もはや何番煎じかもわからぬオーブ指導者層転生物 作:シチシチ
ブリッツの初期見分は、その場では外から確かめられるところまでで切り上げた。まだ触るなと釘を刺されているため、これ以上ハンガーの前に居残ってもメカニックたちの邪魔にしかなれない。特殊機、それも試作機だけあって、目を凝らしても正体の分からない箇所が多いらしく、詳しくは、数日かけて調べるそうな。
名残惜しいが、大人しく保全区画を出て、レッドフレームの収容区画の方へ向かった。
格納庫の前では、もうすでにロウたちが待っていた。急かされるままにセキュリティを解除し扉を開くと、フライトユニットを背負ったレッドフレームが、ハンガーに固定された姿を現す。ロウさんは飛び込むように真っ先に中へ入り、機体を見上げたまま足を止めた。
「おお、いいじゃねえか!」
「お待たせしました。レッドフレームは、これでお返しします」
「リーアム、接続部から見るぞ。早く来いよ」
「分かりましたから、先に触らないでください。仕様書と照らし合わせながらですね……」
「分かってるって!」
返事だけはいつも良いが、今回もどこまで聞いているのやら。ロウさんはリーアムさんを急かし、8を抱えたまま機体の足元へ向かっていった。ジュリの報告どおり、どうもこういうところは案外適当なんだよなぁ。
実機を前にした本職二人と一機の間へ私が割り込んでも邪魔になるだけなので、確認はそのまま任せる。残っている2人のうち、プロフェッサーの方と引き渡しのやり取りを終わらせる。
「プロフェッサー、樹里さん。出る前に、一つだけ」
入口に残っていた二人がこちらを向いた。
「件の、領海外ギリギリで戦闘を行ったアークエンジェルは、このままアラスカへ向かうそうです。マルキオ導師の島は、その航路からそう離れていません」
「またあの辺りで戦闘になるかもしれない、ってこと?」
「ええ。ザフトも相当執着していますから。あれで終わったとは思わない方がいい。道中はお気をつけて」
樹里さんは収容区画の奥を振り返った。エンジン部に頭を突っ込もうとするロウさんを、リーアムさんが腕を掴んで止めている。思わず二度見した。ほんとに何やってるのん?
「……ロウには、私から言います」
「お願いね。機体を見終わってからの方がよさそうだけど」
プロフェッサーの言うとおりだった。今声を掛けても、ろくに聞くまい。奥からまたロウさんの声が上がり、後を追ったリーアムさんまで、フライトユニットの陰へ消えていった。
* * *
三日後。ロウはレッドフレームを駆り、マルキオ導師の島へ向かっていた。
航路の途中で嵐にぶつかり、視界は雨に白く煙っていた。その中を、白と赤のモビルスーツがビームサーベルをぶつけ合いながら横切った。
「……スゲェ……。これがモビルスーツ同士の真剣勝負、いや、殺し合いか……」
危ない橋には慣れていても、モビルスーツ同士の本気の殺し合いを拝むのはまだだった。下手に近づけばレッドフレームごと巻き込まれる。ロウは距離を取り、二機を追った。
だが、苛烈を極めた二機の戦いもそう長くは続かなかった。
赤い機体が人型を崩して変形し、白い機体へ組みついた。その直後、白い装甲から色が落ちる。どちらもロウには初見の機能であり、驚いたが、続いて赤い機体からパイロットが飛び出したのを見て、ロウは自爆だと悟った。
すぐに腰のガーベラ・ストレートを抜き、刀身を足元へ突き刺す。片膝をついて機体を伏せた次の瞬間、赤い機体を中心に光が膨れ上がり、爆風がレッドフレームを殴りつけた。
風と砂が収まるのを待って顔を上げると、白い機体は砂浜へ倒れ込み、赤い機体は姿を消し、残骸があたりに突き刺さっていた。ロウは、形を残している白い機体へレッドフレームを寄せた。
外装は戦闘中に切り開かれていたが、その奥で歪んだ隔壁が操縦席を塞いでいる。どうにかこじ開けると、中には少年が残されていた。呼吸と脈はある。ロウは少年を抱えて外へ出し、そのまま背負った。
少年を背負ったままレッドフレームへ戻り、ロウはマルキオ邸を目指した。
*
「ん?」
短く重い音に、樹里が顔を上げた。吹きつける雨に交じって、もう一度、戸を叩く音がする。導師が玄関へ向かうより先に扉が開き、人が倒れ込む音が続いた。
「何事ですか」
「ロウ!」
駆け寄ったのは樹里だった。その後ろからジュリも出てきたが、二人とも、ロウが背負ってきた少年を見て足を止めた。
「なんで、お前らがここにいるんだ?」
「嫌な予感がして追ってきたの。ジュリが長期休暇に入ったばかりだったから、頼んで輸送機を出してもらって……」
ジュリは、まだロウの背にいる少年を見ていた。
「ここからでも爆発も見えました。それより、その人は?」
ジュリが濡れた前髪の向こうにある少年の顔を覗き込み、息を呑んだ。
「キラくん……!?」
「知ってるのか?」
「はい。キラ・ヤマトくんです。その、以前オーブに……」
ジュリはそこで言葉を濁した。キラの名を聞いたマルキオ導師もわずかに顔を上げたが、問い返すよりも先に、少年を中へ運ぶよう促した。
子供たちが乾いた布と寝具を用意し、導師が少年の呼吸を確かめて濡れた身体を包む。ロウはようやく荷を下ろし、濡れた床へ座り込んだ。樹里はそのそばを離れなかった。
「途中でレッドフレームのバッテリーが切れちまって……。そこから、そこから雨ん中こいつを担いできたんだが……。あいつ結構重くてな、まいったぜ……」
樹里は濡れた袖で目元をこする。導師はロウの分の布も用意させた。
「マルキオさん……助けてやってくれよ……頼むぜ」
「ええ。全力を尽くします」
ジュリは床へ座ったロウの前へしゃがんだ。
「爆発した場所は分かりますか」
「島の……南側の浜だ。赤いのが白いのに組みついて、そこで爆発した」
「その赤いほうの機体のパイロットは?」
「わからねぇ。脱出してたっぽいんだが。あの爆風だしな……。部品もあちこちへ飛んでたし、俺はこいつを出すので精いっぱいで……」
ジュリは窓の外へ目をやった。日は雨雲の向こうへ傾き、海際はもう暗くなり始めている。
「場所をもう少し詳しく教えてください」
「今から行くのか?」
「はい。せめて浅瀬のあたりだけでも、暗くなる前に見ておきます」
道順を聞いたジュリは、導師に車を借りて雨の向こうへ走り去った。戸口へ出た樹里も引き止めなかった。
*
戦闘跡に近い道まで来たころには、雲の下で海と空の境が曖昧になり始めていた。
ジュリは浜へ下りる道の脇に車を停め、雨の中へ飛び出した。砂浜へ擱座したストライクはまだ原型をとどめ、回収すればあるいは、と彼女の勘を裏付けた。機体の操縦席は空で、裂けた外装は人ひとり通れる幅まで押し広げられている。ロウが少年を運び出した跡だ。
ストライクを離れると、今度は水際へ走った。陸の大物は日が落ちたあとでも灯りを持ち込める。波と闇に先に呑まれる浅瀬を優先した。
最初に湿った砂へ斜めに突き刺さっていた頭部を見つけた。その形状から、ロウが言っていた赤い機体はGAT-X303イージスで間違いない。少し離れた浅瀬では、片側の腰部バインダーが、引き波を受けるたびに向きを変えている。ほかにも、大きな破片が、爆発跡から海側へ間を空けて散っていた。
ジュリは頭部から海側へ散った破片を追い、まだ形の分かるものだけを撮影した。位置を示す印が、爆発跡から海へ向かって伸びていく。引き波に動かされていた腰部バインダーも、さらに流される前に記録へ残した。小さな細片まで追っている時間はない。あとから来る回収班が、そこから先を探せればいい。
大型破片の陰と、爆発で崩れた砂の際も覗いて回ったが、人影は見つからなかった。何度か声を張り上げても、返るのは波音だけだった。
最後の位置を記録して顔を上げると、浅瀬の輪郭はもう夕闇へ溶けかけていた。ジュリはそこで確認を切り上げ、道脇に停めた車へ戻った。
マルキオ邸の灯りが雨の向こうに見えたころには、辺りはすっかり夜になっていた。
邸へ戻ったジュリが浜の様子を伝え終えるまで、マルキオ導師は黙って聞いていた。
「この少年が生きていることは、しばらく伏せておいてください」
樹里とロウがうなずいた。
「……イサリ様にはお伝えいたします」
「その方は、口外はなさらないと?」
「……しないと思います。導師の意向は、私が必ずお伝えします」
マルキオ導師は少し黙り、それからうなずいた。
「分かりました。あなたを信じましょう」
ジュリは頭を下げ、邸内の通信設備を借りた。浜で記録した位置情報を添えて、イサリを呼び出す。
「イサリ様、ジュリです」
* * *
ジュリからの着信を受けたとき、私は国防総省の連絡執務室で、アークエンジェルから届いたばかりの救難要請を見ていた。
艦載モビルスーツ一機と航空機二機が出撃し、戦闘後、モビルスーツと航空機一機が未帰還。アークエンジェルは現場海域から離脱せざるを得ず、代わって救援を求める――ずいぶん短い報告だが、添えられているのも最後に確認された海域だけである。
現地までは、飛ばしても一晩かかる。船では間に合わないため、オーブ軍の大型水上機アルバトロスを二機出すことになった。軍からも動員ということで救助の指揮はキサカ一佐にお願いした。
「一番機を先に出す。医療班と捜索要員はそちらへ」
私は回収側の担当者を捕まえた。
「回収班は二番機へ。モビルスーツが残っていた場合に備えて、M1も一機載せてください。係争地ですから、なるべく早く引き上げますよ」
現場は、大西洋連邦との間で帰属が棚上げになっている島々の一つで、オーブではアカツキ島と呼んでいる。戦争が始まって調停も止まり、いまはどちらも自国領と言い切れない面倒な場所だった。
原作で二機が相打ちになった島は、後年にはオーブ領として出てくる。ここが同じ場所なら、いずれ正式にこちらへ入るのだろうが、それも戦後の話だ。
共用卓から端末を外して耳元へ寄せ、ジュリの回線へ戻った。
「待たせました。続きをどうぞ」
《キラ君を、マルキオ邸で保護しました》
《ロウがストライクとイージスの交戦に居合わせて、擱座したストライクから助け出しました。いまはマルキオ邸にいます。意識はまだ戻っていません》
おぉ、生きていた。
いや、原作ではそうなると知っていても、やはり現実に聞くまで原作のキラと同じとは限らない。ジュリの口から聞いて、ようやくそれを事実として受け取ることができた。
「容体は」
《導師が診ています。ロウは、赤い機体がストライクに組みついて自爆するところを見たそうです。あれでは蒸し焼きだろう、と》
「軽傷では済んでいなさそうですね……。ストライクと、自爆したイージスは?」
《ストライクは原形をとどめていますが、外から見ただけでは何とも。イージスで確認できたのは、頭部と片側の腰部バインダー、大型の破片が数点です。日が落ちたため、四肢と胴部、それに搭乗者までは確認できていません》
「十分です。よくやってくれました位置記録は、明日合流したときに捜索班へ渡してください。キラのことは導師の方針どおり、いまその場にいる人たちだけに留めてください」
《はい》
「樹里さんはそばにいますか」
少し待つと、声が代わった。
《はい》
「マルキオ導師は、キラさんをどうするおつもりですか」
《導師はこのあと、地球連合の特使としてプラントへ上がるそうです。そのとき、キラ君も連れていきたいと》
「ふむ……」
止める理由はない、か。要は原作通りだしな。オーブへ連れ戻しても、いまの私たちにしてやれることはない。アラスカへ向かうアークエンジェルへ戻すなど、なおさら論外だし。剣に舞い降りて貰わないとあの間の面々をみすみす失うことになる。
「そのまま導師に任せてください。ジュリには、明朝、現場で私たちと合流するよう伝えてもらえますか。現地の案内を頼みます」
《わ、わかりました》
回線を切り、キサカ一佐へ渡す記録から、キラに関する箇所だけを外した。残したのは、ロウが見た自爆と、ジュリが確認した破片の位置である。
「爆心地は島の南側か。これなら斜面の方にも飛んでいるな」
「それと、航空機も一機戻っていないということですから海岸と浅瀬だけでは捜索範囲が足りません。島内と周辺海域まで見なくては」
「そのつもりだ」
伏せたのはキラの名だけである。未帰還の航空機とイージスのパイロットは、そのまま捜索対象に残した。航空機の方は、おそらくトール・ケーニヒのスカイグラスパーだろう。
店頭PVでのASTRAY Rの販促アニメを思い出す。
劇中のオークションで売られていたイージスの盾は彼の機体に突き刺さったもののはず。ジャンク屋に回収できる位置に残骸はあるはずだ。*1
「私も行く」
カガリが連絡室へ入ってきたのは、回線を切った後だった。
あっぶね。キラの生存を知られたら面倒なことになる。
「では、キサカ一佐の班から離れないでくださいね」
「分かってる」
「本当に?」
「くどい!」
いまいち信用ならないが、置いていけば勝手に別の足を探しだしかねない。キサカ一佐のそばへ付けておく方が、まだましだった。
ブリッツ回収に参加した回収班の再招集までは早かったが、二番機はM1のフライトユニットの取り外しと積み込みに手間取った。アサギの呼びつけもあったため、一番機とは出発をずらすことになる。○○
一番機の航行灯が、先に沖へ消えていく。M1の固定が終わって私たちの二番機も海面を離れたころには、オノゴロ島の灯りはもう後方へ小さくなっていた。
* * *
日の出からしばらくして、機体が高度を落とした。島の外周を一度回り、海面に浮いた物と、斜面へ続く焼け跡を拾っていく。その報告を受けながら、アルバトロスは波の静かな入り江へ降りた。
昨夜の位置記録だけでは、浜の広さも、その向こうにどれほど斜面が続いているかも分からなかったが、実際に降りてみれば、砂浜の両端は岩場へ切れ込み、斜面は島の内側まで続いている。
かなり広いな。
人一人が飛ばされていたとして、海岸だけ見れば済む場所ではない。機体の残骸回収も考えるとこれは思ったよりも時間がかかるか。
キサカ一佐が班を分けた。一番機で先着していた地上班は浜と斜面から島内へ入り、別班は沿岸へ回る。一番機も再び海面を離れ、沖へ捜索の輪を広げていた。カガリだけは、ストライクの確認が済むまで浜に残ると言っている。
「安全確認が終わるまで、ストライクを動かすなよ」
《了解です一佐!》
現場の指揮統制はキサカ一佐へ任せ、私は合流したジュリと回収班を連れて砂浜へ向かった。
先に見えたのは、色の抜けた装甲を砂へ沈めたストライクである。正面からの爆風を受け、後ろへ倒れこむ姿勢のまま止まっているものの、一機としての輪郭は失われていない。吹き飛んだのは、背中のエールストライカーと頭部のアンテナのような機体の外へ突き出した部分。それらは欠けていても、胴や四肢は残っている。
カガリが、開いたままの操縦席へ上がって中を覗き込んだ。
「本当に、いない……」
「私が昨日見たときにも空でした。外からこじ開けた跡が……」
ジュリはそれ以上を言わない。誰が開け、誰を運び出したか、そもそも生きているかどうか。ここでカガリへ話すことは無いよう、先に言い含めてある。彼女からも言いふらさないでほしいとの同氏からの要望を再三伝えられたため、ここは互いに口をつぐんでおく。
機体の周囲を回って確認していた救難員が手を上げる。ようやく回収班が機体へ近づき、私は砂へ沈んだ脚のそばまで回った。爆発の熱をもろに受けた前面の外装にも、目立つのは曇り程度。背面側の装甲には、衝撃によるひずみが少し見える。それでも操縦区画と、全身の主な構造は形を保っていた。
さすがフェイズシフト装甲だ。ブリッツと言い、ストライクと言い、実機のサンプルが手に入ったのはありがたい。これで自国での生産にも弾みがつく。ライセンス周りはどうしようか……。
「どうです? 自力で起こせますか」
「どうでしょう……。内部がどこまで焼けているかは、外装を開けて調べないと分かりません。素直にここでは起動させないまま、M1で支えて二番機のハンガーまで運んだ方がいいかと」
回収責任者が操縦席から下りてきた。ここで分かるのは、内側が焼けていることくらいだった。
「そのあたりも戻ってからですね。アサギ! 二番機のハンガーにストライクを」
《わかりました! ……ん? え? 私のM1はどうするんですか!?》
「一番機に」
《あ、そっか》
「終わったらイージスの残骸も二番機に積み込みますよ。回収対象には番号を振って、位置も記録していますからね」
《私、もしかして忙しい……?》
こちらの通信を聞いていたのか、カガリが振り返った。
「赤い方も拾うのか」
「……赤? まあ、拾いますよ。見つかれば全部」
それだけ確かめると、カガリはキサカ一佐の班を追って浜の先へ走っていった。
あ、そうか。今は色が抜けていても、カガリにとってイージスは「赤い方」なのか。
原作と違い、アルバトロスは二機体制だ。寝かせたモビルスーツ一機ともう幾らかの積載余裕があるまぁそこそこ、オーブではかなりでかい水上機だ。残骸化したイージスも、最悪2機に分ければ詰めるだろう。時間的制約をクリアするためにM1まで持ってきたのだ。
ジュリの記録を頼りに、最初の印がついた浜の先へ出ると、浅瀬に頭部が斜めに突き刺さっていた。
波をかぶるたび、砂へ突き刺さった頭部の輪郭が水の下へ揺らいだ。色こそ抜けていたが、特徴的な細長い直立したセンサーの形は、アークエンジェルの戦闘映像やモルゲンレーテが持つ資料で確認した姿と一致する。イージス。原作なら、この頭部や幾らかの残骸は後年になっても浜へうち捨てられているはずだった機体である。
かわいそうに。
もったいない。
欲しい。
まともな外観を残していたストライクのほうに気をひかれていたが、この機体もガンダム。実物を前にどっかのプロパイロットではないが、レアモビルスーツをコレクションしたい気持ちがふつふつと沸く。
先ほどまでストライクの内側を気にしていた頭が、一瞬できれいに持っていかれた。回収班が索を外すのを待てずに近づき、泥のついた首元を覗こうとしていたら止められる。
「まだ安定していません」
「見るだけですよ」
「その位置にいられると倒れたときに巻き込まれますので……」
「……下がります」
昨夜ジュリが見つけた片側の腰部バインダーは、波打ち際より少し高い砂地へ残されていた。基部は引きちぎられ、内側の骨格が一部露出している。外形が残っているからといって、そのまま胴へ差し戻せる壊れ方ではない。修理にはかなり手間がかかりそうだ。
さらに浅瀬を探っていた班から声が上がり、曲がった脚部が網の中へ姿を見せた。斜面からは腕部が下ろされ、別方向の岩場で見つかった反対側のバインダーも、遅れて集積所へ届いた。
位置図にもどんどん印が増える。反対側の腕と脚、島内へ飛んだテールスタビライザー。どれも中心から遠くへ弾き出され、破断した側を内へ向けて架台へ並べられていく。
末端部ばかりが、妙にきれいに揃っていった。
頭部がある。四肢もある。テールスタビライザーと、左右のバインダーまである。それなのに、そのすべてを一機へつなぐ胴体と操縦区画だけが、位置図の中央へ戻ってこない。スキュラを収めた腹部も、変形の軸になる構造も、仕組みを分析できるほどの大きさでは見つかっていなかった。
「やはり中央部は?」
「だめです。細かい破片なら、いくらでも出てくるんですが」
爆心地だからなぁ……。
四肢や頭部がこれだけ形を残しているのも、胴部からの爆発で引きちぎられたのなら話は通る。
返事をした捜索担当の後ろを、次の搬送台が通っていく。載っていたのはもう片方の脚部だった。足先こそ欠けていたが、膝から上は残っている。
くっそ、これだけあるというのに。
胴部はイージスの要だ。いや、モビルスーツで胴部が要ではない機体の方が少ないだろうが、イージスの場合は、そこに可変機構のほぼすべてと580mm複列位相エネルギー砲「スキュラ」というアイデンティティがあった。
さすがに機密としても一級で、モルゲンレーテが連合から供与を受けた資料にも詳細はなかった。このままでは復元したとしてもできの悪いレプリカがせいぜいかぁ。置物が欲しいわけじゃないからなぁ。
過去の戦闘映像から外形と動きくらいは追える。残った部位を一つずつ直し、新しい胴を造る資材なら手に入る。そこまではどうにかなる。
どうにもならないのは、スキュラと変形中枢だった。参考にできる現物も、再製造に使える内部情報もない。変形を制御するソフトまで含めれば、シミュレーションで一から組むしかない。そこまでやって、使い物になるかどうか。
くっそ、もったいない。
「一応まだ探してください。見つかったものは、位置と番号を記録してからこちらへ」
ロウの目撃どおりなら、中心部は自爆の爆心にあった。見つからないのも不思議ではない。
アサギのM1は、砂へ沈んだストライクの脚を引き抜き、そのまま機体を支えて二番機の機内へ運んでいた。原作ではM1なしにどうやって浅瀬のアルバトロスまで積み込んだんだ……?
その間にも、イージスは人の手で運べる破片から集積場所へ集められていく。私は何か届くたびに破断した側を覗き込み、そのたび作業員から離れるよう言われた。
昼を過ぎたころ、斜面側から呼び声が上がった。
「人がいるぞ!」
キサカ一佐の班が一斉に動く。浜の先まで捜索班を追っていたカガリが、誰より早く岩場を回り込んだ。その向こう、波に洗われる砂の上に、赤いパイロットスーツが見えた。
担架を持った医療班を先へ通し、私も後を追う。少年の顔はまだ見えない。それでも、誰なのかは分かっていた。
アスラン・ザラ。
名前を口にするより先に、カガリが少年のそばへ滑り込んだ。医療班がすぐに彼女を押し退け、少年を担架へ移していく。
* * *
夕刻、アスランが目を覚ましたと聞いて臨時救護所へ戻ると、医療員の確認はひとまず終わっており、入口には保安員が一人残っていた。中からカガリの声がする。
話し終えるまで待つつもりで、私は入口脇の壁へ寄った。
しばらく低く続いていた二人の声が、やがて壁越しにも分かるほど荒くなった。言葉までは拾えない。二人の声が一度重なり、寝台が軋む。やがてアスランの返事は聞こえなくなり、カガリだけが何かを言い募っていた。
流石に様子がおかしいか?、と保安員と中へ入ると、カガリは拳銃を握ったまま寝台の上で膝をつき、アスランは目を閉じて寝台に沈んでいた。
「カガリ様、離れて!」
カガリが保安員へ拳銃を渡すのと入れ替わりに、医療員が寝台へ駆け寄った。カガリは言い募ることもなく、私と一緒に入口まで下がった。
別に、カガリがアスランを凹していたなどと拝領員も思っちゃいないだろうが、それはそれとして絵面はやばかったな。
移送には耐えられると医師から報告を受けたのは、それからしばらく後だった。なら、中立国が領外で保護した負傷兵として返さねばならない。オーブに諸外国兵を収容するわけにもいかない○○
二番機へ戻り、モルゲンレーテを介して本国の外交担当者を呼び出した。
「そうです。負傷したザフト軍人を一名保護。プラント大使館を通して、迎えを出すよう伝えてください。おそらくまだ近海にいるでしょうから」
《対象の氏名と容体、あと引渡し場所についてもお願いします》
「あぁ、送ります。相手からの返答は直接この回線へ」
返答を待つ間に、私は回収品の置かれた区画へ戻った。
* * *
回収品の固定作業を始めたころには、作業灯の向こうがもう暗かった。
ストライクは二番機のハンガーへ寝かされ、胴と四肢を固定されている。アサギのM1は浜との間を往復し、今度はイージスの脚部を搬送台へ下ろしていた。ほかの部位にも回収位置ごとの番号が付き、未回収の欄だけが回収表に残っている。
捜索責任者が回収表へ新しい番号を足した。運ばれてきたのは、航空機の機首だった。
「アークエンジェルから捜索を依頼されていたスカイグラスパー二号機かと」
「分かりました。機首と、残っている部品は二番機へ」
「それと、沖で射出座席を回収しています。搭乗者一名の生存を確認」
――What's?
思わず手にしていたバインダーを取り落とす。今なんて?
「搭乗者は認識票からトール・ケーニヒ二等兵。意識は戻っていませんが、呼吸も脈も安定しています」
なんてこった。
どっかのバンクさんにつづいてこっちまで生きているとは。
しかし、これは僥倖。准将のメンタルケアに一気に弾みがつく。彼はオーブ国民だし、親御さんにも良い報告をしてやれるというものだ。早速本国へ搬送してやり、親御さんに連絡してやらねば
「今はどこに?」
「一番機の医務室です」
「あっ、アスラン・ザラとはそのまま離したままにしてください。生存を知る者も、搬送に必要な範囲だけで。医師が許可したら、今夜、一番機で先にオノゴロ島へ」
彼らからすれば本気で殺し合った相手。特にトールの方は自分を殺しにかかった相手が友人の友人とややこしい。辺に波風立てないようこちらで配慮しておいてあげよう。
アークエンジェルはアラスカ後に、戻ってから決めればいい。
「射出座席は?」
「こちらです」
区画の奥に置かれた座席は海水に濡れていたが、大きく潰れていたり変形してはいない。座席に開いた浮袋には、まだ空気が残っている。パラシュートだけがなかった。
「低空だったので、開ききる前に引きちぎられたのかもしれません。浮袋のおかげで沈まず、今朝、上空の捜索班が見つけました」
それは何とも運がいい。昨晩は落雷も伴う嵐だったというのに大きく流されもせず、捜索範囲内にあったとは。
しかし、疑問なのは何で彼が生きているんだ?
原作のトールは、正面から投擲されたイージスのシールドへ反応するも何もできないまま、コックピットごと潰された。○○自力で射出できたとは思えないのに、座席は形を残し、トール自身も生きていた。
「回収したとき、背面に機器が外付けで固定されていました。配線はその時点で千切れていたので、本体だけ外して保全してあります」
技師が脇のコンテナを開けた。中に収まっていた箱は見慣れたものだった。
「P.L.A.S.じゃないですか」
キラへ預けたはずのAIユニットが収まっていた。
なんでこれが、スカイグラスパーにつまれて……?載せ替えている以上キラの意思はかかわっているはずだが。確かめようにも、本人はどっちも話を聞ける状態にないと来た。
「機首側に残った端子とも照合しました。操縦系統のほか、機首カメラとレーダーにもつながっています。射出されるまでは、操縦にも介入できる状態だったようです」
「たしか、イサリ様もかかわった回避補助用の装置でしたよね。この機体のパイロットを助けるために載せかえたんじゃ……」
「えー……モビルスーツの戦闘データで学習させたものですよ?航空機では、回避入力を受け付けてもらえないと思うんですが……」
P.L.A.S.のレコーダー部分は航空機のブラックボックスよろしく、頑丈に作ってある。ひとまずその場で読み出したログの末尾の方をたどってみる。ログには、その航空機へ向けた回避入力が何度も残っていた。
機首カメラとレーダーが不明飛来物を拾い、P.L.A.S.はそれを脅威と判定した。そこから繰り返し発した入力は、どれも航空機側に受け付けられずエラーになり、最後には回避不能と判断していた。○○
問題はその先にも、見覚えのない記録が続いていること。
「え、なんですこれ」
「照合したところM2のイジェクション・ポッド用に組まれた緊急脱出処理でした。どうも対象をこの座席へ読み替えて、作動権限まで握ってます」
そ、そう来たか。M2のイジェクション・ポッドと、スカイグラスパーの射出座席は別物だが、AI側で強引に割り当てたようだ。これは操縦学習の結果というよりはベースに使ったモルゲンレーテのAIの挙動とみるべきか。
「判断ログは?」
「ちょっと、ここでは追えません。何を許可と見なしたのかも、どうやって作動権限を取ったのかも、設備のある場所へ戻らないと」
で、射出処理を行ったその直後、シールドが機首へ命中していた。
「機首カメラとレーダーが、同じものを拾っています。真正面から来たのが幸いしましたね。横や後ろからなら、射出まで判断が進んだかどうか」
そもそもP.L.A.S.へ覚えさせたのは、オーブが集めた戦闘記録から回避判断を助け、無駄な機動を減らしてバッテリーを保たせることだった。ブリッツを爆散させず手に入れるため、特定の状況を自機の危機と思い込ませたのは、あとから私が仕込んだ別口だ。そちらはもう役目を終えている。
その試作一号が、載せ替えられた先で操縦者を座席ごと戦闘から放り出した。
面白い。
技師が簡易端末を外しても、視線はコンテナへ戻ってしまう。帰ったら、どこまで調べられるだろうか。これはひょっとするとルージュやグリーンフレーム以上のものに仕上がるかもしれない。
「もう通電はさせないでください。機首と座席ごとこのまま持ち帰ります。ログの続きはモルゲンレーテで。一応、事故案件として調べます」
すぐに二番機の回線からエリカさんを呼び出した。つながった向こうでも、まだ作業音が続いている。
《どう?収穫あった?》
「いろいろありましたが、ありすぎて口頭では難しいですね」
《あら。じゃあ、戻るのを楽しみにしてるわ。で、用件は?》
「ええ。詳しくは帰ってから見せます。それと、サーペントテールがスケイル・システムを受け取りに来た時、M1搭乗員の嚮導も頼んでみませんか」
《今から?》
「正式な話は、実機を見せてからで構いません。それと、バリー・ホー氏への協力要請、やっぱりやりましょう。私の名前で関係各所に進めさせてください」
《劾にはその場で話すわ。バリーは先に押さえる。それでいい?》
「お願いします」
《はいはい。帰ったら、話聞かせて頂戴》
「もちろんです」
通信を切った。
話が早くて助かる。
P.L.A.S.の続きは、帰ってから開発元の事業部に調べさせる。
劾さんが引き受けるかは、M1を見せてからの話になる。バリーさんには、近接戦でどう身体を使うのかを見せてもらいたい。どちらも得難いデータをくれるはずだ。フッフッフッl、P.L.A.S.がどう育つかな……。笑いがこみ上げるわ……
ひとりぐふぐふしているとマルキオ邸からも短い報告が届いた。咳払いをして出ると迎えが到着したそうで。結局キラは意識が戻らないまま、ロウたちとマルキオ導師に付き添われて一足先にオーブへ向かったという。
導師がその先でキラをプラントへ運ぶつもりなのは、樹里さんから聞いている。着いた後の行き先までは尋ねなかったが、おそらくはクライン邸だろう。
カガリには伝えない。伝えればそのままアスランにまで話がいくだろう。この時期のキラとアスランは所属や行動がふらふらしすぎで下手に影響を与えるとどんな結末になるかわからない。原作に沿わせるのが一番だろう。
外へ出ると、荷役を終えたM1とトールを乗せた一番機が、水面を走り始めるところだった。やがて機首が夜空へ持ち上がる。
* * *
翌朝、二番機の索敵担当が、接近する小型機を捉えた。
機体の左右にローターを備えたザフト軍の汎用ヘリだった。大使館経由で届いた識別情報と航路、到着予定が一致している。現地の通信担当が目的を確かめ、島から離れた沖合を引渡し場所として伝えた。
汎用ヘリは沖合で高度を落とし、そのまま水面へ降りた。こちらも二番機の側面扉を開き、ゴムボートを下ろす準備に入った。
二番機では、残骸の積み込みをとうに終えている。アスランを引き渡したら、私たちも発つ。あとはオーブへ帰って、持ち帰った物を広げるわくわくタイムだ。
二番機の側面扉からは、ゴムボートが水面へ下ろされるのを見届け、こちらの隊員一名に連れられてアスランが乗り、送り出されていった。
それを見送っていると、汎用ヘリの乗降口で、銀髪の少年がアスランへ食ってかかっている。イザーク・ジュールだろうか。おっ低軌道会戦以来だな!この世界ではどうなるんだ彼は。○○○○
見送りを終えてハンガーへ戻ると、固定確認も終わりかけていた。ストライクはハンガーの床へ固定され、スカイグラスパー二号機の機首と射出座席は別々の固定台へ載せられている。その脇には、P.L.A.S.を収めた保全用コンテナが固定されていた。
イージスの各部も、回収位置ごとに分けて架台へ縛られていた。
「二番機も帰投します」
少しのGを感じたのち、水面が離れていく。
この島にまた、来ることはあるのだろうか。