"せいすい"って、なあに?   作:鯣 肴

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第10話 お兄ちゃんからのだいじなおしえ

 けっこう前のこと。お兄ちゃんが大事な話あるからちゃんと聞いて頭に入れろって言った。

 

「今日はお前に教えとくことがある。」

「しっかり、しっかり聞くのよ! チヒロちゃん。」

 

 何か真剣な面持ちの二人。

 

「え……、うん。わかったけど、なんか怖いよ、今日の二人。」

 

「それはお前が不甲斐ないからだ。」

「昨日ね、チヒロくんのそばにいた女の子見てたら、もうこれは放っておいたらまずいと思ったのよ。」

 

 昨日僕がいっしょにいたのはマリーちゃんだった。

 

「お前の周りにけっこうな数の女の子がいるよな。」

 

「うん、えっと、マリーちゃんでしょ。エミリーちゃんでしょ。エマちゃんでしょ。サクラちゃんでしょ。リンちゃんでしょ。セナちゃんでしょ。――――――――――。」

 

「おい、何人いるんだよ、一体……。指で数えられる数余裕で超えてるぞ……。」

 

「これ思ってた以上にやばいわね。いや、やばいで済ませちゃダメなレベルね、これ。この子女たらしだわ。それも超高レベルの。」

 

 女たらし。それはとってもまずい言葉。そう言われるってことはすんごいまずいことだって、お母さんが見てるお昼のドラマから僕は知っていた。

 

「はぁ、僕は女たらしじゃあないよ。僕女の子泣かせたりしないもん。女たらしな人って女の子いっぱい泣かせるんでしょ。僕そんなことしないもん。」

 

「いやな、今泣かせてなくても、将来大量の女の子泣かせることになるんだよ、お前は。」

 

「そうよ。男の人が笑顔にできる女の人は一人だけなのよ。私のときも大変だったわ、本当に。だって、チヒロくんみたいに、コウくんも女たらしだったから。それも、チヒロくんと違って自覚してたのよ。だってそのときはコウくんの周りに女の子が。」

 

「頼む。頼みます。言わないでください。あれ、親にも秘密なんです。当然こいつにも秘密にしときたいんです! お願いします!」

 

 いつもの光景。兄の見事な土下座。

 

「ふふ。大丈夫よ。言わないから。だって今日の本題はコウくんのことじゃなくてチヒロくんのことだからね。」

 

「チヒロくん。今のままだとこの先大量の女の子を泣かせてめんどくさいことになるから、だから、私たちの言うことをしっかり飲み込んでなんとかしなさい!」

 

 いつもは見せない強い口調。怖いよ。これはうんと言うしかなさそうだなあ。それにどうやら今のままだとマリーちゃん、(以下略)たちを泣かせることになるだろうし。お兄ちゃんと同じことにはなりたくないしね。

 

「うん、わかった。僕がんばる。」

 

 僕は割り切って、笑顔でそう言った。

 

「こういうところよね、こういうところできっとファン増やしてるのよ、この子。」

 

「こいつ愛想すごいいいからなあ。人受けは確実に俺以上だし。」

 

「いいえ、あなたもいい勝負してたわよ。」

 

「ごめんなさい。」

 

 お兄ちゃん、なんでそう墓穴掘るのかなあ。

 

「さて、お前の周りのなんかたくさんいる女の子の一人が突然お前にこう言うだろう。 好きです。 ってな。まあ、一人とは限らないわけだが。後からどんどん押し寄せてくるパターンもあるからなあ。」

 

「コウちゃん、説明下手ねえ。もう私が全部言っちゃっていい? チヒロくん頭こんがらがっているみたいよ。」

 

 僕はちょっとお兄ちゃんが何言ってるか分からなかった。言ってる内容も、そもそもこれ、文法おかしい。

 

「えっとね、あなたの周りの女の子が告白してきたらどうするのってことよ。付き合えるのは誰か一人だけよ。同時に二人以上と付き合うとかダメだからね!」

 

「え、僕告白されるの? お兄ちゃんみたいに?」

 

「そうよ。それも色んなところからね。そうなるとどうなると思う?」

 

「お兄ちゃんみたいに、答えをはぐらかして逃げ回る?」

 

「あら、あなた、きっちりチヒロくんにあの修羅場見られて憶えられていたのね。あんなに小っちゃかったのにね。」

 

「うわああああ、俺の威厳が……。」

 

「お兄ちゃんに威厳なんてないよ。だって、お姉ちゃんにいじめられていつもうれしそうにしてるよね。」

 

「……。」

「……。」

 

 あれ? お兄ちゃんだけじゃなくて、お姉ちゃんもだまるんだ、そこ。

 

「とりあえずねえ、お兄ちゃんといっしょのことしちゃダメよ。その後、お兄ちゃんがどうなったか分かるわよね。」

 

「縄でぐるぐる縛られて、女の子たちに囲まれて責められるんだよね。」

 

「うわあああああああああんんん!」

 

 お兄ちゃんは泣きながらその場からどっか行った。

 

「うふふ、後でちゃんと慰めてあげないとねえ。」

 

しゅるり

 

 リカおねえちゃんからなんか怖い音が鳴った。聞かなかったことにしよ。

 

「で、回りくどいの嫌だからばっと言うわよ。」

 

「うん!」

 

「女の子が告ってくるから、本当に好きな子、付き合いたい子がいるならその子の告白をOKしなさい。できれば、君からその付き合いたい子に言うのよ。『好きです、付き合ってください!』って。」

 

「うん、わかった。」

 

 告白。そんなものお兄ちゃんじゃあるまいし、当分僕には関係ないでしょ。まあ、頭に入れとくくらいしといてもいいかあ。あ、でも――。

 

「よし。それじゃあもう大丈――」

 

「でもね、僕。好きって、もうひとつわからないの。」

 

「え?」

 

「え? って言われても。だって本当だし。」

 

 僕そんな変なこと言ったかなあ? でもお姉ちゃん頭抱えてるし。

 

「あらあ、コウちゃん以上の逸材だったかあ。」

 

「じゃあねえ、チヒロくんが気になる女の子っている?」

 

「いや、いないよ?」

 

「えっ?」

 

 お姉ちゃん、なんでそこでおどろくのさ。

 

「チヒロくんが一番いっしょにいて楽しい女の子は誰かなあ?」

 

 そんなの決まってるでしょ。

 

「マリーちゃん。」

 

「チヒロくんは、マリーちゃんが他の男の子と遊んでるの見たらどう思う?」

 

「特になんとも。」

 

「あらあ……。」

 

 あれ? また頭抱えちゃった。もうちょい考えてみようかな。

 

「う~ん、でも、そいつがマリーちゃんいじってたらいらいらするかなあ? だって、マリーちゃんいじるのは僕じゃないとね!」

 

 それくらいかなあ、思いつくの。

 

「あ、あれ? うん、でもいいのかな?」

 

「お姉ちゃん、意味分からないよ。こんなの聞いて何になるの?」

 

 お姉ちゃんの意図がわからないよ……。

 

「まあまあ、最後まで付き合いなさいって。」

 

 そろそろめんどくさくなってきたなあ。でも、お兄ちゃんの面倒いっつも見てくれてるし、仕方ないか。

 

「じゃあ、マリーちゃんが他の男の子に告白されて付き合うことになりました。チヒロくんとはもう遊んでくれないことになりました。どうする?」

 

ブチっ!

 

「はあ? そんなの許せるわけないじゃんか! マリーちゃんは僕のおもちゃ。だから、僕と遊んでくれないなんて絶対に許せない! マリーちゃんが僕と遊んでくれないなんて絶対にないはずだから、きっと原因はそいつだよね。うん、そいつボコる。ぜったいにゆ・る・さ・な・い! そういや、六年生のタナカってやつが前にマリーちゃんに告白してたなあ。それもけっこう付きまとってて。うわあ、思い出したらいらいらしてきた。あいつボコろう。学校で会ったら早速ぼころう。」

 

 とってもいらいらした。何でかは分からないけど、とっても。

 

「落ち着いて、落ち着いて! 私が悪かったから。たとえ話だから。タナカくんへのとばっちりはやめようね。」

 

 あれ、お姉ちゃん困ってる。じゃあ、やめとこう。

 

「うん、やめる。」

 

「よしよし。」

 

 なんか小声でお姉ちゃんはぶつぶつ言い始める。僕には何て言っているか全く聞こえないくらいの声だ。

 

「この子、聞き分けは本当にいいのよね……。それに、これ、完全に落ちてるわね。マリーちゃん好きすきラブチュッチュッじゃないのこれ。この前の様子見る限り、マリーちゃんチヒロくんロックオンしてるし。両思いよね、間違いなく……。」

 

 ぶつぶつは終わったみたいで、お姉ちゃんは再び僕の方へ顔を向け、僕の両肩に両手を乗せて、真剣な顔で僕にこう言った。

 

「チヒロちゃん、悪いこと言わないから、マリーちゃんに告白されたらOK出しなさい。もちろん、あなたが告白してOKもらってもいいからね。それ以外の女の子から告白されたら全部NOって言っときなさい。絶対よ!」

 

 お姉ちゃん、怖いよ。それにそんな先のこと僕には分からないよ。お兄ちゃんによると、告白ってすんごい緊張するものらしいし、絶対ってないものらしいし。

 

「うん、わかった。気が向いたらね。」

 

「……ええ、それでいいわ、それで。」

 

 リカお姉ちゃんは頭を抱え、部屋から出ていった。

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