東方理想郷~east of utopia~   作:ホイル焼き@鮭

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短めに構成したお話をいっぱい書く短編集です。
勢力で分けられない人達はこの辺りで話していくことになります。この『閑話休題』は時たま挟まります。


56話『閑話休題』

気づけば昼だった。

こんなことは幻想郷に来て以降、あまりないことではある。化人符を使いすぎた時くらい。意外と怠惰じゃないんだねって言われるかもしれないが、幻想郷において夜にするような娯楽はないので当然といえば当然である。

魂魄は起こしてくれなかったのかな。寝かしといてくれたんだろうか。

まぁ、いいか……。

少し寒いので、部屋に置いてある羽織袴に着替えてみることにした。制服は折りたたんで通学鞄に突っ込んで置く。

うん。意外と似合わなくもない。

まぁ、和服が似合わない人ってそう居ないからね。

部屋にいても仕方ないので、居間に行ってみることにした。

近づくにつれ、コトコトと煮込まれる音が聞こえてきた。いい匂いもする。

中に入ると、ゆゆちゃんが中央の炬燵でお茶をすすりながら暖を取っていた。

 

「あら。重役出勤ねぇ」

「まぁそんな日くらいあるって。魂魄は?」

「今ご飯作ってるわよ。お手伝いに行く?」

「んー……とりあえず、様子は見に行くよ」

「行ってらっしゃーい」

 

ゆゆちゃんの様子は普段通りだった。伊達に長く生きてはいない。生きてないけど。

……もしかしたら、昨日の記憶もないかもね。あの場に居る時だけ思い出すと言うけれど、居なくなってからも喋った記憶が残るはずなのだから。矛盾しないためには、居る時の記憶も一緒に消える必要がある。

まぁそれはそれでいい。

居間から台所まで移動すると、魂魄の後ろ姿が見えた。そこそこ広い台所なので、よりちんまり見える。

 

「魂魄。平気?」

「あ……凜さん。起きたんですか」

「うん。ついさっき」

「ふふ。お寝坊さんですね」

「何その言葉。異様に可愛い」

「もう。わざわざ照れさせに来たんですか?」

「いやいや。お手伝いしに来たんだよ」

「そうですか。でも、大丈夫で――――いや。やっぱり、お願いしていいですか?」

 

おっと。いつもなら遠慮するところだけど。

自分に自信が無い人は、人を頼るのも避けがちだったりする。人に迷惑をかけていい人間でないと考えるから。

……少しずつ、変わっているのかねぇ。

そう考えると、少し嬉しいような気もするな。

 

「もちろん。お手伝いさせてもらうよ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、カットである。

みんな事細かに料理のことを供述されても困るでしょ?俺もそれくらいは分かるんだZE☆

今はズズズと味噌汁を啜りながら、黙々と食べ続けている。

今日も晴れている。幻想郷は太平洋側にあるのだろうか、冬にあまり雨が降っている気がしない。

その辺の細かい地理関係はあまり勉強していないし、ゆかりんに聞いてもはぐらかされそうである。

まあ、瑣末なことだ。

 

「ふぃんは、ほれからふぉうふるの〜?」

「どこぞの外国人みたいな呼び方をするな、僕の名前は凜だ」

「ふみません、ふぁみました」

「違う、わざとだ」

「かみまみた!」

「わざとじゃない!?」

「ふぁみまみた??」

「そんなコンビニあったか、なんて聞かれても……」

 

……うむ。よく覚えている。

みんな忘れてるかもしれないが、俺はゆゆちゃんにはラノベ布教を行っているのだ。

まぁたまには茶番を挟まないとね、皆も読んでて疲れちゃうからね、これは必要な茶番。これから幻想郷巡り編も長いからね、原作編と同じくらいあるから。やばいよね。でも原作なぞってるだけよりよっぽど創作的だと思うっていうか―――――――――――

 

「ストップメタ発言、です」

「そんなストップ温暖化みたいに言われても」

「まぁその辺にしときましょうってことですよ。で、結局どうするんですか?」

「んー。とりあえず、今日はもうここ出てくよ。あんまり長居しても良くないしね」

「いつまででもいいのにねぇ」

「あは。そいつは嬉しいけれど、まぁこっちもやることがあるんでね」

「次はどこに行くので?」

「うーん………特には?」

「決めてないのに行くんですか?」

「まぁ順番にそこまでの意図はないし。思い当たったところに行くよ」

「へぇ……なんだか、自由な旅をしてるんですね」

 

魂魄はなんとなしにそう漏らすと、再度黙々と料理を食べはじめる。

自由な旅、ねぇ。確かに、俺がそうしようと思ってしてる事だからな。自由に違いない。

紅魔館、白玉楼と旅をして―――――あまりにも濃い時間を過ごしてしまっている。もちろん、それだけ深い間柄の人達ということだけど。

 

もっと気楽に、関わっていくべきかもねぇ。

そも、誰に強制されるでもないのだから。誰彼構わず深掘りする必要性は、ちょっと薄い、気がする。

それに、次は覚えている。伊吹の異変の頃だから、あの頃は色んなヤツらと会ってる時期。次に行くべき特定の場所はないのである。

よし―――――――ちょっとずつ、色んなやつと話してみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、泊めてくれてありがとう。またね」

 

わざわざ見送りしてくれたゆゆちゃんと魂魄に対して、俺は手を振りながらそう言う。

 

「またね〜」

「はい。色々とありがとうございました!」

 

相変わらずの緩さで手を振るゆゆちゃんと、深く綺麗なお辞儀をする魂魄。とても対照的だ。

では出陣、と二人に背を向けたところで、ぐんと後ろから襟を惹かれ、殺されかける。

 

「ぐぇっ。……なにかねゆゆちゃん」

「ちょっとね」

 

ゆゆちゃんはそう言って、俺の耳元に顔を近づけて囁いた。

 

「………絶対、また会ってよね」

 

…………………。

俺は、頷けなかった。

そんな俺を見て、心配そうな表情をしてから――――彼女は俺から離れて、ぽんと俺の身体を押した。

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。宴会といえば色んなやつと会った。

まず真っ先に思いつくのは、初対面だったアリス・マーガトロイドだ。

アリスとは、魔法の森に行く時にそれなりの確率で挨拶に行っていたくらいの間柄である。魔法使いの三人はそれぞれ出不精であまり外に出ている印象はないが、その中ではアリスは外に出ている方だと思う。人里にも来るし、人望もある。

と、アリスに関する知識はそれくらいか。

まぁとりま行ってみよう。考えすぎヨクナイ。

 

「ということでやってきました」

「何が『ということ』なのかわかんないけど、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「いや、特に。アリスに会いたくなって」

「何を甘い言葉を吐いてるのよ」

「あは。少しは喜んで欲しいなぁ」

「そりゃあ、嬉しくないこともないけど。まぁ、座りなさいな。お茶淹れるわ」

 

やって来ましたアリスの家。個人の家なので、急に女の子の家に凸するヤバいやつになってしまっている。やだなぁ。

ちなみにアリスの家は結構広い。二階建てで、上が研究室で下が生活スペースらしい。

あ、甘い匂いがする。焼き菓子の匂い。なんか用意してくれてるのだろうか。

 

しばらくすると、アリスがなんかおしゃんな茶器を持って戻ってきた。なんかあれ。貴族とかがお茶会の時にテーブルに置いてあるお菓子とかティーカップとか乗るヤツ。

名前は知らない。ターンテーブルだっけ?違うか。

 

「お待たせ。一応、クッキーも持ってきたわ」

「ありがとう。いただくよ」

 

ズズと、少しだけ気を遣いながら紅茶を含む。紅茶は冷ましながらゆっくり飲むのが基本。音も立てない方がいい。まぁ熱いから無音は無理だけどね。

うん、美味しい。渋味が少なく、マイルドで飲みやすい。

基本的にお茶は嗜好品なので、流通しているのはゆかりんが外の世界から仕入れているものがほとんど。なので安い外国産のものが多いのだが、この茶葉は違う気がする。和紅茶って感じ。

 

「美味しい。これ、自家栽培?」

「ええ。よく分かるわね」

「まぁ、そこそこ飲んでるからね……ズズ。そういえば、上海は?」

「上にいるわ。ちょうど研究の最中だったから」

「ありゃ。お邪魔した?」

「そうね。まぁ、息抜きとでも思っておくわよ」

「ああそう。じゃあそれで」

「…………まぁ、いいけどさ。もう少し悪びれなさいよ」

「求めてないやつに悪びれるほど暇じゃない」

「不遜ねぇ。初対面の時とは大違い」

「ん?初対面も大して変わんないと思うけどなあ」

「全然違うわよあなた。もっとこう、好青年って感じだったわ」

「あは。今でも十分好青年だぜ」

「よく言う………ふう。で、結局なんの用なの?」

「あはは。ないって、用なんて」

「そんなことないでしょ。あなた、私の家に来るなんていつ以来よ。絶対年単位でしょ」

「あっはっは!違いない。だけど、頻繁に女の家に出入りする男、やでしょ?」

「ふふ。まぁ、それもそうだけどさ」

 

久々にアリスと会うが、あまり雰囲気に変わりはないと感じた。宴会以来の数ヶ月はアリスの家に行くこともあったが、永夜異変や博麗大結界の異変もあって少し足が遠のいた。俺の習性として新しく人を知るとそっちに行きがちになるということがあるのだ。浮気性。やっぱ恋愛できねぇな!

 

「で、結局なんなの?全く何もないってんなら流石に出てってもらうけど」

「んー。まぁ無くはないんだけどね。その目的は話せないのさ。ここはひとつ、俺のフリートークに付き合ってくれよ」

「なによ、話せないって。変な企みに私を巻き込まないでよね」

「あは。いいだろ?君の数分なんて、一呼吸するより短い時間なんだしー」

「そうだけどねぇ。まぁ、好きにすればいいわ」

「やった。さすがアリス、寛容だねぇ」

「はいはい。じゃ、どうぞ」

「どもども。んー、そうだなー……アリスは、元から魔法使いなの?」

「違うわよ。元は人間」

「へぇ。そりゃまた、なんで魔法使いになろうと?」

「んー……まぁ、時間が足りないから、かな」

「時間ね。それは、何に差し置いても優先すべきものだと思ったのか?」

「そうね。生涯魔法の研究に身を捧げたいと思ったから、私はそのために必要な事をしたまでよ」

「ふぅん。でも、その肉体年齢、20いかないくらいでしょ。捨虫の魔法で老化を止めるにしては、若すぎやしないかい?」

「なに、説教?」

「いやいや。説教できるほど、人ができちゃいないぜ。ただ単に、他の道は十分に吟味したのかなってだけさ」

 

人間が魔法使いになるには、捨食と捨虫の魔法によって人間として持つ生理現象を捨てる必要がある。中でも老化を止める捨虫の魔法は、長年にわたる修行の元でしか身につけられない。アリスの肉体年齢はどう高く見積もっても20幾つだから、「ヒト」を捨てるには早すぎるように思う。

 

「あなた、分かってないのねぇ。魔法使いってのは、一歩にも満たないような地道な積み重ねを、何百年、何千年と繰り返すような連中よ。自分の好奇心を満たすためだけにそんなことをしてる連中に、他の道が見えているわけないでしょうに」

「ははぁ。なるほどねぇ」

「そもそも、魔法が使えるくらいの人間はいくらでもいるわ。その中でも捨食をする者は小指の先ほどで、捨虫なんてのは更に。そんな中で魔法使いを選んでる人間に、まともな思考を求めちゃいけないわ」

「あは!なるほどなるほど。じゃあ、そうだな――――その『目的』を果たしたら、どうするんだ?今は、人形の自律化を目指してるんだろうけど、さ」

 

少し、核心をついた質問をしてみる。

今アリスがしてることは人形の自律化で、人間としてのアリスもそれを目指してたんだろうと思う。でなきゃ、ずっと人形を使った魔法になどこだわらないはずだ。

じゃあその先はどうだ。死ぬことも無い体を抱えて、その次はどうする?

アリスは少しだけ考えた。その後、いつもと変わらない微笑みで、答えてくれた。

 

「その時は、また新しく、何かを探すだけよ。無数の魔法使いたちが遺した軌跡に、私も新しい何かを刻むために、ね」

 

その答えには、一切の迷いもなく。

とても美しい生き方だと、心底思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリスと別れて、次の連中を探す。

次の連中は、割とどこにでも出没する連中なので、少しばかり探すのが大変そうである。

しかしまぁ、一応はあいつらの住居らしい場所もある。俺は行ったことがないのだが。

ということで、俺がやってきたのは霧の湖近くの森である。紅魔館より人里寄りにある魔法の森とは逆方向に位置する森で、妖怪の山との繋がりを持つ森だ。

 

その森の奥の方に、外壁を蔦に這われた廃洋館がある。近くの紅魔館とは毛色が違うものの、よく見れば非常に立派な造りをしている豪邸だ。

ただ放置され続けた外壁があまりにもみすぼらしく、汚れた印象を持たせる。

 

ギィィ、と重たく錆び付いたドアを開けると、中は植物によって覆われているせいか、ほとんど外の光を受け入れず、暗い。

ひとまず、前に進んでいく。中も外観同様、かなり汚い。埃がつもりっぱなしで、足跡がくっきりと見えるほどだ。こんな中で良く暮らしてられるなぁ。

 

「………なんの用、リン?」

 

不意に、後ろから声がする。

振り返ると、金の髪に黒いドレスを身にまとった少女が、こっちを見つめていた。

 

「あは。驚かすなよ、ルナサ」

 

俺がそう言うと、少女―――ルナサ・プリズムリバーは、無表情のまま口を開く。

 

「騒霊は幽霊ではないけれど、霊だもの。そりゃあ人くらい驚かすわよ」

「あっはっは!違いない。今はルナサだけかい?」

「まぁね。何か用?」

「んー。そんなに?」

「そんなにで人の家訪ねないでくれる?まぁ、暇だし……いいけどね」

 

ルナサはそういうと、俺を横を通り過ぎて奥のソファに向かい、座る。そして無言で、その対面を指さす。座れと言うことかな。

じゃあと有難く、その席に向かう。

 

「…………」

「…………」

「あは。無言?」

「あなたから訪ねてきたんだから、あなたから話し出すのが筋でしょう。私からリンに話すことなんて、特にないものね」

「あは。それも違いない。ルナサはいつも正しいことを言う」

「そこまで言えるほど、あなた私のことを知っていたかしら」

「んー、そんなでもないけどね。でも、プリズムリバー三姉妹の演奏には大抵顔出してたし、宴会でも挨拶はしてたし。それなりの知り合いではあると思ってるけどな」

「ふぅん。そう。私も、それなりに仲がいいつもりではあるわね」

「あは、そうだよねぇ。まぁ、そんなリンくんからのお願いなんだけどさ、ルナサ。聞いてくれるかい?」

「やっぱり用件があるのね。早く言いなさいよ……まぁ、聞くだけは聞くわ」

「あは、ありがとう。まぁ大したことじゃないけどね。少しばかり、俺のフリートークに付き合ってくれればいいのさ」

「なに、そんなこと?別に何するでもないのだから、好きにすればいいわ」

「あは!ありがとう、ルナサ。んーっと、そうだなあ……」

 

取り敢えず話にはこぎつけたけども、プリズムリバー三姉妹に何を聞けばいいかはよく分からない。東方妖々夢四面ボス、3つの音を操り人妖問わず人気のある楽団……俺が知る彼女たちの情報はそれだけだし、どこを掘り下げていけばいいのかもよくわかんねぇな。

……むう。じゃあ、当たり障りないことから始めるか。

 

「メルランとリリカはどこ行ってるの?」

「今日?今日はライブもないし、今居ないんならどこかで遊んでいるんじゃない?」

「へぇ、あんまり分かんないんだね。仲良いの?」

「家族に仲の良い悪いもないと思うけど。まぁ悪いわけではないわ、常に一緒である必要は無いだけで」

「………ま、それもそうか」

 

家族に良い悪いもない、ねぇ。

少しばかり、元の世界に置いてきた家族のことを考えた。

じゃあ、俺の家族も仲、良かったのかね。

今となっては、確かめようのないことだ。

たとえ、『元の世界に戻ったとしても』ね。

……ま、今はもうちょっと考えなきゃね。

 

「そういえば騒霊ってのは、つまりどういう霊なんだ?」

「元はポルターガイスト……つまり物が勝手に動く現象を引き起こす霊、とされてる。私達も、『ものを触れることなく動かす』という点では騒霊に当たるわ」

「ふむ。そうなんだね。じゃ、君らは分類としては亡霊なわけ?」

 

霊にはいくつかの分け方がある。

ひとつは魂だけが遊離し肉体がなく、ただそこにあるだけの幽霊。

ふたつは生前と同じレベルの肉体と、全く同じ魂を持つ亡霊。亡霊の説明は長くなるので割愛する。

3つ目がこの世に強い怨みがあり、その思念の強さから他者への精神的な干渉を引き起こせる幽霊である怨霊。

霊は、全てこの三区分でわけられる。少なくとも、俺が幻想郷で習った分には。

 

「そのようなものだけど……、ちょっと違うわね」

「ははぁ。なんか、込み入った事情があるってことだぁね。聞かない方がいい?」

「別に。聞きたかったら聞いてもいいけど、長いわよ」

「全然平気だよ。じゃ、亡霊じゃないってんならなんなわけ?」

「私たちは、元の私たち――――つまり人間のルナサ、メルラン、リリカをイメージして作られた魂だけの存在だった。次第に自我を持ち、形を持ち、今の姿となった。だから、『生前と遜色ない肉体を持ち、自我と理性を持つ』という点では亡霊と言ってもいいけど、『構成元である魂が生前と今で違う』という点で異なる。なんなら霊でもない、んだけどね。…………話、わかる?」

「んー。大体?つまり君達は、『魂を元にしてない』って点が霊とは違うから、本来霊ではないってことでしょ」

「大まかにはね。もっと細かい違いもあるけど、それは少し、言葉にしづらいわ」

「ふうん、なるほど。じゃ、君たちを作った人、ってのがいるわけだ。なんのためにそんなことを?」

「寂しかったから……って、そう言ってたわ。随分と前の話だけどね」

「はぁ。その人知人?」

「妹」

「妹。妹ねぇ。そりゃつまり、リリカの下の子ってことでいいのか」

「差し支えないわ。レイラよ」

「レイラ。ふうん、可愛い名前だね」

「でしょう。名前負けしない、可愛い子だったわ」

「あは。そりゃまた会ってみたかったもんだ。じゃあなんだ、姉3人が死んで、寂しくなっちゃったから頑張って喋るお人形さんを作っちゃったみたいな、そんなイメージでいい?」

「少し違う。姉3人は死んでない。私たちが作られた時点で、人間としてのルナサ、メルラン、リリカは生きていた」

「ふむ。まぁ魂が違うわけだからな。同時に存在できる。じゃあつまり、離婚でレイラだけ離れた?」

「離婚でもない。まぁ当たらないと思うから言うけど、事故よ。父が遠くの国から持ってきたマジックアイテムが、大規模なポルターガイストを引き起こしたの。結果、両親は死亡。学校に出ていた4姉妹だけが残された。あとは……わかるか」

「まぁ、なんとなく。4姉妹一気に引き取れないから、別々の家にお世話になるわけだ。そこから、姉3人をモチーフにした喋るお人形さん作りが始まったと。そんな感じだね」

「イメージはね。より正確に言うなら、レイラは姉3人をモチーフとした『騒霊』を作り上げた、になるわ。そのマジックアイテムを利用してね。まあ、幻想入りする経緯とか、他にもいろいろあったのだけど……その辺りは、あなたなら詳しいでしょう」

 

大体の話の流れは理解した。

なかなかヘビーな話だと思うけど……結構、あっさりと話してくれた。もうその辺の折り合いはついてるのだろう。

それにしても……元の存在から自我を持つ存在を作り上げる、ね。アリスの目指している「完全なる自立人形」の最終型じゃないか。なかなかびっくり仰天である。

レイラ・プリズムリバーは、稀代の天才だったに違いない。

 

プリズムリバー三姉妹が、『ものに触れずに動かす』能力を持っているのも、そのマジックアイテムに由来しているからという訳だ。

………高々四面のキャラにも、こんな深い過去がある。もっと深く掘り下げていけば、誰にでもあるのだ。

やはり俺には、みんながタダの創作物とは思えない。俺とみんなが、全く同次元の存在とは思わないけど、全く異なる存在でもないはずだ。

バカ神から提示された問いは、既に解消されている。

………まぁ、もはや問題はそこでは無いのだけど。

 

「……なるほどねぇ。そんな出自だったとは。んじゃ、生前の記憶もないわけか」

「そうね。性格は、きっと近しいものなはずだけど」

「ふうん……ねぇ、ルナサ」

「なに?」

「今、幸せ?」

「妹達がいるもの。当然よ」

「……そっか。ま、今が幸せならそれでいいよね」

「出自がどうあれ、ね」

「「ただいまー!!」」

 

扉の方から、大きな声が2つ鳴り響く。

声の主はこちらに気づくと、あー!と叫んで、バタバタと走り寄ってくる。

 

「ルナサが男連れ込んでるー!」

「いけないんだー!いや、いけなくはないと思うけど、いけないんだー!」

 

メルランとリリカが、顔を赤らめながらそう言う。

プリズムリバー三姉妹が勢揃いだ。

 

「なにくだらないこと言ってるのあなた達……うわ、酒臭っ。どこで呑んできたのよ」

「えー?どこでもいいでしょー?」

「ほらいっぱい酒買ってきたからー、ルナサも呑もー?あ、リンも呑む?」

「呑もうって、そもそもなんでそんなに酔ってんのよ。なにか祝い事でもあったの?」

「ええ?ルナサ、忘れちゃったの!?」

「さいてー!お姉ちゃん、さいてー!」

「いや、そんなに煽られても……さっさと教えてよ」

「もー、仕方ないなぁ。今日はねー……」

「「私たちと、レイラの誕生日だよ!」」

 

二人は一斉に、寸分違わずそう口にした。

そして、わーきゃー騒ぎながら酒やら洋菓子やら並べ出す。

その姿は非常に楽しげで、これから起こるであろうパーティーが、非常に愉快なものになることを予感させた。

………この場に、俺は居ない方がいいな。

 

「あは……まさかのジャストタイミングだね、ルナサ」

「……そうね。……そっか……もうそんな時期か」

「ふふ……やっぱり、薄情なんじゃない?」

「……そうなのかな。凹むなぁ」

「あは。まぁ、そんな時もあるさ。じゃあ、俺はこれで―――――むがっ!?」

ルナサに耳打ちしていた身体を起こし、出口に向かおうとしたその瞬間、口に無理やりものを突っ込まれる。

そのまま身体を反らされ、どぽどぽと液体を身体に注がれる。

バタバタと身体を揺らすと、キュポッと小気味いい音を立ててそのモノが取られる。

 

「あはは!おいおいカレシさん〜?どこへ行こうと言うのかね〜?」

「ここへ立ち寄ったが百年目!胃の中のものを全部出すまで返さないかんねー?」

 

盛大な音を立てて、うちから溢れ出る衝動を吐き出す。

プーンと香ってくるのは、米の熟成された芳醇な香り。

飲まされたのは、日本酒だった。

しかも、安酒。

 

「…………………ふふ」

「あれ?」

「リンー?」

「お前らと来たら……ほんっとうにイタズラ好きなんだからなぁ……仕方ないやつら……」

「おおっと?」

「この、流れは……?」

 

ダッ!

っと盛大な音を立てるほどに激しく、メルランとリリカは真反対に離れていく。

あはは―――――小賢しいヤツらだ。

バサッと一瞬で翼を生やし、左に逃げたメルランの首根っこを掴み、右のリリカの襟元を掴む。

 

「……どこへいこうというのかね??」

「い、いや〜?ちょっと、お花摘みにって言うか?」

「そうそう!もう、限界ギリギリって言うか!」

「……………そかそか。オーケーオーケー」

「「ほっ」」

「じゃあ―――取り敢えず一回くらい、死んどこっか!大ジョブ大ジョブ、死んだら戻してあげる☆」

「「ひ――――――ご、ごめんなさいーーーーーッ!!」」ダンッ

「ゴメンで済んだら守護者はいらないんだよーっ!いいからそこになおれーーッ!」

 

隙をついて手から逃れたメルランとリリカを追いかけ回しながら、俺は心底の叫びを放った。

そんな俺たちを、ルナサは我関せずと、いつの間にか飲んでいた熱燗をちびちびやりながら、ふうと息をついた。

 

「………今日も、平和ねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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