Fate/Grand Order -from Hero to Hero- 作:定紋練魔
「まっ……!」
目が覚める。
視界はにじみ、己の左手が伸ばされていることだけが辛うじて認識できる
「……?」
左手を下ろし、目元を擦って視界をクリアにする
「……濡れてる?」
頬をなぞると湿った跡。
夢で泣いたのだろうか?
直後、スマホのアラームが鳴る
「あ、学校!」
今日が平日であったことを思い出し、腕を振って勢いをつけて上半身を起こしては、左腕を伸ばしアラームを消す
「痛っ……」
少し強く押し込みすぎたか?
左手に一瞬鈍い痛みが走る
数分ほど布団から出るのにぐだついてから、なんとかベッドから降り、欠伸の涙で滲んできた目元を擦りながら部屋を出る。
相変わらず静かな部屋の前を通り過ぎ、階段を降りて洗面所に向かう
「5時半か……」
この季節の朝はまだ暗いし寒い。窓の外は真っ暗だ。
顔を洗い、制服に着替えて鏡の前に立つ。
少しはねた黒い髪に空のように青い瞳、そして中性的な俺の……
嫌いとは言えないものの、時折違和感を覚える。
前はもう少し男前だった気がするんだけど?
……ん?前っていつの話だ?
…………
まあいいか。
168cmと中2男児としては高いとも低いとも取りにくい微妙な身長なのも微妙に起因しているのかもしれない。
成長と共にある程度は男前になることを期待しておく。
学ランを椅子にかけ、黒いエプロンをして朝食を作る。
誰の料理かは思い出せないが、時折無性に食べたくなる味がある。
まだまだその味には遠く及ばないが……
「いただきます」
まあ近づいているしよしとしよう。
「ごちそうさまでした」
学ランを着て、自室に戻り、部屋の隅にある本棚で今日学校に持っていくための本を漁る
「今日はどれにしようか……アーサー王伝説?ニーベルンゲンの歌?いや、ギリシャ神話も捨てがたい」
神話にラノベ、文学作品から論文、絵本や童話集に至るまで。
ジャンルを問わず所せましと本が敷き詰められた本棚。
その時、ふと強く目に留まった本があった
「この本は……」
表紙にも背表紙にも何も書かれていない分厚いハードカバーの本。
カバーは皮製、金属の装飾が入っており、ページが勝手に開いてしまわないようベルトで固定されている。
正面から見れば、いかにも『古くて貴重な本!』といったビジュアルのとても分厚い本。
ただし、横から本を眺めると、古そうなカバーに似合わない白い紙が見える。
だがそれも新品のような白さではない。
「……こんな本、ウチにあったかなぁ?」
個性の都合上、家にある本は全て読破したつもりだったのだけれど。
俺の個性は『
読んだことのある本や見たことのあるアニメやゲームなどで、印象に残ったもののストーリーをいつでも思い出せる、というものだ。
まあ、使い道が限られている上にあまり使うこともない以上、無個性とほぼ同義だが。
「……あれ、読めない」
中身を確認してみようとしたが、ベルトに鍵がかかっていて本が開けられない。
この手の鍵穴は飾りのことも多いが、これは開けるのに鍵が必要なようだ。
首を傾げながら記憶を探るが、やはり心当たりがない。
鍵の所在どころか、そもそもこんな本があった記憶もない。
ふと本の横から紙を見てみると……白い。新品とは言わないまでも、カバーの装飾やくたびれ具合とは比較にできないほどに新しい色だ。
本の表紙や裏表紙にも、作者やタイトルが刻んである様子もない。
すべてが不思議な本を前に首をひねって唸っていると、スマホのアラームが鳴り始める。
スマホを開いて時刻を確認すると……時計は7時前を指していた
「やっべ」
急いでその本とその両脇の本をカバンに詰めて扉を開ける
「行ってきます」
返ってくる声のない玄関のドアを閉め、鍵をかけて学校に向かう。
鍵をかけるとき、ふとある言葉が脳裏をよぎった。
『Attendre et espérer』その言葉の意味は……
「『待て、しかして希望せよ』か……」
フランスの小説、『モンテ・クリスト伯』の一節だ。
なぜ、今この言葉が浮かんだのかはわからない。
それでも
きっと「忘れてはならない大事な何か」だという確信が、不思議と俺にはあった。
ー続くー
改めましてごあいさつを。
初見の皆様、はじめまして。前作からご覧の読者の皆様、お久しぶりです。
作者の練魔です。
この度、一通りのプロットが書きあがりましたので本編の執筆を開始させていただきました。
序盤の流れこそ前作と変わりませんが、一部の登場サーヴァントやキャラクターの人選など、いくつか前作から変更されている部分があります。
……前作のキャラクター関係と大きく変化しているところもあるかも?
お楽しみいただけると幸いです。それでは、皆様。この物語をお楽しみください