!!」

 

ドクン。

バカ神のその言葉を契機に、凜の心音が急速に速まる。

 

無くして欲しい、だって?

そんな、そんなの、そんなのは―――――――――そんなのは?

 

グルグルと、凜の思考の海は荒立つ。

分かっていた。いつかの日を境に、自分は能力を使えなかった。そしてそれは目の前の神によるものなのだから、無くそうと思えば無くせるはずだ。

分かっていたけれど―――――でも。

その言葉は凜にとって、重い。

 

「……………は。ははは!少し意地悪だったか?悪い悪い、悪気は―――あるけどな」

「……………そんなの、そんなの」

「そんなの、『当たり前』?」

「―――ッ!」

 

笑う。

バカ神は心底可笑しい劇を見ているかのように、1人口の端を歪めている。雲行きの怪しさに、紫が心配そうに凜を見た。

紫の目に映る凜は、深い闇をただただ見据えるかのように虚ろに映った。普段の面影など、そこにはつゆと感じられなかった。

 

「は。はは。ははは!分かってるぜ、凜くん?思えないんだろう?『当たり前』だって。昔の君はもっと慎重だった。能力になど頼らなかった。だから、自分の能力をただ嫌いであることが出来た。でも今は違うもんなァ?その力を使いたいんだろ?だぁい好きな幻想郷を守るために。下らねぇなぁ、高々2次元の存在に何を入れ込んでんだよバカじゃねぇの?」

「2次元の――――存在?」

「あぁ?何を言ってんだよ、凜くん―――――東方project(君のいる世界)はゲームだろうが」

 

それは、知っている事だった。少なくとも凜の知る限り、東方projectは弾幕シューティングゲームであって、それ以上でも以下でもない。だが―――――――ここで、その言葉は発しちゃいけないはずだ。

だって、ここには紫が居るのだ。そんな事を知っていいはずがない。

そう考え、凜は無意識に紫の方を見る。

紫は相も変わらず、心配そうに凜を見るのみだった。

 

「(気づいていない―――――聞こえなかったのか?いや、紫はそんなタマじゃない。なら――――なぜ)」

「強制力―――――って奴さ」

 

凜の内心を知っているかのように、バカ神はその問いへの答えらしきものを口にする。

 

「強制力――――だって?なんだその、奇っ怪な単語は?何かの比喩か?」

「言葉のままだ。お前らのいる世界―――――立体交差平行世界群と呼ばれる世界だな。無数に存在するその世界の中に、ある絶対無二のルールが存在する――――『世界の強制力』ってルールさ」

「要領を得ないな。具体的な事を聞いてる」

「まー急かすなって。ホモに間違われるぜ?」

「誰がホモだホモなら襲ってやろうか」

「遠慮する。まぁ凜くんがホモだろうがどうでもいいんだけど、短気は損気だぜ」

「ホモ路線で売っていこうとするんじゃない俺はノーマルだ」

「なるほどね。まぁ頑張れホモ」

「┏(┏^o^)┓じゃねっつの!」

「よし┏(┏^o^)┓。話を戻すぞ┏(┏^o^)┓」

「屋上行こうぜ……久々に……キレちまったよ」

「え?焼いてかないって?うわぁガチホモじゃん」

「ち・が・うっ!!!」

 

バカ神のしつこさに、流石の凜と言えど声を荒らげる。ホモはせっかち。せっかちはホモ。

と、そんな茶番を挟みつつも話を戻す二人。

 

「と言っても、君は既に知っているはずだけど。因幡てゐの話、憶えているか?」

「ばてっちゃんの話……?」

 

何のことだか分からず、凜はてゐと話した記憶を探ってみる。思い出されるのは、大半は下らない事ばかりだったが、その中にひとつだけ重要そうな事が有った。

 

「ばてっちゃんの正体―――――因幡の白兎の話か?」

「そそ、それだ」

「いや――――何かその『世界のルール』とやらに関係するような話をしたか?あまり覚えてないんだけど……」

「あん?関係あるぜ、バリバリな。ま、ヒトの記憶力なんてそんなもんかねぇ……」

「一々癪に障るような事を言うんじゃねぇよ」

「はーいてゅいませーん」

「……温厚な俺でもしまいにはキレるぞ……」

 

隙あらば脱線をしようとするバカ神には、滅多に怒ることのない凜でも少し堪えた。しかし、気づいているだろうか。

自分も似たようなものであることを。

 

「まード忘れさんの凜くんにも分かるように解説してやるよ。因幡てゐが、なぜ永遠と化した永遠亭に侵入することが出来たのか。お前らはそんな話をしたんだよ」

「………そんな話もしたな、そういえば」

「その時に因幡てゐが言っただろ?永遠亭の連中にとっての事実と、事実が相反することにより、世界はその矛盾を解消するために動いた―――――って。あれはそう間違った話じゃないぜ」

「……………」

 

凜は憶えている限りで、てゐと話した時の事を思い出そうとした。確かに、そのような話をてゐとしたことを憶えている。

世界は結果に過程を求め、矛盾を起こさないように調整している。相反する事実は存在することが出来ないのだと。

あまりの超理論に、正直得心いったとは思えなかったが、それでも。

てゐがあの時ばかりは冗談めかさずにいた事は、凜には確かに思えた。

 

「(世界の意思、だなんて……あは、厨二病みたいな事言いやがる)それがお前の言う、世界の強制力――――って事なのか?」

「Exactly。知っての通り、東方projectという世界はただのゲームだ。しかし俺や君がいくらお前らはゲーム内の人間なんだと伝えようとしようが、当人達には届かない―――――そりゃあ当人にとっては自分の世界が主軸だ。他の世界でゲームとして扱われていることなんて、知る由もない。ならそんなこと、『許されるはずがない』だろう?」

「…………なるほど、ね。つまり、こういうことだろ―――――物語上の人物と俺達の接触など、普通はありえない。ならその接触によって自分が物語の世界の存在であることを知ることもありえない――――だから俺達がいくらそれを伝えようとしても届かない――――世界そのものがその矛盾を許さないから」

「全くもってその通りだ」

「………こうして話してる内容も、紫には聞こえてないのか?」

「聞こえてはいるはずだよ。ノイズがかかったみたいに、訳の分からないことを聞かされてるみたいな感じか?そしてそれを不可解に思うこともない」

「なるほどね……」

 

凜はチラリと、後ろの紫を流し見る。

バカ神の言うように、その様子にはこちらを不審がるような素振りなど見受けられない。

信じがたかったが、このような形で示されては凜も信じるほかなかった。

 

「………なぁ、凜くんよ」

「なんだよバカ神」

「いやいや。これで分かったんじゃないかな、って思ってな」

「分かった?何を」

「お前と彼女達が、根っこのところで異なっていることに、だよ」

「…………そんなこと、端から承知だ」

「嘘だな」

「嘘じゃない。もとより、彼女たちがゲームの中の存在であることは知っている」

「そうじゃねぇよ」

 

ならなんだと言うのだ。

そんな苛立ちとともに、凜はバカ神を怪訝そうに見つめる。

目の前の神が何を言いたいのか、凜にはさっぱりと分からなかった。

バカ神は薄っぺらい微笑から一転、神妙な顔つきになってその答えを告げる。

 

「分からないなら言ってやるよ―――――――お前と彼女達は、2次元だとかゲームだとかそれ以前の問題で違う。お前は今でも―――――『トクベツ』でしかない」

「――――――――――っ!」

 

ズキリと、凜の頭の奥が軋む。

先刻脳裏を巡ったあの景色が、再び頭の中を流れる。紫によってせき止められた膿が、溢れ出す。

そんな凜に向かって容赦なく、バカ神はつらつらと、絶え間なく言葉を並べ立てる。

 

「タダの逃避だ。目の前の世界から逃げて、別の世界で上手くやってるだけ」

 

「ここでなら、特別な存在にならなくてすむと思ったんだろう?過去から目を反らせると思ってたんだろう?そんなこと、出来るわけねぇだろ。自分の遥か上をいく者を、どうして恐れずにいられる。ただ君の本気を知らないだけ、前よりも実力が出せるだけさ」

 

「別にいいんだぜ?逃避は人間の適応機制で、ヒトの本能さ。ただ――――逃げている自覚くらい、持たなきゃな?いつかは、現実に帰らないとな?」

 

「ゲームで、嫌な現実から気を紛らわせたか?なら前に進めよ。幻想郷(ソコ)は―――お前の世界じゃ、ないだろ」

 

滔々と並べ立てられたバカ神の言葉は、凜にとって重く、そして辛いものだった。

何よりも辛いと思うのは―――――その言葉を否定できない自分だった。

違う世界。受け入れたはずの力。幻想郷。燃え盛る街。様々な思いが、情景が。

脳裏を巡って、止まらなかった。

 

「(俺は、一体―――――『何をやっているんだ』……?)」

 

楽しかった。幻想郷での日々が心地よかった。特別扱いのされない場所は、楽園のようにも思えた。元の世界でだって、平凡に暮らしていけてはいたけれど―――――スキルを持ってなお、自分を受け入れてくれる環境には、及ばなかった。

 

「(ただ―――それで本当に良かったのか?いや、俺と彼女達が違っていたとしても。彼女達は生きている。俺の言葉に自然に言葉を返してくれる。なら――――物語上の人物だからって、何も変わらないじゃないか)」

 

物語のキャラクターであっても、会話ができる。触れることも出来る。薄っぺらい紙きれでもない。ちゃんと生きているのだから。だから、自分と彼女達に違いなどない。

それは確かに、間違った考えではないように凜には思えた。

 

「(なのに――――――なんだこの、煮え切らない思いは……?)」

 

結局凜は、結論を出せずにいた。答えは既に出ているはずなのに――――――それが正しいという確信が、どうしても持てなかったのだ。

どうしても、凜の返事は曖昧になってしまう。

 

「俺は……逃げてなんて……」

 

その返事を聞いて、バカ神は落胆した様子を隠そうともせずにため息に表す。

 

「……ま、選ぶのは君さ。俺は神だから、強制はしねぇよ」

「………」

「ま、これで大体話すことは話したのかねぇ。あー、なんだっけ?なんで君のスキルを消したりしたか、だっけ?」

 

思い出したようにバカ神は言う。確かに、当初はその疑問から始まった問答だった。

話している内に、いつの間にかズレてきていたものの。それを知るのが、次の凜の目的だったはずである。

最も、今の凜にとってはもはやどうでもいいと言ってもいいほど、先程の忠言は大きいわけなのだが―――――――。

しかし、いつまでも惚けてはられないと思い直し、凜はバカ神の言葉に応じる。

 

「………あぁ。俺は聞いたな―――――未亜の仕業かって。どうなんだ?合ってるのか?」

「本来ならノーコメントと言いたい所なんだけど……ま、楽しませてくれたしね。一応真実をお答えしておこうかな――――――」

 

「そうだよ。あんまりうるさいものだから、素直に応じてやったのさ――――――はは、愛されてるねぇ、凜くん?」

 

やはりか。

その答えは、凜にとっては分かりきっていたところではあった。彼の知る未亜という女は、そういう女だった。

 

いつもいつも、自分のあずかり知らぬ所で尽くしてくれるのだ、アイツは。

 

懐かしささえ覚える感覚に、凜は思わず苦笑してしまう。

 

「…………まぁ、愛されてるのは分かる。げんなりするくらいね」

「はっはー、違いない。重いよなぁ、あの子は。面白い子だ」

「大いに認めるところだね」

「へぇ、どこに同意してるんだい?重いってとこか?それとも面白いってとこ?」

「……あは、両方、かな」

 

しばらくの間、凜とバカ神は談笑する。立場の差など感じさせない程に、砕けた態度で。まぁそれは決して、『仲がいい』わけではないのだけれど。タイプの似た二人ではあるのだ。

さて、とバカ神は仕切り直す。そして、これで終わりか?とでも言いたげな目線を凜に向ける。

凜はその視線を受けて、少し考えた。

 

確かに、殆どの疑問は解消できたように思える。なにか、忘れているような気もするけれど――――――――思い出せないので、大したことでも無いのかもしれない。もう二度と、この場が設けられることは無いだろうので、思い出したくはあったが。

まぁ、思い出せないなら仕方ないと割り切って、凜は視線に頷きで返す。

バカ神は黙り込んだ凜を見て、じゃあ、と仕切り直す。

 

「これでお開きってことで。いいんだな?もう君になんて会ってやらねぇぜ?」

「あは。自分の与えた力の馬鹿さ加減、忘れたのか?一度来た世界に来れないほど、柔なスキルじゃないと思うけど?」

「は!それも違いねぇな。一応言っとくが、来んなよ」

「冗談。二度と会いたくねぇよ、お前なんか」

「そいつは重畳。まぁ俺はいつでも、君のいる世界を見てるけどね」

「そいつぁ、気持ちの悪いこって」

「わはは。俺としてはもー少し読み応えのあるストーリーを期待してるぜ、主人公さん」

「お生憎。俺は面白みなんて求めてないんだよ――――平凡に暮らせれば、それでいいのさ」

「じゃあ戻れよ、とは思うけれど……ま、野暮なことはよそうか。よし、じゃあ帰してやるよ――――――君の今いる世界は――――並行No.69772154896357941357962487番世界付属世界の、並行No.56243番幻想郷、だったな………そうすると……」ブツブツ

 

突如数字をつらつらと並べ立て始めたバカ神を見て、凜は一瞬ぎょっとする。

あまりの膨大な数に、目の前の存在が自分とは比べられないほど大きな存在であることを再確認した。

しかし、これで終わりなのだ。

気が抜けるのと同時に、バカ神が唯一、真剣な表情をして残した忠言が思い出される。

 

「(俺は――――――このままでいいのだろうか……?)」

 

その疑問への答えは、凜にはまだ、出せないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、準備は出来たぜ。ほら、紫ちゃんもこっちに来なー」

「終わり、ですのね?分かりました」

「うむ。じゃ、転送するよ」

 

バカ神がそう言うと、真っ白なだけだった世界が蜃気楼のようにぐにゃりと歪み、色で溢れた世界が見えるようになった。

恐らくこの穴を通れば、凜達のいる幻想郷にたどり着くのだろう。

 

「さぁ行った行った」

「言われなくても行くさ。じゃあな、バカ神」

「またお会いする時まで。ご健勝でありますよう、お祈り申し上げますわ」

「おう」

 

そのまま凜と紫は、空間の歪へと消えていった。

 

「凜………その、大丈夫かしら」

 

戻ってきた幻想郷で、紫は凜にそう問う。

目の前の凜が、あまりにも暗く、疲れた目をしていたからだ。

自分が凜に能力を戻させたことを知られて、少し気まずかったからでもある。

 

「あは。なぁにを気にしてんだか。大丈夫だっての」

「………そう。無理をしては、ダメよ?」

「……あはっ。分かってる――――大丈夫、頼る時は頼るよ。でも、うん……少し、疲れたかな」

「えぇ、だと思うわ。今日はゆっくり休みなさい」

「ん、そうするよ………じゃあね、紫」

 

そういって凜は、どこかへと消えていった。

あまりにも暗い凜が、紫は心配でならなかった。自分に出来ることはないのだろうと思うと、もどかしかった。

暫くは、ゆっくりさせておくしかないだろう。

そう結論づけ、紫も帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.Rin

 

博麗神社に帰ってきた俺は、ひんやりと冷たい畳に仰向けに寝転がっていた。

疲れはあったが、どうにも目を瞑る気分にはなれなかった。まだ夕方ということもある。

しかしもちろん、あんな事があった後である―――――バカ神の残した言葉のことを考えてしまうのは、仕方の無いことではあった。

 

「俺は、幻想郷の人間じゃない」

 

口に出してみると、どうにもそれが事実であるということが強く意識された。

 

「事実なんだから、当たり前だよな………」

 

何度も繰り返すようだが、かねてより分かっていたことだ。幻想入りしてから今まで、自分と彼女達が同じ世界の存在だと思ったことはない。

思ったことはない――――――はずなんだ。

 

「じゃあなんで、こんなにも―――――虚しいんだろうな」

 

今まで幻想郷で積み上げてきたものが、まるで人形遊びだったかのように空虚に感じられた。そりゃそうだ―――――――俺の世界は、ここじゃない。

戻るべき世界があるのだ。

こんな、所詮ゲームの世界でしかない所に、いるべきではないのだ。

 

けれど、ゲームだからなんだというのだろう。彼女達に、俺とどんな違いがあるのだろう。その違いは、それほどまでに決定的なものなのだろうか?

昔行った世界の言葉が、ふと脳裏を過ぎった。

 

人口ダイヤと天然ダイヤ。原子構造まで同じなのに、その価値はまるで違う。

 

俺にとっちゃ、どちらも価値は同じだ。

でもそれらは、確かに違う。その概念は、決して混じり合いはしない。

それと同じだ――――――――(ヒト)彼女達(ゲームの存在)の差は、決して埋まることは無い。

 

「じゃあ結局、俺はどうするんだ?帰るのか、あの世界に。この楽園を捨てて?」

 

口に出してみると、異様なまでの拒否反応が起こった。

ありえない。そうする利点がまるでない。

何が悲しくて、自分の記憶が全て消去されているであろう元の世界に戻るのだ。浦島太郎状態だぞそんなの。

じゃあ残り続けるのか?

こんな大きすぎる違和感を抱えて?

俺と彼女達の違いを強く意識しながら、今まで通り守護者として皆と接することが、果たして出来るのだろうか――――――――――

 

「だー、もうっ!グダグダうるせぇんだよ我ながら!」

 

よく分かった。これ以上自分だけで考えていても納得いく答えが出ないことはよく分かった。

 

あぁくそ、むしゃくしゃしてきた!

あのバカ神め、何が神だ!元はと言えばおめーみたいなのがいらねぇ娯楽心持ち込んだのが悪ぃんだろうが!それがなかったらもっと平凡に生きてたんですぅー!

紫のヤツもなんだよ、受ける前から勝手に準備してんじゃねぇっつの!「すみません、誠に申し訳ない話なのですが、こちらの事務所の守護者になって頂けないでしょうか?もしなって頂けるようでしたら、あなたが以前保持していらっしゃった能力を返して頂けますよう、担当のバカ神様へ話を通す所存ですので……」みたいに言えやおら!事後承諾じゃねぇかよ!でも幻想郷に連れて行ってくれて感謝してるよありがとね!?

そして未亜だ!お前もお前でいっつまで経っても何かにつけて俺の精神に関わってきやがって!え!?未亜って誰だよさっさと説明しろやなげーんだよ伏線って!?俺も思う!でも作者の文章力のせいだと思う!いいんじゃねもう、ずっと説明しないままで?思い出したくねぇし!永遠にモヤモヤしてればいいんだよ!へーん!

 

「はぁ、はぁー……ふぅ!スッキリしたぁ!……………って、アレ?」

 

言いたいことを胸中でぶちまけた後、なぜかふんわりとした浮遊感を感じた。そして着地。ふと我に返って周囲を見渡してみると、なぜか周りはボロボロに壊れ果てていた。

おかしい。俺は自室に居たはずでは。

もしやなんぞや異変だろうか。もしくは紫辺りのいたずらか。

いや、天子ちゃんがまたかまってちゃんを発動させたに1票。面倒なことをしやがる。

 

「………凜……?」

「うん?おぉ霊夢。どうしたんだよそんなに怖い顔して。というか霊夢がいるってことはここは神社かー。じゃあ天子ちゃん説が強そうだなぁ。ぶっ殺してやりてぇ〜」

「……………凜、自分の手、見なさい?」

「えぇー?」

 

なぜか霊夢に自分の手を見ろと言われたので見てみる。なぜかボッロボロに傷が入っていた。何故だろう。

 

「これじゃあまるで、この惨状を生み出したのが俺みたいじゃないか!なんてこったい!」

「あら、分かってるんじゃないの………じゃあ、覚悟は出来てるのヨネ?」

 

そう言ってニッコリ笑った霊夢は最高に可愛かったが、背後に謎の闇オーラを漂わせているのがすげぇ怖かった。

ふむ、どうやら俺は我を失い、八つ当たりに博麗神社をぶっ壊してしまったらしい。なるほどなー。まぁ、そんな時もあるよな☆

さぁてさて、目の前の般若はどうしようかな?

 

「あは、なんだいやる気か霊夢ー?そういや最近君とは遊んでなかったっけ?」

「なんか重そうな顔してたから心配してやってたのに、こんなことやらかして!さっさと直しなさいよね!」

 

……ん、そんなに顔に出てたか?

そこまで顔に出したつもりもなかったのだけれど。

………親友、だから?

なるほど、わかりやすい理屈だ。

しかし俺は本当に――――――霊夢(画面の向こう)を親友と、思えているのだろうか?

………やはり、答えは出ない。

なら――――――探さなくてはいけない。

 

「あは。分かってるってぇ。直す直す」

 

バラバラに崩れ落ちた(よく見ると確かに、あちこちから溢れている霊力の質が俺のものだった)神社を能力で修復する。

神社の状態の理想をつい10分前の状態に、である。

 

「全く……。で、一体何があったのよ。こんな馬鹿なことするくらいには、大変な事があったと思っていいのよね?」

 

口調こそ刺々しいいつものそれだったが、霊夢は真剣にこちらのことを心配してくれているようだった。

もう長い間一緒に過ごしてきた仲だ。それくらいは分かる。

目の前の彼女に、俺との違いなど見つけられない。俺のことを慮ってくれる彼女が、ただのゲームの存在であるとは思えなかった。

暫く俺は考え込む。

試しに霊夢の頭を撫でてみた。

 

「は?なにやってんのあんた」

 

ふんわり柔らかセットだった。

ならばと背後から霊夢を抱きしめてみた。

 

「…………何がしたいの?」

 

洗髪剤の匂いがした。温かい感触もした。

ほっぺたを引っ張ってみた。

 

「…………にゃんにゃのよー」

 

餅みたいに柔らかかった。おぉ、伸びる。

 

「あぁもう!なんなの!何かしたいことがあるなら言いなさいよ!」

「したいこと。したいことか………」

「何があったのか知らないけど!……出来ることなら、手伝ってあげるから」

 

憮然とした表情だが、言ってることは相変わらず優しい。少し照れ臭そうだ。

したいこと、か。

 

「よし、霊夢」

「なによ」

「ちょっくら、自分探しの旅に出てくるわ」

「は?」

「1週間くらい?で帰ってくるから。留守は宜しく」

「ちょ、ちょっとま……っ!?せめてどこにいくかだけでも―――っ!」

「転符『ひみつ』」

「ちょっ!?………あー、もうっっっ!結局、なんなのよぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

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