東方理想郷~east of utopia~ 作:ホイル焼き@鮭
少し、モヤモヤとした気持ちになるかもしれません。
が、全ては凜、ひいては幻想郷の人々の思いゆえでもありますので、ご容赦願います。
「はぁぁぁぁあああっっっ!」
全力でやる、とは言ってもだ。
俺のスキルを本当の意味で全力で用いてしまえば、誰も勝てるはずがない。俺のスキルはそれだけ全てを飲み込む、絶対的なものだ。
だからこそ、多少の制限は加えて勝負するつもりだった。普段スペルカードで使っているような、非常に限定化した使い方をするつもりでいた。
けど、これは――――――――――!!
「ほら、凜!どうしたの―――――元気ない、よっ!」
左側面に蹴り、受け止めようとするがそれはフェイント。
直前で高速で返り、前蹴りを放たれる。間一髪受け止めるが、吹き飛ばされてしまう。美鈴は蹴りの勢いのままこちらに近づき、容赦なく腹部に貫手を放つ。喰らえば死ぬ。
よろけて不安定な体勢のまま、どうにか貫手を左側に避ける。
しかし、避けられることは読めていたらしい。
美鈴は貫手を突き出した勢いを弱めず、右足を軸にして回転、超高速のエルボーを俺の胸部に放つ。
「ぐぷ……っ!?」
メキメキと、胸骨のへし折れる音が響く。
肺から空気が一気に漏れ出る。
俺は美鈴との距離の理想を弄り、美鈴から距離をとる。
少しは、時間も稼げるだろう。その間に、心肺機能も戻ってくる。
「ふーっ……ふぅ……」
連撃に次ぐ連撃。
確かに、ベースは中国系の拳法だ―――ただしかし、その使用速度、使用方法は大凡人間のそれではない。妖怪の肉体に似合うような運用方法をなされていて――――もはやその拳法は、彼女専用のモノとなっていた。
腕力の鬼化、速度と処理能力の天狗化、再生能力の吸血鬼化―――――全てを持っても見切るのが関の山―――――凄まじい。
故に、先程から防戦一方の戦いを強いられている。イメージを練る暇すら与えてくれない。
さぁ、これは……どうしたもの、だろう。
「なに、凜。もうへばっちゃった?顔色悪いよ?」
「………ふふ。安い挑発だね――――冗談。俺は守護者だよ―――――俺に限界なんて、ないようなものさ」
そう、ない。
肺に突き刺さった骨は瞬く間に再生し、元の通りに回復する。
どんなに破壊されようとも、それは意味をなさない。
ただ、美鈴はそうもいかない――――疲労は蓄積し、パフォーマンスは必ず下がる。
故に本来こちらが取るべき戦法は、耐え忍んでの一転攻勢狙い。
ただ――――――これは、余興だ。
ただ一方が殴られるのも、つまらないだろう――――――故に。
少しは抵抗して見せなくては。
「あは―――――やられっぱなしも癪だからね。少しは頑張って、みようかなっ!」
気合を入れるようにそう叫び、左へ右へと高速で移動する―――――そして不意に跳躍。
霊力の関係上、達人相手に完全に気配を辿らせないことは不可能だが――――多少は惑わせることが出来たと信じて、美鈴の付近へとかかと落としを埋め込む。
「適応流絶の型―――――落花ッ!」
適応流絶の型、落花。
天狗の速度で浮き上がり、超速で攻撃を振り下ろすことで地面を揺らしバランスを崩させる技―――――――普段ならば天狗化のみで行う技だが、今回はそれに加えて鬼化も含んでいる。
地面の崩壊は、過去トップクラスだ。
あまりの破壊力に、広範囲かつ高深度のクレーターがすぐさま出来上がる。
如何に経験を積んだ末に動体視力を向上させているらしい美鈴と言えども、すぐさま見抜いて撤退する程の能力はない―――――破壊痕により不安定化した足場に、即対応は出来ない。
ただ、俺は自分でやってる事だ―――――足場が割れたあとも、ある程度動くことは出来る。
2個目の絶の型を、不完全ながらも撃てるくらいには。
「適応流絶の型―――――力任!!」
振り下ろした右足を軸として回転――――勢いのままに左足を振り回す。
適応流絶の型、力任―――名の通り、鬼のパワーのままに振りかぶるだけの単純な技だ。
不安定なのはこちらも同じこと――――――鬼のパワーをフル活用することは叶わないが、それでも。
膂力では右に出るものの居ない、鬼の一撃であることには変わりない―――――それに、力だけなら最強だと言われる星熊勇儀に俺は会っている。今の俺は、彼女並みの腕力にまで昇華されているのだ。
俺の予想通り、美鈴が態勢を崩し、蹴りの射程圏内で戸惑っているのが回転の合間に見える――――貰った!
「―――――え?」
決定打を確信した俺の蹴りは、信じられないような動きを見せた。思考速度をブーストしているので、一瞬の出来事であれ、多少の確認は取れた―――――――ので、見えた。
美鈴が回転蹴りの動きに正確無比に手を添え掴みあげ――――身を翻して回転蹴りを受け流すのが、見えた。
その動きの表すところは、つまり――――彼女は不安定な足場の代わりに、逆に俺の足を利用して蹴りを躱してみせた、という事だ。
ありえない――――――動体視力や、経験の差なんてレベルじゃあないだろう、それは。
今までにも、似たようなことをされたことはある―――――伊吹がいい例だ。
俺だって、似たような芸当は可能だ。
しかし彼女は完全に万全な状態でやって見せただけだ―――――しかも直線的で単純な攻撃だった。
しかしこれは違うだろう――――そんなに単純な動きでも、目的を悟らせるような行動でもなかったはずだ。
これは、鍛え上げただけで何とかなるようなシロモノでは無い――――――関係があるとすれば、それはやはり天稟のもの。
なんてことは無い、彼女は武道家としての技術や経験は勿論、生まれついての才能も持ち合わせていたというだけの話だ―――――。
「っとと。うわわ、おっきい穴ー。後で一緒に片付けだね、凜」
「…………凄いね、美鈴」
「うん?あはは、突然だね。ありがとう、でいいのかな?」
「本当に凄いよ。正直、まともにやってちゃ勝てないかもしれないくらいだ」
「えー、今のでまともなのかー。なら凄いっていうならあなたの方じゃない」
「……あは。俺のこれは、凄くなんかないよ。タダの貰い物の力だ――――――しかも、自分勝手に扱ってばかりいる」
あのバカ神から聞いて、思ったことがある。
俺はこの能力に対して、不誠実であると。
自分の力だとして受け入れているだなんて、タダの耳触りのいいだけの虚言だ。
現に、今だって思っている―――この能力さえなかったのなら、と。
きっと、普通の人生を送っていたのだろう。
きっと、人並みに友達がいて、人並みの勉強ができて、人並みに彼女がいて、時にはフラれて。
そんな毎日があったのだろう。
だって、本当に受け入れているのであれば。
バカ神に対してあそこまで、激昴するわけがないのだ。
たとえ俺が俺の立場じゃなかったとしても?
バカを言うなよ、だったらどうでもいいくせに。
心の内でさえ、嘘をついている。
本当は恨んでいるんだ――――この能力のことを。
ならば、使わなければいい―――幻想郷からも帰ればいいのだ。
だと言うのに、俺はこの能力を湯水のように浪費している。なんて都合のいい事だろう。
憎んでいると言いながらも、一方で万能な道具が如く多用しているのだ。
「本当に……バカみたいだ」
「………よくわかんないけどさ。言ってくれないし。でもあなたがその能力、好きじゃないのは何となく分かった」
「……そうだね。嫌いだよ――――同じくらい、必要になってしまっているけれど」
「……まぁ、私には能力らしい能力なんてないからさ。そんな凄い能力があるなんていいなぁって感じなんだけども」
「………」
「そういや知らないね、なんでそんな力を持ってるのか。聞いたら教えてくれる?」
「……教えてくれないね」
「そっか。ならいいや」
「あっさりしてるね、フランといい、君といい」
「そりゃそうだよ。多分、フランお嬢様もきっと、私と同じ気持ちだから」
「………意味わかんないよ、美鈴」
「あなたがどんな能力を持っていても、どんな秘密があっても。きっと私たちは、あなたの事が好きだと思う、ってこと」
ドクン。
その言葉を聞いた途端、鼓動が急に速くなる。
………なんで、そんなことが言えるのだろう。
なんで、こんな奴のことをそこまで好いてくれるのだろう。
君たちは俺の何を。
知っていてそんなことを言うんだ?
分からない――――俺には、分からない。
俺にも俺がわからないのに――彼女たちは、俺の何かを知っている。
あぁくそ、気持ち悪い………。
何よりも気持ち悪いのは………そんな無垢な言葉の事を、俺は。
「(なんで、嬉しく思ってんだよ……畜生)」
愛しい。彼女たちが。
恋愛感情だとか、外見の可愛さだとか、仕草の愛らしさだとかとは、全く関係なく。
こんな人間のことを無条件に受け入れてしまえる彼女達が、どうにも眩しくて―――期待してしまいたく、なっている。
彼女たちなら、もしかしたら―――――俺の事を、理解してくれるかもしれない、と。
そんなことを考えた途端、頭にある声が流れ始める――――遥か昔から俺の中を占めていて、もう出会うことのないあの子の声が、想像されてしまう。
うふふ。忘れたの、凜……?あなたを理解できるのは、私だけ。同じ特別な私だけ。誰も分かってくれないって、私たちは知っているじゃない――期待はいつだって、私たちを裏切ってきたでしょう?あははははは!
「っ、くそ……」
想像のあの子は、妙にリアルで―――どれほど大きく、心を蝕んでいるのかが分かった。
そしてその言葉はきっと、幼少期から根付いているものであり―――高橋 凜という人間の根幹、なのだろう。
……分かっている、そんなことは。
「………ふふふ。ありがたいことを言ってくれるなぁ、美鈴は。ありがとう、凄く嬉しい。俺も、君たちのことが好きだよ―――だからこそ、今は」
「……っ!」
美鈴の背後に転移。流石は美鈴、会話中も一切気は抜いていなかったようで、瞬時に背後の俺に向けて裏拳を放つ――――――ように、観客には見えているのだろう。
ただ、俺にはその挙動が明確にスローに見えた――――さながらバトル物の映画の再生速度を緩めたかのように。無論、そんなことが自然に起こるわけがない。
越符―――――――「超越のその先」。
他人の持つ体感時間を大きく引き下げ、行動を緩やかにさせる技―――――体感時間の説明は、もはや要らないと思う。
体感時間というものは、人間の行動をかなり操作する―――――忙しい朝や、時間の無い時の行動が早くなるように、時間があると思うのとないと思うのでは行動は大きく変わる。
その『時間がある』と思う感覚というのを、限りなく強大にするのがこのスペルの力――――他者には、俺が高速移動したように見えるに違いない。なぜなら、自分がゆったりと行動しているとは当人は気づかないからだ―――それは戦闘において、大きな違いである。時間そのものではなく、感覚を操作するからこその利点。
感覚操作の越符――――「超越のその先」。守護者としてのスペルカードの内の一つだ。
「君に負けるわけには、いかないんだよ――――俺が守護者である限り。君たちに守られちゃ、いけないんだ」
どうせ聞こえないだろう、その言葉を吐いて。
俺は美鈴の手を捻り、地面へと叩きつける。
「が――――は――!?」
間延びしたように、美鈴の声は聞こえた―――初めて使うのだが、微妙に気持ちの悪い感覚だな、これ。
持った腕をそのまま肘を伸ばしきった状態で抑え込み、背中に馬乗りするように完全に固める。あまり痛いようにはしていないはずだが、もはや動けないだろう。
これでも鬼の四天王の1人の腕力だ――――生半な力ではない。越符の効果を解く。
「暴れたら折れるよ―――――痛めずに抜け出せるなら、ご自由に」
「………無理、かな?」
「そ。じゃ、俺の勝ちって事でいいのかな」
「………あはは。だね――――私の負けよ」
これで、俺の勝ちだった。なんともつまらない、面白みの欠片もない終幕だった。
ふぅ、と息をつき、美鈴の腕を離す。
美鈴は土埃を払い、俺へと向き直る。
「負けちゃったかぁ。まぁ、そんな気はしてたけどさー」
「……あは。ごめんね、美鈴。これでも俺は、最強の一角なものでね」
「あははー。うるさいなぁ。私だって分かってたって」
「あは、冗談だって。凄かったよ、美鈴」
「えへへ。ありがとう、凜」
「あら、終わりかしら?」
と、こちらに向けて言い放ったのはレミリア。眼は赤く染まり、妖力が身体から漏れ出ている――――おいおい、完全に臨戦態勢だな。
まぁ、それくらいでもなければ張り合いがない―――――精々五分くらいになればいいと思っている。
「そうですね―――はい。私の負けです」
「そのようね――――ふふふ。美鈴には悪いけど、流石は凜って感じかしら?」
空気だった(まぁ黙っててくれたんだろうけど)が、他の連中はずっと俺と美鈴の戦いを見ていた。余興なんだから当たり前だがな。
因みに言ってなかったが場所は一応、大広間からは変わって外になっている。今夜は月が明るい。
「あは、怖気付いた?今ならまだ返却期間内だぜ?」
「ふふふ。冗談。今更あんなものを見たところで、何も変わりはしないわよ―――ねぇ?」
そう、レミリアは後ろに控えていた連中に投げかける。
その問への答えは十人十色、てんでバラバラであった。
「もちろんよお姉様!うふふー、お兄様とおっふろー!今夜は寝かさないんだからっ!」
明らかに1人だけテンションの高いフランと。
「ふふ、力不足でしょうが。精一杯、力を尽くさせていただきますね」
なんだか保護者みたいな雰囲気の咲夜と。
「今のを見てそこまで言える?ヤバいやつに喧嘩売った感じするんだけどね、私は」
冷静ぶってそんなことを言うパチュリーと。
「私は何にも出来ませんけどー。うふふ、お風呂の用意でもしますかねー。一緒に入るらしいですし。うふふー、お背中流させて頂きますよ、凜さんー?」
相も変わらずにエロエロなこぁさんと。
「お前というやつは、なんというか………やはり規格外だな。精々、喧嘩を売らないように気をつけるとしよう」
ただ見学に徹するだけのつもりのタチと、本当にまとまりがない。
しかし――――これが家族、なのかな?趣味が合うでも、気が合うでも、利益がある訳でもないけれどそばにいる。
そんなものなのかもしれない。
俺には―――――関係の無い話だけれど。
「と、言うわけよ凜」
「何がと言うわけなのか分からんけども。まぁ、やるんだよな?」
多少凄みながらも言う。
コクリと、レミリア、フラン、パチュリー、咲夜の4人は頷く。
「あは―――――吸血鬼に、人間に、魔法使いに、そして極めつけの妹に?随分と豪華なセットだ――――一応、必要は無いけれど聞いておこうか。何を望む?」
「さぁ?秘密って事で」
「おっふろー!」
「そうねぇ。しばらく紅魔館でタダ働きしてもらおうかしらね?」
「特にないんだけど……ま、しばらくフランの遊び相手にでもなってくれればそれで」
ははん。なるほど、四者四様だね。レミリアの秘密、だけちょいと気になるけれど。
ま―――どうせ勝てやしないから、いいや。
さっきはなんか、美鈴の性格上話が逸れてしまったけれど―――元々はこれを見るのが目的だったんだ。
さぁ、見せてくれみんな。
俺の変革の証―――――家族の形を――!
「たまには小手調べからだぜ、みんな!空弾「アイディアル・エアガン」!」
空弾「アイディアル・エアガン」。
俺の持つスペルの中でも最弱と名高いスペルだ。
周囲の空気を圧縮し、弾幕として打ち出すスペルカード―――――しかし、侮るなかれ。
これでも今の俺は頭が回る―――周囲の全てを俯瞰で捉えることすら可能だ。多方向に打ち出す事などわけもない。
それに、これは弾幕ごっこではない―――威力はそのまま、身体へと加わる仕様である。
初めにバラけていた4人へ向けて、多量の弾幕を生成、同時に射出する。
弾の種類は様々―――回復弾だけは放っては居ないけれど、それでも様々な属性をエンチャントさせてある。
しかし、相手もさることながら、こんな弾幕は弾幕ですらないとでも言わんばかりのすまし顔で、上下左右お構い無しに襲いかかる弾幕を容易に避けていく。
効果があろうと、当たらなければ意味は無い。
並の連中ならそれでも沈められそうなものだが、流石は一大勢力、紅魔館のメンツだ。
「あは。流石は紅魔館のみんな、やるねぇ。普段よりは難しいはずだけれどー」
「――――余裕ぶってる暇があるのかしら?」
「――――ッ!」
刹那。
背後に現れたのは、大量のナイフ。
と、ニヤリと微笑む咲夜の姿だった。
素早く翻し、指を銃に見立て弾幕を放ち、ナイフを撃ち落とす――――危ねぇな。
十六夜咲夜――――時を操る程度の能力。
能力の脅威は、この中でもトップクラス――――気ぃ抜いてらんねぇな、こりゃ。
「あら、躱されてしまいましたか。では、お任せしますね」
「?何言ってん―――だぁっ!?」
「極氷「アイシクルシール」!」
俺が咲夜のナイフに対応しているあいだに、背後に迫ってスペルを唱えていたらしい。
パチュリーがスペルを宣言すると、空中に幾百もの氷塊が現れ、俺を襲ってくる。
「とっ、わっ、まっ、て!」
避けても避けても、氷塊は俺を追尾するように迫り来る。あー、めんどくせぇなぁおい!
しかし、そんなことをするのには何らかのトリックが必要だ――――氷なんだから、生成源は水だ。そして浮かぶのは空中。なら水源の答えは1つ。
「事象を理想的にする程度の能力――紅魔館の庭一体の『水蒸気量』を、限りなく小さく!」
そう宣言した瞬間、氷塊の生成は止まった。
ビンゴ!
「流石ね、凜――――でも、そんなにかまけてていいのかしら?」
「ごめんねお兄様っ!きゅっとして――ドカーン!」
流石に4人相手、手数は多い。どこからかフランの声が響くと、突然周囲に砂が舞い上がった。これは――――恐らく、フランの能力『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で地面を破壊したのだろう。
目くらまし―――しかしそれだけではない。
突然、大きな旋風が巻き起こった。
あわやタチかと思ったが、違う――――周囲を轟音をたてながら旋回する何かがいた。
この速度で飛び回れる存在はレミリアだけだろう―――そして巻き起こす旋風は、砂塵を更に舞い散らせる。
なるほどコンビプレイ――――素早い連携だ。それに、会話の余地は流石になかったはず。
つまり言葉は無用、ということ。
確実な信頼が、そこにはあった。
これが、変革か。俺が示唆し、彼女達が選びとった選択の結果が、これか。
「まだ分からない――――いいぜ、もっと本気で来なよ!」
旋風はまだ止まない。機会を伺うように、カナキリ音を立てているだけだ。
しかし来る。確実に来る。並の天狗にも匹敵する吸血鬼の速度だ、惚けていては絶対に対処は不可能。
集中――――感覚を研ぎ澄ませ。今俺は、高速の中で生きる妖怪、天狗と同じ速度。
対処できる――――美鈴を思い出せ。
彼女がどこからともなく現れた俺の一撃を対処してみせたよう、同じことをするだけ。
「ふぅ――――――――っ!」
見えた。
迫り来る真っ黒な弾丸のようなレミリアを捉え、頭をひん掴み、地面へと叩きつける。
「ぐぅ―――っ!?」
旋回していたレミリアを失うと、砂塵の竜巻は徐々にその勢いを失っていく。
無論、それだけで大人しくするような連中ではないだろう―――――互いを遮るものがなくなった以上、3人での連続攻撃は必至。
ならその前にスキを作る。
今回は、破壊されるようなことは無い。結界なんてもので囲う必要も無いのだから。
「越重「アイディアル・グラヴィティ」」
言わずと知れた俺の行動制限スペル、重力「アイディアル・グラヴィティ」。その越符版。
身体にのしかかる重力は、凡そ10倍。人間である咲夜、身体能力では劣るパチュリーでは動くこともままならないだろう。レミリアやフランでも飛べはしない。
そしてそれこそが狙い。この重力下で満足に飛べるのは、俺だけだということ。
つまり――――制空権は俺にある。
「あっはっはっは!さぁ、今度は躱せるかな!?空弾「アイディアル・エアガン」ッ!」
そして再度空弾「アイディアル・エアガン」を宣言。
これはスペルカード戦ではない、スペルの連続使用も多用も何も無い。
俺は空中を縦横無尽に駆け巡り、弾幕を四方八方に撒き散らす。
超重力の元で俺は影響を受けないが、弾幕はそうじゃない。
多少の前進こそあれ、おおよそ真下へと弾幕は落ちていってしまう。
だからこそ先程までのように狙い撃ちは出来ない。
だったら物量で押し切るのみ。
さぁ、どう出る?レミリアとフランはともかく、この場で動けない咲夜やパチュリーはお荷物のはず。
そう想定していたが、事態は俺の予想を超えていた。
再三言うが、今俺は天狗の処理能力と同じものを持っている。高速に生きるが故に、処理能力をより発達させた天狗の処理能力だ。
だから見える。どんなに高速で弾をばらまいてようが、下の様子がある程度把握できる。
そこで見えた光景は、ただ1つ。
レミリアやフランが、それぞれ咲夜とパチュリーを抱え、『紅魔館の庭先を出る』姿だ。
そして俺に向けて、フランとレミリアは手を向ける―――――フランの手には禍々しく輝く射干玉のような黒球が、レミリアの手には真紅に彩られた大槍が握られていた。
「少し痛いかもしれないけど、我慢してねっ」
「まぁ、あなたなら大丈夫でしょう?」
「きゅっとして―――――――」
「神槍「スピア・ザ――――――――」
「ドカーン!」「グングニル」!」
フランが黒球を握りつぶすと同時に、レミリアはスピア・ザ・グングニルをこちらに向けて放つ。
それと同時に、鋭い痛みとともに両羽が吹き飛び、制空能力が著しく低下する―――――フランの能力だ。
イメージを手助けするための羽をもがれると、速度は急激に落ちる。
そして放たれた真紅の槍は、俺の真上にまで迫ると、そこから俺に向けて直行する。く、流石に横から放たれた弾幕を即座に止めることは出来ないか。
そもそも、あの槍の能力は必中。必中のカラクリはもちろん彼女、レミリアの能力によるものだ。
レミリアの能力『運命を操る程度の能力』は名前ほど万能ではない。
物理的に不可能、数パーセントにも満たない可能性を恣意的に掴むほどの力はない。
ただ、現実的な数字であるならば話は別――――10数パーセントを、ほぼ百パーセントにすることは可能。
そういう能力だ。
天狗化が失われた今、即座に引く能力はない――――そもそもアイディアル・グラヴィティを起動してからそう多くの時間は経っていない。高速で飛び回っていた勢いは完全には消えておらず、満足に動きを切り替えることも難しい。かと言って、かわせる程の速度はない。
弱点である柄部分を破壊して可能性を失わせるのは、十分な受け入れ態勢が整ってこそ。
今はできない――――――あは、なかなか厄介な事だ。
ならば――――――仕方ない。
無理やり身を翻し、槍へと手を向ける。
正確には―――――指、だけど。
「理想恋符「マスタースパーク」――――リスペクトエディション!」
槍へと向けた指から、一筋の光が神槍へと向かう。見ようによっては線香花火よりも細く頼りないビームだが―――――実際は違う。
その一筋の光は寸分違わず神槍の穂先へと向かうと、少しのせめぎあいもなく、神槍を粉々に破壊した。
「な―――っ!?」
遠くでレミリアの驚愕する声が聞こえる。
理想恋符「マスタースパーク」は、言わずと知れた俺のパクリスペルカードの1つだ。
そのスペル内容とは、魔理沙のマスタースパークの威力を、彼女が放てる最大の火力で放つというもの――――ただし、あれは範囲が広すぎるため、一点一点への火力というものに実は乏しい。故に当たったとしても、そこまでの大怪我には繋がりえない。だからこそあのスペルは、スペルカードルールというお遊びのゲームにおいて限りなく正しいのだ。
だがそれが一点なら?
本来分散され、発揮されえないエネルギーが全て一点に集約するなら。
その威力は計り知れないだろう。
能力でその範囲を狭め、一点火力に特化したのがさっきのスペル。理想恋符「マスタースパーク」リスペクトエディション(なっげぇ)である。
さて、それにしても――――先程の行動。
とった行動は、この上なく正しい。一旦過重力の及ばない範囲へ動けない咲夜、パチュリーを連れて逃げ込み、警戒する間もなく俺の翼をもいで制空能力を失わせ攻撃。
恐るべくは何も言わずにこれを成したということ。俺と霊夢でだって、無言での連携はほぼ不可能だ。単純なものならいざ知らず、あそこまで高度な連携は出来ない。
「(あぁ。これが結果か。修復の結果か)」
限りなく仲の悪い姉妹だった。
何が悪いかって、互いが嫌いじゃないくせにそれを口にできない辺りが最悪だった。
そうか―――――これか。
そうだとするなら―――――これはきっと、俺のお陰なんかじゃないのだろう。
これが、本来の彼女たちなのだ。
俺はおかしくなった部分のナットを、少しだけ締めただけなのだ。
きっと俺がいなくても、いつかは解決した程度のもので――――根本からの不和では、なかったのだ。
だとするなら――――きっと、大丈夫だ。
多分俺がいなくても――――フランは笑っていける。今の紅魔館は続く。
喧嘩はするかもしれない。そこまで温和な連中が揃ってるわけではないからね。
でもきっと、最後には笑える。最後に笑えれば、それでいいだろう?
もちろん、俺がいなくなると決まっている訳ではない。
けれど――――例え俺がいなくなったとしても、紅魔館は大丈夫なのだ。
ならいざ帰る時は、きっと心配はいらない。
あは、我ながらきっときっとうるさいなぁ。
俺は両手を上げて、庭へと降り立つ。
庭にかけた過重力も解き、鬼化と天狗化、吸血鬼化も解除する。
警戒しながらも、レミリア達はこちらに近づいてくる。
「……何のつもりかしら?」
「あは。見てわからない?降参だよ、こうさん」
「冗談はよしてよ。そんなにピンピンして、降参もへったくれもないでしょう?」
「ふふ。どう思ってもいいよ――――でも俺はもういいの。目的は達成したからさ」
「…………そ。不完全燃焼だけど―――ま、いいわ。じゃ私たちの勝ちってことで、いいのかしら?」
それは俺がさっき美鈴に吐いた言葉と、まるきり一緒だった。あは、もしや皮肉か?あまりに美しすぎてわかんなかったぜ。
「あは。だね――――――俺の負けだよ」
こうして、俺と彼女達の戦いは終わった。
どちらの戦いも事切れは他愛なく、感動のフィナーレも、胸滾る戦いもなかったが。
まぁ案外現実なんて、こんなものだよな。
けど、俺はそれでいい。そんなものなんていらない。
胸を熱くするような刺激も、心を暖めるような人の温もりも、頬を染めるような甘い言葉も、涙を流すような感激も。
全部いらない。
俺はただ、みんなといられればそれでいい。
何も求めないから―――――ただそれだけは、許してくれないか?
「(なぁ――――――未亜)」
そんな心よりの願いに、心の中の彼女はただ、笑うのみだった。