東方理想郷~east of utopia~   作:ホイル焼き@鮭

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ゆゆ様編。長めかつ重め。
東方作品って、ちゃんと書くと大変ですよね。


55話『What is she trying to say?』

魂魄と別れて、再び白玉楼の散歩へと戻る。

既に時はかなり遅い時間を示しているようだった。冬ゆえに生き物の声もせず、誰も彼も寝静まっているのか、静寂が辺りを支配している。

………うん。少し、長居してしまったな。

別に何もしなかったんですけどね。

しかし、だからといって身体はまだ起きている。あまり眠くはない。この旅が始まってから、ずっとそうな気がした。

 

さて、どうするか。

見る限り、もう誰にも会えそうにない。大人しく部屋に帰り、休息をとるのが最善なように、誰もが思うだろう。

……………ただ。少し、予感がした。

なぜかは分からないが―――――『あの場所』に行けば、彼女に会えるはずだ、と。

霊夢ほどじゃないけど―――これでも、勘はいい方なのである。

 

ふわりと身体を浮かせ、縁側から外へと飛び出す。

冬の夜はあまりに肌寒い。

冬。夜。冥界。そして長袖のシャツとブレザーにスラックスという出で立ち。全てが寒さを助長している。

こりゃやってんなぁと思いつつ、まぁいいかと思った。身体が壊れることくらい、心が壊れることに比べれば些細なものである。

 

しばらくすると、目的地が見えてきた。

ゆっくりと下降し、寒々しいその姿に、声をかける。やっぱり、ここにいた。

 

「寒くないのか?」「寒くないの?」

 

声が被る。なんだ、バレてたのか。

『彼女』は振り返ると、ふふ、と言って薄い笑みを浮かべる。

微笑じゃない。

その笑みはあまりにも表面的で――――指先ひとつで剥がせてしまいそうなほど薄く、儚い。

でもその笑みが、あまりにも綺麗で――――少しの間、言葉を失う。

 

「……凜?どうしたの、そんなところに突っ立って。となりに来て、くれないの?」

「あ………っと。ごめん、つい。見蕩れちゃって」

「ふふ。また調子のいいこと言ってる」

「ごめんごめん。でも、本当だよ――――凄く、綺麗だ」

 

隣に並ぶ。近くに来ると、暗くて不鮮明だった『彼女』の姿がよく見えるようになった。

菫色を基調とした和風のドレスが、風に吹かれてなびいている。薄紅梅に似たその髪は、一本一本が意思を持っているかのようにサラサラと風に晒されていた。

 

『彼女』―――――西行寺幽々子は、振り向いていたその姿勢から向き直り、再び花見に戻った。

花見―――――そう、これは花見だ。

じっと目の前の大木を眺める彼女を見ていると、心底そう思う。

今、裸のまま佇んでいるとしても。

たとえ―――――この木が、何百年もその枝に蕾をつけていなくとも。

彼女がその姿を想像する限り。

この冬木は、満開の桜になる。

 

「で。どうしたの、凜。こんな夜更けに」

「あは。散歩だよ、散歩」

「嘘。もう子の刻にもなるって言うのに、わざわざこんな極寒の外に来る阿呆がいるわけないじゃないの」

「はっはっは。まぁそりゃあ言えてるな。でも、俺が散歩と言い張ればそれは散歩だ。ゆゆちゃんこそ、どうしたんだよ」

「私?そりゃあ、散歩よ」

「嘘。こんなに夜も深いのに、君みたいな綺麗で聡い女の子が不用心に出歩くわけないだろ?」

「うん、それは確かに。でも、私が言い張る限り、散歩よ」

 

真面目な顔でそう言うゆゆちゃんに、思わず吹き出す。ゆゆちゃんも、それを見て微笑む。

そんなくだらないやり取りを、大樹が静かに見守ってくれているような気がした。

肩が触れる。ちょっと寄りすぎてしまったかなと、少し間隔を空ける。

再度肩が触れる。間隔を空ける。触れる。空ける。触れる。

 

「もー。どうしたの、ゆゆちゃん」

「どうもしないわ」

「どうかしてるよ、もう」

 

諦めて、触れるに任せる。

意外と甘えたさんなのだ、ゆゆちゃんは。

満足そうに、ゆゆちゃんはふふ、と微笑んでいた。

 

「そうね――――どうかしてるかも。桜のせいね、きっと」

「桜のせいにしちゃいけないよ」

「あら、本当のことだもの。ねぇ―――西行妖」

 

彼女はそう、大樹―――西行妖に気さくに話しかける。

そう、ここは西行妖の鎮座する裏庭―――大樹を見上げるように、西行寺幽々子は居た。

それにしても、その口調はまるで長年を共にした友人のようだ。

もちろん、西行妖は何も答えることはない。しかし代弁するかのように、一際大きい風が俺達を襲った。ゆゆちゃんの甘い香りが、風に乗って鼻腔をくすぐる。

 

「不服だってよ」

「あらあら。やっぱり拗ねてるのかしらねぇ」

「そうかもな。………良く、来るんだっけ?」

「まぁね。寂しがるから、西行妖が」

「ふぅん。優しいんだなぁゆゆちゃんは。えらいえらい」

「でしょう。頭を撫でなさい」ドヤァ

「はいはい」ナデナデ

「ふふん」ドドヤァ!

 

ひどいドヤ顔。

可愛いなぁもう。

しかし、それきり会話が止まる。

………だけど、気まずくはなかった。

心が通じているから――――なんてのは妄言だけど、彼女を俺が気安く思っているからなのは言うまでもない。

ずっとこうしていたいような気もしたけれど、それではこの旅を続けている理由がない。

そう思い、口を開く―――――その寸前。

 

「綺麗」

 

ゆゆちゃんはポツリ、とそう漏らす。

綺麗――――と言ったか。

それは、目の前の西行妖について言っているのだろうか。

 

「綺麗―――かな?壮大ではあるけれど―――綺麗には、見えないな」

「今はね―――かつては、本当に綺麗だったのよ。今でも、私には見えるもの」

「それは―――――」

 

矛盾している。

彼女が亡霊となって以来、西行妖はその身に花をつけてはいない。

原作ではともかく――――封印は解かれず、西行妖が咲くことはなかったはずだ。

だから――――生前のことを覚えていないと言った、西行寺幽々子がかつての西行妖を覚えているわけが無い。

 

「………昼の答え、聞かせてくれる?」

「え―――――」

 

急な問いかけだな。

昼の答え、か。

これ以上、西行妖を恐れさせたくなかった。だから封印したんじゃないか。

そんなゆゆちゃんの話を思い出す。

答えを欲してるようには見えなかったから、その時は答えなかったけれど――――そうだな。

人を殺す。意味もなく。ただそう思われただけで。かつて人々は集い、自分のことを観て喜んでくれていたのに。

俺も、封印した『彼女』と同じく、憐れだと思う。かつて眺めていたなら、尚更。

 

……でも、命を掛けてまですることじゃあない。それは、ほとんどの人間がそうだろうと思う。

きっと、『彼女』は死にたかった。

あまりにも世が疎ましくて――――西行妖のためと理屈をつけて、『彼女』は西行と同じく桜の下で死んだ。

俺からすれば―――――それは。

ただの自殺だ。

 

そのままゆゆちゃんにその考えを伝える。正直、少し躊躇した。

だって俺が思うに、その『彼女』は――――――――。

 

「……………そう」

 

ゆゆちゃんは、俺の答えにそうとだけ返す。隣に居る俺からは、その表情の全容は分からない。

しかし、どこかその答えは分かっていたようで――――少し、自嘲気味に見えた。

………踏み込んでいいのだろうか。

彼女の過去にまで踏み込んで、妙な影響を与えはしないか。

 

そうだ――――影響。

俺というイレギュラーが入ることによって、キャラクターに影響を与えてしまう可能性は無いのか。あまりに大きすぎる矛盾が起これば、きっと強制力が働く。その時、みんなに危害が及ぶのかもしれない。

その可能性を残してまで、俺はこの場にいていいのか。

頭がぐるぐると回る。思考があちこちとんでいるのが分かる。

混乱が理性を乱したか、言葉が勝手に漏れた。

 

「ゆゆちゃ――――」

「ねぇ、凜」

「―――――え」

 

俺に呼びかけたゆゆちゃんが前に少し進んで半回転し、俺と向かい合う形をとった。

少し、ゾクリとした。

あまりにもいつもと違って――――まるで別人のように、能面のような無表情を向けていたから。

しかしその無表情が、混乱した頭を一気に冷静にしてくれた。

こんなことを思うのは失礼かもしれないけど―――――殺されるかもしれないと、なぜかそんな気がしたからだ。

 

「凜は、死にたいと思ったことはある?」

 

そんなことを、ゆゆちゃんはその無表情のまま俺に問いかける。

いや――――彼女は既に、俺の知る『ゆゆちゃん』では、ないか。

きっと今の彼女が、本来の西行寺幽々子なのだろうと思う。

そんな彼女の、問いかけ――――死にたいと思ったことはあるか、と。

軽々しく答えていいものでは無いはずだ。

 

「―――――ない。死ぬことは、何も生まないから」

 

ハッキリ、そう告げる。

 

死は、何も生まない。

死んで清々したと、誰かは言うかもしれない。死ぬことでいいこともあるのかもしれない。

でも、悲しみを得るものも居るはずだ。感情は、数量化できないから―――その大小は、測りえない。だから、どちらも同じ量だ。喜びも悲しみも、どっちもある。それらは打ち消しあって無になる。

だから、死は何も生まない。ましてや死ぬ当人にとっては、死ぬのだから何も得られない。要は、何もいいことがない。

 

「そう。強いのね、あなたは」

 

幽々子は端的に、そう言った。

自分から聞いたくせに、興味なさげである。

 

「強くなんかないよ。元の世界でもそれなりに仲間がいて、幻想郷でもみんながいる。だから大丈夫でいられるだけで」

「ふうん。そう。まぁ、そんなもんよね。死にたい死にたいと言っても、所詮、本当に死ぬ人なんてひと握り。本当に死ぬ人だって、少し時間をおけば踏みとどまることばかり」

「………あは。そうだね。まぁマイナスよりは、無の方がいいって人ばかりだと思うね」

「そうね――――――でも」

 

私は、そうじゃなかった。

幽々子がそう口にした瞬間―――――西行妖が、俄に輝き出す。

開花――――――――いや。

花は咲いていない。

ただ桜色に輝いているだけだ。

しかし――――――この怖気は、なんだ?

本能的に、その場から後ろに飛び退く。

これは―――――ダメだ。

『ヒトが居ていい場所じゃない』―――――!

 

「離れる?そう――――あなたも、所詮は人間なのね」

「………冗談きついぜ―――――お前、何をしてる?」

「何をしてるも何も――――ただ、ここにいるだけだけど」

「へぇ。だったらその髪―――――どうしたってんだ?」

 

そう。変化は西行妖だけではない。

幽々子の薄紅梅の艶髪は、飲み込まれるような漆黒に色を変えている。

幽々子はん?と言って、自分の髪の毛を左手で持って顔の前に持っていき、眺める。

 

「あらほんとう。少しはしゃぎすぎかしらね」

 

言葉とは裏腹に、なんの感情も抱いていなさそうな淡白な声で幽々子は言う。

はしゃぎすぎた――――ね。

それはさっきから感じる、怖気の正体と関わっている、という意味か?

 

「はしゃぎすぎた。へえ。君ははしゃいで、何をしてるって言うんだい?」

「ん――――そうね。言い方を違えたわ。『気が緩んでいる』、が正解かしら」

「気が緩んでいる。ふうん。そりゃいい事じゃない」

「そう?放っておけば、貴方死ぬけど。いいの?」

 

―――――――!

随分な爆弾発言を落とすものだ。

しかし――――何となく、先程から感じている怖気の正体は分かっていた。

西行寺幽々子の能力。

『死に誘う程度の能力』だ。

それに加えて、先程の発言―――――『気が緩んでいる』。

ここから推測するに、普段は意識的に抑えている能力を、今幽々子は解放しているのだ。

 

しかし、なぜ。

俺にその能力を向ける?

俺にその殺意を向けて、彼女は何を言おうとしているのだ?

分からない。

でも分かろうとしなければ、何も始まらない。俺は怖気に耐え、小刻みに震える口を動かす。

 

「あは――――随分と物騒じゃないか。そんなに俺は嫌われていたっけ?」

「いいえ。好きよ、凜。忘れたの?私は、貴方に告白した女じゃない」

「あは。そっちこそ忘れてると思ってたんだけどね」

「忘れないわよ。私、記憶力には自信があるの」

「……ふうん……っ。あっそ。じゃあ―――なんで今、俺は殺されかけてるのかな……?」

「そんな気は無いわ。貴方が勝手に死のうとするだけ。忘れたの?私の力」

「忘れてねぇよ―――死に『誘う』能力、でしょ」

「正解」

「ははっ、やったぁ。なーんて、喜べやしないんだけどね―――じゃあ、なんで今、そのスキルを解放してるのかな?理由も知らずに、死ぬのは、ねぇ。ちょっと、きついじゃん?」

「あら。まるで死んでもいいみたいな言い方。むしろ、聞きたいのはこっちだわ――――なんであなたは抵抗しないの?あなたも死にたい?」

 

まくし立てるように、幽々子は言う。俺の問いにも答えてくれない。彼女の中でもあまり、理性的に喋っているようでも無さそうだ。

なぜ抵抗しないのか。

……なんでなんだろうね?

死にたいとは思ってないはずだけど―――特段、死にたくないとも思ってないからかもしれない。

 

それに―――俺の知る西行寺幽々子は、無意味に俺を殺そうとなんてしない。

何か感じて欲しくて、何か分かって欲しくて、そうしてるはず。

なら、拒むことはしたくない。

ああ、でも頭いてぇな。死にそー。

でも、考えなくちゃ、ね。

 

彼女は、何を求めているのか。

彼女が、何を言いたいのか。

彼女は、何をしたいのか。

あるいは。

 

何が『辛かったのか』。

 

私は死にたくて死んだと、幽々子は言った。そして、西行妖の境遇を哀れんだのでは、と。

 

人を死に誘う妖怪桜。

死に誘う程度の能力。

『彼女』。

自殺。

 

そして、今の流れ―――ここから、俺が読み取らなきゃいけない彼女の意図、は――――。

 

「幽々子」

「何かしら」

「君は―――自分の周りの人が、死んでいくのが、辛かったんだ」

「―――――――――」

 

一瞬、幽々子の眉が動く。

今まで一切揺るがなかった、無表情の城が、揺れた。

ビンゴ、だ。

 

「『死に誘う程度の能力』―――君が普段抑えている能力。生前は、制御が出来なかった」

「………………そうね、その通り」

「それが、辛かった。自分の周りにいる人が、勝手に死ぬ。今だから能力と知って接することができるけれど、当時はただの不可解な現象としか捉えられない。余計心労は積もるはずだ」

「………そうね」

「だから、余計に君は、西行妖が哀れに見えたんだ。自分と同じく、人を無為に死に導く彼の境遇が哀れだった。そして同時に―――自分の死に場所を、探していた」

「…………」

「だから―――君は。他でもない、西行寺幽々子は。自分の身を犠牲にして、西行妖を封印したんだ。自分が死ぬ理由として、最も良いと思えたから」

 

………まず、そこだ。

西行寺幽々子の生前。

西行妖を封印している『彼女』の過去だ。

確信はなかったけど、今回の幽々子の言動から確信に変わった。

その理由は分からなかったけど―――今なら、推測はできる。

『私はそうじゃなかった』―――死にたくて死んだ。死ぬに値する「理由」があった。

理由がなけりゃ、死ねない。

俺が言ったことだけど―――死にたいような彼や彼女も、そうだと思うのだ。

 

「―――――――」

 

幽々子は何も答えない。でも、否定もしない。

そこまで、遠いものではないということだ。

じゃあ、きっとその先も間違っていないはずだ。

 

俺に問いかけた、「『彼女』の想いについて、どう思うか」。

俺はそれに対して、「ただの自殺」と断定した。かつての西行寺幽々子の想いを聞いても、そう思う。西行妖にこじつけたただの自殺。名誉も大義もそこにはない、ただ死にたかったから死んだだけ。

 

でも―――自殺した当の本人は、それを聞いてどう思うだろう。

きっと、寂しく思ったのではないだろうか。

きっと、かつての想いを否定されたような気がしたのではないだろうか。

きっと―――――理解して欲しいって。

そう――――願って、しまうのではないか?

 

かつての悲哀を。

かつての自分の決意を。

知って欲しくて―――彼女は今、かつての自分に戻っているんじゃないか。

そして―――――未だにその悲哀を。疎まれた自分を。

認めて欲しいって、思っている。

 

だって、今の彼女は俺の知るゆゆちゃんじゃない―――――西行寺幽々子だ。能力も抑えず、柔らかくおっとりした口調もない、かつての彼女。

だとするなら――――俺が―――してあげられること、は―――――っ!

 

ああくそ、ダメだ。

もう頭が回らない。

抑えきれない衝動が、頭を埋め尽くす。

 

死にたい。

死にたい。

死にたい。

死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい。

 

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――――――に、たい。

 

 

「(わけ、ねーだろ――――バァァァァカ!!!!!)」

 

 

頭を振り払う。

何度も言わせんな―――――理由がなきゃ人は死ねないんだ。

意味もなく死ぬバカなんざこの世にはいねぇんだよ!

俺には、死にたい理由なんてものはない。

むしろ――――死ねない理由が、目の前にあんだろうが!

それを、高々スキルでそう仕向けられてるからって、死にたい、だあ?

ナマ言ってんじゃねぇよ、俺!

 

頭の中で喝を飛ばす。死にたいなんてのはただの病気だ。病は気から。死にたいも気から。これこの世の真理。

あぁ、スッキリ―――――じゃあ。

うだうだ考えていてもしょうがないので―――行動しなきゃ、だぁね。

 

「………?あなた―――何して」

 

ザッ、と。

俺は幽々子に向けて歩みを進める。

歩くにつれ、幽々子のスキルの効果が高まっていくのをありありと感じる。自分のいるべき場所じゃないと、体が言っている。

もちろん、跳ね除けようと思えば跳ね除けられる。スキルを使えば、この衝動を捨て去ることも簡単だ。ワンスキルで吹き飛んじゃうだろう。

でも――――それじゃあ、意味ないよな。

 

「近づかないで―――――あなた、本当に死ぬわよ。私と居たら―――みんな死んじゃうんだから」

「あは。そうだね。違いない。あー死にたい死にたい」

「あなた―――能力、使っているの?そう、だから平気なのね。私に得意顔で推理を披露できるくらいに?」

「ははは。だとしたらどんなに楽かねぇ。苦もなく君の隣に行けるんだろうなぁ。あはっ、そいつはステキだこと」

 

脂汗が滲む。体は既に冷えきっているのに、まるで灼熱地獄にいるかのように、大量の汗が吹き出てくる。

あー…………キッツ。

死にたい。

わけない。

近づくにつれて増していく衝動を、意志の力で消し去っていく。

あと、1メートル―――――――

 

「使っていない――――あなた、正気じゃないわ。本当に死にたいの?あなたも私と同じ?だから、あなたは私に近づくの?分からないわ―――あなたのこと、何一つ!」

 

まるで駄々っ子のように、いやいやと頭を抱え、取り乱す幽々子。

あれほどの無表情が嘘のように、困惑している。

その姿が、少し可愛く見えて。

寄り添ってあげなければ、って―――そう思った。

 

「違うよ―――――幽々子」

「あ―――――――」

「どんなに辛くても、そばに居てあげたいほど。君を理解したいって思うから、こうしてるんだ」

 

最後の一歩を、踏みしめ。

ついに、幽々子の目の前に俺は立った。

そっと、その華奢な姿を優しく抱きしめる。

細くて―――なんて、儚い体なのか。

この細い体に、大きな悲しみを背負っていたのだ。

そのことが、あまりに悲しくて―――先程まで心を支配していた衝動は、とうに無くなっていた。

 

「ごめんね―――君を傷つけた。自殺なんて、軽々しく言うことじゃなかった」

「――――っ。そう、そうよ―――私は、本当に」

「死にたくて死んだんだよね。一時の気の迷いなんかじゃない―――本当に、辛かったんだよね」

「―――――っ!何よ―――知ったような口きいて!あなたには分からない――――周りの人に恵まれたあなたなんかに、私の気持ちなんか―――」

「分かんないかもね。でも―――分かってあげたいと、思ってる」

 

身体を少し離す。

幽々子と目を見つめ合う形になる。

固く結ばれた口元と、涙を浮かべながらもキッと俺の事を見つめ直す目元が印象的だ。

強がってるなぁと、少し可愛らしく思ってしまう。

一緒に居てくれる人が、いなかったんだ。この子には。

ゆゆちゃんには居るけど。

西行寺幽々子には、いなかった。

じゃあ――――今は、一緒にいなきゃ。

 

「――――――――だから、あんなことをしたの?私に近づけば、どんどん死にたくなってしまうのに。いつでも、跳ね除けられるのに。それを伝えたくて?」

「まぁ、そうだね」

「私のことを―――受け入れたいって。そういうこと?」

「まぁ、うん。平たく言えば?」

「………バカよ。ほんとバカ」

「バカバカうっさいよ」

「いずれ我慢できなくなって、死ぬわ。それでも、今の私のそばに居たいって言うの?おかしな人。ほんとバカ」

「うるさいなぁ――――そんなバカが、いて欲しかったくせに」

「…………………………ほんっと、バカ。

「そんなの、わかっても言わないのが花、でしょ――――――」

 

そう言うと、今度は幽々子の方から、抱きしめてくる。

暖かさを求めるように、強く。

ぎゅっと固く結ばれた腕が、少し痛いくらいだった。

そして、語り出す―――穏やかに、澄んだ声で。

 

「いつも、思い出すわ―――ここに来ると。もう、遠い昔のこと。

「生前のことは覚えていない。それも嘘じゃない――――ここに来た時だけ、私は過去のことを思いだす。反魂の術で切り離した魂と、西行妖に眠る身体が、共鳴するから。

「それだって、身体まで戻るわけじゃない――――感情が昂るにつれて、かつての身体に近づいていく。もうずっと――――そんなことも、なかったのにね。

「どうしてかしら。自殺と唾棄されたから?ううん―――違う。自殺(そう)だなんて、とうの昔に知っていた。

「ただあなたに、分かって欲しいと思った―――私のことを。もう遠い昔のことを。共感して欲しかった。認めて―――欲しく、なってしまった。

「意味が無いことをわかっていても、話してしまったのはそのため。過去の自分に戻ってしまったのも、そのため。うん―――ストンと落ちる。やっぱり想いは、言葉にしなくちゃ―――――」

 

幽々子の顔が、より一層押し付けられる。

襟元が、暖かく湿っていくのを感じた。

あぁ―――――――ダメだ。

近づきすぎては、いけないのに。

目の前の彼女が、とても愛おしくて。

もっと近づきたいと思ってしまう。

これが、幽々子の言っていたことだろうか。

自分のことを知って欲しいという気持ち。理解して欲しいと思う気持ち。

 

けれど、俺と幽々子では違う―――――だって彼女は、わかってくれるかもしれないという期待を、持つことができているのだから。

俺には―――――それは、できない。

呪いのように、彼女の笑みがフラッシュバックする。

あなたを理解できるのは、私だけ。

悲しいくらいに、染み付いたことだ。

でも、それでいい。

俺には、その願いは贅沢すぎる。

 

「あは―――――そうなんだ。ふうん――――じゃあ、俺のやったことにも、意味があったってことだ。あは、頑張ったかいがあったねぇ」

「………ほんと、あなたって人は。すごく面倒なことをしたのに―――私にだって、よくわかってなかったのに。ちゃんと応えて、くれるんだから」

「あは。ストレートに褒められると照れるね」

「…………ほんと、あなたって」

 

悪い人。

幽々子がそう口にした瞬間―――不意に、唇が暖かいもので塞がれる。

それが幽々子の唇だと気づいた頃には、既に、彼女の髪色は鮮やかな薄紅梅に戻っていた。

黒髪の幽々子も可愛かったのに――――と、少し的外れな気持ちが頭をよぎる。

 

「あは――――――なにしてんの?幽々子―――いや、もうゆゆちゃんかな」

「キス、してんの」

「そりゃあ分かるけど。なんでかって聞いてんの。セクハラだぞ」

「それこそ、分かりなさいな。好きだから」

「あは。好きなだけでキスしていいなら、この世はキスで溢れちゃうっての。ま、アメリカンで、良いとは思うけど――――おっと」

 

再び、ゆゆちゃんが顔を押し当ててくる。そのまますーっと大きく息を吸うので、少しくすぐったい。

ほんっと甘えたさんだなあ。小さい子みたいで可愛いけどさ。

 

「……あなた、ここを出ていくんでしょ?」

 

―――――――――おおっと?

レミリアといい―――――俺はそんなに顔に出やすいだろうか。

ポーカーフェイスには自信あったのに。なんかショックだ。

 

「ええと――――なんで?」

「だってあなた、今まで旅なんてしなかったじゃない。最後の挨拶回り、でしょう?」

「あは――――それだけ?だとしたらゆゆちゃんも、相当節穴だぁね」

「あらそう。貴方がそう信じて欲しいならそれでもいいけど―――いいの?」

 

……………むう。何やら見透かされているようで。

そうだな―――俺だけ他人の内面にズカズカと踏み入って、何も明かさないのもフェアじゃあない、か。

 

「……ハァ。悪かった。降参だよ、降参」

「それでいいのよ。お姉さんにドンと話してみなさいな」

「お姉さんは年下の男の胸に顔押し当てて抱きついたりしないだろ」

「お姉さんだって好きな男の子の前では、甘えたくなるでしょう」

「ははあ、そいつは確かにそうだ。深い」

「あと寒いし」

「それはそう。じゃあ中入ろうぜっていう話していい?」

「あら、ダメよ。襲われても知らないわよ」

「誰に」

「私に」

「いやん、情熱的ぃ」

「冗談じゃないけどね」

「あは。じゃあやめとこう」

「即決?傷ついちゃうわぁ。こんなにいい女が誘ってるのに」

「あは。俺も健全な男の子なんでもちろん吝かではないけども。あまりに倫理的でないので」

「倫理なんてどうでもいいでしょう。ここ、幻想郷よ?」

「あは。俺には俺の常識があんだよ」

「あらそう。だから出ていくの?」

「…………あは。流れで誤魔化せないかな作戦は失敗?」

「そうだったの?私は全部本気だったけど」

「こっわ。―――――はぁ。別に、出ていくことは確定じゃあないよ。そうしなきゃいけないのかもな、って、そう思っただけ。みんなともう一度会って、みんなのことを知って。決断しようかな、ってさ」

「ふーん」

「反応うっすいなぁ。君が聞いたんだろうに」

「薄くもなるわよ。だってそんなの、貴方がどうしたいか以外関係ないじゃない。

「というか―――――その答え。あなたの中でもう、出てるんじゃないの?」

 

――――――――!

…………痛いところをついてくる。

年の功、ってやつだろうか。

そう―――――所詮答えは、決まっているんだ。

今更知らなくたって、分かる。

たとえどんなに、周囲が俺を必要としなくとも。

たとえどんなに、出ていくべき理由があったとしても。

俺が出ていきたくないってことは、変わらないんだ。

 

この世において、「すべきこと」なんてものは多くない。所詮万人が志向できることなんてものはそうないからだ。それだけ多くの人が志向できるものは、既に法律にでもなっている。

だから、やりたいことだけやればいい。やりたくないことは、やらなくていい。

だから―――――俺は幻想郷を出ていかなくていい。

そんなことは、初めから分かっている。

 

「そりゃ、分かってるさ―――俺が幻想郷を出ていきたくないことなんて。元の世界になんて、戻りたくないことなんて」

「………でしょうね。ならいいじゃない」

「でも―――――同じくらい、自分がこの世界の『異物』だって、分かってるんだ」

「………………」

「同じくらい、そばに居ない方が良いとも、思ってる。今は良くても――――いずれみんなを傷つけてしまうだろうって、予感がして。

「出ていきたくないって気持ちより――――みんなを、傷つけたくないって気持ちの方が強い、だから。

「俺は―――――ここを出ていく方がいいのかも、って―――「えいっ」むぐっ!?」

 

いきなり、真っ白な両手で顔を挟まれ、潰される。なんだそりゃ。欲しがってるみたいで嫌だけど、止めるならせめてもう一回キスしてこいや。

 

「むきゅう……はのう。ぼくへっこうひんへんに話してんえふけほ……」

「ごめんなさい。聞いてたらやな気分になっちゃって、つい」パッ

「ああそう………まぁ所詮他人事だもんね」

「まぁ、そう。だって貴方が出ていくのを、私は止められないじゃない。力では勝てないし」

「そりゃまぁそうなんだけどさぁ。もう少し、親身になってくれたっていいと思うなぁ」

「あら、すごく親身になってるわよ。あなたの言いたいことは分かったし。あなたが全く、誰の助けも求めてないこともね」

「………まぁ、ね」

「ま、本当はどうか、知らないけどね。あなたが今求めてるのは、『自分が出ていかないでいい理由』だけでしょう?」

 

………本当によく、見透かされている。

俺の勘がいいって言うけど、ゆゆちゃんも大概じゃないか。

一番今の俺の気持ちを理解しているのは、もしかしたら彼女なのかもしれない。

 

「だから、今私が言えることは、一つだけよ」

「………なにさ」

「貴方が居なくなったら、私はすっごく嫌よ。だって、好きだもの」

 

――――――――――――――――――。

少しの間、思考が止まった。

はぁ。

シンプルな告白だこと。

もう少し趣向を凝らして告白できないもんか。

知ってるよバーカ。

 

…………………あー。

くそ。

ゆゆちゃんなんて嫌いだ。

狙ったように、最小限の答えをくれるゆゆちゃんなんて。

言わせたようなもんなのに、わかってたはずなのに、純度100%で喜んでる自分は、もっと嫌いだ。

咲夜の時もそうだったけど――――自分の単純さに、ほとほと呆れる。

 

「…………ふぅん。あっそ」

「照れてる」

「そうだよ。悪いか」

「全然。かわいいなあって、好きだなぁって。なるだけよ」

「バカにしてんのか。そもそも、なんでこんなのが好きなのか、俺にはさっぱりわかんないね」

「ふふ。私も分かんないわ」

「あは、うっせぇ。そんなやつに惚れんな」

「あら。理由なんて分からないのに、好きだって思えるのよ?そっちの方が、ずっとずーっと、好きなんだと思わない?」

「……………………はぁ。そうだね―――ありがとう。俺だって君のこと、好きだよ」

「ありがとう。友愛だとわかっていても、すっごく嬉しい」

「それは…………ごめん。今は、考えられない、と言うか……」

「謝らなくていいわよ。どうせ余計なこと考えてるんでしょ?そんな資格はないとか、そういうベタなこと」

「うぐ―――」

「…………まぁ、色々あったのよね。そんな能力を持って生まれたら、それはそうだと思うわ」

「……………」

「でも、そうね。話してみたら、心が和らぐこともあるんじゃない?その時は、きっと私に話してね。あなたのこと、もっと知りたいから」

「………………………うー。あんまり直球で来ないでほしいなぁ」

「ふふ。だって、好きだからね。あの時より、ずーっと」

「…………はぁ。分かったよ―――いつか、話せるようになったら。その時は、ちゃんと話すよ」

 

ゆゆちゃんから身体を離して、顔を見合わせてそう言う。

俺に、恋愛をする資格はない。

他人の人生に寄り添えるほど、俺は自分のことを認められないから。

でも――――いずれ、答えが出たら。

自分のことを認めてあげられる時が来たら。

また、返事をしたいと思う。

ゆゆちゃんにも、フランにも、レミリアにも。もっと言えば、豊姫ちゃんにも。

その時は、きっと――――今よりずっと、誠実に答えられると思うから。

あは―――今更?って、呆れられちゃうかもな。

………きっと、その時は来ないけれど。

少し想像するくらい、許して欲しいと思う。

 

「ええ―――約束、ね」

 

ゆゆちゃんは微笑んで、小さく胸の前で小指を差し出してくる。

少し気恥ずかしくも、同じように小指を差し出し、絡める。

しばらくそのままにして、やがて解く。

ああ。

また、荷物を増やしてしまった。

そのことを喜ぶ俺が居て。

一歩引いて、冷ややかに見る俺もいた。

何がしたいのか―――ほんと、ハッキリしないやつ。

 

「じゃあ―――――戻りましょうか?」

 

ぱっと身体を離し、ゆゆちゃんは俺の腕を取り、歩き出す。引っ張られる形で、俺も一緒に歩き出した。飛んだ方が早いのに、何故徒歩なんだろう。……長く一緒にいたいからか。

恋人でもないのに、こんなことしてていいのだろうか。

まぁ、それも、今更だ。

 

「ねぇ、凜」

「なに?」

「ソレ、どうしたの?」

「うーん。多分死にかけた弊害。生存本能ってやつ?」

「………ふぅん?ふーーーーーん?」

「おう、恥ずかしいから見んじゃねえ」

「治めてあげよっか?」

「お断りでーす」

「え〜。そんな〜」

 

そんなしょうもない会話も交えつつ。

白玉楼での夜は、ゆっくりと更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side.Bakagami

Place.Kanrisekaisaiou

 

撫でるようにして、目の前の画面を消し去る。

危ない危ない、見たくもないもん見せられちまう所だったぜ。

なんだか凜くんも、よくわかんねぇことしてんねぇ。思ってることが支離滅裂だぜ?

そも、俺の言ったことはそろそろ戻るべきところに戻れってだけなんだが。それなりに楽しんでけるでしょってね。

まぁ、ヒトの感情に一貫性なんてねぇわな。

一貫性なんてものは、変数から離れてから初めて生まれるもんだ。

 

「ふふ―――ま、どうするかは君次第。どうしてもいいけどな。あっちの方も、順調に近づいてんねえ。……おっと。てことは――――」

「こんにちは。元気にしてるかしら?バカ神」

「やっぱり。どうしたの?こんな所まで」

「いつもと同じよ。早く、居場所を吐きなさいって話」

「ハッハッハ。懲りないねぇ。もう千は越えたぜ?俺にとっちゃあ砂粒よりも小さな回数だが、君にとっちゃそれなりに大きな数だろ?」

「さぁ。どうかしら。生憎、戻って郷愁に浸るのも飽きたから。さっさと、吐いてもらわないと―――――死にたくなる」

「はっはー。それは一大事。でも、それなら教えよう、なんてなるなら、こんだけ長いこと教えないわけないよなぁ」

「ふん。わかってるわ。それでも―――諦められるほど、私の想いは弱くないのよ」

「ふぅん。執着するねぇ。もう諦めて、別の男探しなよ」

「無理。だって、私を理解できるのはあの子だけだもの」

「わはは。同じこと思ってるよ、あの子も。仲良しなこった」

「当たり前じゃないの。だって、事実だもの」

「ふうん。そうだってんなら、なんで彼は『君の元に戻らない』わけ?」

「それは……きっと、何かに巻き込まれてるからに決まってるわ。今の彼は無力なんだから―――私が、助けてあげないと」

「ははあ。じゃあさっさと見つけてあげてくださいよっと。『俺から君に手助けすることは一切ない』――――偉い神だからな。分かったらさっさと出ていく」

「もう。いっつもそれ。手助けできないにしても、なんか一言くらいよこしなさいよ」

「はっはっは。じゃあがんばれー」

「ホントに思ってる、それ?」

「思ってる思ってる。君とあの子が会ったらどうなるのか、とても面白そうだからな」

「あら、何かあると思うの?ただ戻るだけだと思うけど。あ、感動の再会とか?」

「俺が今更そんなん見て喜ぶかよ」

「よね。ふぅん――――なんかあるな、これ。それだけでも収穫、か」

「おっと。失言?頭のいいやつはこれだから」

「失言ついでにもっと漏らしてくれない?どの群とか、それだけでも十分なんだけど」

「いや、だから言わないって――――――と、思ったけど。まぁ、アレだ。

「間違っちゃいないよ―――――とだけ、言っとこうかな」

「……………………………………どういう風の吹き回し?」

「わはは、俺の思考がヒト風情に理解できるかよ。これ以上は漏らさんから、さっさと行っちまいな」

「ええ――――――言われなくても、これ以上貴方と話す義理はないわ。それじゃあ―――――また」

 

目の前から、女が消える。

まったく――――相変わらずで。

管理世界は時間が存在しない。だから、彼女が来る数が多いとは思わないが――――彼女からすれば、毎日来てるようなもんだ。

ったく――――よくやるぜ。

再度、凜くんの画面を表示してみる。

はっはっは。元気だね。

少し、嗜虐心が湧く。ちょっと余計な発言してやるか。

俺が気づいてないとでも思ったら大間違いだぜ―――未亜ちゃん。

 

「ちなみに、おたくの凜くん。今女とイチャついてまーす」

「その話詳しく」

「はっはー。おっしえっませーん!」

 

 

 

 

 

 

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